原爆ドームと広島のまちを俯瞰する視点 – おりづるタワー

広島のまちの風景といえば、原爆ドームを思い浮かべる方も多いでしょう。

昭和20年8月6日。あの日以来、時を止めてしまったようなその光景は、何度訪れても胸がいっぱいになります。

 

その原爆ドームの東隣に、2016年(平成28年)、おりづるタワーという施設がオープンしました。

おりづるタワー HIROSHIMA ORIZURU TOWER

今まで見たことも感じたこともない空間、「おりづるタワー」は世界遺産・原爆ドームの隣にオープンした新しい観光名所です。

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1Fの無料開放エリアは、カフェと物産館になっています。

握手カフェと名づけられたこちらでは、もみじ饅頭アイスや、広島風お好み焼きをタコス風スティックにした「オコス」など、オリジナルメニューが盛りだくさん。

お好み焼きは食べたいけれど、ちょっと量が多い…というときにも良さそうです。

それまで原爆ドーム周辺に少なかったお土産屋を含め、繁華街である紙屋町・本通への回遊性も考えられています。

有料スペースとなっている展望台の入館料は、おとな1700円。後述する「おりづる投入」を体験する場合は+500円かかります。売上の一部は原爆ドーム保存や広島市の平和推進事業にあてられるとのこと。

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展望台へは、スロープか直通エレベータで向かいます。かなりの高さがあるので、健康面に不安のある方はエレベータを使いましょう。

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12Fでエレベータを降り、屋上展望台・ひろしまの丘へ。

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これは小塚ゴシックでしょうか。

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正面階段を上ると、一気に視界が開けます。

 

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原爆ドームはもちろん、広島平和記念資料館、旧広島市民球場まで、広島のまちが一望できます。よく晴れた日には、瀬戸内海や、宮島の弥山まで見渡せるのだとか。

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これまでも、そごうの高層階から部分的に見渡せるところはありましたが、ここまでのパノラマで平和記念公園を見下ろす視点は無かったのではないでしょうか。

この体験を設計したのは、瀬戸内国際芸術祭の舞台でもある犬島精錬所・直島ホールなどを手がけた三分一博志さん。
配布されていたフリーペーパーによると、広島の「風と水のリズム」を感じてほしいとのこと。

三分一さんは、おりづるタワーのオーナーであり、広島マツダの社長を務めていた松田哲也さんの同級生という縁でビルの改装を頼まれたそう。

現代の広島のまちの魅力を伝えるという想いが伝わってきます。

 

平和記念公園をずっと眺めていると、修学旅行生がひっきりなしに訪れる様子が見えます。

原爆ドームは時間が止まっているように見えて、その周辺は、絶え間なく移り変わっていきます。

 

 

ひとつ下の12F。ここでは原爆ドームを、また違った視点で見つめることができます。

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原爆ドームが原爆の被害を受ける前、そこは広島県物産陳列館でした。その建物を設計した建築家、ヤン・レツルにまつわる展示。

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また、原爆の爆心地はドームではなく、少し離れた島外科内科。その場所も、ぜひとも記憶にとどめておきたい。

 

その横、おりづる広場は、折り鶴をモチーフとした体験スペースになっています。

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そしてここで、自分で折った鶴を、ビル壁面の空間、おりづるの壁に投入することができます。
入館前は、500円は少し高いと思ってしまったのですが、ここに来ると、体験しないともったいないという気持ちに。

カウンターで5枚の折り紙を渡され、好きな数だけおりづるを作ります。

投入のことを考慮して、紙は少し固め。

折り方をおぼえていない人も、解説があったり、案内の人がいるので安心です。
折り目に沿って、模様がついた紙もあります。
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Processed with Rookie Cam

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3人家族にしてみました。

案内に従って、ガラス貼りのおりづるの壁へ。一羽ずつ、静かに投入していきます。

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まっすぐ下りていくものもあれば、ループを描いていくものも。
途中で引っかかって止まるものもあるそうです。

