上野発、書とアートをさけんでみる夏

2024年も、さまざまなアートイベントや展覧会が開催されています。

今回は東京・上野から、ふたつの美術館をめぐります。

広大な敷地をほこる上野恩賜公園。
美術館や科学館、動物園などが立ち並び、すべて回ろうとすれば、一日あっても時間が足りないくらいです。
〈凪の渡し場〉的には、屋外の看板に注目した文字さんぽも楽しめます。

丸ゴシックの「ボート場」とイラストがかわいい。

これは象のおしりをモチーフにした看板でしょうか。やはり丸ゴシックが大活躍。

でも、きょうのお目当ては動物園ではなく、上野の森美術館「石川九楊大全 言葉は雨のように降りそそいだ」です。

文字やフォントに関する著作も豊富な書家・石川九楊さんの大規模展覧会です。

前後期で展示替えがあり、古典を中心とした前期は残念ながら予定が合いませんでしたが、後期【状況篇】も、いわゆる「書道」という言葉からイメージする枠組みにとどまらない作品が目白押し。

一室を埋めつくす85mの大作「エロイエロイラマサバクタニ又は死篇」などに圧倒されて館内を進んでいくと、個人的に感動の作品に出逢えました。

それが、自由律俳句で知られる俳人・河東碧梧桐のことばを書として再構築した「俳句の臨界 碧梧桐一〇九句選」。

館内は撮影禁止ですが、美術館前のポスターにも作品が使われていました。

句は「ざぼんに刃をあてる刃を入るる」。
ひらがなの〈ざぼん〉を取りかこむ肉厚のザボン。
その皮と種までが墨の濃淡で表現され、鋭利な刃物があたっている一瞬が切り取られます。

碧梧桐の句自体がおもしろく、さらに石川さんの書による表現が重ね合わされ、時間を忘れて楽しめました。

最後は写真撮影可のコーナー。有名な新潟の日本酒「八海山」の文字も石川さんによるものだったのですね。

しかも普通酒ではなく高級な大吟醸酒というところが心憎い。

さて、上野駅に戻ります。
高架下では「最も画数の多い漢字」として有名になったビャンビャン麺も売られていました。

とはいえ列車の時刻が迫っているので駅構内へ。構内にもそこかしこに動物のキャラクターが隠れています。

しかし、案内に従って階段を降りると、なにやら雰囲気が一変します。

まるで令和から昭和にタイムスリップしたような14番ホームです。

上野発の夜行列車、ではなく昼行特急「草津・四万」で群馬へ向かいます。

「四万=しま」と読み、四万の病を治すと言われる四万温泉が由来だそう。

今回は伊香保温泉の最寄駅でもある渋川駅で下車します。

駅名標が筑紫A丸ゴシック!
観光SLの停車駅ということで、黒字に金のSL色ながら、単なるレトロ趣味にとどまらない、かわいさ抜群の演出です。

ちなみにこの夏は「SLぐんまちゃん号」が運行されるとのこと。

帰りに寄った途中駅の高崎駅も〈ぐんまちゃん〉にジャックされていて、こちらもめちゃめちゃかわいい。

改札にもぐんまちゃん(渋川駅ではなく高崎駅です)。

ぐんまちゃんバス

渋川駅でやってきたバスまでぐんまちゃん。

グリーン牧場前のバス停で下車します。ここも動物のキャラクターに彩られ、期せずして動物づくしの旅となりました。

それでも、向かうのはグリーン牧場ではなく、おとなり原美術館ARCです。

原美術館ARC

品川にあった原美術館が、ここ群馬県渋川市の別館〈ハラ ミュージアム アーク〉と統合して新しく誕生した美術館とのこと。
都心とはまた違って、広い敷地に分散する展示室を自由にめぐりながらアート作品を楽しめます。

