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文字遣い/探索士 ——夕霧に包まれ消えゆく島の名を知る術も無し凪の私は

旅情のパイロン

旅先では、あらゆるものが新鮮に映ります。

日本全国、どの路上にもあるパイロン(カラーコーン)も、あらためて目をとめてみれば、旅情を誘うものです。

今回は、そんな路上=旅情のパイロンズを紹介します。

まずは偏愛する広島から。

広島では、毎年ゴールデンウィークにフラワーフェスティバルが開催されますが、このような交通規制が敷かれる大きなイベントでは、必ずといっていいほど活躍するのがパイロンたちです。

イベントの直前にまちを訪れると、パイロンが静かに出番を待っている光景に出会えます。ひときわ大きなパイロンに出会えるチャンスも。

 

広島からもう一枚、こちらは広島電鉄の車庫がある江波で、路面電車とのツーショット。

バラエティ豊かな車両が楽しめる広島電鉄の路面電車ですが、基本となるグリーンの帯が、同じくグリーンのパイロンとよく調和していて、お気に入りの一枚です。

広島乗り物めぐり – ヌマジ交通ミュージアム

 

瀬戸内海を渡って、お向かいの四国は愛媛県松山市。こちらではオープン直後の道後温泉別館で、ご当地キャラの「みきゃん」をあしらったオレンジのパイロンに出会えました。

このときの様子は 四国横断まちあるき – ご当地キャラとパイロンの旅 にまとめていますので今回は割愛し、北に向かいましょう。

鳥取県、境港市にやってきました。この街出身の漫画家・水木しげるさんにちなんで、境港駅前は妖怪のブロンズ像が800mにわたって続く「水木しげるロード」として整備されています。

ねずみ男パイロンに、ぬりかべパイロン。道行く人々はとなりのブロンズ像に夢中でシャッターを切るばかりで、まるでパイロンは目に入っていないかのよう。

観光案内所で販売されているガイドブックにも掲載されていない、まさに妖怪のように見えない存在です。

鳥取といえば砂丘でも有名ですが、地質のせいか、砂丘以外の海岸でも砂に埋まりかけたパイロンに出会えました。

まだ訪れたことはないのですが、鳥取砂丘パイロンの情報もお待ちしています。

おとなり島根県出雲市は出雲神話で知られます。

高天原から現れたタケミカヅチが国譲りを迫ったという伝承のある稲佐の浜では、二千年の時を超えて、パイロンが地の平和を祈っています。

よく見られるコーンバーではなく、しめ縄のように足元で四方のパイロンを縛る光景は、神々しさを感じずにはいられません。

 

最後は京都です。景観に配慮した街ならではの竹かごパイロンは、もはや京名物のひとつに数えてもよいでしょう。

「迷惑駐車お断り」の案内もはんなりと、まさにぶぶ漬け文化の極みです。

まだ見ぬ各地のパイロンを探しに、また旅に出たくなります。

 

半歩踏み出す、ものがたり旅

このブログ「凪の渡し場」では、日常に新しい視点を取り入れるために、旅に出ることの効用を何度も書いてきました。

自分だけの物語を見つける – ぼくらが旅に出る理由

自分視点の旅のすすめ – できるだけがんばらないひとりたび

また、一歩を踏み出す勇気が出ない人には、〈片足を日常に置いたまま、半歩ずつ踏み出す〉というコツもお伝えしました。

一歩を踏み出す勇気が出ないなら、半歩踏み出してみる

 

それを実現できるのが、日帰りで近隣の府県を訪れる「半日旅」です。

わたしは名古屋在住なのですが、愛知・岐阜・三重のいわゆる東海三県だけでなく、京都・滋賀・奈良・大阪といった関西地方も、その気になれば日帰りで行けてしまうのが便利なところです。

