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文字遣い/探索士 ——夕霧に包まれ消えゆく島の名を知る術も無し凪の私は

2021年8月の読書マップ – 日常を二階の窓から眺めれば(向かいのベランダあくびする猫)

2021年8月の読書マップです。

スタートは 2021年7月の読書マップ から「日本列島の『でこぼこ』風景を読む」

科学本というくくりで、翻訳書二冊つなげてみます。

「ギャンブルに勝ち続ける科学者たち」は宝くじや賭け事など、ギャンブルの分野で統計・数学・人工知能などを駆使して儲けようとする試みを克明に取材した一冊。

「新薬という奇跡」が描くのは、人類をさまざまな病から救ってきた画期的な薬が生み出されるまでの苦闘の歴史。
これを読むと、創薬とは物理学のような法則から一律に導き出せるものではなく、まさにギャンブルのような一世一代の賭けのようにも思わされます。

地理学というつながりで、お茶の水女子大学の〈地理女子〉が教えるという「ご当地グルメの地理学」へ。
山形のサクランボ、愛知の味噌煮込みうどん、広島のカキの土手鍋。
ご当地グルメや地元スーパーの名品を紹介する本は多々あれど、そもそも何故その土地でしか食べられないような名物が生まれたのかを、気候・風土などの地理や歴史から読みとく観点がおもしろい。

ご当地グルメを楽しもうとスーパーに出かけたくなったら、「ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある」に手をのばしましょう。
「天国酒場」やスズキナオさんとの共著「チェアリング入門」などで、ユニークなお酒の楽しみ方を提案してきたパリッコさん。
緊急事態宣言下で出版された本書では、たとえお酒が外で飲めなくとも、近所のスーパーの2階をパラダイス的に探索したり、ご飯に合う駄菓子は何かを食べ比べたりなど、見過ごされてきた日常を新たにとらえ直します。

日常を新たな視点でとらえると言えば都市鑑賞。内海慶一さんの「ピクトさんの本」は、十年以上前に買って以来、この分野の楽しみに目覚めたきっかけになった名著ですが、TOKYO2020開会式をきっかけに、今また注目を浴びているようです。

同じBNN新社からの新刊「世界ピクト図鑑」はサインデザイナーの児山啓一さんが世界中で出会ったピクトグラム・看板をあつめた本で、やや専門的な内容を楽しみながら学べます。

〈料理と日常〉というテーマでもう一冊、くどうれいんさんの「わたしを空腹にしないほうがいい」は、俳句をタイトルに、ある年の6月につづられたエッセイ集。
この方の、独特の余韻のある文章が好きです。

ゆるく短歌ゾーン(兼ネコゾーン)に向かいましょう。

「ネコは言っている、ここで死ぬ定めではないと」は、〈神〉が横書きの〈ネコ〉に見えるという路上看板ネタをタイトルと表紙カバーに採用したもの。
なんだかよくわからないと中を開けば、歌人・穂村弘さんと精神科医・春日武彦さんが生と死について考える、これまたふしぎな対談集でした。ニコ・ニコルソンさんのマンガもかわいい。

対談の中では、穂村さんと知己のあった故人についても語られています。
編集者の二階堂奥歯さん、漫画家のフジモトマサルさん、そして歌人の岡井隆さん。

「岡井隆と現代短歌」は、岡井隆さんに師事し、穂村さんと同じくニューウェーブ歌人として活躍する加藤治郎さんによる論評集。
岡井さんの歌と文章が好きで、何冊か読みかけたばかりのところですが、この本で全体像がつかみやすくなるような、さらにつかみどころのない印象が増すような。

歌人と言えば、永田和宏さんが各界の著名人を大学に呼んだ対談集「僕たちが何者でもなかったころの話をしよう」
あまり何者でもなかったころの話をしていない気もしますが、羽生善治さんとの対談では、短歌と将棋の共通点について語られているのが印象的です。
9×9、57577という有限の組み合わせから、無限に近い局面と歌が生まれる不思議さ。

いったんネコに戻りましょう。「猫とともに去りぬ」はイタリアの児童文学作家ジャンニ・ロダーリによるショートショート集。
人間でいることに疲れて猫になったり、ヴェネツィアの水没に備えて魚社会を選んだり、奇想天外な展開ながら、現実への上質な風刺にも読める小説ばかり。

