わたしたちは、日々、文字にかこまれて生きています。
スマホを手にすれば、アプリやウェブの画面に表示されるデジタルフォントを読んで。
車に乗れば、カーナビや高速道路の文字で行き先を確認して。
本屋に行けば、棚に並ぶ雑誌や本の表紙から、さまざまなタイトルロゴが目に飛び込んできて。
日本人にとってのお米のように、当たり前のようにそこにあって。
でも、お米と同じように、そんな文字を、丹精こめてつくり出す人がいます。
水のような、空気のようなフォントを世の中に生み出す人がいる – 文字を作る仕事 で紹介した、書体設計士・鳥海修さんもそのお一人です。
そんな鳥海さんの文字作りを紹介する「もじのうみ: 水のような、空気のような活字」展が、京都 ddd ギャラリーで開催されています。
本展の公式解説動画は YouTube にもアップロードされています。
会場は京都市営地下鉄東西線、太秦天神川駅近く。京都駅から地下鉄でも行けますが、今回はJRと嵐山電鉄を乗り継いで、まちあるきをしつつ訪れてみます。
JR嵯峨野線、円町駅で下車し、北へぶらぶらと。路地や寺社が散在する中、古い文字を探すのも楽しいです。
スピード感のある横書きも、もっちりした縦書きも素敵。「押して下さい」が意外に現代的なフォントに近い丸ゴシック体なのもポイントです。
斜体といい影のつけ方といい、こちらも時代を感じさせる看板ですね。
あとしまつ看板にも鳥居の写真を使うところが、いかにも京都。
近くにある北野天満宮は、受験シーズンらしく中高生から大人までにぎわっています。
天満宮といえば天神信仰、菅原道真の和歌も掲げられています。文章博士でもあった道真の文字は達筆だったのでしょうね。
北野白梅町駅は嵐電北野線の始点です。すっきりとしたフォントですね。しかし次の駅はなにやら様子が…?
長っ!
2020年に現在の駅名に改称され、日本で一番長い駅名になったそうで、この駅名標を見たくて嵐電に乗ったようなものです。
これで日本一の座を奪われた富山地方鉄道の「富山トヨペット本社前(五福末広町)」電停は、翌年に「トヨタモビリティ富山 Gスクエア五福前(五福末広町)」に改称して日本最長を奪還するという、よくわからないデッドヒートが繰りひろげられています。
長体をかけていますが、このフォントなのでまだすっきり見えます。こんな駅名を見越してフォントを選んだわけではないでしょうけれど。
帷子ノ辻(かたびらのつじ)駅で乗り換え、嵐電天神川駅まで。
地下鉄・太秦天神川駅の出入り口を北東へ。
京都 ddd ギャラリーの建物が近づいてきました。
「もじのうみ」を大胆にアレンジしたロゴが出迎えます。
鳥海さんの故郷、山形県から望む鳥海山の景色のなかに、ヒラギノフォントや字游工房のフォントなどが美しく展示されています。
谷川俊太郎さんの詩のために描き下ろされたフォントの制作過程も見どころです。
一文字一文字を細かく修整しつつ、詩の一文一文で並べたときも違和感なく見えるよう、さらに調整していく。
「空気のような、水のような活字」をつくるためにそそがれる情熱は、並大抵ではありません。
見慣れたフォントが、まるで違う表情を見せます。
会期は2022年3月19日まで。日曜・月曜日は休館なので要注意です。
京都近辺の方なら、ぜひ足を運んでもらいたいと思います。