また、このまちへ – 京都モダン建築祭2023

今年(令和5年)も、京都モダン建築祭が開催されました。

長い歴史をほこる京都のまちには、明治期以降も、それぞれの時代に合わせて建てられ、その時代を生きたひとびとに愛された建築が多く残されています。

そんなモダン建築を、特別公開やガイドツアーによって学ぶことができるのが、2022年からはじまった京都モダン建築祭です。
去年開催時の記事はこちらをどうぞ。

ひらく京都の底力 – 京都モダン建築祭

今年は11月2日から4日、そして10日から12日と全6日間に会期が延長され、全期間有効なパスポートや1DAYパスなどが発売されています。
近い時期に大阪や神戸でも建築イベントが開催されるので、関西近郊の建築好きには、まさにお祭りのような時期ですね。

わたしは1日しか予定を合わせられなかったので、1DAYパスで、去年行けなかったところを中心にめぐってみました。

パスポートはインターネットで購入できますが、各施設に向かう前に引きかえが必要なので注意が必要です。
京都駅から市営地下鉄烏丸線で向かう場合、四条の特設事務所で引きかえるのが便利でしょう。

わたしは今出川駅近くのbe京都で引きかえたあと、西陣のまちあるきを楽しみました。
(ただし、10日以降はbe京都で引きかえはできません)

手前に、何やらスタンプラリーが。
京都に移転した文化庁の記念事業で、府庁界隈「まちかどミュージアム」が開催されているようです。

さすが京都、なにかのイベントを目当てに行くと、さらに知らないイベントを見つけてしまう。
京都市考古資料館

とりあえず、両方の対象となっている京都市考古資料館(旧西陣織物館)へ向かいます。

金属板の明朝体「押」と丸ゴシックの「押す」を愛でながら、中へ入ります。

一、二階は一般公開されており、京都モダン建築祭の特別公開は三階の貴賓室が対象です。

カーテンも西陣織だそう。

謎の馬と人形がお出迎え。

このあと、南に行けば府庁や平安女学院など御所西エリアですが、昨年も訪れたこともあり、今回は北へ。

ほとんど見えない旧警戒標識をたよりに…。

元西陣小学校

元西陣小学校です。

飛び出しぼうや

旧小学校をいまでも見守る、飛び出しぼうや(おじょうちゃん)?

そのまま裏千家パイロンを横目に、北大路をめざします。

京都教育大学の50周年記念で建てられた紫明会館です。
デイサービスとしても現役で使われており、あやうくデイサービス専用入口に迷いこむところでした。

ちょうど和室に日差しが入り込む時間帯でした。

講堂から見る木漏れ日も美しい。窓が大鏡に映り込んで、だまし絵のようなワンシーンです。
ダンスなのか演劇の練習か、どんな人がどんな場面で、この姿見の前に立ったことでしょうか。

このあとは北大路から地下鉄に乗って、中京へ。

祇園祭の祭礼の拠点として使われる郭巨山会所へやってきました。

市電の施設で手狭になり、老朽化も進むなか、もともとの建物を生かしつつ空間を広げるという改修で日本建築学会賞を受賞したそう。

郭巨山会所
もともとの瓦屋根が内部にとりこまれるという、驚きのリノベーション。

近くには八竹庵(旧川崎家住宅)があります。
京都モダン建築祭の連携企画として、1,700円の入館料が200円引きになります。
事前にチェックしていませんでしたが、ここでは素晴らしいひとときを過ごせました。

八竹庵

京都大学時計台などを設計した建築家・武田五一も携わったという、和洋融合の空間がひろがります。

中庭を眺めれば、京都市街地にあるとは思えない静寂さ。
時季はずれの暑さもやわらぎます(虫刺されには注意)。

そして二階には、パスポート提示で特別公開となる秘密の場所があります。

八竹庵 鉾見台
山鉾巡行のときにだけ使われるという鉾見台。
伺ったところ増築ではないそうで、大正時代にこんなモダンなベランダを作るとはおどろきです。

このあとは河原町通へ。
島津製作所創業記念資料館に行ったり、建築フェア開催中の丸善京都本店に寄っていたら時間がだいぶ経ってしまいました。

マグデブルク半球など聞き覚えのある教育用実験器具の並ぶコーナーが楽しい。

最後は七条通の本願寺伝道院へ。

内部撮影は不可ですが、建築家・伊藤忠太による、世界各国の建築を寄木細工のようにちりばめた空間をじっくりと堪能できます。
妖怪好きでも知られる伊藤忠太、建物の周りにはふしぎな石像がずらりと並ぶのも見逃せません。

