瀬戸内国際芸術祭2019 – 四国を感じる、高松まちあるき

久しぶりの更新となりました。

夏真っ盛り、瀬戸内では三年に一度の瀬戸内国際芸術祭2019 夏会期がスタートしています。

瀬戸芸はアートと自然、地元の暮らしが融合した島めぐりが大きな魅力ですが、人出と日射しが心配…という方には、高松市街のまちあるきもおすすめです。

以前戦後を感じるモダニズム建築 – 香川・高松まちあるきという記事も書きましたが、今回はまた違ったスポットをご紹介しましょう。

 

まずは四国の玄関口、JR高松駅・高松港から東へ少し歩くと、香川県立ミュージアムがあります。

9月7日(土)までは特別展、祭礼百態ー香川・瀬戸内の「風流」が開催中です。

この地方に古くから伝わる祭礼・民俗芸能を描いた絵図や、祭りに使われる屋台・獅子舞などが展示されています。

ふさふさしてますね…!

地元の小学校児童が手作りした獅子舞もかわいい。

 

ミュージアムの東に広がる北浜エリアは、昭和初期に高松港の貨物一時保管場所として栄えた倉庫街です。

現在は倉庫街をリノベーションした北浜alleyとなり、雑貨屋さんやカフェレストランが集積しています。

瀬戸内国際芸術祭2019では「北浜の小さな香川ギャラリー」としてアート作品の展示も行われています。

丸亀うちわの骨6000枚を使った西堀隆史さんの「内輪の骨の広場」。

ドットアーキテクツと香川県立高松工芸高校の「Living Traditional Crafts」は、工芸・クラフトが織りなす絵巻風ものがたり。かわいいものは分け隔てなく大切にしたくなります。

そのとなり、石原秀則さんの「うどん湯切りロボット」からは、さぬきうどんの正しいつくり方を教わります。ハイテク!

 

さて、高松港に戻り、ことでん高松築港駅から中心街に向かいましょう。

ジュリアン・オピーの「銀行家、看護師、探偵、弁護士」は、地元産の石でまちを行くさまざまな人をかたどります。

ことでんといえば、シュールなマスコットキャラクターのことちゃんですね。ことでん100周年の2011年に恋人のことみちゃんとご結婚(おめでとうございます)。

今日もお子さんと三人で大活躍です。ぽい!

片原町、あるいは瓦町で下車して、高松丸亀町商店街を歩きます。

最寄り駅がふたつあることからわかるように、隣接する商店街を合わせると大阪の天神橋筋商店街に匹敵する長さを誇ります。

さて、ちょっと変わったねこのポスターは…?(←二通りの読み方が可能)

ヤノベケンジさんのパプリックアート「SHIP’S CAT」でした。瀬戸内国際芸術祭の連携事業「祝祭」のイベントとして、8月15日まで商店街を歩きまわるそうです。

ボラードに乗った猫、実に神々しいですね。

まちあるき恒例の看板タイポさんぽもいきましょう。「3びきの子ねこ」、〈3〉と〈子〉のフォルムを似せてあるのが良いですね。

近くには「3びきの子ぶた」もあります。こちらは果実店のイートインコーナーで、ジュースやジェラート、サンドウィッチを味わえます。

 

今回はひとまずここまで。次回は高松市美術館での展示や、郊外のスポットをめぐります。

 

 

百万塔陀羅尼の縁がつなぐ、文字と印刷の歴史

今回はまず、こちらの画像をご覧ください。

バームクーヘンのような色と形がかわいい、これは百万塔陀羅尼(ひゃくまんとうだらに)といいます。

 

作られたのは奈良時代、西暦765年(天平神護元年)から770年(神護景雲4年)にかけて。

時の天皇・称徳天皇の命によって、百万枚の陀羅尼(仏教の梵文を訳さずに唱える経文)を印刷し、それを小さな三重塔に入れて南都各地の寺に納めたものです。

なんと、つくられた年代がはっきりしている世界最古の印刷物なのだそう。

 

