MdNのフォント特集決定版 – MdN EXTRA Vol. 5 絶対フォント感を身につける。

雑誌「月刊MdN」では、毎年秋に〈絶対フォント感〉をテーマにした特集が組まれていました。

読書の秋、フォントの秋。文字を特集した雑誌を読みくらべ

日本の明朝体を読みなおす – 月刊MdN 2017年10月号特集:絶対フォント感を身につける。[明朝体編]

2018年は「明朝体を味わう。 」という別の切り口での特集となっていましたが、それとは別に、過去の特集を合本し、新たに[ゴシック体編]を加えたムックが刊行されました。

付録のフォント見本帳もアップデートされて、これからフォントについて学びたい人には、これ一冊で日本語フォントの流れが一望できる決定版となっています。

 

今回は追加されたゴシック体編について紹介します。

ゴシック体といえば、iPhoneやMacの標準フォントとしておなじみのヒラギノ角ゴシックをはじめ、現代日本でもっとも普通に目にするフォントと言えます。

シンプルだからこそ、その微妙な違いを見分けることで、細やかな表情を読み取ることができます。

このブログ記事では、見出しに「ゴシックMB101」、本文に「UD新ゴ R」を使ってみました。



見出しを「UD新ゴ M」にしたときと比較してみましょう。



ゴシックMB101は1970年代、写植の見出しゴシック体として愛用されてきたフォントだそうで、少し右肩上がりのひらがななど、現代のフォントより少しキリッとした感じがあります。

 

このように、ゴシック体はもともと見出しやタイトル用に使われ、本文は明朝体で組むという使い分けがされてきました。

長い文章を読むのには向いていないということだったのかもしれませんが、パソコンやインターネットの普及で、状況は変わっています。

特集では、「文章を組むと、書体の人柄が見える」という記述があります。

ゴシックMB101、ヒラギノ角ゴシック、筑紫ゴシックの三つのフォントで文章を組んだ見本を見比べるコーナーがあるのですが、個人的にはゴシック体とは思えないほど柔らかく、自然に読める筑紫ゴシックが好きです。

筑紫書体シリーズ|フォントコラム|FONTWORKS | フォントワークス

フォントコラム|

筑紫明朝との整合性を考えて作られたフォントということで、明朝体のようなリズムが感じられます。

フォントワークスの年間定額フォントサービス mojimoのkireiまたは kawaii を追加契約して使いたくなってきました。

 

これからも、時代の変化に合わせて、どんな表情のゴシック体があらわれるのか、楽しみです。

フォントワークスの年間定額フォントサービス mojimoに、kirei・kawaii・oishiiの3パックが追加

以前「凪の渡し場」では、フォントワークスの新しい年間定額フォントサービス mojimo manga を取り上げました。

 

mojimo manga(以下manga)は「第1弾」と銘打たれていたので、さらなるラインナップのフォントパックが登場することを期待していましたが、8/28から新しく、3パックのサービスが開始されています。

少し紹介が遅くなってしまいましたが、今回はこちらのサービスを比較してみます。

 

新しいパックは kirei・kawaii・oishiiの3種類。

契約方法やインストール方法は、manga と同様のため割愛します。

既に契約中の場合、mojimo会員ページにログイン後、【ご契約情報】>【契約の追加】で追加を行うことができます。

会員トップページからの導線が少しわかりにくいのでご注意ください。

 

使用許諾も manga と同じですが、kirei・kawaii・oishii では法人契約も可能なことが大きな相違点です。

もちろん、インストールできるフォントも異なります。

manga は36書体で年間3,600円、kirei・kawaii・oishiiはそれぞれ8種類で年間1,200円と、1フォントあたりの価格は少し高くなっていますが、総額は安くなっているのがポイントです。使いたいフォントによっては、むしろmangaよりお得に感じる人もいるかもしれません。

では、実際にどんなフォントがインストールされるのか、公式サイトでは別ページになっていてわかりにくいので一覧表を作成してみました。

PDF版

※アンチックセザンヌは、漢字のセザンヌにアンチック体のひらがな・カタカナを組み合わせたフォントですが、便宜上ゴシック体に入れています。

 