東海道新幹線を使えば大阪まで一時間ですが、在来線や高速バス、そして近鉄特急といった手段でも往復できます。

関西は歴史も古いだけ、さまざまな文化が何層にも重なり合っていて、新しい視点をみつけたり、いつもと違った経験をするのにうってつけです。

たとえば近鉄で大阪難波に着いたら、南海電車で和歌山に足をのばしたり、阪神電車で神戸に行ったり、さらにはそこから阪急電車で京都に行って、京阪電車でまた大阪に帰ってくるといったこともできてしまいます。

わたしはとりたてて鉄道マニアというわけではありませんが、ふしぎと関西の鉄道にはこころ躍るものがあります。

こちらの本では、漫画家・イラストレーターの細川貂々さんが描くイラストが、見事にそのときめきを表現しています。

表紙に描かれた顔をながめているだけで、行く先々に待ち受けているものがたりを予感させます。

 

ときめきといえばこちら。関西を中心に〈いいビル〉の魅力を発信するBMC(ビルマニアカフェ)のメンバーが執筆する、喫茶店という空間に秘められたものがたりを記録する写真集です。

関西に行くたび、こちらで紹介された喫茶店をひとつひとつ訪れるのが密かな楽しみです。

 

こんなふうに、ひとつのテーマに沿って旅をすることは、本を読むことにも似ています。

それは、さながら「ものがたり旅」といえます。

 

はじめて訪れた場所でも、前に行った場所と似た雰囲気を感じたり。

その街やお店の歴史を学ぶことで、思わぬつながりをみつけたり。

そして、次に行きたい旅の目的地が頭に浮かぶことも。

 

ものがたりの世界は、はてしなくひろがっていきます。

個人研究が人生を楽しくする – ジャイロモノレール

長い人生の中で、自分だけの楽しみ、生きがいのようなものを見つけられたら、どれほど幸せなことでしょう。

それは自分の仕事の中に—いわば〈天職〉として—見つかるのかもしれないし、まったく違う場所で、趣味の世界に見つかるかもしれません。

そんな、自分だけの楽しみの価値を教えてくれるのが、作家にして工学博士である森博嗣さんの「ジャイロモノレール」です。

ジャイロモノレールとは、一本のレールの上を走る鉄道のこと。

普通のモノレールとは違って、ジャイロという仕組みを用いることで、支えなしでバランスをとって自走することができます。

20世紀の初頭に、未来の高速鉄道として技術開発がなされたものの、時代の変化によって日の目を見ることがなく、今では失われた技術となってしまったそうです。

そんな幻の技術を、森博嗣さんが復元に成功、自宅の庭に敷いた庭園鉄道で実際の模型を走らせるところまで達したというのが、本書の前半部分です。

ジャイロモノレールの説明や動画自体は、著者のホームページやYouTubeで無料公開されています。

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エンジニアリングや工作が好きな人にとっては、これだけでも興味深い内容ですが、本書の終盤では、ジャイロモノレール研究を例にとって、著者の〈趣味〉に対する考え方が語られます。

 

そもそも趣味とは英語の「hobby」の訳語ですが、イギリスでは紳士のたしなみとして、仕事よりも重視されるものだそう。

それがたとえばコレクション(蒐集活動)であったとしたら、それ自体が目的なのではなく、なにか他の目的があり、その手段のために集めているだけなのだといいます。

それは研究のために資料を集めたり、調査することと似ています。

そこで森さんは〈趣味〉ではなく〈個人研究〉と訳すことを提唱しています。

研究とは他の誰もまだ知らないことを、自分だけが追い求めることです。

仕事でなければ、他の誰に価値を認められなくても、自分さえ価値を見出すことができればいいのです。

そうしてみんなが自分の楽しみを追求することで、あるいはそれが他のだれかに波及して、さざ波のように楽しさが広がっていくかもしれません。

 

その意味では、わたしの趣味=個人研究も、まだはじまったばかり。

フォントとか、パイロンとか、いろんな先人の方に刺激を受けて蒐集をはじめたことはとても幸せなことで、でもそれは、やっと研究の種がみつかっただけの段階にすぎません。

ほんとうに自分だけの、新しい視点に立った研究はこれから。

その先に、もっと楽しいことが待っているのです。

 

 

明治維新が変えた都 – 京都がなぜいちばんなのか

日本には多くの魅力的な街があります。

なかでも、京都という街は、とりわけ多くの日本人、さらには世界の人々の心をとらえています。

 

けれども、歴史を感じるその印象とは裏腹に、この街の風景は、明治以降に大きく様変わりしました。

明治維新と、それに引き続く明治天皇の東京行幸によって、「千年の都」という絶対的な立場が揺らぐことになったのです。

そのときに京の人々は、おそらく必死になって、京都という街の新しいアイデンティティを模索したことでしょう。

 

やがて、千本鳥居の伏見稲荷神社、金箔に彩られた金閣寺など、京都の名勝・古刹は鮮やかな色彩のイメージをまとっていきます。

それがカラー写真の普及した時代にマッチし、フォトジェニックな観光都市としての地位を確固たるものとしていきました。

とくに、東山区、岡崎公園のあたりは京都でも変化が大きな場所のひとつです。

琵琶湖からの水を水道や発電に使う琵琶湖疎水は、明治の一大事業といえるもので、それは京都の人々の暮らしを大きく変えていきます。

漆塗りの大鳥居が印象的な平安神宮も、明治に入ってから建てられたもので、応天門は、平安時代に放火されて失われたものを模して作られました。

この一帯では、明治150年記念である今年(2018年)10月に「岡崎明治酒場」というイベントも行われていました。

 

ロームシアター京都(京都会館)2Fの京都モダンテラスでは、平成の京都に鹿鳴館も出現していました。

 

明治からの歴史を持つ京都市動物園もリニューアルされて、かわいいロゴになっていました(漢字部分のフォントはダイナコムウェアのDF綜藝体)

 

少し南に行けば、こちらも漆塗りの社殿が目を惹く八坂神社があります。

この八坂神社も、明治の神仏分離によって祭神が素戔嗚尊(スサノオノミコト)とされるまでは、祇園精舎の守護神・牛頭天王をまつる祇園社という名前で、仏教色が強い場所でした。

地名の祇園も、祇園祭も、ここから来ているのですね。

祇園のパイロンは、こんなにもフォトジェニック。

 

そして祇園には祇園閣という、ちょっと変わったスポットがあります。

大雲院という寺院の中にある昭和初期の建築で、祇園祭の山鉾に似た建物は別名「銅閣」、本当に金閣・銀閣を意識して建てられたのだそうです。

ふだんは非公開ですが、不定期に「京の夏の旅」で特別公開されます。

第43回 京の夏の旅 文化財特別公開|京都市観光協会

第43回 京の夏の旅 2018年7月~9月/文化財特別公開や定期観光バスコースなど、京の夏ならではの魅力たっぷりのイベントが満載!

今年も公開されたので行ってきましたが、階段の壁いちめんに仏画が描かれていたり、最上階から京の街が見渡せたり、とても印象的な場所です(内部は撮影禁止)。

ほかにも祇園には歴史的な建物をリノベーションした施設やお店がたくさんあります。

 

「いちばん」という言葉は絶対的な優劣を表すものではなく、いわばナンバーワンではなくオンリーワンというべきでしょう。

自分だけの「いちばん」を探しに、京都に行きましょう。

 

いつもの視点にプラスして街を楽しむ – イケフェス大阪2018

大阪市内のさまざまな建物が無料公開される、生きた建築ミュージアムフェスティバル・通称イケフェス大阪。

今年(2018年)も10月27日と10月28日に開催されました。

過去の記事はこちらからどうぞ。

今年は事前抽選のイベントには落選してしまいましたが、そのかわり二日間、天候にも恵まれ大阪のまちじゅうを散策することができました。

イケフェス大阪は、「フェス」という名が表すとおり、建築に興味のある人でないと楽しめないものではありません。

むしろ、ふだん建築を気にも留めず暮らしている人こそ、いつもと違う視点で街を眺めることで、新たな楽しみが生まれてくるはずです。

 

