トリエンナーレの裏側で – 岡崎タイポさんぽ

いよいよ閉幕まで一ヶ月を切った、あいちトリエンナーレ。

10/16まで、岡崎公園で「アーキテクツ・オブ・エアー」が開催されるため、岡崎を訪れる方も多いと思います。
アーキテクツ・オブ・エアー | あいちトリエンナーレ2016
といいつつ、すでにトリエンナーレ作品は多くのブログやメディアで取り上げられていることもあり、あえて「凪の渡し場」では紹介しません!

そのかわり、例によって「タイポさんぽ」の視点で、まちを歩いて気になった文字を紹介していきます。

トリエンナーレの裏側で、ひっそりとまちを見守ってきた文字たちが、旅人を待ち受けていました。

 

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まずは、トリエンナーレ会場にもなっている、名鉄東岡崎駅の岡ビル百貨店。

昭和の時代から変わらない駅ビルの雰囲気。

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「キッチンこも」にメガネ・補聴器「ウツノ」、どちらも左右でロゴが微妙に違うのが気になります。

お店のキャッチフレーズも、じっくり読んでみると味わいがあります。

美容室のキャッチフレーズ、ちょっと長すぎないでしょうか。短く切ってさっぱりしたい! あっ、もしかして、そういう狙いがあるのでしょうか。

 

市街地へは、この駅からバス、あるいは徒歩で向かいます。

まずは、インパクトのあるものから。

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過去の店舗のロゴが地層のように積み重なった、記憶の残響。

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「岡」が、ちょっとオカザえもんさんっぽい…?

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いいじゃん!安いじゃん!おもしろいじゃん!

「人気ナンバーワン」と「穴場です」は果たして両立するのか? というツッコミも無用のテンション。

 

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カラオケスズメ。イラストもいい味出してます。

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さらに謎のイラスト。喫煙者への風当たりがいまほど強くなかった時代をしのばせます。

 

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はい、あまりのテンションに疲れました。ちょっと一休み。

ここからは、癒やしを求めていきましょうね。

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「シ」のはねに合わせたのであろう、「イト」のまるかぎがかわいい。

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このステンシルが、とても好きです。側面の「P」がちっちゃいのもかわいい。

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渋ビルでよく見る、ちょっと斜体のかかった宋朝体のようなロゴですが、ここまで素晴らしいものは見たことがありません。岡崎に住んでいたら、ここをかかりつけ医にしたいくらいです。

 

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最後は、岡崎信用金庫資料館をご紹介。

この建物は、もともと岡崎銀行本店として建築家・鈴木禎次により設計されました。

その後は東海銀行の所有になったり商工会議所になったりしつつ、取り壊しの危機にあったところを岡崎信用金庫が買い取って資料館としたそうです。

館内では、日本や世界の貨幣がずらりと並んでいて見ごたえがあります。

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信用金庫なのに、なぜか日本銀行券が…。そして国立印刷局のプロモーションビデオが流れていたりと、なかなかふしぎな空間で紹介したくなりました。

まあ、漢字ミュージアムでも昔の硬貨の展示がありましたし、お金に文字はつきものということで。

 

フォントはお金で買えるけれど、まちもじはお金で買えない。でも、そこに行けば会えるのです。

いつかなくなってしまうかもしれない、その前に、会いに行きましょう。

 

読書の秋、フォントの秋。文字を特集した雑誌を読みくらべ

つゆしもの秋。旅行のお供にも、嵐の夜にも、本さえあれば心落ち着くもの。そして、その本と切っても切れない関係にあるのが文字。

この秋には、嬉しいことに文字を特集した雑誌が何冊も発売されているので、一冊ずつ読み比べ、特色をまとめてみました。

 

まずは、誠文堂新光社から発行されている「デザインノート」。表紙のシンプルなデザインが美しい。

 

巻頭インタビューは字游工房の鳥海修さん。著書「文字を作る仕事」で語られた「水のような、空気のような」フォントへの想いは、こちらでも伝わってきます。

文字づくりを「素材づくり」と表現する鳥海さん。

その素材がどのような性格をもっていて、どのように料理すれば味を活かすことができるか。

文字を使う(遣う)側としては、それを考えることが大事だという学びを得られます。

 

2冊目は、マイナビ出版の「+DESIGNING」。
表紙の「実践文字組み講座」は見紛いようも無い、フォントワークスの筑紫Bオールド明朝。

 

こちらの巻頭はタイププロジェクト

凪の渡し場ではまだ紹介していませんが、雑誌の専用フォントからはじまった AXIS Font や、名古屋をイメージした「金シャチフォント」といった都市フォントなど、ユニークな取り組みをされている会社です。

 

この雑誌は、パソコンでフォントを扱う際の基本的な知識・技術がまとめられていて、実践という名前にふさわしい内容になっています。

とくにデザイナー以外にも役立つのが「OFFICEアプリのデザイン&レイアウト」。

WindowsやmacOSの標準フォント解説から、PowerPointやKeynoteなどでの読みやすく相手に伝わるプレゼン資料の作り方まで。

フォントの知識を、ビジネスの現場で活かすコツがまとめられています。

付録は「MORISAWA PASSPORT FONT MAP 2016」という、MORISAWA PASSPORTで使えるフォントを一覧にした小冊子。

 

