この世界に生きる、すべての人へ – 映画「この世界の片隅に」

以前も紹介した、こうの史代さんの漫画を原作とするアニメーション映画「この世界の片隅に」が公開されました。

11月12日(土)全国公開 劇場用長編アニメ「この世界の片隅に」公式サイト

監督:片渕須直、原作:こうの史代、音楽:コトリンゴ、制作:MAPPA 声の出演:のん 細谷佳正 稲葉菜月 尾身美詞 小野大輔 潘めぐみ 岩井七世 / 澁谷天外 ほか。11月12日(土)全国公開 劇場用長編アニメ「この世界の片隅に」の公式サイトです。日本中の思いが結集! 100年先も伝えたい、珠玉のアニメーション

昭和19年から20年。広島から呉に嫁いだ少女、すずの視点で描かれる世界。

それは、まるで超細密なモザイク画、あるいはジグソーパズルのよう。

戦時中の日本を舞台にしていながら、戦争を前面に出したテーマとはしていない、日常の物語。

だからこそ、一面的でない視点から、戦争に向き合っているともいえます。

 

にぎわいを見せる、広島市中島新町(現在の平和記念公園)。

軍港としての呉。

空襲を受ける瀬戸内海。

 

個人的に偏愛する広島の、何度足を運んでも、もう見られない風景がそこに広がっていました。

 

そして、この世界をジグソーパズルと形容した理由は、すべてのピースに意味がある、細やかな描写まで伏線が張りめぐらされているということ。

それでも、物語は基本的にすずさんの視点で進んでいくので、細かい説明などは入りません。

もともと原作が大好きで、映画の公開前に呉市立美術館で開催されていた原画展にも足を運んだので、それぞれのシーンに込められた意味を思い、もう序盤から泣きそうになってしまったり。

思わず館内のあちこちで笑い声が漏れるほど楽しいシーンもいっぱいあるので、ほんとうは泣ける映画という表現はしたくないのですけれど。

まず何も知らない状態で観に行ってから、原作や映画公式ブックに触れると、新たな発見を得られるかもしれません。

 

 

誰もがみんな、この世界の片隅に生きている。

そうして、同じ時代に生きている他の誰かと出会い、別れ、新たな生をつむいでいく。

 

その意味を、何度でも何度でも考えたくなります。

 

さいごに、呉に行ったときの写真を。

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はんこ屋さんも「この世界の片隅に」を応援。

 

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美術館の手前にある、呉線の高架下近くの建物。現在は、海上自衛隊呉集会所になっているそう。

映画の中でも、外観は異なりますが当時の姿が少しだけ登場します。

 

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その建物の片隅に、ひなたぼっこする猫の姿が。

なんとも幸せそうで、印象的な光景でした。

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秋の夜長に響くフォント – すずむし

さまざまな種類がある日本語フォント。それらは、大きくふたつにわけられます。

 

ひとつは、明朝体やゴシック体のように、昔から使われてきた、決まった型のあるもの。

長い時間をかけて洗練されてきたその型は、日本語がわかる人なら誰でも読みやすく、安心感を与えます。

小説の本文に明朝体が使われたり、駅の看板にゴシック体が使われたりするのも、その安心感ならでは。

行書体や草書体などのフォントも、いまの時代の人には見慣れないかもしれませんが、伝統的に使われてきたという点では同じ系統に属します。

 

もうひとつは、そんな型にとらわれず、作り手の個性を自由に発揮したような、いわゆるデザイン書体。

本文として使うと読みにくくなってしまいますが、見出しやタイトルなどに使えば、効果的に想いを伝えることができます。

そのひとつが、この記事の見出しでも使っている、すずむしフォント。

すずむし | 書体見本 | モリサワのフォント

「すずむし」は、モリサワ「タイプデザインコンペティション 2012」和文部門でモリサワ賞 …

たっぷりの墨を含んだ筆で書いたようなデザイン。

くりくりっとした曲線、丸明オールド以上にまるまるとしたウロコの直線が、ダイナミックでかわいらしい。

 

 

最近見かけた使用例を、いくつかご紹介しましょう。

愛知淑徳大学の女子大生が、地元の老舗和菓子屋・納屋橋饅頭とコラボして生み出した、野菜の和菓子「やわがし」。

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名古屋を流れる堀川を愛する人たちによる、堀川まちづくりの会

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本のタイトルでも。

他にもたくさんあります。

八画文化会館叢書vol.04 公園手帖2 キノコ公園
ちなみに、別の会社から、「きりぎりす」というフォントも発売されていて、一時期混乱していました(笑)

きりぎりすのほうが、ちょっと直線的なデザインとおぼえましょう。

 

すずむしフォントが気に入った方、モリサワの公式ストアから、ブックマーカー(しおり)も購入できますよ。

グッズ一覧

No Description

 