イケフェスでまちあるきを楽しむなら、京阪・大阪メトロ淀屋橋駅付近がおすすめです。

キタ・梅田とミナミ・難波を結ぶ御堂筋線は大阪の大動脈とも言える地下鉄路線です。

それに並行して走る四つ橋線(四つ橋筋)・堺筋線と、大阪では南北の道に「筋」という名前がつけられています。

南北の筋と東西の通で構成される碁盤の目のあちこちに、魅惑の建物が点在しています。

たとえば、淡路町通には、船場ビルディングというビルがあります。

船場というのは、豊臣秀吉の大坂城築城によって生まれた市街地の名前で、江戸・明治と時代が変わっても栄えてきました。

この建物は1925(大正14)年に立てられ、現在はオフィス用の賃貸物件となっていますが、中に入ると、おどろきの空間が広がります。

吹き抜けの中庭に、光が差し込みます。

屋上庭園で、タヌキと埴輪のツーショット。

入居しているオフィスのよそおいもどことなくセンスを感じさせ、こうした環境での働き方を想像してしまいます。

 

もう二区画北に行くと、道修町とよばれる通りに、また素敵な色合いのビルが見えてきます。

武田道修町ビルと呼ばれるこのビルも、入ってみると意外な空間でした。

武田科学振興財団の運営する杏雨書屋(きょううしょおく)は、本草・東洋医学書の資料館として、さまざまな貴重書や医学道具が展示されています。

杏雨書屋 | 事業内容 | 公益財団法人 武田科学振興財団

武田科学振興財団の杏雨書屋のご紹介です。国宝、重要文化財を含む貴重な資料の常時閲覧、特別展示や特別講演会を開催しております。

収蔵品には、中国最古の字書である国宝「説文解字」もあり、複製展示とはいえ、こんなところでさらりと国宝に出会えるとは思いませんでした。

この道修町は日本の医薬品産業発祥の地といわれ、多くの製薬会社の本社や資料館、薬の神様を祀る少彦名神社などが建ち並んでいます。

本好きや博物館好きにもたまらないエリア、通常の平日にも無料開館しているそうなので、ぜひ足を運んでみてはどうでしょう(道修町だけに)。

 

さらに本好きといえば、中之島にある大阪府立中之島図書館も外せません。

パイロンも思わず、図書館エントランスで記念写真です。

中に入ってすぐ、中央ホールのみ撮影可能です。

天井ドームに目を奪われがちですが、周囲のレリーフには古今東西の哲学者・文学者などの偉人の名が刻まれているので、ぜひその目で確かめてみてください。

展示室では近代大阪の礎を築いたという大林組の「大林芳五郎展」が開催中です。

さらに奥のレンタルスペースでは「プティ・タ・プティのテキスタイル展」と、プティ・タ・プティのお一人でもあるナカムラユキさんの展示が開催されていました。

左のエッフェル塔のイラスト、よくポスターや本などで見かけるタッチながら、日本人とは思っていなかったので、これからチェックしてみようと思います。

 

中之島図書館の隣には、設立100周年を迎える中央公会堂が悠然と鎮座しています。

市役所と図書館、そして中央公会堂が川に挟まれて並び立つ中之島の風景は、キタやミナミに負けず劣らず、大阪の顔といえるでしょう。

といいつつ、実はわたし、昔からよく大阪に遊びに行っていながら、こんな素敵な場所があることを最近まで知りませんでした。

それに気づかせてくれたのも、イケフェス大阪と、関連書籍のおかげです。

中央公会堂は中も外も、とにかく素敵なのです。

丸窓のステンドグラスのひとつには、大阪市の市章である澪標(みおつくし)も描かれています。

 

建物から、それに含まれるモチーフ、由来、物語…楽しみ方はどこまでもふくらんでいきます。