そして、3冊目は月刊NdN。

(2016/10/16、雑誌の入手後に記載を修正しました)

昨年も同じテーマ「絶対フォント感を身につける」の特集があったり、たびたび漫画やアニメのタイポグラフィ演出について特集されている雑誌なので、その品質は折り紙つき。

ちなみに、この3冊の仲では唯一の右開き(記事がすべて横書き)の雑誌です。

 

絶対フォント感とは…。

文字を目にしたら、それがなんのフォントかを即座に見分けられる能力のこと。

絶対フォント感を鍛えるiPhone・Androidアプリもあります。

絶対フォント感

こちらの付録は「絶対フォント感を身につけるためのフォント見本帳 2016」。

2015年版の付録も、気になるフォントを見つけたときにすぐ調べられて非常に役立っています。

各社からリリースされているフォントがほぼ網羅されているので、正直なところ、この用途ではMORISAWA PASSPORT FONT MAPより便利ですね。

去年より16ページ増量してグレードアップ、掲載されるフォントは665種。

 

本誌も、絶対フォント感を身につけるための基礎知識から、実践編としてディテールの見分け方まで細かく解説。

本誌のインタビュー記事は、書体史研究家の小宮山博史さん。

さらに、全国の駅など鉄道にまつわる文字に注目したウェブマガジン「もじ急行」による「もじ鉄のススメ!」など、他にない独自の視点での記事が多くあります。

 

秋の夜長。本だけでなく、文字も存分に味わってみましょう。

 

あたらしい時代のまじめなフォント – 凸版文久体

今回ご紹介するフォントは、凸版文久体。
凸版印刷 | 凸版文久体

その名の通り、凸版印刷の活字「凸版書体」からつくられたフォント。

しかし、むかしの活字をそのまま復刻しただけではありません。

紙の上だけでなく、デジタルで文章を読むことも多くなったいまの時代に合わせて、より見やすく読みやすいフォントとしてデザインしなおされています。

 

凸版文久体は、大きく明朝体とゴシック体に分かれますが、どちらも他のフォントと異なる大きな特徴があります。

そのひとつが、ペン字のようなひらがな。

「そ」や「さ」などの文字に、つながっていない部分があり、すっきりと読みやすい印象を受けます。

 

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さらにゴシック体には、いまの時代だからこその工夫が。

よく見ると、文字のはじまりのでっぱりが、左側についています。

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他のゴシック体だと、右にあるか、でっぱり自体がないのが普通。

これは、横書きにしたときに、自然な文字の流れがうまれるようにという考えからだそうです。

 

でっぱりが左にある…というので、思い出したのはこちら。

ポンジュース ラベルデザインについて|えひめ飲料

「愛媛のまじめなジュース」こと、えひめ飲料のポンジュースのロゴタイプ。

ホームページを見ると、少なくとも1998年のペットボトル発売時から同じロゴが使われているようなので、ポンジュースは時代を先取りしていたと言えるかもしれません。

ちょっと凸版文久ゴシックと、ヒラギノ角ゴシックで組んでみました。

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オリジナルのロゴとはまた印象が違いますが、なんとなくヒラギノよりも文久くんのほうがまじめな子に見えてこないでしょうか。

 

凸版文久体は、2016年9月にリリースされた macOS Sierra で追加インストールされるようになるので、Macユーザーの方はぜひお試しください。

まだアップグレードしていない場合も、ブラウザ版の iCloud Keynote でも使うことができるようです。

 

水のような、空気のようなフォントを世の中に生み出す人がいる – 文字を作る仕事

まちなかで、あるいはパソコンやスマートフォンの画面の中で、わたしたちが毎日目にする文字。

そんな文字を作る仕事が、世の中にはあります。

 

その中でも、小説の文章や新聞記事といった、小さな文字のために作られたフォントを「本文書体」といいます。

広告や看板のロゴのように目立つものではなくても、普通に読めて、受け手に安心感を与える。

日本人なら毎日食べても飽きのこない白ご飯のように、あって当たり前の存在。

 

そんな本文書体を「水のような、空気のような」書体とよび、その理想を目指してフォントを作り続ける人が、この世にはいます。

それが、游明朝体などで知られる字游工房の代表取締役、鳥海修さん。

 

 

「水のような、空気のような」書体なら、誰が作っても同じではないのか。もうすでにあるものを使えば、新しく作る必要はないのではないか。

もし、そう思ったのだとしたら、この本を読んでみてほしいと思います。

 

この本では、鳥海さんの生い立ちから、本文書体を作りたくて当時最大のフォントメーカーだった写研に入社したときのこと、そして字游工房を立ち上げてからのことなどが語られます。