比較表をながめてみると、いろいろ興味深いことに気づきます。

フォント名のあとにMとかDとあるのはウェイト(文字の太さ)を表すものです。

本来、それぞれのフォントはウェイト別に複数の種類が用意されていて、それを全部収録してひとつのフォントになるのですが、mojimoでは各パックによって1,2種類のウェイトをうまく分散収録していることがわかります。

kireiの特徴

「綺麗」と言うだけあって、筑紫書体を中心とした明朝体フォントが充実しています。

「クレー」は硬筆フォントで、筑紫A丸ゴシックとともにmacOSにも搭載されているので、Macユーザがkireiを検討する場合は「筑紫明朝が年間1,200円で使える!」と考えたときにお買い得と思えるかどうか、でしょうか。

小説などの文章を組む場合には、とても重宝すると思います。

 

kawaii の特徴

ゴシック体・丸ゴシック体を揃えつつ、デザイン書体らしさも備えた「スキップ」「ハミング」といったフォントも含んでいて、使いどころがありそうです。

mojimo-kawaii|提供書体一覧|mojimo

mojimoは特定の用途ごとに最適な書体をセレクトし、年間定額制で提供します。

ちなみにサンプル文が kirei・kawaii・oishiiで別の文になっていて面白いです(笑)。

 

oishiiの特徴

筑紫書体の中でもとりわけ特徴のあるデザインの筑紫Cオールド明朝、筑紫アンティークLゴなど、各カテゴリのフォントがバランスよく収録されています。

迷わず使いわけたい! 筑紫A丸ゴシック・筑紫B丸ゴシックでは、ちょうどAランチとBランチのどっちを食べるか、という例で両者の違いを説明しましたが、kireiやkawaiiでは筑紫A丸ゴシック、oishiiは筑紫B丸ゴシックが搭載されているということは、フォントワークス公式にはBのほうが美味しい、ということでしょうか(笑)。

 

mangaの特徴

最初に、1フォントあたりの価格は少し高いと書きましたが、実はmangaに収録されているフォントの多くは、比較表で省略した明朝体・ゴシック体以外のデザイン書体です。

あくまでマンガを描かないわたしが半年使ってみた感想としては、これらのフォントは使いどころが限定されるため、もう少し明朝体・ゴシック体のラインナップが充実していたら、と思うこともありました。

そこに、今回の3パックが追加されたというのは、ある意味狙い通りかもしれません。

それぞれのパックで、絶妙に使いたいフォントがあり、どれを契約しようか、いっそ全部契約しても値段はmangaと同じか…と、悩ましいmojimo新パックでした。

 

 

世界に一つの、誰かの字 – 美しい日本のくせ字

パソコンやスマートフォンの普及で、手書きで文字を書く機会が減っています。

わたしも社会人になって、ほとんど文字を手で書かなくなる時期がありました。

たまに書いた文字を人に見られるのも、字が下手だ、読めないと言われる反応が怖くて恥ずかしくなり、ますます文字を書くことにためらいをおぼえるようになりました。

なんだかあまり好きになれなくて恥ずかしい…と思って、

そんな想いを、まったく違う視点から覆してくれるのが「手書き文字収集家」井原奈津子さんの、こちらの本です。

冒頭から、ほとんど読めないダウンタウンの松本人志さんの文字。それでも、この自由闊達さは、たしかに松本人志さんを感じます。

あるいは、文字だけで怖さを感じる稲川淳二さんの文字。

そういった有名人の文字だけでなく、サンリオの絵本や「いちご新聞」に書かれていた文字、少女漫画雑誌「りぼん」連載作品の文字など、どこかなつかしい、かわいい丸文字も。

 

日本人であれば誰でも…どころか、日本人でなくても、日本語を知らない人でさえ、その人だけの「くせ字」があります。

そこには、生まれ育った場所や、時代を背景にしつつ、その人なりに、文字で相手にどういうことを伝えたいのか? という想いが乗せられています。

もちろん、他人に見せるつもりのないメモ書きや日記といったものもありますが、それだって「未来の自分」に宛てたものと考えられるでしょう。

他人が見ることを意識した文章と、そうでない文章が異なるように、「文字」の書き方自体にも、その人の考え方、人との接し方がにじみ出てくるように思います。

 

