2023年、世界の見方を変えるマンガ3冊+読書マップ

2023年の年末です。

毎年の恒例「今年の本」、今回は印象に残ったマンガ3作品を紹介します。

それぞれのテーマに関連した小説やノンフィクションなども〈読書マップ〉としてまとめてみましたが、こちらの詳しい説明は年明け note の記事にしようと思います。

それでは、一作ずつ紹介していきましょう。
なお、2023年末時点で、どの作品も連載中ですが、既刊は2〜4巻なので手に取りやすいと思います。

西尾維新原作・岩崎優次画「暗号学園のいろは」(集英社ジャンプコミックス)

主人公・いろは坂いろはが入学したのは、未来の暗号兵を育成する、毎日が暗号漬けの暗号学園。暗号によって世界の戦争を停めるため、きょうも謎を解き、クラスメイトの心を読み、学園の頂点を目指す。

ミステリー作家、西尾維新原作の週刊少年ジャンプ連載作です。
前回の連載作品「めだかボックス」(画・暁月あきら)の後半でも言葉遊びバトルが描かれるシーンがありました。
こういった、明らかに週刊連載向きでない題材をやってのけるのが西尾維新の真骨頂でしょう。
「いろはのい」とはいかないでしょうが。

西尾維新先生といえば、デビュー当時から同じメフィスト賞作家の森博嗣先生に影響を受けていることを公言しています。
その森先生が〈天才〉と形容する数少ない小説家のひとりが、筒井康隆先生。
そして、実験的な試みの多い筒井作品の中でも、いまだに折りにふれ話題になるのが、言葉(正確には音)が一文字ずつ消えていく「残像に口紅を」。
さらに、その「残像に口紅を」に影響されたと言われるのが、いわゆるジャンプ黄金時代に連載された冨樫義博「幽☆遊☆白書」の海堂戦。

「暗号学園のいろは」でも海堂戦に言及される話がありましたが、令和になって、こんな過去からの因果が実をむすぶことになるとは、西尾維新と同年代の者として感無量です。

鯨庭「言葉の獣」(リイド社トーチコミックス)

続いて、また違ったかたちで〈ことば〉の世界を描く「言葉の獣」を紹介します。

人の発する言葉を〈獣〉の姿で見ることができる少女・東雲と、そんな彼女に興味をもつ薬研。
ふたりは、この世でいちばん美しい獣を見つけるため、〈言葉の獣〉が暮らす森へと冒険に出る。

日常会話から、SNSのつぶやき、詩歌まで、わたしたちは、言葉にあふれる世界に生きています。
けれど、当たり前にある言葉とはなんなのか、誰も知りません。
わたしたちがいない場所、いない時間の先まで、言葉を遺すことには、どんな意味があるのでしょう。

とてもふしぎなことに、言葉によってわたしたちは理解し合うことができるとされているのに、お互いの〈言葉〉がおなじことを意味する保証は、どこにもありません。

それぞれがイメージする〈言葉の獣〉は少しずつ違う形をしていて、誤解や齟齬が生まれることもある。
それなのに、詩や短歌のような、ごく短い言葉で、自分の本心にふれるような、今まで気づかなかったものを見ることもできる。

ふたりの対話を中心に物語は進みながら、東雲が描いた絵をすぐ捨ててしまって、「自分の痕跡を残したくない」というのに対し、薬研は記録を残したい、「忘れられたくない」というちがいが語られるのも興味深いです。

わたし自身、〈言葉〉への関心に共感しつつ読みすすめてきましたが、共感できないこと、違いを知ることも、言葉による対話で世界をひろげるためには大切なことでしょう。

スマ見「散歩する女の子」(講談社ワイドKC)

最後も、ふたりの少女による対話で進む作品ですが、テーマは路上観察的な〈散歩〉です。

街角の看板の文字から俳句やしりとりをしたり、公衆電話の跡地に何を置くかを妄想したり。

路上観察でよく扱われるアイテム(いわゆる〈物件〉)に、さらに独自の楽しみかたをくわえて拡張する、まさに〈散歩の再発明〉が毎回展開されます。
何かのイベントや誰かとの待ち合わせ前に、少し早めに着いて「散歩する前に一人で散歩する」のは、わたしもこっそりやっています。

「三角コーンについて考える」回では、こういった非対称形の看板をつけたパイロン(三角コーン)が登場します。

ねずみ男パイロン(非対称看板の例)

