2016年、文章とものがたりをあじわう10冊

年末ということで、さまざまなところで、この一年に読んだ本、見た映画などを取り上げる企画があります。

まだ知らない新たな作品に出会えるきっかけになるだけでなく、取り上げた作品によって、その人ならではの視点をあらためて知る機会にもなります。

 

ということで今回は、わたしにとってここちよいと感じる文章、その表現からものがたりを感じることのできる本を紹介します。

対象は、2016年に読んだ小説とノンフィクション。マンガはまた別の記事で取り上げます。数を絞りたかったのと、買っただけでまだ読んでいない作品があるので(笑)。

 

北村薫「八月の六日間」

北村薫の創作表現講義でも紹介したとおり、文章が好きな作家の代表格。

雑誌の副編集長をしている「わたし」が、山登りを趣味としてはじめる。山に登るにも本を手放せないというのが、実に北村作品ならではのキャラクター。

 

吉田篤弘「木挽町月光夜咄」

こちらも文章が好きな吉田篤弘さん。クラフト・エヴィング商會のおひとりでもあります。

小説なのか、エッセイなのか、現実と空想がふしぎに入り混じる、どこかにありそうなまちのお話。

 

西村佳哲「自分をいかして生きる」

同じく、ちくま文庫から。

自分だけの生き方、働き方を考える – 自分をいかして生きる で紹介したとおり、人生について、仕事についてとらえ直すきっかけを与えてくれます。

 

姜尚中「逆境からの仕事学」

もう一冊、今年感銘を受けた仕事論。

姜尚中さんも、その語り口、文章がとても好きな方です。ご自身の経験をもとに、人はなぜ働くのか、これからの働き方について語られています。
旧約聖書から引用された「すべてのわざには時がある」ということばに、わたしもうなずくばかり。

 

相沢沙呼「小説の神様」

小説家もまた、仕事のひとつ。学生作家としてデビューしながら本が売れずに苦しむ主人公が、とあるきっかけで出会ったベストセラー作家。

読んでいて辛くなる部分もありますが、それも、ものがたりと向き合う人の宿命。

 

西尾維新「人類最強の純愛」

学生のうちにデビューした作家といえば西尾維新さん。

わたしと同年代ということもあり、ほとんどの作品を読んでいて、その文体には大きな影響を受けています。

メフィスト賞受賞のデビュー作「クビキリサイクル」から登場する人類最強の請負人・哀川潤。彼女の出てくる新作を読むと、変わらぬ旧友に再会したような、なつかしさをおぼえます。

 

森博嗣「魔法の色を知っているか?」

そのメフィスト賞の歴史は、森博嗣さんの「すべてがFになる」からはじまりました。(正確な事情に触れると、ややこしいので割愛)

講談社タイガで昨年からはじまったWシリーズは、「すべてがFになる」の世界観を底流とした、はるか未来のものがたり。

一作だけ読むのではなく、シリーズを読み続けることで、思いもかけないつながりが見えてきます。

 

辻村美月「島はぼくらと」

同じくメフィスト賞作家の辻村深月さん。

瀬戸内国際芸術祭をきっかけに、作者が瀬戸内の島めぐりをしたことで生まれたというものがたり。

島に暮らす高校生たちのお話としても、そして島に縁をもった大人たちの仕事についてのお話としても読める、今年読んだ小説の中では最高峰。

 

港千尋「文字の母たち」

瀬戸内国際芸術祭と並び2016年に開催された芸術祭、あいちトリエンナーレ

その芸術監督を務めた港千尋さんによる、活字をめぐるものがたり。

大愛知なるへそ新聞社の編集部でも何度かお見かけしつつ、気後れしてあまりお話できなかったのですが、なにげないものやまちの風景からきおくをよびさます、港監督の文章がわたしは大好きなのです。

 

松村大輔「まちの文字図鑑 よきかな ひらがな」

最後はやっぱり文字の話になったので、締めはこの本しかありません。
京都のイベントでは、いまでも忘れない、楽しい時間を過ごさせていただきました。

まちなかで見かける看板のひらがな。

その一文字一文字を切り取ることで、なぜかいっそう、裏側にひそむものがたりへの想像をかきたてられます。

 

わたしなりの10冊で、この一年間をものがたってみました。

来年も良きものがたりに出会える年になりますよう。

旅の終わり、あるいは始まり。- あいちトリエンナーレ2016

8月にはじまった、三年に一度のアートの祭典、あいちトリエンナーレ。

三回目となる今回も、ついに先週、10月23日にフィナーレを迎えました。

当日は長者町ゑびす祭りが同時開催されており、そちらにも足を運びました。

 