本書には、駅構内の案内文字をガムテープで表現し、一部で「修悦体」として話題になった佐藤修悦さんの手書き文字も紹介されています。

佐藤さんも自分用のメモ書きは修悦体とはまったく異なるものの、若いころに「ゴシック体」に魅せられ、人に見せる文字はすべて自身の解釈でいう「ゴシック体」で書き続けてきたのだといいます。

 

そうやって、誰かが作った文字が長く、多くの人に愛されていくことで、文字はやがて一人の手から離れ、フォントという形に昇華します。

たとえば、映画字幕の文字。

戦前から職人の手で書き続けられてきた、この独特の字形は、さまざまなフォントとして再現されています。

ニューシネマA D|書体見本|FONTWORKS | フォントワークス

フォントワークスは筑紫書体やロダンなど日本語書体・フォントの販売、OEM書体・フォントの開発、LETSを提供しています。

シネマレター | 書体見本 | モリサワのフォント

「シネマレター」は、およそ30年にわたり、映画字幕文字を書き続けている職人の文字をもとに作成されました。映画の字幕は、書いた文字から版を起こし、フィルムに直接、文字を刻みつけていました。その際に版とフィルムがはがれやすいように、画線に隙間をあけて文字を描くのが通例でした。また、スクリーン上で文字が見やすいように独特の骨格で設計されており、画線の両端に筆止めを持たせているのも映画字幕文字の特徴…

TypeBank フォントファミリー TBシネマ丸ゴシック

株式会社タイプバンクはアウトラインフォント、ビットマップフォントのデザイン、販売、普及およびフォントに関するテクニカルコンサルティングなどを行います。 本明朝、ナウシリーズ、UD書体シリーズなどバリエーション豊かな書体を提供します。

 

 

まちなかで見かけるフォントも、元はどこかの誰かの文字だった。

そう考えて見ると、自分のくせ字も、まわりの人のくせ字も、新たな魅力を感じとることができるかもしれません。

あたらしい時代のまじめなフォント – 凸版文久体

今回ご紹介するフォントは、凸版文久体。
凸版印刷 | 凸版文久体

その名の通り、凸版印刷の活字「凸版書体」からつくられたフォント。

しかし、むかしの活字をそのまま復刻しただけではありません。

紙の上だけでなく、デジタルで文章を読むことも多くなったいまの時代に合わせて、より見やすく読みやすいフォントとしてデザインしなおされています。

 

凸版文久体は、大きく明朝体とゴシック体に分かれますが、どちらも他のフォントと異なる大きな特徴があります。

そのひとつが、ペン字のようなひらがな。

「そ」や「さ」などの文字に、つながっていない部分があり、すっきりと読みやすい印象を受けます。

 

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さらにゴシック体には、いまの時代だからこその工夫が。

よく見ると、文字のはじまりのでっぱりが、左側についています。

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他のゴシック体だと、右にあるか、でっぱり自体がないのが普通。

これは、横書きにしたときに、自然な文字の流れがうまれるようにという考えからだそうです。

 

でっぱりが左にある…というので、思い出したのはこちら。

ポンジュース ラベルデザインについて|えひめ飲料

「愛媛のまじめなジュース」こと、えひめ飲料のポンジュースのロゴタイプ。

ホームページを見ると、少なくとも1998年のペットボトル発売時から同じロゴが使われているようなので、ポンジュースは時代を先取りしていたと言えるかもしれません。

ちょっと凸版文久ゴシックと、ヒラギノ角ゴシックで組んでみました。

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オリジナルのロゴとはまた印象が違いますが、なんとなくヒラギノよりも文久くんのほうがまじめな子に見えてこないでしょうか。

 

凸版文久体は、2016年9月にリリースされた macOS Sierra で追加インストールされるようになるので、Macユーザーの方はぜひお試しください。

まだアップグレードしていない場合も、ブラウザ版の iCloud Keynote でも使うことができるようです。

 

迷わず使いわけたい! 筑紫A丸ゴシック・筑紫B丸ゴシック

ヒラギノ角ゴのお話をしたとき、Mac の最新OS El Capitan ではちょっとだけグレードアップしていると書きました。

実はそれだけではなく、新しい日本語フォントがいくつか追加でインストールされています。

そのうちのひとつ…いや、ふたつが今回紹介する、筑紫A丸ゴシックB丸ゴシック

 

本の表紙などでもよく見かける、使い勝手のいい丸ゴシック体です。