京都人の情熱がかたちとなったモダン建築。

それは過去と現在、そして未来につながる、ひとびとの無数のいとなみと共にあります。
来年もまた、ここに帰ってこれますように。

ひらく京都の底力 – 京都モダン建築祭

それは、いまからおよそ150年前のこと。

明治維新をむかえ、それまで千年以上も日本の首都であった京都は、その座を「東の京」と名付けられた東京に実質上、明け渡します。

そのころの市中の窮状は、まだ記憶に新しいCOVID-19による緊急事態宣言下のそれを上回っていたことでしょう。

けれど、そこからが京都のまちが底力を発揮するとき。
伝統をすべて捨て去るでもなく、新しいものをかたくなに拒むでもなく。

やがてこの地は、学校や美術館などの公共施設から民間企業、教会までがおりなすモダン建築の宝庫となっていきました。

そんな古くて新しい京都の建築がいっせいにひらかれる、京都モダン建築祭。

京都モダン建築祭

「京都モダン建築祭」は、京都で大切に守り継がれてきたモダン建築が、日時限定で特別に公開される、建築一斉公開イベントです。京都市、観光協会、まいまい京都など、官民が連携して実施しています。

大阪の〈通称イケフェス〉・生きた建築ミュージアムや、まち歩きツアー〈まいまい京都〉なども協力するとあって事前の期待も高まっていました。

第一回の会期は2022年11月11日から13日の三日間、なかなか情勢的にも人出が読みづらいところがあったと思います。
主催やボランティアスタッフのみなさまのご尽力に感謝します。

参加者側としても予想以上の人出に驚きましたが、みなさん行儀良く並びつつも熱心で、建築への敬意が感じられたのが印象的でした。
すべてを回りきることはできませんでしたが、一部を紹介していきます。

まずは平安神宮にも近い京都府立図書館から。

ちょうど、わたしが大学生になったころに改築され、何度か通ったことがあるので印象的な建物です。
…というと年齢がわかってしまいますね。
あれからもう20年以上経つと思うと我ながらおそろしいですが、京都の歴史からすれば一瞬のこと。

特別公開では外階段に登れるのと、竣工時に使われていた家具などの展示室が見られます。
かつては多くの図書館で使われていたという、半開架式書棚。

連携企画で、建築祭の関連書籍コーナーも公開されています。
時間があれば館内でゆっくり読みたいところですが、今回はリストだけいただいて、またいずれ。

京都モダン建築祭 関連展示(11月11日(金)~11月13日(日)) | 京都府立図書館

明日11月11日(金)から11月13日(日)まで京都モダン建築祭が開催されます。京都府立図書館では建物北側の外階段、3階の家具展示コーナーを特別公開いたします。あわせて3階ではレアな写真とテラコッタを展示しますのでぜひご覧ください。展示期間:1月11日(金)~11月13日(日)までの10時から17時まで※特別公開の見学には、京都モダン建築祭2022パスポートの提示が必要です。事前に購入・引き…

岡崎公園として整備されたこの一帯は、とにかく広大な敷地に多くの建築が集まっています。
紅葉を見つつ散策するのにうってつけです。

平安神宮の社務所では、大鳥居のかわいい模型が公開。
平安神宮の北西にある、京都市武道センター(旧武徳館)
その前庭の土俵にあった、京都市の水引幕とパイロン。

京都市京セラ美術館は、昨年のモダン建築の京都展など、何度も訪れていて大好きな美術館のひとつです。

本館横の「ザ・トライアングル」も意外な展示が無料公開されていることが多く、おすすめです。
現在は、フォントの文字組に使われる仮想ボディをテーマにした「仮想ボディに風」が開催中でした。

藤田紗衣:仮想ボディに風

藤田紗衣は、ドローイングを起点に、シルクスクリーンやインクジェットプリント、コンピューター画像加工ソフトを用い、版数の限定や地と図の反転、拡大など、自ら設定した制作上のルールに基づくイメージへの多面的