こうして、オープン以来、来場者の折ったおりづるが、少しずつ積み重なっていきます。

高さ50mの壁がいっぱいになるまでには、100万羽のおりづるが必要。いまのペースだと、数年はかかるとのこと。
いっぱいになったら、また再生紙として折り紙などに活用されるそうです。

ちなみに、平和記念公園に届いた千羽鶴はいままでも、障碍者支援事業と協力し、再生紙としてよみがえっています。

おりづる再生プロジェクトとは |おりづる再生プロジェクト

株式会社 文華堂 〒730-0042 広島市中区国泰寺町2-5-3 電話/082-241-2415 FAX/082-241-2459 …

 

想いは形を変えて、何度でもよみがえる。
スクラップ・アンド・ビルドで、この国は発展してきた。

そんなことを感じさせます。

 

帰りは、スロープでゆっくり下りていきました。

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漫画家・佐藤秀峰さんの作品も展示されています。

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これは違うサトウさん(^^;
おりづるタワーに合わせて設置したものではないと思いますが、まさか、こんな間近で見られることになるとは想像していなかったのではないでしょうか。

 

展望台は、当日であれば再入場可能とのこと。

今回は昼しか訪れることができませんでしたが、夕方や夜景も綺麗そう。

春には平和記念公園を桜が彩るということで、ぜひまた訪れたいですね。

 

四季折々や時刻の変化とともに移り変わる広島のまちを体感できる、新しい広島名所の誕生です。

四国の山と海を感じる – 屋島・四国村

瀬戸内国際芸術祭の舞台である、香川県高松市。

港や市街地から少し離れた、屋島にも作品が展開されていることをご存知でしょうか。

公式ガイドブックにもひっそりとした記載なので、穴場のような感じですが、また島とは違った楽しみ方ができます。

 

屋島山上へのアクセスは、JR屋島駅、あるいは琴電屋島駅から30分〜1時間おきに出ているシャトルバス。

今回は琴電高松築港駅から瓦町駅で乗り換え、ことでん志度線へ。構内に動く歩道もあるほど、意外に乗り換え時間がかかるので要注意です。

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琴電屋島駅、フォルムもカラーリングもかわいいですね。

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駅の目の前にあるバス乗り場で、琴電のマスコットキャラクター、ことちゃんがお出迎え。

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バスが来ました。通常運賃は後払い100円、ただし瀬戸内国際芸術祭のチケットを見せれば無料です。

 

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屋島は日本書紀にもその名があり、源平合戦の舞台にもなった古刹。さっそく良い文字に出会います。

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四国霊場、屋島寺。

その奥を進んでいくと、作品がありました。

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長谷川仁さんの猪おどし。

その奥にも同じシリーズの猪が。

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このフォルム、かわいすぎます。

 

せっかくなので、そのまま屋島城跡まで歩いてみました。

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ご注意!! イノシシが出没しています。はい、先ほど会いました。

 

10分ほど歩くと、屋島城跡です。復元された城門遺跡の奥に、高松市街が見渡せます。

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ここは昔、海でした。(ブラタモリのナレーション風)

それはそうと、これはうつくし明朝体ですね…!

 

来た道を戻り、屋島山上商店街へ。

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れいがん茶屋。厄除けの瓦投げができるそうです。一日に投げられる数が決まっている…のかどうかは知りません。

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山の中に山がありました。その名も喫茶マウンテーン。メニューは名古屋のマウンテンに比べたら普通…かどうかは知りません。

 

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気を取り直して、ふたつめの作品。ジョン・クルメリングさんの hi 8 way。

「作品には、上らないでください」と書いてはありますが、案内の方によると、決まった時間だけのぼれるそうで、ちょうどのぼらせてもらえました。

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展望台よりも、さらに上から、瀬戸内海の多島美を見下ろす特別な体験。

 

先に進むと、長谷川仁さんの作品がもうひとつあると教えてもらいました。

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やけにキラキラした目のイルカが出迎える、新屋島水族館。

で、これはフォントワークスのぶどうですね…!

