世界に一つの、誰かの字 – 美しい日本のくせ字

パソコンやスマートフォンの普及で、手書きで文字を書く機会が減っています。

わたしも社会人になって、ほとんど文字を手で書かなくなる時期がありました。

たまに書いた文字を人に見られるのも、字が下手だ、読めないと言われる反応が怖くて恥ずかしくなり、ますます文字を書くことにためらいをおぼえるようになりました。

なんだかあまり好きになれなくて恥ずかしい…と思って、

そんな想いを、まったく違う視点から覆してくれるのが「手書き文字収集家」井原奈津子さんの、こちらの本です。

冒頭から、ほとんど読めないダウンタウンの松本人志さんの文字。それでも、この自由闊達さは、たしかに松本人志さんを感じます。

あるいは、文字だけで怖さを感じる稲川淳二さんの文字。

そういった有名人の文字だけでなく、サンリオの絵本や「いちご新聞」に書かれていた文字、少女漫画雑誌「りぼん」連載作品の文字など、どこかなつかしい、かわいい丸文字も。

 

日本人であれば誰でも…どころか、日本人でなくても、日本語を知らない人でさえ、その人だけの「くせ字」があります。

そこには、生まれ育った場所や、時代を背景にしつつ、その人なりに、文字で相手にどういうことを伝えたいのか? という想いが乗せられています。

もちろん、他人に見せるつもりのないメモ書きや日記といったものもありますが、それだって「未来の自分」に宛てたものと考えられるでしょう。

他人が見ることを意識した文章と、そうでない文章が異なるように、「文字」の書き方自体にも、その人の考え方、人との接し方がにじみ出てくるように思います。

 

本書には、駅構内の案内文字をガムテープで表現し、一部で「修悦体」として話題になった佐藤修悦さんの手書き文字も紹介されています。

佐藤さんも自分用のメモ書きは修悦体とはまったく異なるものの、若いころに「ゴシック体」に魅せられ、人に見せる文字はすべて自身の解釈でいう「ゴシック体」で書き続けてきたのだといいます。

 

そうやって、誰かが作った文字が長く、多くの人に愛されていくことで、文字はやがて一人の手から離れ、フォントという形に昇華します。

たとえば、映画字幕の文字。

戦前から職人の手で書き続けられてきた、この独特の字形は、さまざまなフォントとして再現されています。

ニューシネマA D|書体見本|FONTWORKS | フォントワークス

フォントワークスは筑紫書体やロダンなど日本語書体・フォントの販売、OEM書体・フォントの開発、LETSを提供しています。

シネマレター | 書体見本 | モリサワのフォント

「シネマレター」は、およそ30年にわたり、映画字幕文字を書き続けている職人の文字をもとに作成されました。映画の字幕は、書いた文字から版を起こし、フィルムに直接、文字を刻みつけていました。その際に版とフィルムがはがれやすいように、画線に隙間をあけて文字を描くのが通例でした。また、スクリーン上で文字が見やすいように独特の骨格で設計されており、画線の両端に筆止めを持たせているのも映画字幕文字の特徴…

TypeBank フォントファミリー TBシネマ丸ゴシック

株式会社タイプバンクはアウトラインフォント、ビットマップフォントのデザイン、販売、普及およびフォントに関するテクニカルコンサルティングなどを行います。 本明朝、ナウシリーズ、UD書体シリーズなどバリエーション豊かな書体を提供します。

 

 

まちなかで見かけるフォントも、元はどこかの誰かの文字だった。

そう考えて見ると、自分のくせ字も、まわりの人のくせ字も、新たな魅力を感じとることができるかもしれません。