まちの記憶をたどる – ひろしま地歴ウォーク

前回の記事で、よく知った場所で、まだ訪れていないスポットを回るのが好きだという話をしました。

わたしにとって、よく知った場所のひとつが広島です。

(以下、広島といえば県名ではなく市をさします)

先日、広島に行ったときは、あえて事前にあまり予定を決めずに、現地で気になるスポットを見つけてみることにしました。

そして当日、地元の本屋さんで、そんなまちあるきにうってつけの本を見つけてしまいました。

広島地理教育研究会という団体が中心になって、広島の地理や歴史を学びつつ、まちを歩いてみるという本です。

広島といえば原爆の被害からの復興という側面がクローズアップされがちですが、もっと昔からの、まちのなりたちを知る手がかりがあちこちに隠されています。

地図を眺めれば、このまちが瀬戸内海に注ぎ込む川によってつくられた三角州、通称「広島デルタ」の上にできたということがわかります。

暮らしの中で、水とのかかわりも深く、干拓によって土地を広げたり、氾濫を防ぐための治水事業が行われたり。

そんな歴史を、この本を通して知ることができます。

中でも、こうの史代さんの「この世界の片隅に」にも登場した江波は、干拓によって戦前から戦後にかけて風景ががらりと変わった代表的な土地です。

今まで行ったことがなかったので、この本を片手に訪れてみることにしました。

今まで、なぜ、エバに行かなかったのか? と問われても仕方がありません。

ともあれ、江波です。

広島電鉄で、JR広島駅または横川駅から江波行き終点まで。別の行き先の路線があるので、紙屋町などで乗り換えましょう。

ちなみに、広島電鉄では2018年3月17日(土)から、オリジナルのICカードPASPYとJR西日本のICOCA以外に加え、全国の交通系ICカードが使えるようになりましたよ…!

ちゃんと車内放送も「PASPYの方は」ではなく「ICカードの方は」という自動音声に変わっていました。

「舟入○○」という電停をいくつも通り過ぎ、まっすぐ走っていた電車は、突然ななめに道路を曲がり、江波車庫手前の電停で停車します。

なぜ、この道路が曲がっているのか? という理由も、本を読めば明らかになります。

 

南に進むと、高速道炉の高架が見えてきます。

もう少し行くと、江波山には天気専門の博物館・江波山気象館もあるのですが、この日はあいにく休館日。

この高架下の空き地の一部が、「歴史の道」という江波を紹介するスペースになっていました。

右のキツネが持っている旗をよく見ると「For ever ほぉ〜江波!」と書いてあったりします。

全国各地の観光案内図を描いた絵師として有名な、吉田初三郎による江波の鳥瞰図です。

養魚場としての江波の様子が描かれています。

いまも江波港の近くには、海神である大綿津見神をまつる海神宮があります。

被爆建物としても指定されています。

 

このほかにも、「ひろしま地歴ウォーク」には多くの土地の歴史が語られており、実際に歩いてみたくなる場所ばかり。

まちを歩くということは、その土地に生きた人々の記憶をたどり、耳をかたむけるということにほかなりません。

 

 

この世界に生きる、すべての人へ – 映画「この世界の片隅に」

以前も紹介した、こうの史代さんの漫画を原作とするアニメーション映画「この世界の片隅に」が公開されました。

11月12日(土)全国公開 劇場用長編アニメ「この世界の片隅に」公式サイト

監督:片渕須直、原作:こうの史代、音楽:コトリンゴ、制作:MAPPA 声の出演:のん 細谷佳正 稲葉菜月 尾身美詞 小野大輔 潘めぐみ 岩井七世 / 澁谷天外 ほか。11月12日(土)全国公開 劇場用長編アニメ「この世界の片隅に」の公式サイトです。日本中の思いが結集! 100年先も伝えたい、珠玉のアニメーション

昭和19年から20年。広島から呉に嫁いだ少女、すずの視点で描かれる世界。

それは、まるで超細密なモザイク画、あるいはジグソーパズルのよう。

戦時中の日本を舞台にしていながら、戦争を前面に出したテーマとはしていない、日常の物語。

だからこそ、一面的でない視点から、戦争に向き合っているともいえます。

 

にぎわいを見せる、広島市中島新町(現在の平和記念公園)。

軍港としての呉。

空襲を受ける瀬戸内海。

 

個人的に偏愛する広島の、何度足を運んでも、もう見られない風景がそこに広がっていました。

 

そして、この世界をジグソーパズルと形容した理由は、すべてのピースに意味がある、細やかな描写まで伏線が張りめぐらされているということ。

それでも、物語は基本的にすずさんの視点で進んでいくので、細かい説明などは入りません。

もともと原作が大好きで、映画の公開前に呉市立美術館で開催されていた原画展にも足を運んだので、それぞれのシーンに込められた意味を思い、もう序盤から泣きそうになってしまったり。

思わず館内のあちこちで笑い声が漏れるほど楽しいシーンもいっぱいあるので、ほんとうは泣ける映画という表現はしたくないのですけれど。

まず何も知らない状態で観に行ってから、原作や映画公式ブックに触れると、新たな発見を得られるかもしれません。

 

 

誰もがみんな、この世界の片隅に生きている。

そうして、同じ時代に生きている他の誰かと出会い、別れ、新たな生をつむいでいく。

 

その意味を、何度でも何度でも考えたくなります。

 

さいごに、呉に行ったときの写真を。

kure_konosekai-3

kure_konosekai-1

はんこ屋さんも「この世界の片隅に」を応援。

 

kure_konosekai-2

美術館の手前にある、呉線の高架下近くの建物。現在は、海上自衛隊呉集会所になっているそう。

映画の中でも、外観は異なりますが当時の姿が少しだけ登場します。

 

kure_konosekai-5

その建物の片隅に、ひなたぼっこする猫の姿が。

なんとも幸せそうで、印象的な光景でした。

kure_konosekai-4

 

 

 

こうの史代が描き出す世界の風景 – 日の鳥・この世界の片隅に

今回は、漫画家・こうの史代さんの作品をご紹介します。

 

一匹の雄鳥が、東日本大震災で生き別れた妻を探して東北各地を巡るという形で描かれたスケッチ集。

震災の爪痕が残る風景。

日常を取り戻しつつある風景。

ときに重いテーマを扱いながら、こうの史代さんが描き出す世界は、いつでもあたたかい。
その世界観が、とても大好きな作家です。

 

そして、もう一作。

戦中の広島県呉市の日常を描く作品。

こちらは劇場アニメ化が決定しています。

 この世界の片隅に カット18大正屋呉服店この世界の片隅に - レイアウト原図 カット18の2

こちらの画像は、クラウドファンディングでの制作支援メンバーを対象にしたメールマガジンで、自由に公開・拡散が許可されたものです。

 

2016年秋の劇場公開を前に、呉市立美術館で7/23(土)から11/3(木)まで「マンガとアニメで見る こうの史代『この世界の片隅に』展」が開催されます。

お近くの方も、そうでない方も、ぜひどうぞ。

もちろん、わたしも行く予定です!

 

きっと見る人それぞれに、さまざまな感情を呼び起こす、こうの史代作品。

その世界が、より広がっていくのが楽しみです。