よみがえる昭和SFの残照 – 愛媛県美術館 真鍋博展

令和2年、2020年。

いまから20年前に亡くなったイラストレーター、真鍋博さんをご存じでしょうか。

その名を知らなくても、星新一さんや筒井康隆さんといった日本SF第一世代の作品や、海外SF・ミステリに親しんだ人ならば、その装幀やイラストを見るだけで懐かしく思うことでしょう。

真鍋さんは愛媛県新居浜市出身ということで、愛媛県美術館で回顧展が11月29日まで開催されています。

没後20年 真鍋博2020|企画展|展覧会|愛媛県美術館

1932(昭和7)年、愛媛県宇摩郡別子山村(現・新居浜市)に生まれた真鍋博はイラストレーションの世界を舞台に様々な作品を世に送りだしました。本展は、真鍋博の没後20年という節目の年に開催される大規模な回顧展です。真鍋が大学在籍中に制作した油彩画から、星新一や筒井康隆などの装幀の原画にいたるまで、約700点の作品群を展示いたします。1964年の東京オリンピックや1970年の大阪万博など、わが国…

10月31日には筒井康隆スペシャルトークも開催されるということで、それにあわせて訪れてみました。

(ただし、この記事では筒井さんの講演内容には直接触れていませんので、ご注意を)

 

GOTOトラベルキャンペーンを利用して、3年ぶりの四国・松山です。以前に訪れたときの記事はこちら。

新型コロナウイルス感染拡大防止として、愛媛県のゆるキャラ・みきゃんも〈3密せん!けん〉宣言です。

道後温泉本館はまだまだ絶賛保存修理中でした。

修理中は「道後REBORNプロジェクト」として、手塚治虫さんの「火の鳥」とコラボしたラッピングやプロジェクションマッピングが行われています。

本館前には火の鳥マンホールもあるので、現地に行かれる方は探してみてください。

真鍋博と手塚治虫。

ともに日本SF作家クラブに所属し、かたやイラスト・かたや漫画という形で、昭和SFの歴史に残る仕事をした二人。

その作品が、この令和の激動期に松山の地でよみがえることは運命的にも思えます。

 

さて、道後では愛媛県美術館の真鍋博展に連動して、セキ美術館でも関連展示が行われています。

道後温泉本館から駅へと延びる道後ハイカラ商店街、その中ほどにある〈にきたつの路〉を抜け、閑静な住宅街のなかにセキ美術館はありました。

印刷会社が母体ということで、真鍋作品の原画と印刷指示書、年賀状の色指定についての書簡なども公開されていて見ごたえがあります。

 

さて、いよいよ愛媛県美術館です。伊予鉄道市内線の南堀端電停で降り、お堀を橋で渡ります。

とても全容を写真におさめきれないほど広大な愛媛県美術館は松山城三の丸跡に建てられ、ロケーション抜群です。

11月6日までは設立50周年記念展が同時開催されています(真鍋博展の観覧券で入場可能)。

ちょうどガラスに反射して松山城が綺麗に見えています。

館内からも、ポスターと松山城を同時に写せる撮影可能スポットがあります。

 

二会場に分かれた展示は質量とも膨大で、ただただ圧倒されます。

さまざまな作品世界を体現したイラストにみえる色彩感覚と想像力。

細かい文字で書かれた分刻みのスケジュール帳からうかがえるマメさ。

 

PIEより刊行されている公式図録を兼ねた書籍「真鍋博の世界」を、じっくり読み返したいです。

 

そして幸運にも、とある展示を見ていたら講演前の筒井さんご一行がいらっしゃいました。遠巻きに拝見するだけで、どきどきが抑えられません。

講演もあらゆる意味で筒井さんにしかできない内容、かつてあこがれ見た昭和SFの残照がそこにある、夢のような時間でした。

 

温泉旅館と文字の共演 – 部屋本 坊っちやん

2018年最初の更新となります。今年もよろしくお願いします。

最近はブログ「凪の渡し場」以外の活動も増えて更新頻度が下がっていますが、引き続きフォントやまちあるきなどを通して、日常を新たな視点で楽しめるきっかけづくりをしていきたいと思います。

 

さて、今回は昨年に訪れた四国松山は道後温泉の話題です。

 

日本最古の温泉地ともいわれる道後温泉では、並みいる温泉旅館や街並みの中にアートを取り入れた、道後オンセナートというイベントが行われています。

道後オンセナート2018

道後オンセナート2018

 

今回はそのひとつ、祖父江慎さんと道後舘の「部屋本 坊っちやん」をご紹介します。

祖父江慎さんといえば、誰も見たことも無いような驚きの造本、装丁を行うブックデザイナーとして知られています。

そんな祖父江さんが、黒川紀章設計の温泉旅館・道後舘の一室をまるごと本に見立て、松山・道後温泉を舞台にした夏目漱石の小説「坊っちゃん」を組む…。

こんな耳にしただけで心躍る組み合わせ、ぜひこの目で見にいかなくてはなりません。

道後舘へは市内電車の終点・道後温泉駅から、道後温泉本館を通り過ぎ、さらに北へ向かいます。

三沢厚彦さんのクマに見守られ、やや急な坂を上ります。

向かいが工事中で願望がよくないですが、建物が見えてきました。

部屋本「坊っちやん」の見学時間は11時から最終受付14時まで。泊まる必要はなく、フロントで申し込み、見学料金1,500円を支払います。

 

時間になると、係の方に部屋まで案内いただけました。

のれんをくぐり、部屋に入ります。

 

そこは、文字通り本の世界でした。

 

地の文は明治期の書体をイメージしたと思われる、築地体前期五号仮名。

登場人物のセリフには筑紫A丸ゴシック

さまざまなフォントを使いわけることで、文字だけで作品に表情が生まれます。

極太の数字や、たまに登場する手描き風フォントも気になります。

そんな文字を通して見る、道後温泉の街並みに見とれます。

 

バッタを床の中に飼っとく奴がどこの国にある。ここにありました。

このように、文字だけでなく作品にちなんだ仕掛けも随所にあります。

こちらは笹の葉に水飴を挟みこんだ清の笹飴。噛むと歯にひっついてしまうため、噛まずになめるよう注意書きがありました。

 

20分ほどの見学時間はあっという間に過ぎ、名残惜しくも部屋をあとにします。

 

見学のあとは、一階にある喫茶室で、ご当地名物・坊っちゃん団子と珈琲をごちそうになります。

喫茶室内では、祖父江慎さんのデザインされた本も閲覧できます。

右の非売品『坊っちやん』道後舘新聞バージョンは見学のお土産です。

 

明治の文学が、最先端の文字組みで、その舞台となった温泉地の一角にあらわれる。

部屋本「坊っちやん」は2019年(平成31年)2月28日までの公開が予定されています。

ほかにも、道後にしかない、道後ならではの作品が見られる道後オンセナート、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょう。