上野発、書とアートをさけんでみる夏

2024年も、さまざまなアートイベントや展覧会が開催されています。

今回は東京・上野から、ふたつの美術館をめぐります。

広大な敷地をほこる上野恩賜公園。
美術館や科学館、動物園などが立ち並び、すべて回ろうとすれば、一日あっても時間が足りないくらいです。
〈凪の渡し場〉的には、屋外の看板に注目した文字さんぽも楽しめます。

丸ゴシックの「ボート場」とイラストがかわいい。

これは象のおしりをモチーフにした看板でしょうか。やはり丸ゴシックが大活躍。

でも、きょうのお目当ては動物園ではなく、上野の森美術館「石川九楊大全 言葉は雨のように降りそそいだ」です。

文字やフォントに関する著作も豊富な書家・石川九楊さんの大規模展覧会です。

前後期で展示替えがあり、古典を中心とした前期は残念ながら予定が合いませんでしたが、後期【状況篇】も、いわゆる「書道」という言葉からイメージする枠組みにとどまらない作品が目白押し。

一室を埋めつくす85mの大作「エロイエロイラマサバクタニ又は死篇」などに圧倒されて館内を進んでいくと、個人的に感動の作品に出逢えました。

それが、自由律俳句で知られる俳人・河東碧梧桐のことばを書として再構築した「俳句の臨界 碧梧桐一〇九句選」。

館内は撮影禁止ですが、美術館前のポスターにも作品が使われていました。

句は「ざぼんに刃をあてる刃を入るる」。
ひらがなの〈ざぼん〉を取りかこむ肉厚のザボン。
その皮と種までが墨の濃淡で表現され、鋭利な刃物があたっている一瞬が切り取られます。

碧梧桐の句自体がおもしろく、さらに石川さんの書による表現が重ね合わされ、時間を忘れて楽しめました。

最後は写真撮影可のコーナー。有名な新潟の日本酒「八海山」の文字も石川さんによるものだったのですね。

しかも普通酒ではなく高級な大吟醸酒というところが心憎い。

さて、上野駅に戻ります。
高架下では「最も画数の多い漢字」として有名になったビャンビャン麺も売られていました。

とはいえ列車の時刻が迫っているので駅構内へ。構内にもそこかしこに動物のキャラクターが隠れています。

しかし、案内に従って階段を降りると、なにやら雰囲気が一変します。

まるで令和から昭和にタイムスリップしたような14番ホームです。

上野発の夜行列車、ではなく昼行特急「草津・四万」で群馬へ向かいます。

「四万=しま」と読み、四万の病を治すと言われる四万温泉が由来だそう。

今回は伊香保温泉の最寄駅でもある渋川駅で下車します。

駅名標が筑紫A丸ゴシック!
観光SLの停車駅ということで、黒字に金のSL色ながら、単なるレトロ趣味にとどまらない、かわいさ抜群の演出です。

ちなみにこの夏は「SLぐんまちゃん号」が運行されるとのこと。

帰りに寄った途中駅の高崎駅も〈ぐんまちゃん〉にジャックされていて、こちらもめちゃめちゃかわいい。

改札にもぐんまちゃん(渋川駅ではなく高崎駅です)。

ぐんまちゃんバス

渋川駅でやってきたバスまでぐんまちゃん。

グリーン牧場前のバス停で下車します。ここも動物のキャラクターに彩られ、期せずして動物づくしの旅となりました。

それでも、向かうのはグリーン牧場ではなく、おとなり原美術館ARCです。

原美術館ARC

品川にあった原美術館が、ここ群馬県渋川市の別館〈ハラ ミュージアム アーク〉と統合して新しく誕生した美術館とのこと。
都心とはまた違って、広い敷地に分散する展示室を自由にめぐりながらアート作品を楽しめます。

現在は「日本のまんなかでアートをさけんでみる」展を開催中です。

日本のまんなか…?
総務省も認める日本の真ん中といえば、人口重心地の存在する岐阜県では?
https://www.stat.go.jp/info/guide/pdf/gifu.pdf

