あなたは、月に何冊本を読むでしょうか。
何回、本屋さんに通うでしょうか。
いまや本を買うのには、コンビニ、ネット通販、電子書籍と、さまざまな方法があります。
それでも、本屋さんで実際に本を手にとってあじわう体験は、かけがえのないもの。
そんな想いに、すこしでも共感をおぼえてもらえるなら、ぜひ手にとってほしい本があります。
著者は、全国チェーンの大手書店であるリブロに長く勤めた辻山良雄さん。
名古屋店時代には、地元の本屋・雑貨屋と共同で、本でまちをつなぐイベント、ブックマークナゴヤを立ち上げています。
ブックマークナゴヤ BOOKMARK NAGOYA OFFICIAL WEBSITE
BOOKMARK NAGOYA(ブックマークナゴヤ)名古屋を中心に大型新刊書店や個性派書店、古書店、カフェや雑貨店などが参加。街のあちこちで本に関連したイベントやフェアを開催する、『本』で街をつなぐブックイベントブックイベントです。
わたしにとっても「本屋」というものが、お店単独ではなく街と切り離せない存在であるという視点に気づかされたイベントです。
このイベントを通して知ったお店も多く、いまも毎年開催を楽しみにしています。
本書は副題に「新刊書店Title開業の記録」とあるとおり、辻山さんがリブロから独立し、2016年に東京の荻窪に自分のお店をオープンするまでの経緯と、開業後の様子までが描かれます。
本屋 Title
2016年1月、東京・荻窪の八丁交差点近くにオープンした新刊書店・Title(タイトル)。1階が本屋とカフェ、2階がギャラリーです。
事業計画や営業数値といった具体的なデータも交えながら、なぜこの時代に本屋を開くのかという想いが、静かに、それでいて力強く伝わってきます。
本屋の仕事は「待つ」に凝縮されていると辻山さんは言います。
本屋の毎日の光景として真っ先に思い浮かぶのは、お客さまで賑わっている店頭ではなく、まだ店内に誰もいない、しんとした景色です。静まりかえっていますが、本はじっと誰かを待つようなつぶやきを発しており、そうした声に溢れています。
そして、そんな本に出会うために、本屋を訪れる人がいる。
本を読む人が減っている、街の本屋が少なくなっていると言われ続けている中、それでも本屋さんで本を買いたい人は必ずいます。
実際に、第1回ブックマークナゴヤが開催された十年前と比較しても、本屋さんに求められるものは変わりつつあります。
けれど、その芯にあるもの、本を誰かに届けたいという想いはずっと変わらないでしょう。
その上で、不特定多数の「みんな」ではなく、特定の人に向けて届けるため、平均的な品揃えの良さではなく、ここでしか出会えないような本を置き、その瞬間でしか体験できないイベントを開催する。
本屋に限らず、誰のために仕事をするのか、なんのために人生を生きているのか、というテーマにも通じるものがあります。
最後に、この本自体について。
奥付に、使用されたフォントや用紙の種類までが記載されていたりと、細かいところまで実に丁寧につくられています。
ちなみに表紙のタイトル(店名ではないほうの)に使われているのはフォントワークスのニューシネマA。
さらに、カバーを外すと、本屋Titleのある荻窪の地図が現れます。
いつか、この地図に描かれたまちを実際にあるき、本屋Titleを訪れる、その日が楽しみになりました。