称徳天皇は聖武天皇の娘で、孝謙天皇として即位して譲位したのち、尼となってからふたたび天皇位につき、僧の道鏡を寵愛したことでも知られます。

天平神護や神護景雲という、日本史上他に類を見ない四字元号の時代は、中国や仏教への傾倒が強まり、それまでとは違うかたちの国づくりが行われていきます。

グーテンベルクの活版印刷術が、ルターの「42行聖書」を大量に複製するために生まれたように。

今までになく多くの人に教えをつたえ、ひろめる手段として、印刷という複製技術が活用されことは洋の東西を問いません。

その思いは、千年以上も経った後世の人々にも連綿と伝わっていきます。

 

さて、この百万塔陀羅尼、実はあちこちの博物館で見かけることができます。

 

まずは東京の印刷博物館、総合展示ゾーンに百万塔陀羅尼はあります。

写真撮影は禁止ですが、ミュージアムショップで手に入れられるガイドブックでも解説されています。

ちなみに、2019年1月20日まで開催中の企画展「天文学と印刷」展も、内容だけでなく展示の雰囲気も素晴らしいので必見です。

(企画展開催中は入場料一般800円・総合展示のみの入場は不可。企画展が開催されていないときは300円)

 

同様に期間限定ですが、丸善日本橋店などで開催されていた、京都外国語大学図書館の稀覯資料「世界の軌跡を未来の英知に」展でも見ることができました。

『百万塔陀羅尼』

No Description

愛知県では、西尾市岩瀬文庫の常設展示が行きやすいでしょう。写真撮影可能のため、冒頭の百万塔陀羅尼はこちらのものを使用しています。

ここも企画展や製本ワークショップなどもあって、本好きの方にはとくに楽しめる場所となっています。

 

関西の方なら、大阪のフォントメーカー・モリサワ本社ビルのMORISAWA SQUAREで、印刷とフォントの歴史を学ぶことができます。

見学には予約が必要ですが、セミナーやイケフェス大阪の日には無料で一般公開されます。

 

そしてもちろん、本家本元である奈良・法隆寺の大宝蔵院には、大量の百万塔陀羅尼が納められています。

(参拝料一般1,500円)

 

いずれも百万塔陀羅尼が主目的というわけではなく、気になるテーマの展示を見にいったり、友人に誘われて訪ねた場所で、ふと百万塔陀羅尼に出逢えるのは、とても幸運な縁を感じます。

とくに、年末にひょんなきっかけで訪れた法隆寺で百万塔陀羅尼に再会したことで、その由来をしっかり調べ直す気になり、このブログ記事を書くことができました。

来年も、良いご縁がありますように。

 

大阪の中心・国立国際美術館で、40の物語を発見する旅

水都と言われる大阪市の中心といえば、どこでしょうか。

それは、堂島川と土佐堀川にはさまれた中之島地区。

江戸時代には各国の蔵屋敷が集まり、明治維新のあとも図書館や中央公会堂など歴史的な近代建築が立てられ、関西経済の中心地として栄えました。

この中之島の地に、国立国際美術館という美術館があります。

もともと大阪万博の万国博美術館を活用して、1977年に開館した国立国際美術館を移転したもので、去年、2017年で創立40周年を迎えました。

40周年を記念して、「トラベラー:まだ見ぬ地を踏むために」という特別展が5月6日(日)まで開かれています。

開館40周年記念展「トラベラー:まだ見ぬ地を踏むために」― 国立国際美術館(NMAO)

国立国際美術館は1977年に開館し、2017年に開館40周年を迎えました。これを記念する特別展「トラベラー:まだ見ぬ地を踏むために」を開催します。

今回は、3月31日(土)の一日だけ開催された「40の物語を発見する旅」の様子をご紹介します。

 

美術館へは、大阪市営地下鉄(現:Osaka Metro)四つ橋線肥後橋駅から徒歩10分、または京阪中之島線渡辺橋駅から徒歩5分ほど。

当日は、ちょうど民営化される大阪市営地下鉄の最後の一日でした。こちらも明治時代から大阪の歴史とともにある存在、その節目となる日にめぐりあえたことは感慨深いです。

 