現在は「日本のまんなかでアートをさけんでみる」展を開催中です。

日本のまんなか…?
総務省も認める日本の真ん中といえば、人口重心地の存在する岐阜県では?
https://www.stat.go.jp/info/guide/pdf/gifu.pdf

などと中部民としては思ってしまいます。

けれど、どうやら渋川市も、日本の主要四島の最北端・宗谷岬と最南端・佐多岬を円でむすんだ中心に位置する「へそのまち」宣言をしているのだそう。

「へそのまち」日本のまんなかしぶかわ市

日本のへそ 渋川市は日本のへそと呼ばれ、古くから工業、農業、観光(温泉など)を主要産業に栄えてきました。 日本のへそと呼ばれる理由は、地理的な要因と歴史的な要因があります。 地理的な理由 日本の主要四島で最北端の北海道宗谷岬と最南端の鹿児島…

さらに言えば兵庫県にも、日本標準時である東経135度を通る「日本へそ公園」があるなど、〈まんなか〉という概念はとらえかたによってうつろいうるものでしょう。

そんな中心と周辺を、振り子のように行き来することが、まさにアート的思考かもしれません。

さて、展示です。作品のいくつかは写真撮影可能。

奈良美智の部屋

とりわけ目をひいたのが、奈良美智さんの「My Drawing Room」。
以前の原美術館にあった展示を移築・恒久化したものだそう。
仕事部屋のような、子供部屋のような空間には、そこかしこに仕掛けがほどこされ、見飽きません。

屋外には、アンディ・ウォーホルの巨大なキャンベルトマトスープ缶が。

そのとなりのカフェスペースで、展覧会記念の日本列島ケーキをいただき、夏の暑さを乗りきります。

日本列島ケーキ

ピンクのおへそがかわいい。

思いきりアートをさけぶ、日本の夏でした。

まだ知らない広島へ – 三次もののけミュージアム、中村憲吉記念文芸館

これまで〈広島偏愛シリーズ〉では主に、広島市内のさまざまなものことを紹介してきました。

けれど広島県は、その名のとおり広い。
瀬戸内ときいて頭に浮かぶ海沿いだけでなく、山間部にも多くの魅力的な場所があります。

今回は、そのなかで三次の文芸にまつわるスポットを訪れてみます。

三次駅前の観光案内所には、アマビエのもととなったとされる予言獣・アマビコ(尼彦)がお出迎え。
三次は「稲生物怪録」という、江戸時代に生まれた実話系怪談の舞台です。

三本の川が交わる三次(みよし)市。駅から川を越えた先に広がるのが三次町で、駅周辺の地名は「十日市」だそう。
写真を撮り忘れましたが「三次市十日市町」という表記を見たときは、ちょっと驚きました。3なのか10なのか。