作中ではここから、さまざまなパイロンのバリエーションを妄想していきます。
さすがにマンガなので現実にはありえない…と思ったら、〈のれん型パイロン〉の実例をカメラロールから見つけてしまいました。

のれん型パイロン(分譲期間限定)

土地建物のほうの物件が売れてしまうと見られない、路上観察的な意味で刹那的な〈物件〉でもあります。
(凪の渡し場〉でひっそり公開しているパイロンのページを更新しておきましたので、このサイトがある限りは記録として遺ることでしょう。

世界はどんどん予測不可能となり、いま当たり前に見ている景色も来年には見られなくなってしまうかもしれません。
だからこそ、いまを記録し、記録となった過去を振り返り、未来に進む原動力としていきたいです。

来年も、良いお年を。

2021年5月の読書マップ

今回から定期的に、おすすめの本を二次元的に整理する「読書マップ」をつくっていきます。

毎月読んだ本を中心にしつつ、それまで読んだ本でも著者や内容が似ているものを加え、自由な視点でつなげていきます。なお、新刊に限らず古本、電子本、家の本棚に眠っていたものなどが混在しているので、現在入手困難なものが含まれますがご了承ください。

読書マップ2021年5月

まずは4月の最後に読んだ高原英理「歌人紫宮透の短くはるかな生涯」(立東舎)から。

1980年代に活躍した紫宮透という架空の歌人を主人公に、彼の短歌とその解説を軸に、彼の生きた時代を虚実取り混ぜて描いた独特な小説です。
穂村弘さんの対談集「あの人と短歌」には、本書を執筆中の高原さんとの対談が収められています。高原さんが紫宮透として詠んだ歌に対する穂村さんの解釈も小説に生かされていて、両方読むと楽しい。

さらに穂村弘つながりで「短歌遠足帖」(ふらんす堂)と「きっとあの人は眠っているんだよ」(河出文庫)。

「短歌遠足帖」は同じく歌人の東直子さんと一緒に、萩尾望都さん、麒麟の川島さんなど多彩なゲストとさまざまな場所を訪れて短歌を詠む。同じものを見ていても切り取りかたがまるで違う、吟行ツアーは本当におすすめです。

「きっとあの人は眠っているんだよ」は日々買った本、読んだ本を紹介していく読書日記。
panpanyaから筒井康隆まで、穂村さんの読書の嗜好はおどろくほどわたしと近く、読書マップで紹介していくと我が家の蔵書全部とリンクしそうな勢いなので自重します(笑)。
その思考回路に近いものを感じつつ、短歌においては共感よりも常人の発想を超えた奇想が中核にあることも穂村さんの魅力ではないかと思いつつ、その話はきっとまた来月。

歌集では音楽を感じさせるタイトルの工藤玲音「水中で口笛」(左右社)、杉﨑恒夫「食卓の音楽」(新装版/六花書林)とつなげてみます。

杉﨑恒夫さんは東京天文台に勤務されていた方ですが、同じく天文学者である石田五郎さんの文章も近い詩性を感じます。代表作「天文台日記」が良かったので「星の歳時記」(ちくま文庫)を古本屋で見つけて購入。四季折々の星座、天文現象を歳時記の形で描くエッセイで、短歌も紹介されています。
ちなみに〈杉﨑恒夫 石田五郎〉でGoogle検索してみたら1件もヒットせず、このリンクにほとんど誰も気づいていないとしたら驚きです。

数学上の難問を取り上げた本としては、SF小説で有名になった〈三体問題〉を数学的・天文学的な視点から解説した浅田秀樹「三体問題」(講談社ブルーバックス)に、素数にまつわる謎〈リーマン予想〉が意外な形で素粒子の世界とシンクロするマーカス・ドゥ・ソートイ「素数の音楽」(新潮文庫)もおすすめ。

大人になってもこのような知的好奇心を満たす勉強・個人研究の大切さを語る森博嗣「勉強の価値」(幻冬舎新書)は、「ライフピボット」(インプレス)とも親和性が高そうです。

ライフピボットはこちらの記事で取り上げましたが、この本で継続の大切さを再認識したこともあり、個人的に提唱している〈読書マップ〉もコツコツ発信を続けていきます。

〈読書マップ〉は読んだ本人だけに意味のあるものに見えて、それをアウトプットすることで、思わぬ形で思わぬ誰かのためになるかもしれません。

そんなライフピボットでいう発信とギブの関係は〈利他〉という考え方にもつながってきます。
中島岳志さん・若松英輔さんなど東工大「未来の人類研究センター」のメンバーによる「『利他』とは何か」(集英社新書)は、ライフピボットの出版記念オンラインイベントでも触れられていました。