六年前、第一回のあいちトリエンナーレ2010から会場となっている長者町繊維街は、トリエンナーレで大きく変わった街だといいます。

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こちらは六年前の画像。偶然にも、ほぼ同じ場所を、今年も撮っていました。

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手前の駐車場では、トリエンナーレ連携事業として、JIA愛知(日本建築家協会東海支部 愛知地域会)による建築家フェスティバルが行われていました。

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街や建築への想いを、短冊にして飾るというブース。

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ちょっと関係ない短冊もある気がしますが、それはそれで。

にぎわいのある街には、人が集まる。そして、少しずつ古いものが形を変え、何か新しいことがはじまる。

 

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木材を利用したウッドデッキやベンチを街中に配置した、都市の木質化プロジェクト。

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堀田商事のルアンルパさんによるルル学校(N-57)も祝卒業の幕が掲げられていました。

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祭りといえば山車。八木兵錦6号館で展示されていた白川昌生さんの銀のシャチホコ(N-61)も、山車として表舞台へ。

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アートと屋台が同居する、長者町ゑびす祭り。こちらはロゴがかわいくて思わず足を止めてしまった、いなよしのからあげ。からあげも、とても美味でした。

 

そして、栄会場の中央広小路ビル、大愛知なるへそ新聞社へ。

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人々の記憶を取材し、まちの建物が建てかわるように、少しずつ記事が変化していく「記憶の地図」。

そのコンセプトに惹かれて、トリエンナーレ開催前、長者町の学書ビルでの活動当初から参加させてもらいました。

 

初回の取材は、都市の木質化プロジェクトやルル学校にも関わっておられる、滝一株式会社の滝さんでした。わたしが書いた記事ではないですが 、なるへそ新聞の0号に掲載されています。

わたし自身での取材はなかなかできなかったのが心残りですが、記事を手書きにしたり、題字を書いたりと、記者として楽しい時間を過ごさせてもらいました。

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こっそり空き地に置いておいたパイロンが、まさか最終号まで残ることになるとは。

そう、この日に発行された17号をもって、大愛知なるへそ新聞も完了。

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最後に編集長から直々に落款を押してもらいます。

山田亘編集長、村田仁副編集長、そして編集部記者、記事連載陣の方々(港千尋芸術監督も!)、取材を受けていただいた方々、来場者の方々。

トリエンナーレがなければ、出会うことがなかったかもしれません。

ここで、さまざまな縁がつながり、交流をもつことになった、すべてのみなさまに感謝を。

 

19時をまわり、「虹のキャラバンサライ」を掲げたあいちトリエンナーレ2016の旅は、ここが終着点。

20世紀をイメージしたこの編集部も、文字通り記憶へと変わっていきます。

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けれど、終わりは新しい始まり。

街と人は、少しずつ変わりながら、生きているかぎり歩みを止めることはありません。

 

三年後、あいちトリエンナーレ2019は、どのような形で迎えることになるのでしょうか。

そのときを楽しみにしつつ、ここからまた、新しい旅がはじまります。

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愛知の現在・過去・未来を感じる – あいちトリエンナーレ2016 栄会場

今回は、あいちトリエンナーレ2016の名古屋地区、普通チケットの「栄会場」で入場できる展示を紹介します。

今も昔も名古屋最大の繁華街に位置するとあって、都市としてのまちの魅力をもっとも感じられるものになっています。

 

今日は地下鉄桜通線、久屋大通駅を使って訪れてみました。4A出口、もしくは4出口から桜通を西に向かいます。

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あとで貼ったような地下鉄マーク、「久屋大通駅」、「Central Park」が気になる…。

 

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花柄プリウスが見えてきたら、ひとつめの会場・損保ジャパン日本興亜名古屋ビル(N-54)に到着です。

こちらのラッピングカーもデザインした大巻伸嗣さんの作品。

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15分入れ替え制となっていて、中に入ると、色彩豊かな外とはうって変わって真っ暗な空間。

都会の中で、15分間、ずっと闇を感じるという異質の経験ができます。
もし空いていれば、奥の方に入って鑑賞するのが個人的にはおすすめです。

また、ビルの正面玄関にまわると、並行企画事業の「人類と人形の旅」も観覧できます。

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期間中、いろいろな人形劇が行われるようなので、こちらも注目。

