おかやま、アート視点のまちあるき – 岡山芸術交流

いよいよ瀬戸内国際芸術祭の秋会期がはじまりました。

夏会期より過ごしやすい気候となり、また本島・高見島・粟島・伊吹島といった西の島々の作品も加わるとあって、訪問を計画している方も多いと思います。

ですが、現代アートが好きなら、ぜひもう一か所、訪問の候補に加えてほしいところがあります。

それが、岡山市内で開催されている岡山芸術交流

岡山芸術交流は、芸術を通じて国境や文化、世代を超えた様々な交流が生まれることをめざす大型国際展覧会です。

第1回のディレクターとなったリアム・ギリックが掲げたのは「開発」。

ソフトウェアやアプリの開発、公共事業、あるいは伝統工芸。

人によって思い浮かべるものはさまざまでしょうが、アートをものづくりの視点でもとらえたものとすれば、なかなかしっくりきます。

 

そんな岡山芸術交流の主要会場は、岡山駅から桃太郎通りをまっすぐ東へ進んだ、岡山城付近。

市電だと城下停留所、あるいは県庁通り停留所が便利です。

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北へ行くと、岡山市立オリエント美術館。ここは通常の展示の中に、今回の芸術祭の展示があるパターンですね。

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この車椅子ピクトさんは!

ここをはじめ、岡山芸術交流の会場各地で共通鑑賞券(一般1800円)を買えます。

 

その北には、旧後楽館天神校舎跡地。

校舎の1Fから3F、さらに中庭まで使った展示だけでなく、校舎自体の味わいも堪能できます。

インフォメーションセンターやグッズ売り場もあり、実質ここがメイン会場の扱いになっているようです。

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なるへそ新聞ではなく山陽新聞でした。

「無人島で合コン、独身男女集まれ」…? ではなく、その上の岡山芸術交流の記事のために展示されているようです。

 

さらに北の岡山県立美術館は会場になっておらず、岡山県天神山文化プラザ。

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この建物と、南の林原美術館、岡山県庁は前川國男の設計したもの。実に見事なモダニズム建築です。

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岡山と言えば桃太郎、それと桃をテーマにした眞島竜男さんの作品。

奥で流れている制作過程ビデオが妙にいい味を出していて、これだけDVDで買いたくなりました(笑)。

 

近くの空き地には、今回の展示の一環なのかは不明ですが、「A&A」というモニュメントが。

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偶然にも、雨上がりに訪れたので、水たまりに文字が映りこむ一瞬をとらえることができました。

 

南に戻って、岡山県庁へ。

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工事中の覆いに、前川國男のことばが。なかなか刺激的なフレーズが並びます。

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県庁の威容に驚きます。香川県庁とは似て非なる重厚感。

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県庁の中にはポプラグループのコンビニ・生活彩家もありましたが、休日だからか営業していなかったのは残念。

 

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初訪問なので、どれが今回の展示なのかよくわからないほど溶け込んでいます。

 

アートだけでなく、街中にも見どころが多く、一日ではなかなかすべてをまわりきることは難しいかもしれません。

歩き疲れたときには、岡山シンフォニービル向かいの、ちいさな“テロワール” に立ち寄るのがおすすめ。

休日には飲み物や食事の提供もあり、ゆっくりとくつろげるスペースになっています。

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瀬戸キュン!レモネードのロゴもかわいい。

 

おまけ。帰りに、運良く「たま電車」にめぐりあえました。

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和歌山電鐵の伝説のねこ駅長、たまをモチーフにした路面電車です。

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瀬戸内国際芸術祭とは違ったタイプの都市型芸術祭。岡山芸術交流は、まちあるきの楽しみをさらに広げてくれます。

芸術の、その先へ。路上観察レジェンドDay

路上観察といえば、「凪の渡し場」でも何度か取り上げられている、赤瀬川原平さん。

その赤瀬川さんと生前ゆかりのあった方々を招いてのトークイベント、その名も「路上観察レジェンドDay」が先日、岡山市で行われました。

 