さらに新館では「アンディ・ウォーホル・キョウト」展が令和5年2月12日まで開催中で、見逃せません。

建築祭とは直接関係ないと思っていたら、ウォーホルが生前、京都に滞在した際のコーナーがあり、建築祭の対象となるウェスティン都ホテルの名前もありました。

展示自体もスマホでの写真撮影自由で、大量生産をモティーフにしたウォーホル作品が、観覧者自体の手で複製・拡散されていく仕掛けがおもしろい。

そろそろ建築祭の特別公開に戻りましょう。

すべてが絵になる京セラ美術館ですが、貴賓室の格天井はワンランク上ですね。物理的に。

ここから都ホテルまで、地下鉄東西線で一駅ですが、疏水沿いを歩いていくこともできます。

琵琶湖まで11km!

蹴上インクラインや琵琶湖疏水船も楽しそうですが、また次の機会に。

ウェスティン都ホテル京都では、村野藤吾の設計によるスイートルームや、空中の日本庭園をめぐる贅沢な時間を過ごせました。

遠くに平安神宮の大鳥居や市街地が見渡せます。

柱と天井の継ぎ目まで貼られた壁紙が美しい。

この調子で紹介していくと終わりそうにないので、泣く泣く割愛しつつ次のスポットへ向かいましょう。

烏丸線に乗り換えて丸太町駅、京都御所のとなりに広がる平安女学院の明治館キャンパス。

大阪から京都に移転してきたキリスト教女学院で、礼拝堂である聖アグネス教会とともに特別公開の対象となっていました。
今回、ほかにも多くの教会が公開され、寺社仏閣だけでない京都の奥深さを印象づけます。

現役で使われる建物の中に、歴史を感じる煉瓦やオルガンなどがそのまま残る不思議。
ここからは入れませんの教科書体と小さきパイロン優雅な扉
思わず短歌を詠んでしまうほど、細やかな気遣いにうたれます。
食堂らしき室町館地下のカフェも英国風に彩られ、この空間を普段使いできる学生さんたちがうらやましい。
ここは猫カフェなのか、と思うほど猫の写真があちこちに。
黙食の案内も、猫に注意されたら従わざるをえません。
近くの京都府庁旧本館も、まるで庭園のような空間。
ただ、ちょっと公開時間を勘違いしていて、議場などが見られず。

仕方がないので「文化庁がやって来ます」パイロンだけ撮って引き返します。

烏丸線に乗って、四条駅から少し西へ行くと、元成徳中学校にたどり着きます。
改修をくり返し、さまざまな用途で使い続けられる、年輪を刻むような天井の配線が印象的です。

ここから河原町までの繁華街、いつものにぎわいが戻っていて、人混みが苦手なわたしでも少し嬉しく思ったり。
京都BALの丸善京都店では関連ブックフェアも行われています。
個人的には旧店舗への思い入れが大きいのですが、それはまた別の話。

最後はフォーチュンガーデン京都(島津製作所河原町旧本社)を紹介します。
順番待ちの間にも、玄関の照明がつくりだす天井の影に目をうばわれます。

レストラン・ウェディング会場としての改修にあたっても、竣工時の武田五一デザインを多く残しているそう。

一階ごとに違う表情を見せる階段の踊り場、そしてエレベーター。
階段を登るたびに過去への旅をしているかのようです。

そして、次の100年、150年先に思いを馳せて。
このまちを歩けば、困難を乗り越えるヒントがきっと見つかります。

日はまた昇る – そうだ、モダン建築の京都行こう。

長い夏の蒸し暑さが去り、あっという間に季節は秋へとうつりかわりました。

秋の行楽シーズンといえばJR東海の名キャッチコピー「そうだ、京都行こう。」が思いうかびますが、京都の見どころは歴史ある寺社仏閣だけでなく、実は街のあちこちに残る明治〜昭和に建てられたモダンな建築も見逃せません。

