名古屋で暮らしていると、地下街を使いこなしたくなる気持ちが高まってきます。
栄や名駅といった繁華街の下に縦横無尽に広がる地下街の地理を覚えておけば、目的地まで安全に、快適に向かうことができます。
また、リニューアルで明るい雰囲気になる地下街を歩くのも楽しいですが、時が止まったような地下街のたたずまいも、また魅力的なものです。
知っているようで知らない、見えるようで見えない〈地下街〉に焦点を当てたのが、こちらの本です。
著者の廣井さんは2012年に名古屋大学減災連携研究センターの准教授に着任したのを機に、地下街を研究テーマに選んだのだそう。
名古屋、東京、大阪と言った都市部を中心に、全国で約80もあるという地下街の歴史、特徴などが詳しく解説されています。
個人的に名古屋の地下街で好きなのは、名古屋テレビ塔の下に広がるセントラルパークです。
地上の公園と一体となって「街全体を美しくし、楽しくするもの」というコンセプトで計画されたということで、丸善などの魅力あるテナントはもちろん、通路も広々としてとても明るい印象です。
突き当たりの地下鉄久屋大通駅に面した壁際は〈セントラルギャラリー〉として、定期的にさまざまな展示がされているのも楽しみのひとつです。
昨年末に訪れたときは、ちょうど今年開催される「あいちトリエンナーレ」の紹介と、過去のトリエンナーレのポスターが展示されていました。
そして、名古屋以外の地下街も、それぞれに特色があって、比較してみるのも面白いです。
たとえば、高速神戸駅からJR神戸駅にいたる「デュオこうべ」は、開放的なドームが印象的です。
いっぽう、新開地のほうに足を伸ばせば、一気に昭和な雰囲気の「メトロこうべ」が広がります。
ネコが微妙にかわいくない…。
そして、日本最西端・福岡市営地下鉄の「天神地下街」は、ヨーロッパ風の天井やステンドグラスで彩られた、ほの暗い空間が忘れられません。
「通路は客席、店舗は舞台、主役はお客様」という劇場空間のコンセプトなのだそう。
訪れたときは実に現代的な印象だったのですが、誕生から40年以上もリニューアルしていないというのに驚きです。
本の中では、このような地下街の紹介だけでなく、地震や津波など災害時の備えや、技術の進化にともなって変わっていく〈これからの地下街〉のありかたなども語られています。
地上のまちあるきとはまた違った「ちかあるき」を楽しんでみたくなります。