参考までに、写真に写っている鉄橋は廃線になった旧国鉄・JR三江線の鉄道専用橋で、いかにも渡れそうで渡れません。
三江線については次の記事で取り上げました。

島根と広島の県境に立つ – 江の川鐵道トロッコ体験

そんな謎多き駅前から車で数分、「湯本豪一記念日本妖怪博物館 三次もののけミュージアム」にやってきました。

もののけミュージアム

インタラクティブな映像を交え、さまざまな妖怪の来歴を楽しく学べます。

チームラボの「妖怪遊園地」を利用する場合は料金が変わります。

人面草紙

個人的に、この「人面草紙」のキャラクターがかわいくてお気に入り。

ミュージアムを楽しんだ後は、アマビコさまとパイロンさまに誘われて「もののけ小路」へ。

もののけ小路

石畳の風情ある街並みがひろがっていました。

三次マンホール

みよし・うかいマンホール。

井戸

なんだか気になる漆喰塀の酒蔵と井戸。
タイミングが合えば、お地蔵さまと一緒におひるねするお猫さまが見られるそうです。

ゆっくりと散策するのも楽しそうですが、今回はこのあたりで、次の目的地に向かいます。

布野村マンホール

遠く島根県までのびる国道54号を車で北へ30分ほど。
現在は三次市布野町ですが、旧国道には布野村と書かれたマンホールが残っていました。

ここ布野を中心に活躍したアララギ派歌人・中村憲吉の生家が、記念文芸館として整備されています。

布野図書館

となりの布野図書館も、山あいの風景に調和して美しい。

中村憲吉記念文芸館案内図

中村憲吉記念文芸館は無人で、自由に観覧できます。

同じアララギ派として親交のあった、土屋文明や斎藤茂吉の歌碑が軒先にあります。
もちろん中村憲吉本人の短歌も。霧で有名な三次、霧の季節にも訪れてみたいですね。

ふるさとの山がはの町は夜霧して空にいざよふ十日餘の月 (中村憲吉)

中村憲吉記念文芸館 庭園碑

外から見ても実に立派な建物です。
ちなみに右側に見える木がアララギでしょうか?

館内の資料によれば、憲吉は地元の名家だったようで、短歌だけでなく布野の将来を見据えたヒノキの造林事業などにも手がけていたそう。
ヒノキは平成になって切り出され、道の駅などに活用されています。

中村憲吉は出版された歌集は少ないものの、千光寺公園など瀬戸内各地に歌碑が建てられ、多くの人に愛されていることがうかがえます。
歌人仲間との交流でいえば、斎藤茂吉や島木赤彦らと五人で合作した掛け軸のレプリカが印象的でした。
実物は松山市の正岡子規記念館にあるそうで、また松山にも行ってみたくなりました。

時を超えても形を超え、語り継がれる。
その魅力の一端にふれる旅でした。

おわり、はじまり、またつづく – 2023年広島、アートとまちあるき

三年ぶりの、制限のないゴールデンウィークがやってきました。

ということは、ということで。
本ブログ〈凪の渡し場〉でも、三年ぶりに広島偏愛シリーズを再開することができます。

三年のうちに、ひともまちも、大きく様変わりしました。

こちらは三年前、COVID-19による行動制限がはじまる直前に撮った写真です。
広島駅ビル ASSE が閉店し、駅周辺は2023年現在も大規模なリニューアル工事が進行中です。
「左側通行にご協力ください」のJR工事現場ねこがかわいい。

ポプラは中部地方から店舗が消滅し、広島市内の店舗も大半がローソン+ポプラになってしまいました。

真っ赤に燃える広島のコンビニ、ポプラ

それはそれとして。
今回は、2022-2023年にリニューアルしたアートスポットと、アートイベントを中心に紹介します。

広島市の写真を先に載せてしまいましたが、今回の旅は福山から。

広島県内で最も東に位置する山陽新幹線の駅である福山駅は「のぞみ」も停車するので、東名阪からも訪れやすいです。
もちろん九州新幹線乗り入れの「みずほ」も停まりますよ。

福山城の反対側、南口を出て西へ10分ほど歩いたところに、かつて百貨店「福山そごう」があったビルをリノベーションした「iti setouchi」がオープンしています。

施設を横切るように公道が通り、フードコートやシェアオフィス、公園のようなスペースが混在する不思議な施設になっています。
規格外デニムとパレットで作られたというソファは、座りごこちが抜群。
「iti」という名称は住所が福山市西町1-1-1であることと、「1F」をかけているようです。
エスカレータ部分がケージで閉ざされているのは工事中なのかと思いましたが、百貨店時代のモニュメントのような意味合いが込められているのでしょうか。

中央の吹き抜けを飾るのは、SLAP(Setouchi L-Art Project)によるアーティスト招聘プロジェクト「一日は、朝陽と共に始まり、夕陽と共に終わる」(福田恵)。地下部分では公開制作が行われていました。

こちらに置かれたパンフレットで、SLAPも参加する「GWは広島のギャラリーを巡ろう」というイベントを知りました。

Hiroshima Art Galleries Week 2023 (HAGW) - 2023/4/29(sat)-5/7(sun)

2023年4月29日(土)~ 5月7日(日)9日間 各ギャラリーの開館時間・休館日・イベント情報は こちら 広島県内のギャラリーをめぐるアートイベントHAGW (ハグ)13のギャラリーが連携し、初開催! 広島にはたくさんのギャラリーやアートスペースがあることをご存じですか? Hiroshima Art Galleries Week(通称= ...

