庵野秀明の浸透と拡散 – 庵野秀明展

ヒトを生まれ年だけで「○○世代」とくくってしまうのには抵抗がありますが、その人がこどもの頃、どのような空想作品にひたってきたか、という観点での分類なら、たしかに有効かもしれません。

いわく、初代・ウルトラマン世代。
ファーストガンダム世代。
無印おジャ魔女どれみ世代。

そして、1995年の「新世紀エヴァンゲリオン」TV放送時(正確には再放送)から衝撃を受け、つづく旧劇場版を高校時代に見てしまったわたしは、まさにエヴァ世代のひとり。
もし同じ経験をした人がこの文章を読んでいれば、見てしまった」という言いようにも納得してくれることでしょう。
それほどまで人生に大きな影響を受けた作品であり、それを語るには、この〈凪の渡し場〉はあまりにも狭い。

そんな作品を生み出した庵野秀明さんの展覧会が、大阪・あべのハルカス美術館で開催されています。

庵野秀明をつくったもの。
庵野秀明がつくったもの。
そして、これからつくるもの。

過去・現在・未来のパースペクティブで、この稀代の監督に迫ります。

あべのハルカスは近鉄のビルなので、名古屋からは近鉄特急・ひのとりで向かいましょう。
アスカカラーですが飛鳥(近鉄吉野線)には向かいません。
青の交響曲で大阪阿部野橋に向かうのも良いですが、レイ派ではないのでまたの機会に(ちょっと何言ってるかわかりませんね)。

終点・難波の手前、鶴橋からJR大阪環状線で天王寺駅まで。

たまたま乗った電車が、〈ハチエモンがおるで電車〉でした。

ハチエモンは8チャンネル・カンテレ(フジテレビ系列)のマスコットキャラクターですね。
かつて関西にいた頃、個性的な関西のテレビ局の中でもさらに尖った番宣CMが印象的に残っています。
このロゴは最近リニューアルされたもので、そこに込められた想いは「DESIGN IS DEAD(?)」というムックで紹介されていました。

いわゆるキタに位置する梅田=大阪(駅)のように、天王寺=あべの、というのは大阪初心者向け解説ですが、わたしもいまだに天王寺駅からあべのハルカスへの道筋をよく覚えていません(笑)。
案内板や通路に書かれた矢印に従って歩きます。

シャトルエレベータで16階の美術館階まで。

エヴァで有名になった、フォントワークスのマティスがお出迎え。
あ! あべのべあ。

あべのハルカスのマスコットキャラクター、あべのべあ。
今回は行きませんでしたが、上層階の展望台フロア(有料)ではシン・ウルトラマンとのコラボ企画も行われています。

屋外庭園もマティスづくし。無料スペースですが、ここからも大阪市内が一望できるのでおすすめのスポットです。

会場内は映像と一部展示は撮影禁止。

庵野秀明の「原点、或いは呪縛」と題された、幼少期に影響を受けた作品の展示からはじまります。
そして自主制作の「ウルトラマン」、伝説の DAICON FILM まで。

筒井康隆さんが「SFの拡散と浸透」をうたったのが1975年の神戸で開催された日本SF大会(SHINCON)のこと。

そこから6年後、大阪で開催された DAICON 3 の運営に携わった大学生メンバーを中心に DAICON FILM が結成され、庵野秀明さんの映像制作が本格化します。

展示されていた自主制作の中でも印象に残った「じょうぶなタイヤ!」。手書きロゴがかわいい。安全運転を…というキャプションもポイントです。

その後設立されたGAINAXは諸般の事情を繰り返し、ついに「新世紀エヴァンゲリオン」の時代へ。
絵コンテ資料を見つつ流れる各作品のオープニング映像は、もう永遠に見られるかもしれません。

TVシリーズサブタイトルの文字演出もしっかりと再現。今に至る文字好きへの影響は甚大です。

そして時は2015年を超え。

「シン・ゴジラ」「シン・エヴァンゲリオン劇場版」という作品が、この世に現れ。

庵野秀明の名は、一部のアニメ・特撮ファンの間だけで語られる存在から、さらに多くの層へと浸透・拡散を果たしていきます。

そこにあるのは、自分の好きなものを見たい、つくりたいという情熱。
かつての名作を、最新の時代にスクラップ&ビルドによって蘇らせる、まさにシト新生。

最後はシン・ウルトラマンとシン・仮面ライダーのコーナー。

このときはまだ映画を見ていなかったのでよくわかりませんでしたが、映画を見たあとだと、また発見があります。
「そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン」。

