職業として将棋を指す(あるいは囲碁を打つ)、棋士という存在にあこがれがあります。
限られた盤面のなかで、しかし複雑な駒の動きにより、無数とも言える局面が対局ごとに浮かびあがります。
そのなかで数十手、数百手の先を読み、勝ち筋を見つけてゆく。
世が世ならば天才軍師として実際の戦略・戦術に使われたかもしれないその頭脳が、純粋に盤上での勝負のみに展開されることは、喜ぶべきことなのかもしれません。
中でも注目をあつめる棋士はやはり、2016(平成28)年に史上最年少の中学二年生でプロ四段に昇段し、ことし2020(令和2)年には将棋界のタイトルである棋聖・王位を獲得した藤井聡太二冠でしょう。
といいつつ、わたしの世代では、同じく中学生でプロ入りを果たした羽生善治九段の活躍が印象に残っています。
平成元年に初タイトルを獲得して以来、平成時代のほとんどにわたってタイトルを保持し続け、引退後は永世七冠を名乗る資格をすでに獲得しています。
一時は当時の公式タイトルすべてを制覇したこともあるなど、その記録は圧倒的です。
それだけに、平成のおわりにタイトルを失い無冠となり「羽生九段」を名乗ったときは衝撃でした。
ちょうど明日(9月27日)で50歳の誕生日を迎えられる羽生さんですが、令和になって初のタイトル戦(竜王戦)の挑戦者となったり、先日も藤井さんとの対局で勝利をおさめたりなど、活躍が続きます。
将棋のような頭脳戦では、どうしても年齢の若いほうが有利に見られるようですが、そういった新世代との対局によって、羽生将棋もまた進化していくのかもしれません。
一例を挙げれば、羽生さん自身、タイトル制覇の手前で、すこし上の世代である谷川浩司王将(当時)に奪取を阻まれたという経験があります。
(その翌年、他のタイトルすべてを防衛したうえで再挑戦し、制覇を達成したという、あまりにも劇的で有名なエピソードもあります)
藤井さん黄金時代ののろしが上がる中、羽生さん世代にも、それに負けず劣らずの活躍を期待してしまいます。
上の世代を応援するか、下の世代を応援するか。
それもまた勝手な感傷であり、鑑賞なのかもしれません。
将棋盤の上では、年の上下などはなく、同じ駒による戦いがあるだけです。
先の見えない世界で、先を読むには、一手一手、それぞれの駒を動かし続けるしかない。
そんな棋士の見る景色を、美しいと思います。
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