ライフハック、という言葉があります。
〈ライフ〉=人生を〈ハック〉=問題解決するという意味で、2004年に生まれた造語だといいます。
いまや身近になったパソコンやスマートフォンなどのデジタルツールを利用したり、さまざまな人が編み出した時間管理、タスク管理の手法を紹介する〈ライフハック〉ブログが世の中にはたくさんあります。
その代表的な存在のひとつであるLifehacking.jpを運営する堀正岳さんが書かれた「ライフハック大全」という書籍を読みました。
この本には「人生と仕事を変える小さな習慣250」という副題がついています。
ブログで紹介されたライフハックをベースにしながらも、仕事術や効率化といった面を追い求めるあまり薄れてしまった「人生をもっとラクにしよう」「もっと楽しくしよう」というメッセージに立ち返って執筆されたといいます。
「人生を変える7つのライフハック」が紹介されたあと、大きく8つの章に分けて、すぐに使える、ずっと使えるライフハック術が紹介されていきます。
この本を読んで、ぜひ一緒に紹介したい、ある本が頭に浮かびました。
それが、筒井康隆『わかもとの知恵』です。
ライフハックから筒井康隆を思い浮かべる人は、あまりいないかもしれません。
(それこそHACK249「変」であること、かもしれません)
けれど、小学生の頃から筒井康隆の小説に魅せられ、その文体から、発想から、あらゆる面で人生に大きな影響を受けているわたしにとっては、ごく普通のことでした。
そもそも、この本自体、筒井さんが幼少期に読んだ『重宝秘訣絵本』という小冊子が元になっています。
これは「強力わかもと」で知られる現・わかもと製薬が、戦前・戦中に錠剤わかもとの付録として刊行したものだそうです。
その時代の生活に役立つ知恵をもとにしながらも、さらに筒井さんの視点、体験を加え「子供に役立つ知恵」「おどろきのある知恵」「なるほどと思わせ、納得させる知恵」の三翻(サンハン)縛りで執筆したといいます。
それぞれ〈わ〉〈か〉〈も〉〈と〉〈の〉〈知恵〉という頭文字からはじまる6つの章で、台所、身のまわり、人とのつきあいなど、100を超える知恵が、絵本画家のきたやまようこさんによる挿絵とともに、ユーモラスに語られます。
出そうなあくびを止める知恵。
つかれない休み方の知恵。
相手の名前が思い出せないときの知恵。
いいアイデアを出す知恵…。
よく聞かれるものも、いかにも筒井さんにしか書けなそうなものも、色とりどり。
この本の副題は「覚えておくと一生役に立つ」です。
それは、知恵を身につけることで、人生を変えることができる、と言い換えることもできます。
あとがきで筒井さんは、何か困ったことがあれば、この本に書かれていないとわかっていることでも、この本を開いてみることを薦めています。
知恵も、ライフハックも、それぞれは小さな手法であり、長い人生のなかの、ある特定のケースにしか通用しないかもしれません。
それでも、それを学ぶことに意義はあります。
先人たちが生み出した、さまざまな手法や考え方を知って、それを今の自分にあてはめてみる。
あるいは、どうしたらもっとうまくできるか考えてみる。
それが、自分だけの人生を楽しく生きることにつながっていきます。