会場を出た後は、あべのHoopのマクドナルドでコラボメニュー「シン・タツタ」を食べたのでした。

あのマンガ、あのアニメのフォントが使える – フォントワークスの「ちょうどいい」年間定額フォントサービス mojimo

このブログ〈凪の渡し場〉では、まちなかのポスターや、本の表紙などでよく使われる、さまざまなフォントを紹介してきました。

そんなフォントを自分でも使いたい! と思ったときは、フォントメーカーが提供している年間定額制のフォントサービスを利用するのが便利です。

モリサワのMORISAWA PASSPORT、フォントワークスのLETSなど、日本語、欧文をはじめ多数のフォントを使えるサービスが存在します。

でも、これらのサービス、お値段は一年あたり数万円から。

個人でこれを使おうと思うと、ちょっと手が出しにくい、という人が多いのではないでしょうか。

ところが、2018年3月1日、いままでの常識を覆すようなサービスがフォントワークスから登場しました。

mojimo-manga – あのマンガの、あのアニメの、あのフォントが使える!

あのマンガの、あのアニメの、あのフォントが使える! アニメやコミックなどで見かけない日はない、Fontworksの書体たち。 デザイナー・イラストレーターの方をはじめ、趣味で創作活動を行っている方、 同人誌を制作されている方に最適な書体をセレクト。 36書体が、定額制で自由に使えます。 『新世紀エヴァンゲリオン』のタイトルカットなどで特徴的に使用され大反響を呼んで以来、 …

mojimo は「ちょうどいい文字をちょうどいい価格で」をコンセプトに、用途ごとに提供するフォントの数を絞ることで、低価格のフォントサービスを実現しようというものだそうです。

たとえて言うなら、スカパー!の多チャンネル放送サービスで、見たいジャンルだけのパック契約をするような感覚でしょうか。

第一弾の「mojimo manga」は、フォントワークスの強みでもある、マンガやアニメ作品で良く使われる36のフォントを提供しています。

「新世紀エヴァンゲリオン」で有名になったマティスや、まちなかでその文字を見ない日はないといっていい筑紫書体シリーズなど、リストを見るだけでも垂涎ものです。

最適な書体・価格で提供するフォントサービス「mojimo」をスタート シリーズ第一弾は同人誌制作を応援する、アニメやコミックに最適な「mojimo-manga」を提供|お知らせ|mojimo

フォントワークス株式会社(本社:福岡県福岡市、代表取締役社長CEO:原田 愛、以下「フォントワークス」)は、特定の用途やシーン、利用者に最適な書体・価格でご提供する、新しいフォントサービス「mojimo(モジモ)」をスタートし、2018年3月1日(木)より、第一弾の製品として、アニメやコミックに最適な書体をセレクトした「mojimo-manga(モジモマンガ)」 の提供を開始します。 …

これでお値段は、なんと年間3600円!

本家のLETSと比較してみましょう。

入会金 年会費 日本語フォント数 欧文フォント数 (日本語1フォントあたりの価格)
LETS 30,000円 36,000円
*3年契約で割引あり
525書体 5723書体 69円
mojimo manga 0円 3,600円 36書体 0書体 100円

サービス内容は2018/03/01現在、価格は税抜。

LETSには日本語・欧文以外の各国語フォントなども多数登録されていますが、日本語1フォントあたりの価格だけで単純計算しても、お得感はそのままに、トータルの値段を抑えたのがmojimoということでしょうか。

(2018/03/04:1フォントあたりの価格計算が盛大に間違っていたので修正しました)
(2020/12/31:mojimoでは各フォントで使えるウェイトのバリエーションが少ないという違いもあります)

なお、フォントを使える範囲である使用許諾が若干異なるようなのでご注意ください。

LETSとの主な違いは、ゲームやアプリに用いることはNGのようです。印刷物や、Webサイトに画像として表示することはどちらもOKです。

mojimo manga はまさに同人誌を作る人をターゲットにしているようですが、趣味で自主サークル用のパンフレット・POPなどを作りたい、という用途にもうってつけだと思います。