そんな「モダン建築の京都」をテーマにした特別展が今年(令和3年)、京都市京セラ美術館で開催されています。

https://kyotocity-kyocera.museum/exhibition/20210925-1226

明治天皇の東京への行幸(いわゆる遷都)にともなって一時は衰退したという千年のみやこ。

その危機感をうけて、京都は官民あげての近代化による復興をめざします。

琵琶湖の水を京都まで運び灌漑や発電、舟運に利用した琵琶湖疎水。

全国に先駆けて設置された小学校。

そして平安遷都1100年を記念した内国勧業博覧会と、それに隣接する平安神宮。

今もその地に立つ京都市京セラ美術館での展覧会ということで、歴史を肌で感じることができます。

昨年に改装オープンしたこともあり、アプローチも優雅です。

現在は事前予約制、公式サイトで日時を指定してチケットを購入できます。何種類かの展示が同時に行われているので、館内で迷ったらスタッフの方に聞きましょう。
一日に複数のチケットも購入できますが、どれも見ごたえたっぷりなので、1時間以上は余裕をもっておきましょう。

会場内は一部写真撮影が可能です。
写真や図面だけでなく、模型やインテリアの実物などもあるのが建築展としては嬉しい構成ですね。

円山公園にある長楽館の螺鈿細工の椅子。いつまでも眺めていられそう。
紙巻煙草で財を成した村井吉兵衛の別宅ということで、当時の商品「サンライス」も展示されています。

ほとんどの建築は京都市内に現存しているため、気になったら街に出て実物を見に行けるのも良いところですね。

言わずとしれた京都市役所。

三条通御幸町東入ル、アートスペースとして活用されている1928ビル。
四条大橋沿いのヴォーリズ建築、東華菜館。
現在は中華料理店として営業されており、なかなか敷居が高いですが、いつかは中に入ってみたいところです。
ちなみにレストラン矢尾政として開業した当初は、1階は大衆食堂だったそう。

モダン建築の京都展では、3階ホールベンチが展示されていました。

こちらは京都帝国大学花山天文台の初代台長・山本清一さんの使われていた天球儀。
天の星座をうつしとった天球儀は、地球儀と違って、模型なのに実物が存在しない不思議さが、なんだかわくわくします。

じっくり見ていると時間が無くなり、すぐに18時の閉館、外は本当の夜空が見えていました。

夜でも月光と、人工のライトアップがあたりをほのかに照らします。

そして、どんな逆境にあっても日はまた昇る。

モダン建築が息づく、京都のまちのかがやきは失われません。

トンネルを抜けると霧の国 – 亀岡まちあるき

以前「半歩踏み出す、ものがたり旅」という記事で〈半日旅〉をすすめる本を紹介しました。

この本で気になった場所のひとつに、京都府亀岡市があります。

JRで京都駅からも20分程度、けれど旧国名では丹波国に属し、京都に似ているようで違う、落ち着いた雰囲気の街らしいです。

ということで、さっそく行ってきました。

 

まずはJR京都駅、嵯峨野線(山陰本線)ホームへ。

今年(2019年)3月には、京都鉄道博物館や梅小路公園の最寄駅として梅小路京都西駅も開業予定です。

駅構内ポスターは安定のPOP体でした。

嵯峨嵐山駅を過ぎると、ぐっと乗客は減って、長いトンネルで険しい山峡を越えます。

山城国と丹波国、国境のトンネルを抜けると、霧の国だった——

そう言いたくなるほど美しい霧が広がる市街が見えてきました。

盆地のため霧が広がりやすく、竜ヶ尾山の山頂付近には「霧のテラス」という名所もあるそうです。

かめおか霧のテラス ライブカメラ|ぶらり亀岡 亀岡市観光協会

かめおか霧のテラス ライブカメラ|亀岡市観光協会のページです。亀岡の観光の見どころや、湯の花温泉、保津川下り、嵯峨野トロッコ列車の紹介はもちろん亀岡の、四季の花や、グルメ情報、イベント情報を発信しております。いろいろな亀岡を探索して頂きながら、あなただけの亀岡を探してみてください!