秋の夜長、すずむしフォントの軽やかな音色を感じながらの読書はいかがでしょう。

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好きのきもちのキャッチボール

あなたには、好きなこと、偏愛しているものがあるでしょうか。

そしてそれを、他人に公言できるでしょうか。

 

とりわけ内向型人間にとっては、自分の「好き」をはっきり口に出すことに、ためらうことも多いでしょう。

 

自身の好きなことが、相手に受け入れられなかったらどうしよう。

他人と違った趣味、嗜好をもっていることで、変に思われないだろうか。

 

そうやって考えすぎてしまったり。

 

あるいは、自分の好きなことなのだから、他人に理解してもらわなくてもかまわない。

そういう考え方も、いいと思います。

 

でも。

 

自分がなにかを好きだと公言することで、そのことばに共感してくれる人がいたり。

いつのまにか、興味や関心の近い人が、まわりに集まってきたり。

そうやって、ひとりだけでは見えなかった、新しい世界が広がっていくこともあります。

 

それはまるで、好きというきもちをことばに載せた、キャッチボールのようなもの。

 

キャッチボールというのは、考えてみればふしぎなことばです。

現象としては、ふたり、あるいはそれ以上でのボールの投げあい。

だから、最初は必ず、誰かがボールを投げるところからはじまります。

けれど、視点はあくまで投げ手(ピッチャー)ではなく、受け手(キャッチャー)にあります。

 

ピッチボールではなく、キャッチボールである理由。

それは、お互い、相手がちゃんと受けとめられるように、ということを考えてボールを投げるからかもしれません。

 

わたしの好きなきもち。

それは、相手にちゃんと届くだろうか。届いたらいいな。

不安と期待が入り混じりながら、それでも思い切ってことばに出してみましょう。

 

あなたの好きなきもち。

わたしの世界を、もっともっと広げてくれるかもしれないもの。

自分とは違う視点をもっていても、しっかりと受けとめましょう。

 

語りたくなるまち – ひろしまたてものがたり

前回のイケフェス大阪の記事では、大阪の名建築を紹介しました。

でも、このような魅力ある建物を公開する試みは、大阪だけのものではありません。

他でもない、わたしの偏愛するまち・広島でも、そんなプロジェクトがありました。

その名も、ひろしまたてものがたり。

ひろしまたてものがたり

あなたも「ひろしまたてものがたり」に投票してみませんか?

 

第一章として、県民から魅力ある建築を募集し、100件を選出。

第二章では、委員会の選出したベストセレクション30と、投票で選ばれたベスト30の発表がありました。

2016年は、11/12(土)・11/13(日)を中心に、そのうち一部の建物の一斉公開も予定されています。

今回は予定が合わずイベントには行けなかったのですが、せっかくなのでベストセレクション30に選出された建物をご紹介します。

 

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まずはやはり、原爆ドームと広島平和記念資料館。訪れたことがある方も、ぜひおりづるタワーからの視点を体感ください。

 

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世界平和記念聖堂。戦前と戦後にわたって活躍した建築家・村野藤吾さんの戦後の代表作。

モダニズム建築と、カトリック教会の世界観をともに感じさせる、ふしぎな空間です。

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改築中ですが、広島アンデルセン。

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ここからは過去の写真です。

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竹原市、大久野島の旧軍施設。

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かつての陸軍の毒ガス施設跡も、いまはうさぎの楽園となっています。

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こちらは江田島、海上自衛隊幹部候補生学校・第1術科学校。

海軍士官学校時代の建物がいまも現役で使われています。

中の一部の建物は見学ができます。(毎日決まった時間に受付)

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戦争関連の施設がやはり多くなりますが、それ以外もまだまだ、たくさんのたてものがたりが。

大阪と同じく、戦前の銀行・金融関係の建物はやはり荘厳です。

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日本銀行旧広島支店。定期的に、さまざまな展示が行われているようです。

 

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鞆の浦の、しまなみ信用金庫。セレクションに入っているのは江戸時代の太田家住宅ですが、写真が見つからなかったので。角に入口があるのが素敵。

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大崎下島、御手洗の乙女座。「たまゆら」や「ももへの手紙」といったアニメの舞台にもなっています。

 

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最後はやはり、宮島の厳島神社。潮の満ち引きに伴って刻々と変わる景色は、何度訪れても見飽きません。

 

ついつい、広島偏愛シリーズの数回分のネタを消費してしまった気もしますが(笑)、思わず語りたくなる、語りだしたらとまらない魅力のつまった場所。

そんな広島を、もっともっと多くの人に知ってほしいと思います。

 

 