「魚社会」といえばpanpanyaさんの新刊。
毎回、日常のような非日常のような、マジックリアリズム的手法で描かれる漫画たち。
ヤマザキの幻の菓子パン「カステラ風ケーキ蒸しパン」を追い求める連作が白眉。実においしそうで、もし見かけたら思わず買いたくなります。

ラストはマジックリアリズムといえばこの方、森見登美彦さん「四畳半タイムマシン・ブルース」
初期作品「四畳半神話大系」を元に、そのアニメ化を担当した上田誠氏の演劇「サマータイムマシン・ブルース」を融合させて生まれた作品で、ひさびさに登美彦氏的京都の大学生活を体感できます。
つい先日、この作品も上田誠監督によるアニメ化が発表され、まるで作中のように時空が奇妙にループする感覚を覚えます。

8月の京都の定番である、納涼古本まつりと五山送り火がモチーフに織り込まれた本作品。
あの日常がふたたび訪れる夏のあることを、願ってやみません。

2021年7月の読書マップ – 人生と科学の意義

2021年7月の読書マップです。

スタートは2021年6月の読書マップから「藤井聡太論」。7月も将棋タイトル戦を連戦連勝、藤井聡太さんの勢いが止まりません。
いっぽうで王座戦挑戦者決定戦は「受け師の道」木村一基さんと将棋連盟会長の佐藤康光さんという組み合わせになったりと、40・50代棋士の活躍も見どころ。

この本から、河口俊彦「一局の将棋 一回の人生」をつなげてみます。
時代は昭和のおわりから平成のはじめ、羽生善治さんや佐藤康光さんなどがプロデビューしたころ。
自身も棋士である河口さんのエッセイは生々しい時代の空気をとらえ、のちに平成の将棋界を席巻することになる〈羽生世代〉の強さに半信半疑だったというのが今では信じられないかもしれません。
棋士によって指される何十、何百という対局と、「一回の人生」を対比させる描き方も読み応えがあります。

続けて、さまざまな人の〈生き方〉を感じとれる本が先月は印象的でした。

「若ゲのいたり」はご自身もゲーム会社に勤務していた漫画家・田中圭一さんによる対談マンガ。
「ファイナルファンタジー」や「ぷよぷよ」などの有名ゲームに携わったクリエイター、「MOTHER」を作った糸井重里さんなど、ゲームに人生をかけた人々の情熱が伝わります。

「須賀敦子全集」若松英輔さんの「読書のちから」の本で知った『ミラノ・霧の風景』『コルシア書店の仲間たち』などが収録されています。
イタリアで暮らし、書店仲間と共にあった著者の、優しく、ときに哀しげな文章が心にのこります。

「本のエンドロール」は印刷会社を舞台に、出版業界の内幕を描く安藤祐介さんの小説。
ときに無理難題を押しつける編集者や著者に振り回されたり、電子書籍に複雑な思いを抱く印刷工と経営層の対立があったり、「紙の本が好き」という人にも「電子本も良い」という人にもおすすめしたい本でした。
今回は紙の本で読みましたが、電子だと「エンドロール」はどうなっているのでしょうね?

電子化に積極的な作家と言えば森博嗣「お金の減らし方」。趣味の庭園鉄道を実現させるためのアルバイトに小説を書いたと公言する森さんらしく、独特の調子で、お金の増やし方ならぬ減らし方を指南します。

「毎日は笑わない工学博士たち」は、そんな森さんの作家デビュー直後のブログを書籍化したもの。このシリーズは幻冬舎から全5巻刊行されています。
まだ某国立N大学に勤務されていて超多忙、毎月のように東京出張に行く森助教授(当時)の日常は、いろいろな意味で今読み返すと隔世の感があります。

科学者でもありエッセイストとしても知られた戦前の作家と言えば寺田寅彦。角川ソフィア文庫「科学と文学」はKADOKAWAの株主優待でした(笑)。
映画や連句といった芸術に共通する構造を分析したり、文学を科学者の観点から語るエッセイには、今でもいくつもの新たな発見があります。

井上夢人「魔法使いの弟子たち」は電子で以前に買ったまま、たまたま読んだら、おそるべきパンデミック小説でした。
謎のウイルス性疾患〈竜脳炎〉の感染が拡大した世界。奇跡的に恢復した主人公たち三人には、信じがたい異能力が備わっていた…
寺田寅彦の言葉を借りれば「実験としての文学」の想像力を感じます。