期間中、広島市内を中心に、複数のギャラリーでさまざまなアート作品が展示されています。
予定に入れていなかったので一部しか回れませんでしたが、まちに溶け込むような空間で、路上観察的にも見どころがあります。

広島芸術センター
タメンタイギャラリー鶴見町ラボ

さて、広島といえば比治山公園に位置する広島市現代美術館は外せません。

大規模な改修工事が終わり、リニューアルオープン記念特別展「Before/After」が6/18まで開催中です。

広島駅から向かうなら、広島電鉄(ひろでん)5号系統の路面電車に乗って比治山下電停で下車、交番横の坂道を登るのが便利です。

驚いたことに、道に沿って置かれた桜色パイロン(これ自体かわいい)に、俳句があしらわれています。
短歌パイロンにもいつか会いたし。
さまざまのこと思ひ出す桜かな - 松尾芭蕉
印象的な円形屋根、黒川紀章の名シンボルはそのままに、アップデートされた現代美術館です。
これまでの広島をテーマにした作品、これからの未来を予感させる作品、そして美術館の改装自体をテーマにした展示まで、多岐にわたります。
そのひとつ「新生タイポプロジェクト」と連動してか、コインロッカーの番号が、ひとつづつ違ったデザインになっています。キーを選ぶのもたのしくなります。
新旧のサインデザインを見比べられる展示は、フォント好き必見。
ユニバーサルデザインという観点からは現代のゴシック体ほぼ一択ですが、明朝体の〈順路〉も、どこか違う時空へいざなわれる感じがします。
日常では絶対に押せない非常ベルも、この展示なら押し放題です!

せっかくなので帰路は、アートイベントをめぐりつつ、ゆっくり広島まちあるきを楽しみましょう。

パイロンの奥、「みうら」のロゴが絶品です。

比治山下からひとつ広島駅寄り、稲荷町電停の交差点。
このあたりは路面電車のルートが変更される予定で、すでに着々と工事が進んでいます。
今から四年後、2027年に見られる光景が楽しみです。
そのころには、まちなかの案内図もいっせいに架け替えられるはずで、これも貴重な歴史的資料になります。
電車で移動するとなかなか気づきませんが、路側には、かつての広島のまちを記録する銘板があちこちにあります。
こちらは「Before/After」でも展示があった、原爆ドームの在りし日の姿、産業奨励館。

原爆ドーム周辺・旧広島市民球場の変化も印象的でしたが、それはまた別の記事で。

何かがおわって、何かがはじまる。
そして人々の生活はつづいていく。
広島というまちを訪れるたび、その力強い悠久のいとなみを感じます。

ひらく京都の底力 – 京都モダン建築祭

それは、いまからおよそ150年前のこと。

明治維新をむかえ、それまで千年以上も日本の首都であった京都は、その座を「東の京」と名付けられた東京に実質上、明け渡します。

そのころの市中の窮状は、まだ記憶に新しいCOVID-19による緊急事態宣言下のそれを上回っていたことでしょう。

けれど、そこからが京都のまちが底力を発揮するとき。
伝統をすべて捨て去るでもなく、新しいものをかたくなに拒むでもなく。

やがてこの地は、学校や美術館などの公共施設から民間企業、教会までがおりなすモダン建築の宝庫となっていきました。

そんな古くて新しい京都の建築がいっせいにひらかれる、京都モダン建築祭。

京都モダン建築祭

「京都モダン建築祭」は、京都で大切に守り継がれてきたモダン建築が、日時限定で特別に公開される、建築一斉公開イベントです。京都市、観光協会、まいまい京都など、官民が連携して実施しています。

