東京・荻窪、本屋Titleへの道

先日、東京を訪れた際に、「本屋、はじめました」を読んでからずっと行きたかった本屋「Title」さんへお邪魔しました。

本屋 Title

2016年1月、東京・荻窪の八丁交差点近くにオープンした新刊書店・Title(タイトル)。1階が本屋とカフェ、2階がギャラリーです。

今回は、その道中を、記録に残したくて記事にしてみました。

 

はじまりはJR新宿駅から。

「階段」の文字は「美しい日本のくせ字」にも登場した通称「修悦体」ですね。

 

荻窪へは東京メトロ丸の内線でも行けますが、ここはやっぱり、中央線で訪れたいところです。

新宿から西へ、ずっとずっとまっすぐ、筆で引いたように伸びている線路。

中野、高円寺、阿佐ヶ谷…と、東京に住んだことのないわたしには、小説や漫画の世界で登場するイメージでしか聞き覚えのない駅名が続きます。

その次が、荻窪駅。

名古屋から中央線(中央西線)で4駅と言えば大曽根駅ですが、ちょうどそのくらいの距離感なのでしょうか。

けれど、名古屋よりも人一倍、そう文字通り、人の数が多い。

そんな喧噪の駅前を過ぎ、北西に延びた道を歩いていきます。

途中には杉並公会堂もあり。

まちの歯医者さんも。こんなかわいい「歯」の模型は見たことがありません…!

 

やがて少しずつ、まちを歩く人の数が減ってきて、落ち着いた街並みに。

古本屋さん、スーパーマーケット、小さな商店…。

そうした、あたりまえの風景に溶け込んで、本屋「Title」は姿を現します。

けっして広くない店内に、驚くほど多くのお客さん。

でも、とても静か。みんな、その目は本棚に引きつけられているかのよう。

棚の本を見ればわ、その理由はかります。

お気に入りの本、誰かにも読んでほしい本、ずっと探していた本、思いがけない本との出会い…。

 

二階に上がると、ちょうど絵本『赤い金魚と 赤いとうがらし』刊行記念の原画展が行われていました。

小さいころ、夏休みに親戚の家に遊びに行ったときのような、なつかしい感覚。

訪れてみて、「まったく新しい、けれどなつかしい」というキャッチコピーが、そういうことだったのかと実感できました。

 

奥のカフェではコーヒーを飲んだり、かき氷を食べたりして談笑する人々の姿がありました。

東京に行くと、いつも予定を詰めこんでしまって、今回も残念ながら本を買うだけで時間が来てしまいました。

後ろ髪を引かれつつ、来た道を急ぎ足で戻ります。

本当は、この道をずっと行けば、西荻窪、そして吉祥寺と、さらにまた魅力的なまちがひろがっているのです。

 

こんな本屋さんが身近にあるまちなら、一度くらい東京に住んでみても良かったかな、と思いました。

どうしても地方から東京に来ると、まず品川駅や東京駅など山手線沿線からアクセスすることになり、せわしないイメージばかりが目に飛び込みます。

けれど、その円の外にも、まちは広がっている。

静かに、時を刻んでいる。

 

 

その貴重な空間が、末永くあり続けることを願います。

 

 

本を手にとる誰かを待つ仕事 – 本屋、はじめました

あなたは、月に何冊本を読むでしょうか。

何回、本屋さんに通うでしょうか。

 

いまや本を買うのには、コンビニ、ネット通販、電子書籍と、さまざまな方法があります。

それでも、本屋さんで実際に本を手にとってあじわう体験は、かけがえのないもの。

そんな想いに、すこしでも共感をおぼえてもらえるなら、ぜひ手にとってほしい本があります。

 

著者は、全国チェーンの大手書店であるリブロに長く勤めた辻山良雄さん。

名古屋店時代には、地元の本屋・雑貨屋と共同で、本でまちをつなぐイベント、ブックマークナゴヤを立ち上げています。

 

ブックマークナゴヤ  BOOKMARK NAGOYA OFFICIAL WEBSITE

BOOKMARK NAGOYA(ブックマークナゴヤ)名古屋を中心に大型新刊書店や個性派書店、古書店、カフェや雑貨店などが参加。街のあちこちで本に関連したイベントやフェアを開催する、『本』で街をつなぐブックイベントブックイベントです。

わたしにとっても「本屋」というものが、お店単独ではなく街と切り離せない存在であるという視点に気づかされたイベントです。

このイベントを通して知ったお店も多く、いまも毎年開催を楽しみにしています。

 

本書は副題に「新刊書店Title開業の記録」とあるとおり、辻山さんがリブロから独立し、2016年に東京の荻窪に自分のお店をオープンするまでの経緯と、開業後の様子までが描かれます。

本屋 Title

2016年1月、東京・荻窪の八丁交差点近くにオープンした新刊書店・Title(タイトル)。1階が本屋とカフェ、2階がギャラリーです。

事業計画や営業数値といった具体的なデータも交えながら、なぜこの時代に本屋を開くのかという想いが、静かに、それでいて力強く伝わってきます。

 

本屋の仕事は「待つ」に凝縮されていると辻山さんは言います。

本屋の毎日の光景として真っ先に思い浮かぶのは、お客さまで賑わっている店頭ではなく、まだ店内に誰もいない、しんとした景色です。静まりかえっていますが、本はじっと誰かを待つようなつぶやきを発しており、そうした声に溢れています。

 

そして、そんな本に出会うために、本屋を訪れる人がいる。

 

本を読む人が減っている、街の本屋が少なくなっていると言われ続けている中、それでも本屋さんで本を買いたい人は必ずいます。

 

実際に、第1回ブックマークナゴヤが開催された十年前と比較しても、本屋さんに求められるものは変わりつつあります。

けれど、その芯にあるもの、本を誰かに届けたいという想いはずっと変わらないでしょう。

その上で、不特定多数の「みんな」ではなく、特定の人に向けて届けるため、平均的な品揃えの良さではなく、ここでしか出会えないような本を置き、その瞬間でしか体験できないイベントを開催する。

本屋に限らず、誰のために仕事をするのか、なんのために人生を生きているのか、というテーマにも通じるものがあります。

 

 

最後に、この本自体について。

奥付に、使用されたフォントや用紙の種類までが記載されていたりと、細かいところまで実に丁寧につくられています。

ちなみに表紙のタイトル(店名ではないほうの)に使われているのはフォントワークスのニューシネマA

 

さらに、カバーを外すと、本屋Titleのある荻窪の地図が現れます。

いつか、この地図に描かれたまちを実際にあるき、本屋Titleを訪れる、その日が楽しみになりました。