などと中部民としては思ってしまいます。

けれど、どうやら渋川市も、日本の主要四島の最北端・宗谷岬と最南端・佐多岬を円でむすんだ中心に位置する「へそのまち」宣言をしているのだそう。

「へそのまち」日本のまんなかしぶかわ市

日本のへそ 渋川市は日本のへそと呼ばれ、古くから工業、農業、観光(温泉など)を主要産業に栄えてきました。 日本のへそと呼ばれる理由は、地理的な要因と歴史的な要因があります。 地理的な理由 日本の主要四島で最北端の北海道宗谷岬と最南端の鹿児島…

さらに言えば兵庫県にも、日本標準時である東経135度を通る「日本へそ公園」があるなど、〈まんなか〉という概念はとらえかたによってうつろいうるものでしょう。

そんな中心と周辺を、振り子のように行き来することが、まさにアート的思考かもしれません。

さて、展示です。作品のいくつかは写真撮影可能。

奈良美智の部屋

とりわけ目をひいたのが、奈良美智さんの「My Drawing Room」。
以前の原美術館にあった展示を移築・恒久化したものだそう。
仕事部屋のような、子供部屋のような空間には、そこかしこに仕掛けがほどこされ、見飽きません。

屋外には、アンディ・ウォーホルの巨大なキャンベルトマトスープ缶が。

そのとなりのカフェスペースで、展覧会記念の日本列島ケーキをいただき、夏の暑さを乗りきります。

日本列島ケーキ

ピンクのおへそがかわいい。

思いきりアートをさけぶ、日本の夏でした。

フォントワークスのmojimoがiPhone・iPad向けに正式リリース

2020(令和2)年8月5日、フォントワークスのフォントがiPadでも – mojimo-select iPad β版でお伝えしたフォントワークス mojimo の正式アプリがリリースされました。

mojimoについては今までの記事をご覧ください。

iPad/iPhone向け日本語フォントアプリ「mojimo」提供開始、第1弾として、1書体無料の「mojimo-free」などが登場 | Fontworks

フォントワークスは、iPad/iPhone向け向けフォントアプリ「mojimo」をApp Store上で提供開始しました。 第1弾として、筑紫アンティーク丸ゴシック Betaが無料で使える「mojimo-free」と26書体から3書体を選択できる「mojimo-select」をアプリ内でご利用いただけます。 …

カスタムフォントに対応したiOS13以降のiPhone・iPad(と、おそらくiPod touchも)が対象です。

26書体から3つのフォントを選んで120円/30日で使える「mojimo-select for iOS」が8/9現在の主なフォントパックですが、1書体が無料で使える「mojimo-free」のライセンスも無料で購入できます(変な表現ですが、アプリ内課金の仕組み上「購入」となるようです)。

Apple ID のパスワードを入力して購入するとライブラリの〈購入済みフォント〉に筑紫アンティーク丸ゴシック Betaが表示されます。

そのまま、アプリからフォントをダウンロードすることで使えるようになります。

筑紫アンティーク丸ゴシックは2020年秋に正式リリース予定の新しい筑紫書体で、Macに搭載されている筑紫A丸ゴシック・B丸ゴシックよりも、さらに進化した曲線美が楽しめます。

迷わず使いわけたい! 筑紫A丸ゴシック・筑紫B丸ゴシック

 


「扉」や「旅」といった漢字に注目。ひたすら丸いですね…!

そんな筑紫A丸ゴシック・B丸ゴシックをはじめとする既存の筑紫書体も、もちろん「mojimo-select for iOS」のラインナップにあります。

購入のライセンスはApple IDごとに管理されているので、iPadで購入したフォントはiPhoneでも「購入の復元」を行うだけで使えます。

(まだ試せていませんが、おそらく30日後に一度購入を終了し、また別のフォントを購入することもできるはず)

 

mojimoで、良きフォント生活を!