大阪の〈通称イケフェス〉・生きた建築ミュージアムや、まち歩きツアー〈まいまい京都〉なども協力するとあって事前の期待も高まっていました。

第一回の会期は2022年11月11日から13日の三日間、なかなか情勢的にも人出が読みづらいところがあったと思います。
主催やボランティアスタッフのみなさまのご尽力に感謝します。

参加者側としても予想以上の人出に驚きましたが、みなさん行儀良く並びつつも熱心で、建築への敬意が感じられたのが印象的でした。
すべてを回りきることはできませんでしたが、一部を紹介していきます。

まずは平安神宮にも近い京都府立図書館から。

ちょうど、わたしが大学生になったころに改築され、何度か通ったことがあるので印象的な建物です。
…というと年齢がわかってしまいますね。
あれからもう20年以上経つと思うと我ながらおそろしいですが、京都の歴史からすれば一瞬のこと。

特別公開では外階段に登れるのと、竣工時に使われていた家具などの展示室が見られます。
かつては多くの図書館で使われていたという、半開架式書棚。

連携企画で、建築祭の関連書籍コーナーも公開されています。
時間があれば館内でゆっくり読みたいところですが、今回はリストだけいただいて、またいずれ。

京都モダン建築祭 関連展示(11月11日(金)~11月13日(日)) | 京都府立図書館

明日11月11日(金)から11月13日(日)まで京都モダン建築祭が開催されます。京都府立図書館では建物北側の外階段、3階の家具展示コーナーを特別公開いたします。あわせて3階ではレアな写真とテラコッタを展示しますのでぜひご覧ください。展示期間:1月11日(金)~11月13日(日)までの10時から17時まで※特別公開の見学には、京都モダン建築祭2022パスポートの提示が必要です。事前に購入・引き…

岡崎公園として整備されたこの一帯は、とにかく広大な敷地に多くの建築が集まっています。
紅葉を見つつ散策するのにうってつけです。

平安神宮の社務所では、大鳥居のかわいい模型が公開。
平安神宮の北西にある、京都市武道センター(旧武徳館)
その前庭の土俵にあった、京都市の水引幕とパイロン。

京都市京セラ美術館は、昨年のモダン建築の京都展など、何度も訪れていて大好きな美術館のひとつです。

本館横の「ザ・トライアングル」も意外な展示が無料公開されていることが多く、おすすめです。
現在は、フォントの文字組に使われる仮想ボディをテーマにした「仮想ボディに風」が開催中でした。

藤田紗衣:仮想ボディに風

藤田紗衣は、ドローイングを起点に、シルクスクリーンやインクジェットプリント、コンピューター画像加工ソフトを用い、版数の限定や地と図の反転、拡大など、自ら設定した制作上のルールに基づくイメージへの多面的

さらに新館では「アンディ・ウォーホル・キョウト」展が令和5年2月12日まで開催中で、見逃せません。

建築祭とは直接関係ないと思っていたら、ウォーホルが生前、京都に滞在した際のコーナーがあり、建築祭の対象となるウェスティン都ホテルの名前もありました。

展示自体もスマホでの写真撮影自由で、大量生産をモティーフにしたウォーホル作品が、観覧者自体の手で複製・拡散されていく仕掛けがおもしろい。

そろそろ建築祭の特別公開に戻りましょう。

すべてが絵になる京セラ美術館ですが、貴賓室の格天井はワンランク上ですね。物理的に。

ここから都ホテルまで、地下鉄東西線で一駅ですが、疏水沿いを歩いていくこともできます。

琵琶湖まで11km!