それとは別に、書店でタイトルに惹かれて手にとったのが松本敏治「自閉症は津軽弁を話さない」(角川ソフィア文庫)。
いわゆる自閉スペクトラム症、非定型発達の子供たちは津軽弁などの方言を話さない、という都市伝説のような噂を臨床的・学術的に検証していく本です。やがて明らかになる、方言・話し言葉とコミュニケーションの密接な関係に驚きます。

以上が2021年5月の12冊。この中から、また6月の読書マップにつなげていきたいと思います。

2020年、越境する12冊+読書マップ

2020年も、まもなく終わりを迎えようとしています。

いまだ収束の兆しが見えないCOVID-19により、働きかたも、暮らしかたも大きく変わった一年でした。

そんな中で選ぶ〈今年の本〉。
直接的にコロナ禍を扱った本はなるべく避け、こんな時代だからこそ、本を通して外の世界を知る〈越境〉をテーマに12冊を選んでみました。

また、本をして語らしむる – 読書マップ(仮)のすすめで提唱した読書マップで本どうしのつながりを表し、関連書籍も加えてみます。

去年までの〈今年の本〉記事はこちら。

まずは読書マップから。

では、ひとつずつご紹介します。


0 総記

読書猿「独学大全」(ダイヤモンド社)

「アイデア大全」「問題解決大全」の著作もある読書猿さんの新刊です。

さまざまなジャンルを越境して、学び続けることの意義、その方法までが網羅されていて、ずっとかたわらに置いておきたい本です。

読書マップは、この本でも紹介されている日本十進分類法を参考に作成しました。

1 哲学

住原則也 「命知と天理」(天理教道友社)

日本唯一の宗教として知られる奈良県天理市。

そこを戦前に訪れた松下幸之助は、その壮大な都市計画と、それを生み出す精神に大きな感銘を受けたといいます。

それをヒントに、朝会・夕会や事業部制といった、それまでの産業界の常識を覆す試みを松下電器(現・パナソニック)に持ちこみ、戦後の発展につながります。

哲学(宗教)の分類に入れましたが、産業との越境という観点で楽しめる一冊です。

もう一冊、宗教家の釈徹宗さんと、歌人であり科学者の永田和宏さんによる対談「コロナの時代をよむ」(NHK出版)も越境の対談。
物語(ナラティブ)と情報(エビデンス)、どちらにもかたよらずに、両者の橋渡しをしようとするおふたりが印象的です。

永田和宏さんの歌人としての著作は 9 文学で紹介します。科学者としての著作も多く、未読だったことが悔やまれます。

3 社会科学

松村圭一郎「はみだしの人類学」(NHK出版)

いったん2を飛ばして3へ。

NHK出版の「学びのきほん」は、さまざまな著者による講義がコンパクトに納められ、そのデザインも含めて面白いシリーズです。

釈徹宗さんの本も年末に出版されましたが未読のため、こちらの本を選びました。

分断よりも「はみだし」のある社会でありますよう。

室橋裕和「日本の異国」(晶文社)

ときに画一的といわれる日本の都市にも、それぞれの特徴があり、それぞれの日常があります。

インド、ミャンマー、バングラデシュ…。

さまざまな理由で日本を訪れ、定住した人々が織りなす都市の様相を描き出します。

辺境探検家の高野秀行さんが帯文を寄せるとおり、「ディープなアジアは日本にあった」。ステイホームで異文化を感じられる一冊です。

食文化という観点でリンクする「発酵文化人類学」も刺激的な一冊。

6 産業

北島勲「手紙社のイベントのつくり方」(美術出版社)

多くの大規模イベントが中止となった2020年、いち早くオンラインで新たな試みをはじめた手紙社の北島勲さんの著作です。

オンラインイベントやセミナーも普及が進みましたが、現実のイベント体験との差はまだまだ大きく、これからの進化が気になるところです。

7 芸術

雪朱里「時代をひらく書体をつくる。」(グラフィック社)