大阪に息づくたてものをめぐる – イケフェス大阪2016

大阪といえば、どんなイメージをもたれるでしょうか。

天下の台所、お笑い、たこ焼き、ソース二度づけ禁止、カモノハシのイコちゃん…。

でも、それだけではありません。

大阪には、明治から昭和まで、いわゆる日本の近代建築が数多く残り、その多くが、いまも現役で使われています。

その魅力に着目し、大阪のまちをまるごと建築の博物館に見立てて楽しむのが「生きた建築ミュージアムフェスティバル」、通称イケフェス。

生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2016

大阪の’生きた建築’が扉を開く特別な2日間。昨年は延べ3万人が参加した日本最大級の建築公開イベント。普段何気なく使われている大阪の’生きた建築’が主役の2日間です。いつもは中に入ることができない「あの建築」を見学する絶好のチャンス。秋の週末、一味違った大阪をお楽しみ下さい。

 

毎年開催されており、2016年は11月5日(土)と11月6日(日)のあいだ、多くの建物やビルが特別公開されました。

いくつかは、事前に申し込みが必要な抽選制となっており、残念ながら今回は落選してしまいました。

しかし、当日でも先着順で入場できるところが多くあり、じゅうぶん楽しめるイベントとなっています。しかも驚くことに、すべてが無料。

今回は、そのうちの一部をご紹介します。

 

まず、イケフェスを楽しむために必須なのが、公式ガイドブック(税込300円)。

2016年版は大阪市内の一部書店でしか販売されていないようだったので、当日購入することにしました。

今回は前から気になっていた、柳々堂さんへ。

地下鉄四つ橋線・肥後橋駅近く。店内に所狭しと並べられた建築関係書籍の数々、短い時間ながら楽しませてもらいました。

柳々堂(@ryuryudo)さん | Twitter

柳々堂 (@ryuryudo)さんの最新ツイート 大阪の建築書専門店です。営業時間は平日が8:30~19:00、土曜が8:30~15:00、日曜祝日は定休日です。 大阪市西区京町堀1-12-3

ここから東の御堂筋線・淀屋橋駅〜本町駅、堺筋線・北浜駅〜堺筋本町駅あたりは、イケフェス参加の物件が密集しています。

竹中工務店の入居する御堂ビル。こちらではガイドツアーに参加することができました。

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シンプルな内装を楽しめる受付ホール。改装前は、また違った雰囲気だったそう。

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屋上も。

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お土産に、神戸にある大工道具館の招待券もいただけたので、またそのうち行ってみたいです。

 

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ここからは戦前の建物。入口がかわいい芝川ビル。

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新井ビル。撮りたかった階段の写真!

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生駒ビルヂング。地下サロンのブループリントに、思わず溜息が漏れます。

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そして三井住友銀行大阪本店ビル。

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内部は天井のステンドグラスの一室のみ撮影可能でしたが、吹き抜けの営業フロアがすばらしい。

まさに商都としての大阪を象徴するような場所です。

ふだんの日常のなかで、こんな空間に訪れることができる大阪の人がうらやましく思えます。

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川を渡って、となりの住友ビルディングとツーショット。

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なんかいました。

 

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少し北に行って、イケフェスの公開対象ではないですが、大江ビルディング。

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この一室で、連携事業「みんなの建築ミニチュア展」が開催されていました。

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お城や太陽の塔など、名建築の数々をミニチュアで再現。

 

ちょっと寄り道して、京阪中之島線で天満橋駅まで。

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素敵かわいい紙もの・雑貨を扱う夜長堂さんにお邪魔しました。

夜長堂 | レトロモダン雑貨

~お知らせ~ 「夜長堂さんは何屋さんですか?」と、出会った人からよく聞かれます。 夜長堂は2006年頃より、古道具の買い付けと卸をメインで活動していました。 …

 

店主の井上タツ子さんは、関西のいいビルを愛好するBMC(ビルマニアカフェ)のお一人でもあります。

最新刊「喫茶とインテリア」はビル好き・喫茶店好きの方どちらにもおすすめ。この本についての記事は、またいずれ…。

 

さて、今回は基本的に中之島周辺に絞って建物を巡ったのですが、一か所、どうしても行きたいところがありました。

それは、地下鉄四つ橋線/御堂筋線・大国町駅近く、モリサワ本社ビル。

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言わずと知れた、大阪ならず日本を代表するフォントメーカー。このサイトでも、Webフォントサービス「TypeSquare」でお世話になっています。

株式会社モリサワ

「文字を通じて、社会に貢献する。」株式会社モリサワの企業サイト。フォント製品・ソリューション、文字を通じた文化活動、カスタマーサポート、企業情報を掲載しています。

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受付ホールの椅子、これがホントの字形!

イケフェスの一環として、5Fのショールーム「MORISAWA SQUARE」が特別公開されていました。

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エレベータ前フロアの数字も立体化。

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展示はというと、巨大フォント見本帳、活字、写植機など、まさにモリサワと文字の歴史を実感でき、とても今回だけでは時間が足りません。

モリサワ主催のイベント・セミナーで見学できることもあるそうなので、また何かの機会を見つけて、ぜひ再訪したいところ。

 

 

イケフェスの建物は、ふだん一般公開していないところもあれば、お店として普通に入れるところもあります。

その混在ぶりもまた、生きている都市らしさを感じます。