 

亀岡駅舎、特徴的な形をしています。

北口では京都スタジアム(仮称)が工事中でした。2020年のオープン予定だそうです。

 

「国鉄山陰線」という表記におどろいた看板、〈京都府下随一のスケールと楽しいインテリアを創造する〉というスケールの大きい謳い文句も惹かれます。

 

まるいフォルムと外階段の対比がかわいい。

マンホールは上下どちらから見ても亀の形をしています。

「🐕のフンは飼主が持ち帰りましょう!」と、犬のイラストを絵文字のように使うあとしまつ看板は意外にめずらしい。

 

まちあるきを楽しんだら、亀山城址へ向かいます。

亀岡市は明智光秀が築いた丹波亀山城の城下町として栄えました。

織田信長の謀反人というイメージが強い光秀ですが、2020年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」の主役となるなど、再評価が進みそうな予感がします。

そして、城の名前は「亀山城」なのに何故「亀岡市」なのかというと、三重県に同じ亀山という地名があってややこしいため、明治の廃藩置県ごろに亀山から亀岡に改称したとのこと。亀岡県となるも、ほどなく京都府に合併されます。

なんだか数奇な運命をたどったまちですが、さらに変わっているのは現在の亀山城、実は宗教法人大本の所有する土地となっています。

大本の聖地〈天恩郷〉とされていますが、一部の禁足地以外は本部で申し出れば誰でも自由に見学できます。

 

亀山城址の近くには亀岡市文化資料館もあります。

もとは亀岡市立女子技芸専門学校だったそうで、白い建物はなつかしい学校らしさを感じさせます。

入館料は210円、古代からの亀岡の歩みを学ぶことができます。

そして、ここ亀岡は「こち亀」で有名な秋本治先生の新作漫画「ファインダー」の舞台ともなっています。

文化資料館にも作品や秋本先生の紹介があり、さらに近くのハンバーガーショップ「ダイコクバーガー」は登場する女子高生たちの行きつけの店として大々的にコラボレーションしています。

こちらの意味での〈聖地巡礼〉をする人も増えているのだとか…。

 

いろんな楽しみ方ができる、亀岡市まちあるきでした。

 

半歩踏み出す、ものがたり旅

このブログ「凪の渡し場」では、日常に新しい視点を取り入れるために、旅に出ることの効用を何度も書いてきました。

自分だけの物語を見つける – ぼくらが旅に出る理由

自分視点の旅のすすめ – できるだけがんばらないひとりたび

また、一歩を踏み出す勇気が出ない人には、〈片足を日常に置いたまま、半歩ずつ踏み出す〉というコツもお伝えしました。

一歩を踏み出す勇気が出ないなら、半歩踏み出してみる

 

それを実現できるのが、日帰りで近隣の府県を訪れる「半日旅」です。

わたしは名古屋在住なのですが、愛知・岐阜・三重のいわゆる東海三県だけでなく、京都・滋賀・奈良・大阪といった関西地方も、その気になれば日帰りで行けてしまうのが便利なところです。

東海道新幹線を使えば大阪まで一時間ですが、在来線や高速バス、そして近鉄特急といった手段でも往復できます。

関西は歴史も古いだけ、さまざまな文化が何層にも重なり合っていて、新しい視点をみつけたり、いつもと違った経験をするのにうってつけです。

たとえば近鉄で大阪難波に着いたら、南海電車で和歌山に足をのばしたり、阪神電車で神戸に行ったり、さらにはそこから阪急電車で京都に行って、京阪電車でまた大阪に帰ってくるといったこともできてしまいます。

わたしはとりたてて鉄道マニアというわけではありませんが、ふしぎと関西の鉄道にはこころ躍るものがあります。

こちらの本では、漫画家・イラストレーターの細川貂々さんが描くイラストが、見事にそのときめきを表現しています。

表紙に描かれた顔をながめているだけで、行く先々に待ち受けているものがたりを予感させます。

 

ときめきといえばこちら。関西を中心に〈いいビル〉の魅力を発信するBMC(ビルマニアカフェ)のメンバーが執筆する、喫茶店という空間に秘められたものがたりを記録する写真集です。

関西に行くたび、こちらで紹介された喫茶店をひとつひとつ訪れるのが密かな楽しみです。

 

こんなふうに、ひとつのテーマに沿って旅をすることは、本を読むことにも似ています。

それは、さながら「ものがたり旅」といえます。

 

はじめて訪れた場所でも、前に行った場所と似た雰囲気を感じたり。

その街やお店の歴史を学ぶことで、思わぬつながりをみつけたり。

そして、次に行きたい旅の目的地が頭に浮かぶことも。

 

ものがたりの世界は、はてしなくひろがっていきます。