いっけん無個性に見えるフォントでも、そこには作り手の想いや、今の時代にもっとも適したデザインがひそんでいることがわかります。

鳥海さん自身の経験、出逢った人、読んだ本…それらが結晶となって、誰でもが使えるフォントが生み出される。

ふだんはうかがい知ることができない、そんな結晶化する前のエピソードのひとつひとつが、とても魅力的です。

 

たとえば、書家・石川久楊さんを交えて行った「究極の明朝体」を作るというプロジェクト。

本文書体として見慣れた明朝体ですが、実際に文字をなぞってみるとわかるとおり、もともとの楷書とはずいぶん違うデザインになっています。

それらを一文字一文字検証し、文字に修正を加えていく。少しの修正で、まるで受ける印象が異なるのが、漢字のふしぎなところ。

 

また、「文字塾」として、塾生ひとりひとりが作りたいフォントのコンセプトを立て、一年かけてフォントをデザインしていくといったことも行われているそうです。

 

そして、アップルのMac OS X (macOS)に搭載されたことで有名になったヒラギノ明朝体。

ヒラギノフォント|SCREEN

このフォントも、字游工房が大日本スクリーン製造(現・SCREENグラフィックアンドプレシジョンソリューションズ)から依頼されて制作されたもの。

当時のことを、鳥海さんはこう記します。

当日はスティーブ・ジョブズがステージに立ち、スクリーンいっぱいに映し出されたヒラギノ明朝体W6の「愛」を指差し、「クール!」と叫んだことをきのうのことのように覚えている。

後に、字游工房としてのオリジナル書体・游明朝体や游ゴシック体もMacに搭載されています。

考えてみれば、「空気のような」というコンセプトは、MacBook Air、AirPods など「Air(空気)」を冠する製品やサービスを多くリリースするアップルにふさわしいといえるでしょう。

もし将来、アップルと字游工房が協力し、オリジナルの日本語フォントを手がけたとしたら。

それはAirFontと呼ばれるに違いありません。

 

そんな空想も膨らむ、文字を生み出す人の物語。

 

時空を超える文字の歴史 – 世界の文字の物語

京都・よきかな商店街イベントの翌日。

大阪まで足を伸ばし、弥生文化博物館で開催中の「世界の文字の物語」展に行ってきました。

なお、こちらは、東京の古代オリエント博物館で開催された特別展の巡回展です。
【春の特別展】世界の文字の物語-ユーラシア 文字のかたち- – 観る | 古代オリエント博物館

 

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博物館の最寄駅はJR阪和線・信太山駅。「しのだやま」と読みます。となりの駅名にテープが貼られているのはなぜでしょうか…?

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駅前には、大阪では有名な激安のスーパー玉出がありました。

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「TAMADE GO!」とは。最近の某ゲームにあやかったものではないことはたしかです。

 

駅から博物館までは少し距離があるのですが、あちこちに立て看板があり、道路も経路に沿って茶色に舗装されているので、迷わずたどり着けるでしょう。

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また近くには、弥生時代の史跡を整備した池上曽根遺跡公園があります。

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ハザードマップかと思ったら、そうではなく。この看板自体も歴史の風雪を感じます。

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機械彫刻用標準書体が、イベント用電源盤に。

 

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お目当ての大阪府弥生文化博物館にやってきました。

 

特別展は撮影禁止でしたが、メソポタミアにはじまった楔形文字、古代エジプト文字、中国の甲骨文字など、はるか昔から今に至る文字の歴史を学べるものになっていました。

また、展示品にあわせて「文字展トリビア」と題した豆知識(※諸説あるものを含む)が紹介され、来場者が「へぇ〜」と感じたらシールを貼るという企画が行われています。

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何の関連性もなくシェーをするピクトさん。

 

また、当館では「カイトとリュウさん」というオリジナルキャラクターが活躍。

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Webマンガで弥生文化や博物館の紹介もしています。

 
大阪府立弥生文化博物館
アンケートに回答すると、小冊子が無料でもらえます。博物館まわりの紹介などもあって、なかなか読みごたえがあります。

中学生以下は入場無料、弥生文化や考古学を楽しく学べる「考古楽カード」というものも配布されているようで、いろいろとユニークな工夫がされている弥生文化博物館。

今回の特別展は9月4日までですが、それ以外でも行ってみるのもおもしろそうです。

 

さて、帰りはせっかくなので、反対側の南海電鉄・松ノ浜駅まで歩きます。

 

何気ない住宅街でも、いたるところに路上観察の種が。

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思わず乾拓したい! と思ってしまう、おどろきの白さ。

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あらかわいい。丸ゴシックとひつじがよく調和しています。

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いろはに。左から右に書かれていますが、そんなに古い時代からあるのでしょうか。

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色合いがすばらしい東芝ストアー。

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お米屋さんのガレージが「米」。

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このふたつは、もう全然わかりません。これぞトマソンでしょうか。

 

 

博物館ではるか古代の文字を楽しみ、まちあるきで少し昔の文字を楽しむ。さすがは大阪、考古学と考現学、一粒で二度おいしい。

 

 

おまけ。最後は南海電鉄なんば駅で、特急ラピートの案内板文字。良い文字の旅でした。

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