旅に、地図はつきものです。
目的地までの道のりを調べたり、そこに記された土地や名所の名前から、想像をふくらませたり。
そんな実用性と楽しさを一体化したのが、鳥瞰図とよばれる地図です。
明治時代、鉄道や船舶などの交通手段が発達すると、それまでの旅の様相は一変します。
より早く、より遠くへ、日本中がスピードアップした大観光時代がやってきました。
浮世絵の伝統を引き継いで描かれる観光案内と、西洋の遠近法を利用した精密な鳥瞰図が入り混じりながら発展していきます。
やがて、そんな観光用地図の世界を一変させたのが、吉田初三郎という一人の絵師です。
大正2年、初三郎が描いた京都と大阪を結ぶ京阪電車の案内図が、行啓中の皇太子(のちの昭和天皇)の目にとまり「これは綺麗でわかりやすい」とのお言葉を賜ります。
その言葉を生涯胸に、初三郎は、一枚の紙の上から鳥瞰図という壮大なスケールの世界をはばたかせました。
来たるべき飛行機時代を予見するかのように、鳥の目で、はるいかな高みから見下ろした日本列島の姿が描き出されます。
カラフルな色使いと、写実性をあえて無視した大胆な省略・デフォルメで、その土地のエッセンスが一枚の鳥瞰図に凝縮されます。
見渡せば、はるか遠くには富士山。
知らない土地はもちろん、よく知った街であっても、初三郎の鳥瞰図を見れば、いつでも新鮮な発見があります。
VRやARといった映像技術が発達した、今だからこそ。
不死鳥のように、何度でもよみがえって読み継がれる。
鳥瞰図には、新たな視点でものを見ることの楽しさを教えてくれます。
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