蹴上インクラインや琵琶湖疏水船も楽しそうですが、また次の機会に。

ウェスティン都ホテル京都では、村野藤吾の設計によるスイートルームや、空中の日本庭園をめぐる贅沢な時間を過ごせました。

遠くに平安神宮の大鳥居や市街地が見渡せます。

柱と天井の継ぎ目まで貼られた壁紙が美しい。

この調子で紹介していくと終わりそうにないので、泣く泣く割愛しつつ次のスポットへ向かいましょう。

烏丸線に乗り換えて丸太町駅、京都御所のとなりに広がる平安女学院の明治館キャンパス。

大阪から京都に移転してきたキリスト教女学院で、礼拝堂である聖アグネス教会とともに特別公開の対象となっていました。
今回、ほかにも多くの教会が公開され、寺社仏閣だけでない京都の奥深さを印象づけます。

現役で使われる建物の中に、歴史を感じる煉瓦やオルガンなどがそのまま残る不思議。
ここからは入れませんの教科書体と小さきパイロン優雅な扉
思わず短歌を詠んでしまうほど、細やかな気遣いにうたれます。
食堂らしき室町館地下のカフェも英国風に彩られ、この空間を普段使いできる学生さんたちがうらやましい。
ここは猫カフェなのか、と思うほど猫の写真があちこちに。
黙食の案内も、猫に注意されたら従わざるをえません。
近くの京都府庁旧本館も、まるで庭園のような空間。
ただ、ちょっと公開時間を勘違いしていて、議場などが見られず。

仕方がないので「文化庁がやって来ます」パイロンだけ撮って引き返します。

烏丸線に乗って、四条駅から少し西へ行くと、元成徳中学校にたどり着きます。
改修をくり返し、さまざまな用途で使い続けられる、年輪を刻むような天井の配線が印象的です。

ここから河原町までの繁華街、いつものにぎわいが戻っていて、人混みが苦手なわたしでも少し嬉しく思ったり。
京都BALの丸善京都店では関連ブックフェアも行われています。
個人的には旧店舗への思い入れが大きいのですが、それはまた別の話。

最後はフォーチュンガーデン京都(島津製作所河原町旧本社)を紹介します。
順番待ちの間にも、玄関の照明がつくりだす天井の影に目をうばわれます。

レストラン・ウェディング会場としての改修にあたっても、竣工時の武田五一デザインを多く残しているそう。

一階ごとに違う表情を見せる階段の踊り場、そしてエレベーター。
階段を登るたびに過去への旅をしているかのようです。

そして、次の100年、150年先に思いを馳せて。
このまちを歩けば、困難を乗り越えるヒントがきっと見つかります。

たまきわるいのちはいつか土へとかえる – 瀬戸内国際芸術祭2022 夏・豊島

香川・岡山の島々では瀬戸内国際芸術祭2022の夏会期が9月4日まで開催されています。
春会期と同じく無理せず、密を避けてのんびりと瀬戸内の自然を楽しみましょう。

無理せず楽しむ、瀬戸内国際芸術祭2022 – 春・沙弥島

前回の記事、 世界初の公共交通・DMVに乗って、むろと廃校水族館へ の翌日に高松を訪れました。

商店街では今回も芸術祭会期に合わせて、さまざまな催しが行われています。

丸亀町グリーン

高松丸亀町商店街の「おいでまい祝祭」。

丸亀町グリーン
中心となる丸亀町グリーンの「漂う椅子」。
丸亀町グリーン
時間が合いませんでしたが、ヤノベケンジさんの「モフモフ・コレクティブ」気になりますね!
みる誕生
高松市美術館では鴻池朋子展「みる誕生」が開催中です。

かわいくてちょっとせつない、いきものたちの姿を描く絵画・彫刻・インスタレーションと充実の内容でした。

豊島家浦港
続いては高松港から豊島(てしま)家浦港へ向かいます。
タコタコ海上タクシー
タコタコ海上タクシー気になります。屋根にうっすら残るのもタコのイラスト…?
豊島横尾館
家浦港近くには横尾忠則さんと建築家・永山祐子さんの「豊島横尾館」があります。
昔のパソコンやゲームのようなビットマップフォントのロゴが印象的。
豊島横尾館
母屋の中は撮影禁止ですが、庭の鯉が床下を通りぬける様子が楽しめます。
なかなかタイミングよく鯉がこない。
針工場