フォントは印刷の一分類と考えれば芸術に入るのでしょうか。

もちろん、本づくり・ものづくりは産業とも密接に関わります。

現在のようなデジタルフォントが普及するまえ、活版印刷や写植(写真植字)の時代から文字に携わってきた橋本和夫さんのインタビューをまとめたもの。

技術や社会が変わるとともに、フォントもまた変わっていきます。

今年は〈凪の渡し場〉であまり紹介できませんでしたが、フォントに関する新刊はまだまだ他にもあります。

2 歴史

シャロン・バーチュ・マグレイン「異端の統計学 ベイズ」(草思社)

ここで2に戻りましょう。

といいつつ、一般的な歴史ではなく、ひとつの技術に焦点を当てたり、科学史を経糸にした本がさいきんのお気に入りです。

人工知能の分野などでも注目されているベイズ統計は当初、多くの科学者から異端視され、むしろ学界より産業界で利用がひろがっていったといいます。

これもまた、越境する科学のひとつ。

4 自然科学

加藤文元「宇宙と宇宙をつなぐ数学」(KADOKAWA)

数学は自然科学とは別の学問ですが、ここは10進分類に従います。

数学界の難問のひとつとされるABC予想を解決に導いた、望月新一教授による〈宇宙際タイヒミュラー(IUT)理論〉。「未来から来た論文」とも言われるその斬新な発想を、望月産と親交のあった著者が丁寧に解説します。

元になったのが川上量生さんにより企画されたニコニコ動画の講演というのもユニークです。

科学・数学の本といえば、2020年のノーベル物理学賞を受賞したロジャー・ペンローズの業績を解説する「ペンローズのねじれた四次元」も面白いです。

9 文学

三島芳治「児玉まりあ文学集成」(リイド社)

いよいよ最後の9です。まずはタイトルに〈文学集成〉を冠したこちらのマンガから。

結城浩さんの「数学ガール」に対比すれば、こちらは言わば文学少女。

詩のように改行の多い話し方をする文学的な少女・児玉さんと笛田くん、ふたりだけの「文学部」の活動。

一話ごとに紹介される参考文献も楽しみです。

〈男子が好きなやつ〉として紹介されていた「未来のイヴ」が気になったので読んでみたところ、あのエジソンがアンドロイド(※携帯電話ではない)を発明していたというおどろきのSF小説でした。
男子、好きですよね。

「真鍋博の世界」(PIE)

SFといえば秋に開催された真鍋博展の図録は外せません。

少し感染が落ち着いた時期で、あこがれの筒井康隆さんの講演を聴けたことも幸せでした。

河野裕子・永田和宏「たとへば君 四十年の恋歌」(文藝春秋)

ふたたび永田和宏さんです。乳癌により逝去された妻の河野裕子さんと学生時代から交しあった短歌を収録した歌集・エッセイ集。

四十年という時間をともに過ごす存在がいるということは、いまのわたし想像を超え、つむがれる歌は胸を打ちます。

たとへば君 ガサッと落葉すくふやうにわたしを攫つて行つては呉れぬか

河野裕子 – 「たとへば君 四十年の恋歌」(文藝春秋)第一章より

一日が過ぎれば一日減つてゆく君との時間 もうすぐ夏至だ

永田和宏 – 「たとへば君 四十年の恋歌」(文藝春秋)第六章より

穂村弘「あの人と短歌」(NHK出版)

最後は、歌人・穂村弘さんが各界の短歌が好きな〈あの人〉と語り合う対談集。

昨年「北村薫のうた合わせ百人一首」を紹介した北村薫さんはもちろん、ブックデザイナーの名久井直子さん、翻訳家の金原瑞人さんなど、さまざまな分野との〈越境〉が楽しめます。

対談集を読むと、対談相手の著作にも興味がわき、読みたい本が増えてしまうのが困った(?)ところ。
いわば対談集一冊のなかに読書マップが織りこまれているようなものです。

それでいくと、この本では対談相手はもちろん、穂村さんとの間で話題に上る詩歌までも気になって、マップは三次元的にひろがります。

そしてまた、次の本との出逢いが待っているのです。


〈本を読む〉という日常がある幸せに感謝しつつ、2021年も、良い本を。

本をして語らしむる – 読書マップ(仮)のすすめ

おすすめの一冊は? という質問が苦手です。

それなりに多くの本を読んできていると、どうしても一冊に絞りきれません。

また、一冊の本に対して〈この本を読んだら、次はこちらもおすすめ〉というのも、本の著者だったり、テーマだったりとおすすめの切り口はいくつもあります。

つまり、本というのは点のように一冊で完結するわけでも、一直線に並ぶわけでもない、二次元の面的なひろがりのある世界なのです。

そこで、おすすめの本を平面のマップにする〈読書マップ〉(仮)を思いつきました。

〈本地図〜ほんちず〜〉とか〈書物の地平面〉とかいったネーミングも考えましたが、正式名称はそのうち考えます。

 

