文化庁「常用漢字表の字体・字形に関する指針」から読み取る三つのこと

文化庁から、文化審議会国語分科会・漢字小委員会での審議をまとめた「常用漢字表の字体・字形に関する指針」が公開されました。

原文はこちら。

http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/jitai_jikei_shishin.pdf

200ページ以上ある資料ですが、半分は字形比較表ですし、その前のQ&Aだけ読んでも面白いです。

 

ざっくり言うと、大切な三つのことが書かれています。

 

1.字体と字形について

形が違うことで、違う漢字とされる文字の骨組みが「字体」。
たとえば「学」と「字」は違う字体です。

形が違っても、同じ漢字とされるのが「字形」。

そして、このような字形の違いを、漢字ごとに一定の特徴をもたせたものが「書体」。
明朝体とゴシック体といったフォントの違いが、まさにこれにあたります。

jitai_jikei

ちなみに。書体とフォントはもともと別の意味の言葉ですが、一般的には同じ意味で使っても問題ない、とQ.13の回答にあります。

なので、このサイトでも大手を振って「フォント」を書体の意味で使います(笑)

 

 

2.手書き文字と印刷文字の違い

明朝体は、手書き(楷書)とよく似ていますが、違うところがあります。
たとえば、「去」などの文字の左下は、明朝体では突き出ていますが、ふつう手書きでそうは書きません。

「入」などの文字も、フォントによっては筆押さえとよばれる字形になることがあります。

jitai_jikei_2

 

実際に、教科書ではこの違いで混乱する児童がいることから、わざわざ専用のフォント(教科書体)が使われていたりします。

 

3.手書き文字では、あまり細かい字形の違いは問わない。

コンピュータの世界では、違う字体であれば区別しなければいけない、けれど同じ漢字でも字形が違うこともある…と、既に非常にややこしいことになっています。

ですが、手書き文字においては、あまり細かいことは言わなくてもいい、ということなのだそうです。

印刷やコンピュータ上のフォントと同じ形で文字を書く意味はないし、点画をとめるかはねるか、長いか短いかまで統一することはしないというのが、本来の漢字の伝統だとされています。

Q3 多様な手書き字形を認めるのは,漢字の文化の軽視ではないか

   それぞれの漢字を手書きする際に,様々な字形を認めることは,漢字の文化をないがしろにし,壊してしまうことにつながりませんか。

A 手書き文字の字形に多様性を認めるのは,むしろ,漢字の文化に基づく考え方です。この 指針は新しい考えを示すのではなく,本来の漢字の伝統を知ってもらおうとするものです。

たしか、わたしがこどもの頃は、テストで木へんの下をはねて書いたりしたら×をつけられたと記憶しています。

しんにゅう(しんにょう)辶 も、常用漢字表では、「近」はひとつだけれど「遡」はふたつ、というように漢字によって違います。

こういうのも、ちゃんとその通りに区別して憶えたものですが、手書きでは点一つで書いても良いのだそうな。し、知らなかった…。

そもそも、点の下の書き方にしてから、印刷文字ではまっすぐですが、手書きでは曲げて書きますしね。

 

 

文字は、長い歴史の中で変化しながら受け継がれてきたもの。

大事なのは、「正しい文字」にこだわることではなく、「伝わる」かどうか。それがそもそもの文字の役割だということですね。


丸明オールド

前回は、日本語フォントの基本形である明朝体とゴシック体についてお話ししました。
そして、ゴシック体には丸ゴシック体があることをお話ししました。

それなら、丸明朝体というものはないの?

はい、あるんです。

それが、カタオカデザインワークス(現・砧書体制作所)の丸明オールド。

丸明朝体

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※制作者の片岡朗さんが書かれた「文字本」(誠文堂新光社)の表紙から引用しています

明朝体の特徴である、ウロコのところが丸くなっています。

 

はじめて使われたのは、サントリーモルツの広告。

明朝体の伝統を活かしながら、まったく新しい丸明朝体というカテゴリーを作り出したフォント。
それが話題になり、今ではさまざまなところで目にすることができます。

 

たとえば、新しい東京土産として評判の、「東京カンパネラ」。
【東京のお土産】人気のお菓子は「東京カンパネラ」!

 

そして、ここでも。

あなたの思う福島はどんな福島ですか?

今日も生きていることに感謝。南相馬市出身、広報課の久保川です。
いつも福島県に心を寄せていただき、本当にありがとうございます。

本日の全国紙朝刊をご覧になったでしょうか。県のクリエイティブディレクタ…

ふくしまから はじめよう。さんの投稿 2016年3月11日

東日本大震災から5年、全国紙朝刊に掲載された福島県の全面広告にも、丸明オールドが使われています。

 

実を言うと、これを知って、その想いに胸を打たれ、すぐにこの記事を書きたくなりました。
伝統と、新しさ。未来への挑戦。

そんな想いを伝えるのに、ぴったりなフォントです。

明朝体とゴシック体

今回は、日本語フォントの基本形、明朝体とゴシック体についてお話しします。

Google Fonts の説明をしたときに、明朝体とゴシック体を引き合いに出したのですが、そういえば、このふたつの違いをしっかり解説してないな〜、と思い至りました。

 

あるフォントが、明朝体なのかゴシック体なのか。
見れば、なんとなくわかる、という人は多いと思うのです。

 

じゃあ、具体的に何が違うのか? と訊かれて答えられるでしょうか。

 

実際に並べてみましょう。

mincho-gothic

 

明朝体(みんちょうたい)は、その名の通り、中国の明の時代ごろに使われていた文字を基にしたフォント。
なので、筆遣いを表現する、「ウロコ」があるのが特徴です。

小説の本文など、伝統や格調の高さを感じさせるフォントです。

 

ゴシック体は、もう少し幾何学的なかたち。
基本的には、横棒と縦棒の長さが同じになるように作られています。

読みやすく、現代的な印象を受けます。
もちろん同じ明朝体・ゴシック体の中でも、フォントによってその形は様々で、そこに個性が出て面白いところ。

 

街にあるさまざまな看板。

本屋さんに並んでいる本の表紙。

 

眺めながら、どうしてこのフォントを使っているのか? ということを考えると面白いです。

 

ちなみに、街にあるゴシック体の中には、線の角が丸い、いわゆる「丸ゴシック体」が多いことに気づきます。

 

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なんだか、ちょっとなつかしい感覚をおぼえます。

なぜ、日本の看板には丸ゴシック体が多いのか?
気になった方は、こちらの本をどうぞ(笑)