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当日のJR岡山駅。

駅前では「おかやま国際音楽祭」のマーチングコンサートがあったり、「岡山芸術交流」という芸術祭の会期がスタートしたりと、同時多発的にさまざまなイベントが行われていたようです。
岡山芸術交流については、後ほど別の記事で取り上げようと思います。

 

駅の西口から徒歩で数分、奉還町商店街へ。

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相変わらず、タイポさんぽをはじめると足の進みが遅くなってしまいます。

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このとなりのカフェバー、KAMPが会場です。

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主催は、日本ピクトさん学会の内海慶一さん。

「ピクトさん」とは、案内や警告に使われる人型ピクトグラム。
ときに、その身を犠牲にしてわたしたちに警告してくれる献身的な姿勢に対する敬称です。

 

ゲストは小学館「ドラえもんルーム」編集長の徳山さんと、おかやま路上観察学会主宰の河原さん。

徳山さんは、ご自身の路上観察の話だけでなく、赤瀬川さんが作られた「本物の零円札」を持参されていました。

世に言う「千円札事件」、千円札を模写したアート作品が偽札にあたるとして有罪判決を受けたあとの作品。

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この作品が「つくる」アートだとしたら、路上観察は「みつける」アート。

赤瀬川さんの著作「超芸術トマソン」は、当時の読売巨人軍の4番バッターながらまったく活躍しなかった助っ人外国人になぞらえて、街中にある無用物を「トマソン」として収集、分類した本です。

その記念すべきトマソン第一号が、このチラシのロゴにもなっている「四谷の純粋階段」。

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のぼっておりるだけで、どこにもつながらない階段。それは、すでに現代アートを超えた存在。

 

河原さんのトークでも、岡山にあったトマソン物件が話題に。

内海さんが地名を口に出されたので、気になってイベント後に現況を見にいってきました。

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こちらが、その階段。

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のぼると前には進めず。

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左に曲がるとスロープがあるのですが、

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それをおりると元の場所に戻るという。

 

近くに公園があり、当日はここでもおかやま国際音楽祭のイベントが行われていました。

芸術祭ではなく、音楽祭のイベントというのがおもしろいところ。

階段上のベンチで休憩したり、スロープで遊ぶ子供の姿も見られ、もはや無用物ではなさそうです。

かつてトマソンだった頃のエピソードは、地元でもほとんど知られていないとのこと。

引退して芸能界に転身した野球選手が、現役時代よりも有名になった…という感じなのでしょうか。

 

あまり岡山のことを知らない身からしたら、新鮮な話もありつつ、路上観察学の奥深さを感じることができました。

まちあるきには、無数の視点がある。

 

トリエンナーレの裏側で – 岡崎タイポさんぽ

いよいよ閉幕まで一ヶ月を切った、あいちトリエンナーレ。

10/16まで、岡崎公園で「アーキテクツ・オブ・エアー」が開催されるため、岡崎を訪れる方も多いと思います。
アーキテクツ・オブ・エアー | あいちトリエンナーレ2016
といいつつ、すでにトリエンナーレ作品は多くのブログやメディアで取り上げられていることもあり、あえて「凪の渡し場」では紹介しません!

そのかわり、例によって「タイポさんぽ」の視点で、まちを歩いて気になった文字を紹介していきます。

トリエンナーレの裏側で、ひっそりとまちを見守ってきた文字たちが、旅人を待ち受けていました。

 

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まずは、トリエンナーレ会場にもなっている、名鉄東岡崎駅の岡ビル百貨店。

昭和の時代から変わらない駅ビルの雰囲気。

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「キッチンこも」にメガネ・補聴器「ウツノ」、どちらも左右でロゴが微妙に違うのが気になります。

お店のキャッチフレーズも、じっくり読んでみると味わいがあります。

美容室のキャッチフレーズ、ちょっと長すぎないでしょうか。短く切ってさっぱりしたい! あっ、もしかして、そういう狙いがあるのでしょうか。

 

市街地へは、この駅からバス、あるいは徒歩で向かいます。

まずは、インパクトのあるものから。

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過去の店舗のロゴが地層のように積み重なった、記憶の残響。

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「岡」が、ちょっとオカザえもんさんっぽい…?