百聞は一見にしかず、さいきん読んだ本を中心に読書マップを作ってみました。クリック/タップで拡大します。

 

左上、読書マップのヒントになった斎藤孝さんの「偏愛マップ」がスタートです。

斎藤さんは自己紹介などに使えるツールとして、自分の好きなことをマップにしてみる〈偏愛マップ〉を提唱されています。

マップの書き方は自由なので、マップ自体にもその人の個性が出て面白いです。

ツールという切り口で、次の本は文化人類学者の川喜田二郎さんによる「発想法」。

フィールドワークやブレーンストーミングで得られた情報をまとめる手法として、本人のイニシャルをとった〈KJ法〉が有名です。

KJ法は「データをして語らしむる」という奥の深い手法で、カードとよばれるそれぞれのデータの相関を図解するだけにとどまらず、それをストーリーとして語る叙述化によってその真価を発揮します。

読書マップも、本と本との相関を語ることで、新たな物語が見えてきます。

 

どういうことか、マップをさらに広げていきましょう。

 

斎藤孝さんといえば「声に出して読みたい日本語」「呼吸法」など著作の多さで知られるため、同じく多作の作家・森博嗣さんを連想しました。

有限と微小のパン」は、とあるソフトウェア会社が長崎に設立したテーマパークを舞台にした初期シリーズ。VR(ヴァーチャルリアリティ)や人工知能など、20年前の作品とは思えない最先端の技術が描かれます。

シリーズのなかでよく出てくる数学的なモチーフから、加藤文元さんの「数学する精神」に線が延び、また舞台のモデル・ハウステンボスに錯視を利用した作品のあるエッシャーつながりで「ヒトの目、驚異の進化」にも線が延びます。

どちらの本からもつながるのは、数学者として、また「光学」などの科学者として有名なニュートン。実は彼は晩年、ロンドン造幣局の監事として、大がかりな贋金事件の真犯人を追っていました。「ニュートンと贋金づくり」はノンフィクションながら、まるでミステリー小説の名探偵のような論理の冴えが楽しめます。

 

左端に戻って、森博嗣さんと言えばメフィスト賞の第1回受賞者。同じくメフィスト賞を受賞し、森博嗣への影響を公言する西尾維新を置いてみましょう。

「贋金づくり」・古今東西の偽物や贋作を紹介した「ニセモノ図鑑」・そして西尾維新「偽物語」がニセモノという線でつながります。

「ヒトの目、驚異の進化」では人間の目が他の動物と異なる進化を遂げた過程が語られますが、ユクスキュルの〈環世界〉というキーワードで似たテーマを扱うのが生物学者・日高敏隆さんの「動物と人間の世界認識」。

日高さんと同じくネコ好きで有名な新井素子さんの「ダイエット物語…ただし猫。」には、西尾維新の「猫物語」にもヒゲ…線を延ばしておきます。

ネコの柄の違いを遺伝的に説明したのが「ネコもよう図鑑」。相変わらず図鑑が好きです。

猫本からはもう一冊、仁尾智さんの猫短歌「猫のいる家に帰りたい」(初版特典ちゅ〜る袋つき)を挙げておきます。

短歌といえば先月も紹介した松村由利子さんの「短歌を詠む科学者たち」ですが、これは短歌に魅せられた科学者の生涯を描いた本なので「ニュートンと贋金づくり」から線を延ばしましょう。

この本で紹介されている永田和宏さんと河野裕子さんのご夫妻は「北村薫のうた合わせ百人一首」にも登場していましたが、永田さんが科学者としても著名な方というのは「短歌を詠む科学者たち」ではじめて認識しました。これぞまさに「詩歌の待ち伏せ」でしょう。

北村薫さんといえば森博嗣「笑わない数学者」にも重要な解説文を寄せており、これで見事に円環が閉じました。

 

永田・河野夫妻による「京都うた紀行」は先日買ったばかりの未読本なので、今回のマップはここまで。

 

駆け足で紹介した〈読書マップ〉、いかがだったでしょうか。ぜひご自身の好きな本で読書マップを作ってみてください。