ここからは科学本。カルロ・ロヴェッリ「すごい物理学講義」は先月の「アインシュタイン方程式〜」でいえばタテガキの物理本ながら、哲学や文学のようにも読める名著。
作中の、科学は不確かだが「目下のところ最良の答えを教えてくれる」という言葉が胸に沁みます。

地学本の注目は「日本列島の『でこぼこ』風景を読む」。複雑に入り組んだ日本列島の成り立ちをひもとくことで、ランドスケープとしての日本の美しさを再発見できます。

そして「まっぷる」シリーズで知られる昭文社からも、「愛知のトリセツ」のように各都道府県の地理・歴史を解説した本が続々と登場しています。
地元や好きな県の本を手にとってみると、意外な発見があるに違いありません。
そしてまた、さまざまな場所に行ける日が来ることを願って。

2021年6月の読書マップ – AIと不確実性の未来へ

令和3年6月の読書マップです。

この読書マップ、いくつも書いていると自分の嗜好・思考があからさまに出てきて、すこし恥ずかしいですね。わたしのことを知っている人は読まないでください(笑)。

スタートは先月の読書マップ「きっとあの人は眠っているんだよ 穂村弘の読書日記」から「シンジケート」へ。穂村さんが三十年前、28歳のころに自費出版したデビュー歌集が新装版としてよみがえりました。
いわゆる〈ニューウェーブ短歌〉の代表作として断片的に知っている歌はあっても、一冊の歌集として束になってかかってくると、よりその印象は鮮烈です。
新装版の装丁は名久井直子さん、透明カバーにコデックス装の綴じ糸がかわいくて素敵です。オンラインの刊行記念イベントでも言われていたとおり、本棚に挿した状態でも綺麗なのがポイントです。

穂村さんの読書日記でも、「大山康晴の晩節」など将棋に関する本は多く取り上げられていました。
今回は、違うラインナップの将棋本を三冊紹介します。

まずは新刊「藤井聡太論 将棋の未来」。
2021年6月26日現在、最年少で二冠、さらに叡王戦にも挑戦が決まった藤井聡太王位・棋聖は、誰もがみとめる令和将棋のスーパースターでしょう。
そんな藤井さんを同じく中学生でプロデビューし、史上最年少で名人を獲得した谷川浩司九段が語る本です。ちなみに、まえがきによると鉄道好きという共通点もあるそう(って、その情報は必要だったのでしょうか…)。
平成初期に台頭してきた〈羽生世代〉とご自身の闘いなども振り返りつつ、将棋界の現在・過去・未来を見渡します。

羽生善治「適応力」は十年ほどまえ、羽生さんが40歳になったころのエッセイ。
谷川さんの本でも書かれていたとおり、多くの棋士は三十〜四十代になるとピークを過ぎ、戦い方が変わってくるといいます。
それでも、変化を柔軟に受け入れ、適応していくのが羽生さんの強さでしょう。わたし自身40歳を間近に控え、これからの生き方を考えるヒントになりそう。
まるでビジネス書のような話題が多く出てくるのもおもしろいです。

いっぽう、羽生さんより少し年下ながら、プロデビューは二十代、六度のタイトル挑戦と敗退を経て、46歳にして初のタイトルを獲得した木村一基九段の半生をつづるのが「受け師の道」。
解説など盤外のトークも面白い木村さんですが、子供時代から「よくしゃべる」と評されているのが楽しい。本書で半ばジョークのように予言されていた藤井さんとのタイトル戦で王位を奪取されてしまいましたが、これからも活躍を期待しています。

深川峻太郎「アインシュタイン方程式を読んだら『宇宙』が見えた ガチンコ相対性理論」は、ド文系を自称し、数式の出てこないサイエンス書を多く編集してきた著者が、本気で相対性理論の数式に挑むという異色の本。
サイエンス書の老舗・講談社ブルーバックスからの出版らしく、どのページも遠慮無く数式で埋め尽くされます。先月の「三体問題」も一緒に読みたい。
マップに入れた理由は、アインシュタイン方程式を導き出したあたりで、唐突に藤井二冠の話題が飛び出すから。
棋譜を読める人だけが藤井さんの真のすごさをわかるように、アインシュタインの真のすごさも、数式を読める人だけが知ることができる。専門知というものの大切さを改めて感じます。