あまりに魅力的だったので、さっそく契約してみました。

どんなことに使おうか、いまから楽しみです。

契約までの流れは、次回の記事でご紹介します。

もっと身近に定額フォントサービスを使える mojimo 、今後の展開も楽しみです。



あなたの好きなフォントは? – 4月10日はフォントの日

昨年・2016年もご紹介した、フォントの日

今年は、アドビシステムズ株式会社によって、日本のさまざまな記念日を登録する日本記念日協会に登録されたそうです。

アドビ クリエイティブ クラウド on Twitter

アドビ はフォント業界のさらなる発展を願って4月10日を #フォントの日 に制定。4と10で「フォン(4)ト(10)」と登録したのはホント!お好きな #源ノ明朝 をご返信の方に抽選で限定てぬぐいを差し上げます。人気は #ぷ https://t.co/vkNgyEEzhP

そんなAdobeに先駆けてフォントの日を提唱していたフロップデザインさん。

フォントの日

フリーフォント、イラスト、ロゴデザイン、シルエット素材、無料写真素材集。1万種類の無料フリーダウンロード素材集やフリーフォント。グラフィックデザイン事務所。

今年も期間限定でオリジナルフォントの無料ダウンロードを行っていたり、Twitterで好きなフォントをつぶやくハッシュタグを作られていたりします。

フロップデザイン on Twitter

一目惚れしたフォント。DSあかり!今日はフォントの日なので好きなフォントをつぶやこう。 #フォントの日 #好きなフォント名をつぶやく

さて、では、わたしの好きなフォントは…?

ぱっと思い浮かぶのは、フォントワークス・藤田重信さんの筑紫書体

 

あるいは対照的に「水のような、空気のような」書体を目指す字游工房・鳥海修さんの游書体

これらは、フォントだけでなく、そのフォントを作った人自体にも魅力を感じているといえます。

また、同じフォントワークスでも、新世紀エヴァンゲリオンという作品に使われたことで思い入れのあるフォントがマティスです。

 

わたしにとって、フォントは単なる文字ではなく、そこからものがたりを感じとることができるもの。バックグラウンドがあることで、その魅力が何倍にも増していきます。

 

もちろん、誰が作ったものかとそれほど意識していなくても、デザインとして好きなフォントもたくさんあります。

(たとえば、丸明オールド解ミンなどのいわゆる丸明朝体)

 

小説で言えば、「筒井康隆作品が好き」と作家ごと好きになるパターンもあれば、「時をかける少女」だけが好きという人もいるようなものでしょうか。

 

「SFが好き」「ミステリーが好き」と本好きの間でも好みのジャンルがわかれるように、自分ならゴシック体と明朝体のどちらが好きか、と考えるのでもいいし。

まちなかのロゴや本の表紙の中から、特定の気になるフォントを見つけてくるのでもいい。

そうして好きなフォントを見つけたら、それを作った人(会社)が他にどんなフォントを作っているか調べることで、より世界が広がっていくことでしょう。

 

 

新神戸・神戸まちあるき

今回は、少し前に訪れた神戸のまちあるき記事です。

 

スタートは山陽新幹線、新神戸駅。

まずは、そのすぐ近くにある、竹中大工道具館に向かいます。

竹中大工道具館

日本で唯一の大工道具を展示している博物館。昔の匠の技と心を伝える様々な展覧会や講演会、セミナー、体験教室などを行っています。

昨年のイケフェス大阪で御堂ビル(竹中工務店大阪本店)を見学した際、いただいた招待券の期限が今月末までだったので、ようやく訪れることができました。

 

素敵な和風建築の中に、古代の斧から現代にいたるまでの大工道具、それによって生み出されたものが詰め込まれています。

簡単な木工のワークショップも開かれています。

 

さて、大工道具館を楽しんだあとは、地下鉄の駅まで、新神戸に息づく建物をながめつつ歩きます。

直線的なロゴと、山型の白い窓枠のコントラストがかわいい「山口屋」。

「戸」の横棒がかわいい丸ゴシック。

これは宋朝体?