筑前橋を渡り、中之島方面へ向かいます。

大阪市立科学館のとなりに、天に翼を伸ばしたような特徴的な建物が見えてきます。

建築家シーザー・ペリによる、竹をイメージした設計だそう。ガラス張りのエントランスから、地下に入ります。

地下の受付で「40の物語を発見する旅」の案内を受け取ります。

展示だけでなく、建物、内装など、国立国際美術館にまつわるさまざまなものが40の丸カードに。

その場所を見つけたらカードを切り抜いて、裏面に書かれた「物語」を読みながら、リングにとじていきます。

カードの束が少しずつ厚くなり、自分だけの順番で、ものがたりがつむがれていきます。

たとえば、床やトイレの内装が、階によって印象が変わるように異なる色や素材でデザインされているという物語。

あるいは、繊細な作品に鑑賞者が近づきすぎないよう設置される「結界」が、展覧会ごとによってスタイルが異なるという物語。

まるで、まちあるきを楽しむような視点に気づかせてくれます。

美術館に行くと、どうしても展示だけに目を奪われがちです。

けれどそれ以上に、その建物、空間に目を向けると、もっと自由な楽しみがひろがります。

 

 

現代日本の般若心経 – 柳宗悦、平野甲賀、みうらじゅん

仏教の経典のひとつに「般若心経」があります。

「色即是空、空即是色」などの句が並べられ、短い文章の中に仏教の思想が簡潔に表されているといいます。

今回は、今年(平成30年)3月まで東京近郊で味わえる、現代日本ならではの三つの「般若心経」をご紹介します。

 

まずは、目黒区駒場にある、日本民藝館を訪れます。

大正末期、従来の権威や様式にとらわれない「民藝」という美の概念を提唱した柳宗悦が、その活動の中心とした博物館です。

こちらでは3月25日まで、特別展「棟方志功と柳宗悦」が開催されています。

展示|日本民藝館

日本民芸館の世界へようこそ。ホームページ。総数約1万7千点を数える。

柳宗悦と生涯を通して交流のあった版画家・棟方志功の作品を、両者の間で交わされた書簡とともに紹介しています。

ポスターに使われている「心偈(こころうた)」は、柳宗悦が仏教の浄土思想にもとづいてあらわした句を、棟方志功が版画にしたもの。

簡潔なことばのなかに想いを込める心偈は、民藝とも般若心経の思想と共通するものであり、心を打たれました。

実際に般若心経そのものの書も展示されており、壮観です。

 

日本民藝館の近くには駒場公園、改装中ですが旧前田侯爵家や日本近代文学館もあり、落ち着いた雰囲気で散策が楽しめます。

すこしだけタイポさんぽ。

具体的な一にくらべて、二がざっくりしすぎでは。

 

「宇宙支」とは…!?

 

さて、次は銀座に向かいます。

通りの向かいにある商業施設「GINZA SIX」の外観に目を惹かれていたら、なるほど、銀座6丁目だから、この名前なのですね。

手前の看板の丸ゴシックもかわいいです。

 

その先、銀座7丁目にあるのが、大日本印刷が運営するギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)です。

こちらでは3月17日まで、「平野甲賀と晶文社展」が開催中です。入場は無料ですが、日曜・祝日は休館なのでご注意。

三十年近くにわたって平野甲賀さんが装丁を手がけた晶文社の本と、それ以外のさまざまなポスターなどを展示しています。

とくに近年の平野甲賀デザインといえば、このように描き文字ともフォントとも似つかない特徴的な「文字」。

そんな平野甲賀の文字で書かれた「般若心経」が展示の一角にあり、とても驚きました。たしかに一文字ずつ、じっくり見るのにふさわしい題材です。

晶文社の出版物も含め、どれだけいても飽きないかもしれません。

 

さて、最後は東京を離れ、川崎市へ。

JR・東急武蔵小杉駅から、さらにバスを乗り継ぎ、川崎市市民ミュージアムに向かいます。

今回の主目的のひとつである、みうらじゅんフェス(MJ’s FES)が3月25日まで開催中です。

MJ’s FES みうらじゅんフェス!マイブームの全貌展 SINCE 1958 | 川崎市市民ミュージアム

川崎市市民ミュージアムは、「都市と人間」という基本テーマを掲げて1988年11月に開館した博物館と美術館の複合文化施設です。常設・企画展や映像の定期上映を始めとして、講座やワークショップなど様々な事業を展開しています。さらに地域の皆様の文化活動に利用していただくために、ギャラリースペースや研修室など施設の貸出しを行っています。

マイブーム、ゆるキャラといった言葉を生み出し、「ない仕事」をつくり続ける、みうらじゅんさん(カラーバス効果で「つながる」読書の楽しみ方)。

そんなみうらじゅんさんの、小学生時代からの膨大な創作とコレクションが一堂に会する特別展です。

ちなみに冒頭の挨拶、「川崎市民ミュージアム」と誤記したあとで「市」を追加しているのですが、外の立て看板を見ると…

その「市」の活字が欠落しています。どっちが正しいのか?