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いいじゃん!安いじゃん!おもしろいじゃん!

「人気ナンバーワン」と「穴場です」は果たして両立するのか? というツッコミも無用のテンション。

 

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カラオケスズメ。イラストもいい味出してます。

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さらに謎のイラスト。喫煙者への風当たりがいまほど強くなかった時代をしのばせます。

 

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はい、あまりのテンションに疲れました。ちょっと一休み。

ここからは、癒やしを求めていきましょうね。

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「シ」のはねに合わせたのであろう、「イト」のまるかぎがかわいい。

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このステンシルが、とても好きです。側面の「P」がちっちゃいのもかわいい。

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渋ビルでよく見る、ちょっと斜体のかかった宋朝体のようなロゴですが、ここまで素晴らしいものは見たことがありません。岡崎に住んでいたら、ここをかかりつけ医にしたいくらいです。

 

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最後は、岡崎信用金庫資料館をご紹介。

この建物は、もともと岡崎銀行本店として建築家・鈴木禎次により設計されました。

その後は東海銀行の所有になったり商工会議所になったりしつつ、取り壊しの危機にあったところを岡崎信用金庫が買い取って資料館としたそうです。

館内では、日本や世界の貨幣がずらりと並んでいて見ごたえがあります。

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信用金庫なのに、なぜか日本銀行券が…。そして国立印刷局のプロモーションビデオが流れていたりと、なかなかふしぎな空間で紹介したくなりました。

まあ、漢字ミュージアムでも昔の硬貨の展示がありましたし、お金に文字はつきものということで。

 

フォントはお金で買えるけれど、まちもじはお金で買えない。でも、そこに行けば会えるのです。

いつかなくなってしまうかもしれない、その前に、会いに行きましょう。

 

あつめる、わける、みえてくる – ゆるパイ図鑑

旅行が好きで、全国各地に出かけています。

そのさきざきで、お土産売り場やスーパーのお菓子売り場をのぞくと、なんとなく別の土地で見かけたようなお菓子があることに気づきます。

普通だと、その程度の認識ですぐ忘れてしまうところ、深く深く探索していく人がいます。

そしてついには、図鑑として一冊の本にまとめてしまったのがこちら。

 

 

発端は、言わずと知れた浜松名菓・春華堂のうなぎパイ。
うなぎパイ|お菓子|浜松のお菓子処 春華堂

「夜のお菓子」というキャッチコピーで一躍有名になったこのお菓子にあやかってか、いま、日本全国でご当地ゆるキャラならぬ、ご当地ゆるパイが増殖しているといいます。

この本では書名の通り、それらのパイを素材や形状で分類し、図鑑形式で紹介しています。

 

たとえば、あなご、どじょうといった特産の魚介類を練り込んだパイ。

あるいは、りんご、みかんなどのフルーツ系。

果ては、宇都宮餃子パイ、名古屋のきしめんパイ、広島風お好み焼きパイなど…。

なぜそこまでの情熱を傾けて、名産品をパイにしようとするのか、と思ってしまう品々。

 

形状の分類からも見えてくることがあります。

元祖うなぎパイをロールモデルとする長形パイ。

うなぎパイはウナギの形に似せているから長いことに違和感はありませんが、しじみパイ、りんごパイなどは、ほんらい長形にする必然性はありません。

葉っぱの形のリーフパイ、おまんじゅうのような包み形など、他の形状のパイと並べてみることで、うなぎパイに引きずられて長形になってしまったのでは…と推測できます。

 