1972年に山陽新幹線と新神戸駅が開業し、1983年(昭和58年)に土地区画整理事業が完成。その二年後に、神戸市営地下鉄の駅が開業しています。

「新神戸」に刻まれる、昭和の記憶をたどります。

 

「ちゅうい!」というひらがな書きといい、ゆるいイラストといい、注意書きなのになんというかわいさ。

「珈琲が香る街・・・KOBE」(あえて全角)
左端の三色装テン(装飾テント)も注目です。

地下鉄の駅からして、チェックでかわいい。

矢印を白抜きにして地を活かすデザイン。フォントは、あまり自信がないですがマティス新ゴでしょうか。

 

地下鉄で三宮まで。商店街の一角で、NHK連続テレビ小説「べっぴんさん」とコラボした、神戸別品博覧会が開催されていました。

神戸別品博覧会

神戸の企業×クリエイターが別品を生み出すコラボレーションプロジェクト、神戸別品博覧会

商店街の反対側から出ると、内装からは想像もつかない、こんな建物でした。

 

神戸の街に置かれると、パイロンまでおしゃれに見えてきます。親子で仲良くおでかけしているようです。

 

最後は、JR西日本神戸駅へ。地下鉄のハーバーランド駅、高速神戸駅とも隣接していて、神戸の街に慣れていない身としては、なかなかややこしい。

みなとまちまで歩きます。

ホームセンターコーナンが熱烈歓迎。これもインバウンド需要なのでしょうか。

船のマストとクレーンの相似が美しい。

 

今回のもうひとつの目的、神戸ポートタワーが見えてきました。

実は新神戸駅より歴史が古く、1963年竣工ということですが、赤と白の、編み物のような造型はいまでも新しさを感じます。

 

でも、ちゃんと昭和を感じるところはありました!

上階の展望台への入場料は、おとな700円。

神戸モザイクの観覧車とクレーン。夜景も綺麗でしょうね。

ポートタワー周辺の建物もなかなかおもしろく、探索すると時間を忘れてしまいそうです。

 

まさに、ふるさとあたらしさが交錯する、シン・神戸まちあるきでした。

いきいきとした新世紀の明朝体 – 筑紫明朝

ヒラギノ明朝を紹介したので、次はヒラギノ角ゴ…と予想した方がもしいたら、なかなかわたしと近いフォント観。(フォント観ってなんだ?)

実際そうしようと思っていたのですが、ちょっとおもしろい事例を見つけたので、先に筑紫明朝のお話をします(笑)

 

筑紫明朝(つくしみんちょう)は、マティスと同じ、フォントワークスからリリースされているフォント。

 

フォントワークスの年表を見ると、マティスが1992年のリリース、筑紫明朝は2004年。

マティスと言えば新世紀エヴァンゲリオンですが、フォントワークスとしては新世紀のフォントは筑紫明朝のほうなのですね。

 

おもしろいのは、新しいフォントであっても、むしろ活字のような雰囲気を感じること。

 

いきいきした感じ。

生々しい漢字。

 

本のタイトルや、小説の本文で使われていても、とても映えます。

 

本のタイトルには、むしろバリエーションの筑紫Aオールド明朝のほうをよく見かけますね。

」の字を見比べると、わかってもらえるでしょうか。
オールド明朝のほうが、横棒が太くはじまって細くなっていく、筆遣いが強調されています。

 

さらに筑紫アンティーク明朝というものもあります。

「文」の字のはらいも表現されていて、名前どおり、アンティークな雰囲気をだしたいときにぴったりです。

あっ、ちなみにこの特別展はまだ行けてません。
夏に大阪に巡回するらしいので、その機会を狙ってます。

興味のある方、フォント観の近い方、お誘い合わせの上で行きましょう(笑)

 

さて、筑紫明朝に話を戻して。冒頭に言った、おもしろい事例というのはこちら。

木や石などの天然素材で建物を作る、三角屋のホームページ。

ほぼ日刊イトイ新聞が、最初で最後の「よその会社のホームページを作る仕事」をしたという、このサイト。

訪れてみると、Webフォントで筑紫明朝が(しかも縦書きで!)使われている、というのに嬉しくなりました。

フォントを見るだけで、ものづくりのことをしっかり考えている会社なんだな、と安心します。

 

そんな信頼感も伝える、筑紫明朝のお話でした。