 

フォントワークスの年間定額フォントサービス mojimoに、kirei・kawaii・oishiiの3パックが追加

以前「凪の渡し場」では、フォントワークスの新しい年間定額フォントサービス mojimo manga を取り上げました。

 

mojimo manga(以下manga)は「第1弾」と銘打たれていたので、さらなるラインナップのフォントパックが登場することを期待していましたが、8/28から新しく、3パックのサービスが開始されています。

少し紹介が遅くなってしまいましたが、今回はこちらのサービスを比較してみます。

 

新しいパックは kirei・kawaii・oishiiの3種類。

契約方法やインストール方法は、manga と同様のため割愛します。

既に契約中の場合、mojimo会員ページにログイン後、【ご契約情報】>【契約の追加】で追加を行うことができます。

会員トップページからの導線が少しわかりにくいのでご注意ください。

 

使用許諾も manga と同じですが、kirei・kawaii・oishii では法人契約も可能なことが大きな相違点です。

もちろん、インストールできるフォントも異なります。

manga は36書体で年間3,600円、kirei・kawaii・oishiiはそれぞれ8種類で年間1,200円と、1フォントあたりの価格は少し高くなっていますが、総額は安くなっているのがポイントです。使いたいフォントによっては、むしろmangaよりお得に感じる人もいるかもしれません。

では、実際にどんなフォントがインストールされるのか、公式サイトでは別ページになっていてわかりにくいので一覧表を作成してみました。

PDF版

※アンチックセザンヌは、漢字のセザンヌにアンチック体のひらがな・カタカナを組み合わせたフォントですが、便宜上ゴシック体に入れています。

 

比較表をながめてみると、いろいろ興味深いことに気づきます。

フォント名のあとにMとかDとあるのはウェイト(文字の太さ)を表すものです。

本来、それぞれのフォントはウェイト別に複数の種類が用意されていて、それを全部収録してひとつのフォントになるのですが、mojimoでは各パックによって1,2種類のウェイトをうまく分散収録していることがわかります。

kireiの特徴

「綺麗」と言うだけあって、筑紫書体を中心とした明朝体フォントが充実しています。

「クレー」は硬筆フォントで、筑紫A丸ゴシックとともにmacOSにも搭載されているので、Macユーザがkireiを検討する場合は「筑紫明朝が年間1,200円で使える!」と考えたときにお買い得と思えるかどうか、でしょうか。

小説などの文章を組む場合には、とても重宝すると思います。

 

kawaii の特徴

ゴシック体・丸ゴシック体を揃えつつ、デザイン書体らしさも備えた「スキップ」「ハミング」といったフォントも含んでいて、使いどころがありそうです。

mojimo-kawaii|提供書体一覧|mojimo

mojimoは特定の用途ごとに最適な書体をセレクトし、年間定額制で提供します。

ちなみにサンプル文が kirei・kawaii・oishiiで別の文になっていて面白いです(笑)。

 

oishiiの特徴

筑紫書体の中でもとりわけ特徴のあるデザインの筑紫Cオールド明朝、筑紫アンティークLゴなど、各カテゴリのフォントがバランスよく収録されています。

迷わず使いわけたい! 筑紫A丸ゴシック・筑紫B丸ゴシックでは、ちょうどAランチとBランチのどっちを食べるか、という例で両者の違いを説明しましたが、kireiやkawaiiでは筑紫A丸ゴシック、oishiiは筑紫B丸ゴシックが搭載されているということは、フォントワークス公式にはBのほうが美味しい、ということでしょうか(笑)。

 

mangaの特徴

最初に、1フォントあたりの価格は少し高いと書きましたが、実はmangaに収録されているフォントの多くは、比較表で省略した明朝体・ゴシック体以外のデザイン書体です。

あくまでマンガを描かないわたしが半年使ってみた感想としては、これらのフォントは使いどころが限定されるため、もう少し明朝体・ゴシック体のラインナップが充実していたら、と思うこともありました。