 

それはともかく、展示の目玉は「アウトドア般若心経」なのです。

路上の看板やポスターから漢字一文字ずつを拾い上げ、般若心経を完成させる。

広告あり、選挙ポスターあり…。

日常の中から立ち上がってくる「色即是空」には、ひとりの人間が書き上げたそれとは違った感慨があります。

いや、書いたのは別々の人でも、この文字の中から般若心経を見出したのはまぎれもなくみうらじゅんさん、その人。

「アウトドア般若心経」に限らず、他の展示も単なるコレクションではなく、みうらじゅん視点で集められたものだからこそ、面白さが際立ってくるのです。

まさに空即是色。「みうらじゅんフェス!」という言葉に恥じない、壮大な試みでした。

 

広島乗り物めぐり – ヌマジ交通ミュージアム

今回も広島偏愛シリーズの記事です。

以前、広島市街に泊まるときは、新白島駅の乗り換えを活用しようにという記事を書いたのですが、先日の旅行の折も、自分でそれに従って(笑)本通からアストラムラインを利用しました。

そうして、新白島駅で乗り換えようとしたところ、ふと「広島乗り物めぐり」という車内広告が目にとまりました。

気になってよく見てみると、ちょうど会期中ではないですか。

開催場所のヌマジ交通ミュージアムというのは初めて聞きましたが、どうやらアストラムラインでそのまま向かえるようです。

わたしの知らない広島がすぐそこにあるなら、行ってみないわけにはいかない…!

 

 

ということで、急遽予定を変更し、向かうは新白島駅から先へ行くこと13駅、長楽寺駅です。

駅構内には「アストラムラインに沿って歩いてね(^_^)/」というわかりやすい案内が。

 

アストラムラインを運行する広島高速交通株式会社の本社のとなりにミュージアムがあります。

 

この妙に陽気な顔の子はヌマジロウといって、沼田自動車学校のキャラクター だそうです。

アストラムラインなのに自動車学校…!?

どうやら、「ヌマジ交通ミュージアム」という名前もネーミングライツによって2015年から使用されているものだそう。

名鉄自動車学校のようにグループ会社ではないようです。

Numaji Transportation Museum/ヌマジ交通ミュージアム

No Description

 

パイロン埋まってます。

 

入館料は大人510円。アストラムライン長命寺駅で利用証明書をもらうと100円引きになります。

 

広島乗り物めぐりは、アストラムライン、スカイレール、路面電車(広島電鉄)という広島にゆかりのある三つの交通機関をテーマにした企画展です。

それぞれのイメージカラーをアクセントにしたロゴがかわいいです。

 

スカイレールというのも初耳でしたが、広島市安佐区、JR瀬野駅から住宅街を結ぶ路線とのこと。

標高差があるのでロープウェイのようなワイヤーロープを使いつつ、駅構内はリニアモーター制御という珍しい駆動方式。

 

各車両に使われる部品がいろいろ展示されています。

いわゆる「次とまりますボタン」。わざわざ展示するとは…。

アストラムラインの座席、「すわることができます!!」と強調されています。いや、ここに来るまで存分に座ってきたのですが(^^;

 

企画展以外でも、ヌマジ交通ミュージアムは電車、船、自動車をはじめ、さまざまな乗り物の模型や資料が展示されています。

科学館のような趣で、子供連れで来ても楽しそうです。

京都市電など、全国各地の廃線となった路面電車から車輌を譲り受けてきた広島電鉄。模型もまた、この広島の地に集います。

 

3Fはパノラマ模型エリアになっていて、いろんな乗り物をスイッチ操作で動かして遊ぶことができます。

フェリーの積み荷おろしも!

 

屋外にはゴーカートがあったり、原爆の被害に遭った被爆電車(650形路面電車)が展示されていたり。

市街地からずいぶん離れたところでも、またひとつ、広島の素敵を見つけることができました。