少し歩いて、大竹伸朗さんの「針工場」まで。
漁船の木型を莫大小(メリヤス)針工場におさめた作品です。
となりの資料館にも映像や関連書籍の展示がありましたが、あまり時間がなく、じっくり見られなかったのが惜しい。

かげたちのみる夢
バスで島の南、甲生(こう)漁港まで。

冨安由真さんの「かげたちのみる夢」。廃屋のような古民家に、小泉八雲「和解」をモチーフにした幻想的な空間を生み出します。

かげたちのみる夢
かげたちのみる夢
今はもうない祖父母の家で過ごした夏休みを思い出し、たまらない郷愁を感じます。
種は船
港では日比野克彦さんの「種は船 TARA JANBIO」の船が泊まっていました。

ガイドブックでは粟島aw11として紹介されていますが、夏会期は豊島で活動されるそうです。海から発掘されたものの収集、展示を行なっています。
こちらも帰りのバスの時間が迫っていたので、あまりゆっくり見られず。
のんびりと、と言っておきながら時間に追われるのはよくないですね。

いったん家浦港まで戻ってバスを乗り換え、唐櫃岡(からとおか)まで。

島キッチンは予約制なのを忘れていましたが、カレーとドリンクだけなら空きがあればテラス席で食べられるそう。

唐櫃岡の清水

実に見事な石組が歴史を感じさせます。
古くから豊島の人々に大切にされてきたという、唐櫃の清水(共同用水場)があります。

荒神社
神社の鳥居をはさんで清水の反対側には、青木野枝さんの彫刻「空の粒子」がただずみます。
空の粒子

制作から十年ほど、作品もまわりの自然とじょじょに溶けこんでいくよう。

西本喜美子写真展

少し集会所のほうまで戻り、「西本喜美子写真展 ひとりじゃなかよ」へ。

70代になってから写真を始めたという西本さん、その独創的な写真とキャプションに思わず笑みがこぼれます。
書籍も手にとって読めるようになっていました。

西本喜美子写真展

台所の裏にもこっそり作品があるのでお見逃しなく。

さて、いよいよ最後は豊島美術館に向かいます。

ゆっくりと港の方へ下り坂を歩いていくと、突然視界が広がり、瀬戸内海が一望できます。

豊島
サイクリングの人々も次々に歓声をあげて通り過ぎていきます。

芸術祭をきっかけに周辺の棚田の再生も進められており、豊島美術館はその中腹にあります。
芸術祭パスポートは使えないのでオンラインで事前予約が必要です。

豊島美術館 | アート・建築をみる | ベネッセアートサイト直島

豊島美術館の美術館鑑賞案内・料金、アーティストなどの情報をご覧いただけます。

豊島美術館
周囲と調和する、低いコンクリート造のミュージアム本館とショップ。
豊島美術館
ロゴは信頼の筑紫明朝ですね。

すべて豊島に自生する植物、雑草を選んだという庭を回遊しつつ建物に入ります。

豊島美術館

建物内は撮影禁止、物音すら立てるのをはばかられる静寂が支配します。

モノクロームの空間に、大きな開口部から自然の光がふりそそぐ。
床からは「母型」とよばれる小さな泉があちこちから湧き出し、水たまりを作りつづける。
表面張力でつくられるみずたまをじっと見つめていると、まるで生命のようで。
やがて重力にひかれ、また別の穴に吸いこまれていく。

はじめての探訪でしたが、また何度でも来たいと思わせる、島と一体となった魅力を実感しました。

みずたまは生きもののよう玉きわるいのちはいつか土へと還る
—— 和泉みずほ