そこに、今回の3パックが追加されたというのは、ある意味狙い通りかもしれません。

それぞれのパックで、絶妙に使いたいフォントがあり、どれを契約しようか、いっそ全部契約しても値段はmangaと同じか…と、悩ましいmojimo新パックでした。

 

 

温泉旅館と文字の共演 – 部屋本 坊っちやん

2018年最初の更新となります。今年もよろしくお願いします。

最近はブログ「凪の渡し場」以外の活動も増えて更新頻度が下がっていますが、引き続きフォントやまちあるきなどを通して、日常を新たな視点で楽しめるきっかけづくりをしていきたいと思います。

 

さて、今回は昨年に訪れた四国松山は道後温泉の話題です。

 

日本最古の温泉地ともいわれる道後温泉では、並みいる温泉旅館や街並みの中にアートを取り入れた、道後オンセナートというイベントが行われています。

道後オンセナート2018

道後オンセナート2018

 

今回はそのひとつ、祖父江慎さんと道後舘の「部屋本 坊っちやん」をご紹介します。

祖父江慎さんといえば、誰も見たことも無いような驚きの造本、装丁を行うブックデザイナーとして知られています。

そんな祖父江さんが、黒川紀章設計の温泉旅館・道後舘の一室をまるごと本に見立て、松山・道後温泉を舞台にした夏目漱石の小説「坊っちゃん」を組む…。

こんな耳にしただけで心躍る組み合わせ、ぜひこの目で見にいかなくてはなりません。

道後舘へは市内電車の終点・道後温泉駅から、道後温泉本館を通り過ぎ、さらに北へ向かいます。

三沢厚彦さんのクマに見守られ、やや急な坂を上ります。

向かいが工事中で願望がよくないですが、建物が見えてきました。

部屋本「坊っちやん」の見学時間は11時から最終受付14時まで。泊まる必要はなく、フロントで申し込み、見学料金1,500円を支払います。

 

時間になると、係の方に部屋まで案内いただけました。

のれんをくぐり、部屋に入ります。

 

そこは、文字通り本の世界でした。

 

地の文は明治期の書体をイメージしたと思われる、築地体前期五号仮名。

登場人物のセリフには筑紫A丸ゴシック

さまざまなフォントを使いわけることで、文字だけで作品に表情が生まれます。

極太の数字や、たまに登場する手描き風フォントも気になります。

そんな文字を通して見る、道後温泉の街並みに見とれます。

 

バッタを床の中に飼っとく奴がどこの国にある。ここにありました。

このように、文字だけでなく作品にちなんだ仕掛けも随所にあります。

こちらは笹の葉に水飴を挟みこんだ清の笹飴。噛むと歯にひっついてしまうため、噛まずになめるよう注意書きがありました。

 

20分ほどの見学時間はあっという間に過ぎ、名残惜しくも部屋をあとにします。

 

見学のあとは、一階にある喫茶室で、ご当地名物・坊っちゃん団子と珈琲をごちそうになります。

喫茶室内では、祖父江慎さんのデザインされた本も閲覧できます。

右の非売品『坊っちやん』道後舘新聞バージョンは見学のお土産です。

 

明治の文学が、最先端の文字組みで、その舞台となった温泉地の一角にあらわれる。

部屋本「坊っちやん」は2019年(平成31年)2月28日までの公開が予定されています。

ほかにも、道後にしかない、道後ならではの作品が見られる道後オンセナート、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょう。

 

 

迷わず使いわけたい! 筑紫A丸ゴシック・筑紫B丸ゴシック

ヒラギノ角ゴのお話をしたとき、Mac の最新OS El Capitan ではちょっとだけグレードアップしていると書きました。

実はそれだけではなく、新しい日本語フォントがいくつか追加でインストールされています。

そのうちのひとつ…いや、ふたつが今回紹介する、筑紫A丸ゴシックB丸ゴシック

 

本の表紙などでもよく見かける、使い勝手のいい丸ゴシック体です。