かつて、無数の植物や動物の形態を観察し、比較し、分類することで、博物学や本草学といった学問体系がつくりあげられていったように。

現代にあふれる商品の中からでも、なにかに注目して、みわけることで、新たな発見があります。

 

これもきっと、路上観察、文字観察と同じように、現代の考現学のひとつ。

 

ちなみに、この類の本が、なぜか別々の出版社から同じ新書サイズで出ているので、購入しては同じ本棚に並べて揃えています。

いつか、こういった本だけの図鑑を作ってみたくなります。

 

読書の秋、フォントの秋。文字を特集した雑誌を読みくらべ

つゆしもの秋。旅行のお供にも、嵐の夜にも、本さえあれば心落ち着くもの。そして、その本と切っても切れない関係にあるのが文字。

この秋には、嬉しいことに文字を特集した雑誌が何冊も発売されているので、一冊ずつ読み比べ、特色をまとめてみました。

 

まずは、誠文堂新光社から発行されている「デザインノート」。表紙のシンプルなデザインが美しい。

 

巻頭インタビューは字游工房の鳥海修さん。著書「文字を作る仕事」で語られた「水のような、空気のような」フォントへの想いは、こちらでも伝わってきます。

文字づくりを「素材づくり」と表現する鳥海さん。

その素材がどのような性格をもっていて、どのように料理すれば味を活かすことができるか。

文字を使う(遣う)側としては、それを考えることが大事だという学びを得られます。

 

2冊目は、マイナビ出版の「+DESIGNING」。
表紙の「実践文字組み講座」は見紛いようも無い、フォントワークスの筑紫Bオールド明朝。

 

こちらの巻頭はタイププロジェクト

凪の渡し場ではまだ紹介していませんが、雑誌の専用フォントからはじまった AXIS Font や、名古屋をイメージした「金シャチフォント」といった都市フォントなど、ユニークな取り組みをされている会社です。

 

この雑誌は、パソコンでフォントを扱う際の基本的な知識・技術がまとめられていて、実践という名前にふさわしい内容になっています。

とくにデザイナー以外にも役立つのが「OFFICEアプリのデザイン&レイアウト」。

WindowsやmacOSの標準フォント解説から、PowerPointやKeynoteなどでの読みやすく相手に伝わるプレゼン資料の作り方まで。

フォントの知識を、ビジネスの現場で活かすコツがまとめられています。

付録は「MORISAWA PASSPORT FONT MAP 2016」という、MORISAWA PASSPORTで使えるフォントを一覧にした小冊子。

 

そして、3冊目は月刊NdN。

(2016/10/16、雑誌の入手後に記載を修正しました)

昨年も同じテーマ「絶対フォント感を身につける」の特集があったり、たびたび漫画やアニメのタイポグラフィ演出について特集されている雑誌なので、その品質は折り紙つき。

ちなみに、この3冊の仲では唯一の右開き(記事がすべて横書き)の雑誌です。

 

絶対フォント感とは…。

文字を目にしたら、それがなんのフォントかを即座に見分けられる能力のこと。

絶対フォント感を鍛えるiPhone・Androidアプリもあります。

絶対フォント感

こちらの付録は「絶対フォント感を身につけるためのフォント見本帳 2016」。

2015年版の付録も、気になるフォントを見つけたときにすぐ調べられて非常に役立っています。

各社からリリースされているフォントがほぼ網羅されているので、正直なところ、この用途ではMORISAWA PASSPORT FONT MAPより便利ですね。

去年より16ページ増量してグレードアップ、掲載されるフォントは665種。

 

本誌も、絶対フォント感を身につけるための基礎知識から、実践編としてディテールの見分け方まで細かく解説。

本誌のインタビュー記事は、書体史研究家の小宮山博史さん。

さらに、全国の駅など鉄道にまつわる文字に注目したウェブマガジン「もじ急行」による「もじ鉄のススメ!」など、他にない独自の視点での記事が多くあります。

 

秋の夜長。本だけでなく、文字も存分に味わってみましょう。