明朝体という川の流れ – 月刊MdN 2018年11月号 特集:明朝体を味わう。

なんだか今年(平成30年)は季節外れの高温が続いていますが、この時季になると例年、「月刊MdN」をはじめとした雑誌でフォントに関する特集が組まれます。

今年も期待に違わず実りの秋となりました。

表紙に書かれた謳い文句は「ワインのテイスティングのように明朝体を味わう。明朝体ソムリエになりたい」。

どこまでがテーマ名なのかよくわかりませんが、〈明朝体を味わう。〉だけは秀英明朝で組まれていて、それ以外は秀英丸ゴシックなので、真ん中だけが正式なテーマ名なんでしょうね(笑)。

付録の書体見本帳も、「明朝体テイスティングリスト」という体裁になっています。

 

明朝体だけに、名は体を表す。

明治から平成に至るまで、この日本に生まれた明朝体の数々を、デザイナー、研究家、あるいはフォントや印刷会社に勤める関係者に取材し、それぞれの特徴を多角的に味わう構成になっています。

ひとつひとつのフォントが詳しく見開きで紹介されていますが、それらは独立して生まれたわけではありません。

ワインの元になるブドウが交配を重ね、あるいは品種改良が進められたように、明治時代、活版印刷が輸入されて生まれた日本の明朝体は、活字から写植、現代のデジタルフォントという歴史の中で、あるフォントがあるフォントに影響を受けたりしながら、何世代にもわたって使われ続けています。

あるいは「水のような、空気のような」と評される明朝体フォントだけに、最初は小さなせせらぎが、やがて大きな川の流れとなり、幾重にもわかれ、また合流をくりかえす、そんな壮大な景色も浮かんできます。

たとえば、Windowsに搭載されているMS明朝のようなありふれたフォントも、金属活字の本明朝がルーツになっています(ちょうど本文の説明部分が脱落しているのが惜しい)。対するにmacOSに搭載されているヒラギノ明朝は、写植時代の本蘭明朝を意識したといいます。

 

明朝体はとりわけ、小説などの「ものがたり」を語るのにふさわしいフォントだとされます。

それは、水のように個性を抑えて文章をつむぐための存在でありながら、それ自身が、深い歴史性、ものがたりを裡に秘めているからなのかもしれません。