今回は、「ナツヨム」という文庫フェアで知った一冊をご紹介。
夏と言えば、各出版社が競うように行う夏の文庫フェアが定番になっています。
その中にあって「ナツヨム」は出版社、書店など本にかかわる人々が共同で本を推薦することで、ちょっと変わった切り口のラインナップが実現しています。
大手チェーン店だけでなく、街の本屋さんも参加していて、帯やしおりも手作り感があるのがポイント。
こちらを購入したのは名古屋市瑞穂区の七五書店さんですが、帯の推薦文は丸善名古屋本店の書店員さんによるもの。
裏側にも推薦文があるのですが、著者の文章についてこう表現されています。
西村さんの文章には、ずっと自問自答を粘り強く続けてきた人の優しさがにじみ出ていて、読んでいてスッと心に入ってきます.
わたしも、読んでまったくおなじ印象を受けました。
人によって文章の好みはそれぞれだと思いますが、ある種の文章には、読んでいてここちよく、自然と胸に響くふしぎな魅力があります。
わたしにとって、この方の文章はまさにそれで、書いてある内容以前に、そのあり方がとても共感できるものなのだと思います。
たとえば、本文には、仕事とは海に浮かぶ島のようだという話があります。
「浮かぶ」といいながら、じっさいには島は海の上にある山。頂上だけが見えているけれど、その下には山裾が広がっています。
そうやって他人に見える仕事=成果だけでなく、それを支える技術や知識、価値観、その人だけのあり方が全体として本来の「仕事」をかたちづくっている、と西村さんは言います。
成果や知識は取り替え可能でも、価値観やあり方は自分だけにしかつくれない。
この本をつくるという西村さんの仕事も、こうやって見えない部分がしっかり支えているから、文章がとても自然に心に入ってくるのではないでしょうか。
そんなことを考えながら、ページをめくっていきました。
西村さんは、会社を辞めて独立されるまで、大きな会社での働き方しか知らないことに気がついたと書かれています。
わたしも、セミナーやイベントに参加するようになってはじめて、企業に勤めている人だけでなく、一人で働いている方、あるいは会社員としての仕事とは別のさまざまな活動をされている方に出会いました。
そんな方の話を聞くたびに、生き方・働き方というのはもっと自由で、多様であっていいのだということを思います。
とはいえ、けっして、誰もが独立して働かなければならない、好きなことを見つけて仕事にしなければいけない、というものでもありません。
そうやって焦ることも、この本から受け取るメッセージとしては違う気がします。
少し長くなりますが、引用します。
〈自分の仕事〉は余所にあるわけでも、いつか天から啓示のように降ってくるわけでもなく、すでに今ここにある。「青い鳥」でメーテルリンクが描いたように。しかも時には、「まるで駄目」とか「イケてない」と感じてしまうような部分に。
あくまで静かに、自分の内面を見つめることで、自分だけの生き方を見つけていく。
もちろん、その生き方は自分だけで閉じることなく、まわりの人と結びあい、ひろがっていく。
最後に、この本をわたしの手元に届けてくれた、著者、編集者、書店員、それぞれの「仕事」に感謝を。
No Comments