2021年、不確実な世界を生きてゆく10冊+読書マップ

2021年の大晦日です。

アフターコロナを叫ぶ本は多くあれど、ものごとは年の区切りのように〈はじまり〉と〈おわり〉をはっきりつけられるものなのだろうか、と思っています。
そんなはっきりしない状態が不安だからこそ、人は区切りや区別をつけたがるのかもしれません。

さて、そんな時代に読みたい本とは。
いつものように時流に乗りすぎず、新刊にこだわらず、今年読んで個人的に印象深かった本を取りあげます。

去年までの〈今年の本〉記事はこちら。

昨年から導入した〈読書マップ〉です。

一年ぶんをまとめると冊数が多すぎるので、それぞれのブロックごと、黄色の枠で囲った10冊を中心に紹介していきます。
ここに取り上げられなかった本を含めて、毎月の読書マップは note にて公開しています。

短歌

今年もたくさん短歌を読み、詠みました。

東直子・穂村弘「短歌遠足帖」

歌人のお二人が、ゲストとともにさまざまな場所を訪れ、短歌を詠む吟行の様子を一冊にした本です。

なかなか外出がままならない時期もありましたが、個人的にも実際に吟行ツアーに参加したり、そうでなくても訪れた場所をテーマに短歌を詠むのは本当に楽しく、思い出の解像度も上がります。

この本にも登場する歌人の岡井隆さんは2020年に亡くなられました。
加藤治郎さんによる「岡井隆と現代短歌」(短歌研究社)で、その業績と現代短歌史を概説することができます。

新鋭の歌人としては寺井奈緒美さん「アーのようなカー」(書肆侃侃房)、工藤玲音(くどうれいん)「水中で口笛」(左右社)などが印象にのこりました。ともに日常エッセイ的な文章も楽しい。

科学・数学

ティ・カップに内接円をなすレモン占星術をかつて信ぜず

杉崎恒夫「食卓の音楽」六花書林

こちらは天文学者でもあった杉崎恒夫さんの歌集「食卓の音楽」冒頭の一首です。

科学と詩的世界は意外に親和性がよいのか、岡井さんは医学部出身、永田和宏さんも短歌と生物学の両方で顕著な業績をあげられています。

タイトルつながりでマーカス デュ・ソートイ「素数の音楽」も読みたい。

「ネコはどうしてわがままか」は、動物行動学者・日高敏隆さんの名エッセイです。
あっ、ネコが塀の上を歩いているので、あとで追いかけましょう。

「三体問題」(ブルーバックス)はSF小説の元ネタにもなった数学・天文学上の難題に挑む人々の400年の歴史を描きます。

カルロ・ロヴェッリ「すごい物理学講義」

2021年7月の読書マップ – 人生と科学の意義 でも取り上げたように、不確かだが「目下のところ最良の答えを教えてくれる」科学の本質を知ることができます。

コトバと心

「新薬という奇跡」は、まるでギャンブルのような成功率の創薬に挑む人々のものがたり。

医学は科学でもあり、人の心身という不確実なものを相手にするものでもあります。

春日武彦「奇想版 精神医学事典」

穂村弘さんと精神科医・春日武彦さんの対談本「ネコは言っている、ここで死ぬ定めではないと」から飛び出したネコを追って、春日さんの本を何冊か読みました。独特の鬱屈感ある文体が癖になります。

中でもこの本は、精神医学的な見出し語を連想ゲームのようにつなげつつ、古今東西さまざまな事物を引用していく驚きの一冊で、読むのにものすごく時間がかかるのでご注意ください。

驚きといえば、書店でタイトルを見て手をとった「自閉症は津軽弁を話さない」は、その分析結果もまた意外なものでした。

川添愛「言語学バーリ・トゥード: Round 1 AIは『絶対に押すなよ』を理解できるか」

こちらもタイトル買い。もはやなんでもあり、場外乱闘的な言語遊戯の世界が楽しい。

古今東西の俳句を学習する〈AI一茶くん〉プロジェクトの軌跡をたどる「人工知能が俳句を詠む」。本当にすごいのは、AIの詠む俳句で感動できる人間です。

将棋

大川慎太郎「証言 羽生世代」

AIがトップ棋士の能力を上まわったと話題になったのは数年前のこと。
そんなAIとの共存が当たり前になった将棋界はいま、藤井聡太という天才の出現によって湧き上がっています。

藤井さんや羽生さんと同じく中学生で棋士になった17世名人・谷川浩司さんが、天才棋士を語る「藤井聡太論 将棋の未来」

その谷川さんを倒し史上初の七冠王を達成した羽生善治さんと、同年代の棋士たちへのインタビューをまとめたのが「証言 羽生世代」
平成の将棋界を席巻した羽生さんも、通算タイトル100期を目前に、ちょうど元号が変わるころタイトルを失います。
藤井さんのデビューもあって世代交代の印象を強くしますが、まだまだこの世代の層は厚く、これから50代、60代になってどんな将棋を見せてくれるのかも楽しみです。

 

そして、そんな羽生世代と戦い、なかなかタイトルに手が届かなかったものの、40代で史上最年長のタイトルを獲得した木村一基九段の言葉をまとめた「木村一基 折れない心の育て方」も、これから40代をむかえるわたしには、とりわけ心を打たれました。

生き方・働き方

「さよたんていのおなやみ相談室」

不確実な世界、いくつになっても人は迷うものです。

そんなときこそ読書が心の支えになってくれる、若松英輔「読書のちから」

何歳になっても自分のキャリアをやり直せる「ライフピボット」

それでも迷うあなたは「さよたんていのおなやみ相談室」へどうぞ。

関西に住む小学生の女の子が、人々の悩みを鋭く解決。手書きの文字とイラストもかわいい。
関西の人気番組「探偵!ナイトスクープ」が好きな人には絶対におすすめです。

歴史と人のミステリー

筒井康隆「ジャックポット」

SF・文学界の巨匠、86歳にしての最新短篇集です。コロナ禍を疾走する表題作はじめ、言語と文学の可能性をつきつめる筒井作品。
今年はとりわけ、いくつもの過去作品が復刊・重版され、まだ筒井康隆を知らない人に届いていくのが嬉しい。

「ジャックポット」中のとある短篇では、森博嗣さんや円城塔さんなど作家の名前が多く挙がります。
円城塔「文字渦」もまた文学(あるいは文字)の歴史に挑戦する小説。コロナ禍に文字渦(言いたいだけ)。

森博嗣「歌の終わりは海 Song End Sea」は英語タイトルが意味深。不気味なほどにリアルな世界観は、このままコロナ禍を描くシリーズになるのかどうか。

森博嗣さんに続くメフィスト賞受賞者の清涼院流水さんは近年、英訳者として活躍しています。
「どろどろの聖書」を読めば、キリスト教になじみがなくても(ないからこそ?)強烈なエピソードが頭に入ってきます。


日常と都市鑑賞

「日本建築集中講義」では建築史家の藤森照信さんと画家・山口晃さんが、全国各地の著名建築を訪ねて歩きます。二人の掛け合いも楽しい。

藤森照信さんや赤瀬川原平さんらによってはじまった〈路上観察学会〉は、路上観察や都市鑑賞という一大ジャンルを生み出しました。

東京オリンピック2020の開会式で話題になったピクトグラム。「世界ピクト図鑑」は、路上観察的な楽しみ方もできつつ、まちづくりやデザインの観点からも学びが多いです。

「水路上観察入門」は暗渠を研究する吉村生・高山英男のお二人による〈水・路上〉あるいは〈水路・上〉を楽しむ一冊。

パリッコ「ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある」

酒場ライター・パリッコさんが、コロナ禍で酒場に行けないなか見出した〈新しい日常〉。
時が止まったようなスーパーマーケットの2階。駄菓子の味くらべ。このこみ上げる叙情はいったい何なのでしょう。

藤井基二「頁をめくる音で息をする」

尾道にある、深夜営業の古本屋・弐拾㏈の店主によるエッセイ。装丁も含めて美しい本です。
瀬戸内・ひろしま・尾道という、そこに住まない者にとっては旅情あふれるまちでつづられる日常は、どこか非日常に存在がしみ出るよう。

そうして日常は続き、それでも詩情は消えない。

そんな世界を、生きてゆく。

2022年も、よいお年を。

2021年7月の読書マップ – 人生と科学の意義

2021年7月の読書マップです。

スタートは2021年6月の読書マップから「藤井聡太論」。7月も将棋タイトル戦を連戦連勝、藤井聡太さんの勢いが止まりません。
いっぽうで王座戦挑戦者決定戦は「受け師の道」木村一基さんと将棋連盟会長の佐藤康光さんという組み合わせになったりと、40・50代棋士の活躍も見どころ。

この本から、河口俊彦「一局の将棋 一回の人生」をつなげてみます。
時代は昭和のおわりから平成のはじめ、羽生善治さんや佐藤康光さんなどがプロデビューしたころ。
自身も棋士である河口さんのエッセイは生々しい時代の空気をとらえ、のちに平成の将棋界を席巻することになる〈羽生世代〉の強さに半信半疑だったというのが今では信じられないかもしれません。
棋士によって指される何十、何百という対局と、「一回の人生」を対比させる描き方も読み応えがあります。

続けて、さまざまな人の〈生き方〉を感じとれる本が先月は印象的でした。

「若ゲのいたり」はご自身もゲーム会社に勤務していた漫画家・田中圭一さんによる対談マンガ。
「ファイナルファンタジー」や「ぷよぷよ」などの有名ゲームに携わったクリエイター、「MOTHER」を作った糸井重里さんなど、ゲームに人生をかけた人々の情熱が伝わります。

「須賀敦子全集」若松英輔さんの「読書のちから」の本で知った『ミラノ・霧の風景』『コルシア書店の仲間たち』などが収録されています。
イタリアで暮らし、書店仲間と共にあった著者の、優しく、ときに哀しげな文章が心にのこります。

「本のエンドロール」は印刷会社を舞台に、出版業界の内幕を描く安藤祐介さんの小説。
ときに無理難題を押しつける編集者や著者に振り回されたり、電子書籍に複雑な思いを抱く印刷工と経営層の対立があったり、「紙の本が好き」という人にも「電子本も良い」という人にもおすすめしたい本でした。
今回は紙の本で読みましたが、電子だと「エンドロール」はどうなっているのでしょうね?

電子化に積極的な作家と言えば森博嗣「お金の減らし方」。趣味の庭園鉄道を実現させるためのアルバイトに小説を書いたと公言する森さんらしく、独特の調子で、お金の増やし方ならぬ減らし方を指南します。

「毎日は笑わない工学博士たち」は、そんな森さんの作家デビュー直後のブログを書籍化したもの。このシリーズは幻冬舎から全5巻刊行されています。
まだ某国立N大学に勤務されていて超多忙、毎月のように東京出張に行く森助教授(当時)の日常は、いろいろな意味で今読み返すと隔世の感があります。

科学者でもありエッセイストとしても知られた戦前の作家と言えば寺田寅彦。角川ソフィア文庫「科学と文学」はKADOKAWAの株主優待でした(笑)。
映画や連句といった芸術に共通する構造を分析したり、文学を科学者の観点から語るエッセイには、今でもいくつもの新たな発見があります。

井上夢人「魔法使いの弟子たち」は電子で以前に買ったまま、たまたま読んだら、おそるべきパンデミック小説でした。
謎のウイルス性疾患〈竜脳炎〉の感染が拡大した世界。奇跡的に恢復した主人公たち三人には、信じがたい異能力が備わっていた…
寺田寅彦の言葉を借りれば「実験としての文学」の想像力を感じます。

ここからは科学本。カルロ・ロヴェッリ「すごい物理学講義」は先月の「アインシュタイン方程式〜」でいえばタテガキの物理本ながら、哲学や文学のようにも読める名著。
作中の、科学は不確かだが「目下のところ最良の答えを教えてくれる」という言葉が胸に沁みます。

地学本の注目は「日本列島の『でこぼこ』風景を読む」。複雑に入り組んだ日本列島の成り立ちをひもとくことで、ランドスケープとしての日本の美しさを再発見できます。

そして「まっぷる」シリーズで知られる昭文社からも、「愛知のトリセツ」のように各都道府県の地理・歴史を解説した本が続々と登場しています。
地元や好きな県の本を手にとってみると、意外な発見があるに違いありません。
そしてまた、さまざまな場所に行ける日が来ることを願って。

2021年6月の読書マップ – AIと不確実性の未来へ

令和3年6月の読書マップです。

この読書マップ、いくつも書いていると自分の嗜好・思考があからさまに出てきて、すこし恥ずかしいですね。わたしのことを知っている人は読まないでください(笑)。

スタートは先月の読書マップ「きっとあの人は眠っているんだよ 穂村弘の読書日記」から「シンジケート」へ。穂村さんが三十年前、28歳のころに自費出版したデビュー歌集が新装版としてよみがえりました。
いわゆる〈ニューウェーブ短歌〉の代表作として断片的に知っている歌はあっても、一冊の歌集として束になってかかってくると、よりその印象は鮮烈です。
新装版の装丁は名久井直子さん、透明カバーにコデックス装の綴じ糸がかわいくて素敵です。オンラインの刊行記念イベントでも言われていたとおり、本棚に挿した状態でも綺麗なのがポイントです。

穂村さんの読書日記でも、「大山康晴の晩節」など将棋に関する本は多く取り上げられていました。
今回は、違うラインナップの将棋本を三冊紹介します。

まずは新刊「藤井聡太論 将棋の未来」。
2021年6月26日現在、最年少で二冠、さらに叡王戦にも挑戦が決まった藤井聡太王位・棋聖は、誰もがみとめる令和将棋のスーパースターでしょう。
そんな藤井さんを同じく中学生でプロデビューし、史上最年少で名人を獲得した谷川浩司九段が語る本です。ちなみに、まえがきによると鉄道好きという共通点もあるそう(って、その情報は必要だったのでしょうか…)。
平成初期に台頭してきた〈羽生世代〉とご自身の闘いなども振り返りつつ、将棋界の現在・過去・未来を見渡します。

羽生善治「適応力」は十年ほどまえ、羽生さんが40歳になったころのエッセイ。
谷川さんの本でも書かれていたとおり、多くの棋士は三十〜四十代になるとピークを過ぎ、戦い方が変わってくるといいます。
それでも、変化を柔軟に受け入れ、適応していくのが羽生さんの強さでしょう。わたし自身40歳を間近に控え、これからの生き方を考えるヒントになりそう。
まるでビジネス書のような話題が多く出てくるのもおもしろいです。

いっぽう、羽生さんより少し年下ながら、プロデビューは二十代、六度のタイトル挑戦と敗退を経て、46歳にして初のタイトルを獲得した木村一基九段の半生をつづるのが「受け師の道」。
解説など盤外のトークも面白い木村さんですが、子供時代から「よくしゃべる」と評されているのが楽しい。本書で半ばジョークのように予言されていた藤井さんとのタイトル戦で王位を奪取されてしまいましたが、これからも活躍を期待しています。

深川峻太郎「アインシュタイン方程式を読んだら『宇宙』が見えた ガチンコ相対性理論」は、ド文系を自称し、数式の出てこないサイエンス書を多く編集してきた著者が、本気で相対性理論の数式に挑むという異色の本。
サイエンス書の老舗・講談社ブルーバックスからの出版らしく、どのページも遠慮無く数式で埋め尽くされます。先月の「三体問題」も一緒に読みたい。
マップに入れた理由は、アインシュタイン方程式を導き出したあたりで、唐突に藤井二冠の話題が飛び出すから。
棋譜を読める人だけが藤井さんの真のすごさをわかるように、アインシュタインの真のすごさも、数式を読める人だけが知ることができる。専門知というものの大切さを改めて感じます。

さて、わたしはいちおう物理専攻だったので相対論の数式は大学で履修済み(のはず)ですが、最近まであまりなじみがなかったのが分子生物学とよばれる分野。
歌人でもある永田和宏さんの専攻であり、「タンパク質の一生」という岩波新書の著書もあります。
ウイルスやワクチンという話題になると、しばしば免疫という概念が出てきますが、多田富雄「免疫の意味論」が名著とされているようです。
わたしたちの体を守る、〈自己〉と〈非自己〉を区別する免疫とはシステムが、こんなにもあいまいで危ういバランスの上に成り立っていることに、畏怖の念すら覚えます。

そんな生物学では実験動物として欠かせないハツカネズミ(マウス)と話のできる主人公登場するのがボリス・ヴィアンの小説「うたかたの日々」。
サルトルを思わせる大作家の本に偏執する友人、胸に睡蓮の咲く病に冒されてゆく新妻…。
筒井康隆を思わせる奇妙で不条理な世界に引きこまれます。
機械にできる仕事をする人々を批判する、現代のAIと人間の働き方にもつながるエピソードには驚かされます。

ということで最後は筒井康隆「世界はゴ冗談」(新潮文庫)。
ドタバタ、メタパラ、言語遊戯…かつて筒井作品で描かれたことが次々と現実になっていく、ゴ冗談のような世界。
不確実で、あまりにぎやかでない未来を、それでもわたしたちは生きていくのです。

棋士のみの見る景色

職業として将棋を指す(あるいは囲碁を打つ)、棋士という存在にあこがれがあります。

限られた盤面のなかで、しかし複雑な駒の動きにより、無数とも言える局面が対局ごとに浮かびあがります。

そのなかで数十手、数百手の先を読み、勝ち筋を見つけてゆく。

世が世ならば天才軍師として実際の戦略・戦術に使われたかもしれないその頭脳が、純粋に盤上での勝負のみに展開されることは、喜ぶべきことなのかもしれません。

 

中でも注目をあつめる棋士はやはり、2016(平成28)年に史上最年少の中学二年生でプロ四段に昇段し、ことし2020(令和2)年には将棋界のタイトルである棋聖・王位を獲得した藤井聡太二冠でしょう。

といいつつ、わたしの世代では、同じく中学生でプロ入りを果たした羽生善治九段の活躍が印象に残っています。

平成元年に初タイトルを獲得して以来、平成時代のほとんどにわたってタイトルを保持し続け、引退後は永世七冠を名乗る資格をすでに獲得しています。

一時は当時の公式タイトルすべてを制覇したこともあるなど、その記録は圧倒的です。

それだけに、平成のおわりにタイトルを失い無冠となり「羽生九段」を名乗ったときは衝撃でした。

ちょうど明日(9月27日)で50歳の誕生日を迎えられる羽生さんですが、令和になって初のタイトル戦(竜王戦)の挑戦者となったり、先日も藤井さんとの対局で勝利をおさめたりなど、活躍が続きます。

将棋のような頭脳戦では、どうしても年齢の若いほうが有利に見られるようですが、そういった新世代との対局によって、羽生将棋もまた進化していくのかもしれません。

一例を挙げれば、羽生さん自身、タイトル制覇の手前で、すこし上の世代である谷川浩司王将(当時)に奪取を阻まれたという経験があります。

(その翌年、他のタイトルすべてを防衛したうえで再挑戦し、制覇を達成したという、あまりにも劇的で有名なエピソードもあります)

藤井さん黄金時代ののろしが上がる中、羽生さん世代にも、それに負けず劣らずの活躍を期待してしまいます。

 

上の世代を応援するか、下の世代を応援するか。

それもまた勝手な感傷であり、鑑賞なのかもしれません。

将棋盤の上では、年の上下などはなく、同じ駒による戦いがあるだけです。

先の見えない世界で、先を読むには、一手一手、それぞれの駒を動かし続けるしかない。

そんな棋士の見る景色を、美しいと思います。