人類と人形の旅 ~human with puppet~ – 特定非営利活動法人 愛知人形劇センター presents

 

さて、外に出て南に向かいます。ふたつめの会場、旧明治屋栄ビルへ。

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1F、ケルスティン・ブレチュさんの作品(N-48)。

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ステンドグラスをのぞき込むと、向かいの丸栄のモザイク壁画が。

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床の矢印。

トリエンナーレの矢印ではなく、明治屋の店舗として使われていたころの案内が残されているのでしょうか。
まちと建物の記憶が一体となった印象的な会場です。

2F/3Fはいったん外に出て、別の入口から階段を上ります。

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あっ、ポップ体がっ。

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2F、端聡さんの作品(N-49)。炎のように見えるもの、それは実は…。

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3F、寺田就子さんの作品(N-52)。元バレエ教室だという会場が、いまは時を止めて、静かに来場者を待ち受けます。

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そして、かつて丸善名古屋店のあった駐車場の前を通り、中央広小路ビルへ。

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べら珈琲、コメダ珈琲のあるビルの2Fに展示はあります。

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山田亘さんの大愛知なるへそ新聞社(N-53)。
まちの記憶、ひとの記憶を新聞として形にする、その作業すべてが作品になっています。

そう、なるへそ新聞は読むだけでは終わらない、参加型のアートプロジェクト。

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ということで、わたしも準備期間中から記者として参加しています!

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記事を文字起こししたり…。

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刷り上がった新聞をのりづけしたり…。

もちろんいまからでも、だれでも参加可能。

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水曜・日曜の編集日であれば、その場で文字を書いたり、イラストを描いたりと、新聞づくりに参加することができます。

あるいは、取材を受けて、愛知にまつわるあなたの記憶を、記事となって紙面に登場させることも。

取材を受けていただける方、募集中です!

 

また、この会場は、普通チケットでも後日再入場することができます。

期間中に新聞は何号も発行されるので、少しずつまちが変わっていく様子を、ぜひ何度も訪れて体験してみてください。

まちとひとの記憶地図をつくる – なるへそ新聞

まちを歩いていて、空き地を見つけたとき。

ここ、前はなんだったっけ? と、思わず考え込んでしまうことはないでしょうか。

あるいは、次になにができるのだろうと、気になってしまったり。

そうやって、少しずつ記憶の地層が積み重なり、まちは変化していく。

 

そんなまちの記憶を、新聞という形で再現するアートプロジェクトがあります。

紙面には、まちに暮らす人々の記憶が地図のように現れます。

そして、刊行を重ねるうちに、いくつかの記事は空き地となり、また新しい記事で更新されていく。

過去なのか現在なのか、モザイクのように時間が混在した、ふしぎな新聞。

 

そんな「なるへそ新聞」が、今年開催される「あいちトリエンナーレ2016」の出品作品として、愛知県にやってきます。

 

そして、このプロジェクトは、一般参加で記者や編集者を募集中。
ということで、わたしも参加してみることにしました!

 

実のところ、これに参加しようかどうか、そしてそれをブログで公表しようかどうか、ひとかたならず迷いました。

一回限りのセミナーでなく、こういう大きなプロジェクトに参加するというのは、これまでにない経験。
まちの人に取材というのも、はたして自分にできるのだろうか。

 

3年前のわたしだったら、不安が先だって手を上げられなかったでしょう。

 

でも、前回のあいちトリエンナーレ以来、ひとりで鑑賞するだけでは得られない、アートの楽しみ方があることを知りました。

いろんなイベント・セミナーに参加して、とても行動力のある方に出会って、その行動力を自分も身につけたい! と思うようになりました。

 

なにより、説明を聞いたときに、とても楽しそう! と思ってしまったのです。

まちの記憶といった対象だったり、昔の新聞を手書き文字で再現するプロセスだったり…。

わたしのなかにある好奇心がとても刺激されたのです。
これに参加しない方が、絶対もったいない。

そして、せっかくならブログで発信してみれば、さらにおもしろさがひろがるかもしれない。

ということで、「なせば大抵なんとかなる」の精神で、チャレンジしてみようと思います。

 

とはいっても、やっぱり取材は不安なので(笑)

わたしの知り合いで、愛知での変わったエピソード・お仕事の経験談などをお持ちの方、ぜひご協力をお願いいたします(^^;