月とコーヒー。
それは、対照的な存在である「太陽とパン」のように、誰にとっても生きていくために必要なものではないかもしれません。
それでも、誰かにとっては、もしこの世から消えてしまったら、生きる意味を失ってしまうくらい大切なものだったりします。
そうした〈とるにたらないもの、忘れられたもの、世の中の隅の方にいる人たちの話〉を書きたい——それが作家・吉田篤弘さんの言葉です。
本書ではそれぞれ原稿用紙にして10枚ほどという短さで、月とコーヒー、そして食をテーマに、この世のどこかに生きるさまざまな人々の毎日を描いていきます。
個人的にもコーヒーが好きなせいか、吉田さんの文章はとても波長が合うようにここちよく、淹れたてのコーヒーのように、深く心にしみわたります。
もちろん「月とコーヒー」にあたる大切なものは、人それぞれ違うでしょう。
ある人はミルクだったり。
またある人はビールだったりするかもしれません。
でも、それぞれが、その違いをわかりあって、互いの好きなものをそのままに受けとめることさえできたら、世界はもう少し生きづらさが減るような気がします。
それは思わず月に祈るようなささやかな願いでしょうけれど、綺麗な月が出ている夜は、あんがい、そんなふうにどこかの誰かと思い合えるかもしれません。
それはそれとして、去る平成31年3月22日(金)、東京の代官山蔦屋書店では、本書の発売を記念して、クラフト・エヴィング商會の吉田篤弘さんと吉田浩美さんによるトークイベントが開催されました。
作品執筆の裏側を覗くようなエピソードもさることながら、お二人の仲の良さそうな雰囲気が、作品世界と地続きのように思えて素敵な一夜でした。
装幀としてのクラフト・エヴィング商會のお仕事では、この本のサイズ感についてのお話が印象に残っています。
ハードカバーなのに文庫判よりひとまわり大きいくらい(およそ166x118mm)、ちょっとかわいくて手になじむサイズは、熱いコーヒーが冷めないコメダのコーヒーカップのおもてなしに通じるものがあります。
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今後もこのサイズで吉田さんの本が出版される予定だそうで、またこの世界にめぐり逢う日を楽しみのひとつに、毎日を生きていきたいなと思わせてくれます。
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