ぶどう L | デザインクラブ | 書体を選ぶ | FONTWORKS

フォントワークスは日本語書体・フォントの販売、OEM書体・フォントの開発、LETSを提供しています。

イルカショーをやっているようで、看板の影からちらっと見えるのですが、今回は入りません。

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おすすめされても買いません。

 

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最後の作品。文字通り、木の上にすずめがすずなりになっていて、すばらしくかわいいです。

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さらに進むと、ぐるっと一周してバス乗り場のある駐車場まで戻れます。

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ここに来てのPOP体まつり…!

 

さて、帰りは少し時間があったので、ふもとの四国村にも寄ってみました。

四国村 – 来たことのある 初めての場所

四国村は、民家を中心とする古建築をテーマにした広大な野外博物館です。彫刻家・流政之氏や建築家・安藤忠雄氏の作品や季節の花々の他、本場讃岐うどんもお楽しみいただけます。

 

四国各地から古民家などを移築して作られた野外テーマパーク。愛知県でいうと、明治村やリトルワールドに近いでしょうか。

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シャトルバスは行きしか停まりませんが、琴電屋島駅からも徒歩5分ほどで行けます。

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村内にある四国村ギャラリーでは11/27(日)まで、藍染の布などを展示した「JAPAN BLUEの世界」展が開催中。

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安藤忠雄設計のギャラリー、中庭からの眺めもまた絶景です。

 

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うさぎで有名な、大久野島の燈台が!

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今回はあまり時間がなくて駆け足になってしまいましたが、また時間をかけてゆっくり村内をまわりたいですね。

(四国村の閉村時間は4月〜10月は17時、11月〜3月は16時半)

 

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ちょうど村を出るころ、赤い夕陽が建物を染めます。

写真には撮りましたが、きっと記録よりも記憶に残る光景です。

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芸術をみつけだす観察者の視点 – 赤瀬川原平の芸術原論

芸術、アートとは何か。

それはとても奥が深く、裾が広い問い。

たったひとつの正解があるものではなく、それこそ人によって無数の答えがあることでしょう。

そうだとすれば、この質問は、その人が世界をどう見ているか、その視点を尋ねていることにひとしいと言えます。

 

この本では、赤瀬川原平さんによる、芸術への視点が語られます。

 

さまざまな雑誌などに掲載されたエッセイをまとめたもので、内容をふまえて全部で5章に編集されています。

もともとの美術家としての赤瀬川さんの側面に視点を合わせる人は、「II 在来の美」での美術(絵画)についての論考に注目するでしょう。

また、超芸術トマソンという概念を生み出し、路上観察学へと発展させた赤瀬川さんに着目すれば、やはり「IV 路の感覚」がおもしろい。

「V 芸術原論」も、トマソンや路上観察でよくみられる物件の分類が紹介されていて、これから路上観察をはじめる人にも参考になります。

 

ただ、それらに分類されることもない、いっけん雑多な話題が散りばめられた「I 芸術の素」の文章が、実にいいのです。

自分の意識が、自分にだけわかるもので、他人にはわからない。

人間は生まれたら誰でも必ず死ぬ。いままでの長い人類の歴史の中で、ただのひとつも例外がない。
そんな、子供の頃にふしぎだと思いながら、いつしか当たり前のこととして受け入れてしまっていたことを、ふしぎのままとして掘り下げていく、この感覚。

 

とくに好きなのは、「波打つ偶然」と名づけられたエッセイ。

思いがけないところで知り合いに会ったり。

お互いが、別のところで似たような経験をしていたり。

そして、そんな偶然というものに何らかの意味を見いだしてしまう、それも人間というもの。

 

そんな偶然を偶然として片づけない視点が、路上観察学にも活かされています。

トマソンや路上観察学が芸術になるのは、それを作った人ではなく、観察する人の視点によって、新たな意味が見いだされるから。

物件はそこにあるから、そこに行けば誰でも発見できる、しかしそこへ行く才能というものがあるのだった。物と出合う才能である。物を見る才能ということも混じるわけで、自分でも名品を見つけたあとは気分が高揚して、目が冴えわたるのがわかり、たてつづけに名品を見つけたりする。(p.314)

路上観察をしていると、このことはよくわかります。

 

まちを歩いていて、偶然に出会う物件。ふつうは通り過ぎてしまうようなものでも、路上観察の目をもっていれば、それを発見することができます。

 

ちなみに、この本では先に説明したとおり物件の分類も紹介されているのですが、それに沿ってだけ物件を集めても面白くない、と書かれているのが興味深いところ。

路上観察学を「学問」としてみれば、収集して分類することに重きを置いても良いと思いますし、実際そうやって一ジャンルに特化した活動をされている方も多くいます。

けれど赤瀬川さんにとって、「芸術」としてみれば、それはひとつの正解を求めているだけで冒険がない、ということなのでしょう。

 

路上観察学にも、無数の視点があって、無数の答えがある。

そんなこともあらためて発見した一冊でした。

 

瀬戸内国際芸術祭 – 西の島・粟島で、記憶を未来につないでゆく

はやくも暦は11月となり、瀬戸内国際芸術祭2016の秋会期も終わりが迫ってきました。

どうしても会期中にお伝えしたいのが、秋会期だけ会場となる西の4島、本島・高見島・粟島・伊吹島の魅力。

(四国本島と陸続きになっている沙弥島のみ、春会期)

 

東の島々に比べれば宇野港や高松港からも遠く、面積も小さいながら、そのぶん濃密な、島の時間を味わうことができます。

 

アート作品自体も、島の歴史や風習をテーマにしたり、島の人々といっしょに作り上げたものが多く見られます。

そこで、この島々では、ぜひ地元の人に話を聞くことをおすすめします。

芸術祭の公式サポーター・こえび隊のみなさんはもちろん、それ以外でもボランティアでガイドや手作りのおみやげをつくられている方が多くおられます。

 

粟島や伊吹島には、島四国とよばれる八十八か所めぐりがあります。

四国本島のお遍路さんと同じく、そうした旅人へのお接待の文化が引き継がれているおかげかもしれません。

 

今回は、そんな西の島のひとつ、粟島をご紹介します。

 

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日本初の海員養成学校だった建物を利用した、粟島海洋記念館。

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記念館向かいの「一昨日丸」とともに、日比野克彦さんのプロジェクトが展開されています。

一昨日丸が海底から引き上げたものを展示し、見る人に想像させる SOKO LABO。

路上観察学ならぬ、海底観察学でしょうか。

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ここから三十分ほど歩き、港と反対側の西浜へ。

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引き上げたレンガでつくられた「Re-ing-A」(レインガ)が沖合に漂流しています。

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堤防には、日比野さんのことばを、地元の小学生が一文字ずつ手書きしたパネルがまっすぐに並びます。

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そこにあるのは、過去形の記憶。けれど、こどもたちといっしょにことばをつむぐことで、それは現在進行形になり、未来へと向かっていく。

そんな希望を感じさせます。

 

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漂流する記憶といえば、漂流郵便局。

届け先のわからない、あるいはもう届けることのできない人へ向けた手紙を預かる郵便局です。

三年前にはじまったこのプロジェクトが、ずっと継続され、いまも毎日、誰かからの手紙が届き続けています。

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さいごに、旧粟島中学校の校舎を利用した粟島芸術家村。

 

島に滞在するアーティストが、島にゆかりのある人々から注文を聞いて作品を作り上げる「誰がための染物店」。

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作品を見るということは、人の記憶にふれるということ。

ものがたりに耳をすますということ。

 

あなたは、島から、どんなものがたりを聴くでしょうか。