さて、わたしはいちおう物理専攻だったので相対論の数式は大学で履修済み(のはず)ですが、最近まであまりなじみがなかったのが分子生物学とよばれる分野。
歌人でもある永田和宏さんの専攻であり、「タンパク質の一生」という岩波新書の著書もあります。
ウイルスやワクチンという話題になると、しばしば免疫という概念が出てきますが、多田富雄「免疫の意味論」が名著とされているようです。
わたしたちの体を守る、〈自己〉と〈非自己〉を区別する免疫とはシステムが、こんなにもあいまいで危ういバランスの上に成り立っていることに、畏怖の念すら覚えます。

そんな生物学では実験動物として欠かせないハツカネズミ(マウス)と話のできる主人公登場するのがボリス・ヴィアンの小説「うたかたの日々」。
サルトルを思わせる大作家の本に偏執する友人、胸に睡蓮の咲く病に冒されてゆく新妻…。
筒井康隆を思わせる奇妙で不条理な世界に引きこまれます。
機械にできる仕事をする人々を批判する、現代のAIと人間の働き方にもつながるエピソードには驚かされます。

ということで最後は筒井康隆「世界はゴ冗談」(新潮文庫)。
ドタバタ、メタパラ、言語遊戯…かつて筒井作品で描かれたことが次々と現実になっていく、ゴ冗談のような世界。
不確実で、あまりにぎやかでない未来を、それでもわたしたちは生きていくのです。

2021年5月の読書マップ

今回から定期的に、おすすめの本を二次元的に整理する「読書マップ」をつくっていきます。

毎月読んだ本を中心にしつつ、それまで読んだ本でも著者や内容が似ているものを加え、自由な視点でつなげていきます。なお、新刊に限らず古本、電子本、家の本棚に眠っていたものなどが混在しているので、現在入手困難なものが含まれますがご了承ください。

読書マップ2021年5月

まずは4月の最後に読んだ高原英理「歌人紫宮透の短くはるかな生涯」(立東舎)から。

1980年代に活躍した紫宮透という架空の歌人を主人公に、彼の短歌とその解説を軸に、彼の生きた時代を虚実取り混ぜて描いた独特な小説です。
穂村弘さんの対談集「あの人と短歌」には、本書を執筆中の高原さんとの対談が収められています。高原さんが紫宮透として詠んだ歌に対する穂村さんの解釈も小説に生かされていて、両方読むと楽しい。

さらに穂村弘つながりで「短歌遠足帖」(ふらんす堂)と「きっとあの人は眠っているんだよ」(河出文庫)。

「短歌遠足帖」は同じく歌人の東直子さんと一緒に、萩尾望都さん、麒麟の川島さんなど多彩なゲストとさまざまな場所を訪れて短歌を詠む。同じものを見ていても切り取りかたがまるで違う、吟行ツアーは本当におすすめです。

「きっとあの人は眠っているんだよ」は日々買った本、読んだ本を紹介していく読書日記。
panpanyaから筒井康隆まで、穂村さんの読書の嗜好はおどろくほどわたしと近く、読書マップで紹介していくと我が家の蔵書全部とリンクしそうな勢いなので自重します(笑)。
その思考回路に近いものを感じつつ、短歌においては共感よりも常人の発想を超えた奇想が中核にあることも穂村さんの魅力ではないかと思いつつ、その話はきっとまた来月。

歌集では音楽を感じさせるタイトルの工藤玲音「水中で口笛」(左右社)、杉﨑恒夫「食卓の音楽」(新装版/六花書林)とつなげてみます。

杉﨑恒夫さんは東京天文台に勤務されていた方ですが、同じく天文学者である石田五郎さんの文章も近い詩性を感じます。代表作「天文台日記」が良かったので「星の歳時記」(ちくま文庫)を古本屋で見つけて購入。四季折々の星座、天文現象を歳時記の形で描くエッセイで、短歌も紹介されています。
ちなみに〈杉﨑恒夫 石田五郎〉でGoogle検索してみたら1件もヒットせず、このリンクにほとんど誰も気づいていないとしたら驚きです。

数学上の難問を取り上げた本としては、SF小説で有名になった〈三体問題〉を数学的・天文学的な視点から解説した浅田秀樹「三体問題」(講談社ブルーバックス)に、素数にまつわる謎〈リーマン予想〉が意外な形で素粒子の世界とシンクロするマーカス・ドゥ・ソートイ「素数の音楽」(新潮文庫)もおすすめ。

大人になってもこのような知的好奇心を満たす勉強・個人研究の大切さを語る森博嗣「勉強の価値」(幻冬舎新書)は、「ライフピボット」(インプレス)とも親和性が高そうです。

ライフピボットはこちらの記事で取り上げましたが、この本で継続の大切さを再認識したこともあり、個人的に提唱している〈読書マップ〉もコツコツ発信を続けていきます。

〈読書マップ〉は読んだ本人だけに意味のあるものに見えて、それをアウトプットすることで、思わぬ形で思わぬ誰かのためになるかもしれません。

そんなライフピボットでいう発信とギブの関係は〈利他〉という考え方にもつながってきます。
中島岳志さん・若松英輔さんなど東工大「未来の人類研究センター」のメンバーによる「『利他』とは何か」(集英社新書)は、ライフピボットの出版記念オンラインイベントでも触れられていました。

それとは別に、書店でタイトルに惹かれて手にとったのが松本敏治「自閉症は津軽弁を話さない」(角川ソフィア文庫)。
いわゆる自閉スペクトラム症、非定型発達の子供たちは津軽弁などの方言を話さない、という都市伝説のような噂を臨床的・学術的に検証していく本です。やがて明らかになる、方言・話し言葉とコミュニケーションの密接な関係に驚きます。

以上が2021年5月の12冊。この中から、また6月の読書マップにつなげていきたいと思います。

よみがえれ。 – ライフピボットと今を生き抜く力

世の中はますます変化が激しく、先を見通すことが難しくなっています。

なんとなく将来の生き方・働き方に不安を感じる中、出逢ったのが「ライフピボット」という本です。

著者の黒田悠介さんはマーケティング会社に就職したのち、経験を活かして転職・独立、現在は議論メシというコミュニティを運営したり企業の支援を行うディスカッションパートナーとして活躍されています。

本書のタイトルにある〈ピボット〉とは、バスケットボールで、ボールを持ったまま一方の足を軸足に、もう一方の足を動かすプレイを意味します。

人生をハニカム構造の六角形のマスからなる盤面として、経験の蓄積と偶然を軸足にキャリアを転換(=隣のマスにピボット)していく、それがライフピボットという概念です。

転職や転身と聞くと変化が大きすぎて足がすくみそうでも、片足を地につけたままなら、以前にこのブログ〈凪の渡し場〉でも提案した「半歩踏み出す」と同じように不安も半減しそうです。

本の中では、過去の経験がキャリアにつながる例として、スティーブ・ジョブズのスピーチ「Connet The Dots」というエピソードも紹介されています。

Steve Jobs’ 2005 Stanford Commencement Address

ジョブズが学生時代にカリグラフィ(西洋のいわゆる書道)の授業を受けたことが、のちに自らが手がけたマッキントッシュに多くのフォントを搭載することにつながった、というのは個人的にも好きなエピソードです。
彼の経験がなければ、今のようにパソコンやスマートフォンで自由にフォントを選べる時代はやってこなかったかもしれないのです。

あとから振り返れば、そのときは思いもしなかった経験が点と点でつながる。

ここで、わたしがつなげたいもうひとつの点が、声優・林原めぐみさんによる、自身が演じたキャラクターについて語った本です。

「らんま1/2」の早乙女乱馬(女)。
「ポケットモンスター」のムサシ。
「新世紀エヴァンゲリオン」の綾波レイ。
「シャーマンキング」の恐山アンナ…。

1980年代以降を少年少女として過ごした人なら、どこかで聞き覚えのあるキャラクターたちを、まさに全身全霊で演じてこられた林原めぐみさんの言葉は懐かしく、そして感動を新たにします。

キャラクターが、それぞれの作品の中で生きる〈点〉だとしたら、その役を演じた経験が次のキャリアに活きたり、制作者・共演者どうしの縁で新しい仕事につながっていくのはまさに「Connet The Dot」であり、ライフピボットと言えます。

あるいは、一度終わった(ピリオドを打たれた)作品が、ときを超えて続編が作られたり、リメイクされてよみがえる。
それもまた望外の嬉しい「Connet The Dot」でしょう。

 

過去や思い出は良いことばかりではなく、忘れたいこともあるけれど、どんな点も経験の蓄積として何かにつながっている。

正直に言うと最近はSNSを見る気力も起きず、アウトプットも停滞気味だったのですが、「ライフピボット」を読んでもう一度、軸足を見直してみようと思いました。

過去を恐れず、未来を恐れず、広大な人生を渡り歩いていきましょう。