おそらく2020年初の、フォントに関する雑誌特集です。
青土社から出版されている月刊誌・ユリイカは[詩と批評]を冠に、数々の作家や作品などの特集が毎回充実しています。
2020年2月号の特集は〈書体の世界〉。
休刊した雑誌「MdN」などでもフォントに関する特集は毎年行われていましたが、判型の違い、なにより縦書きというのがまた違った雰囲気を感じます。
本や雑誌に使われる紙はパルプとよばれる繊維からできていて、縦目と横目という繊維の向きがあります。
ユリイカの特集では寄稿者の論考は比較的独立しているので、無数の糸が天井から垂らされているような印象を受けます。
古代中国の甲骨文字から生まれた漢字と書の歴史。
西洋における活版印刷の普及と表裏一体をなす、聖書によるキリスト教布教。
糸をたどって見上げる天井、あるいは天上こそは書体の世界ということでしょうか。
そこは、まだまだ知らないことばかりという認識を新たにします。
たとえば〈「ネオ・グロット」とスイス・スタイルの受容〉という山本政幸さんの論考では、1964年の東京オリンピックをフォントの観点から考察していきます。
昭和の東京オリンピックは多くの日本人デザイナーが協力し、海外からの観客のために公共のサインやピクトグラムを統一した大会として知られています。
その統一アルファベットフォントとして、通称「ネオ・グロット」とよばれたHelvetica(ヘルベチカ)がいちはやく採用されたそうです。
長らくiPhoneのやMacの標準フォントとなっていたヘルベチカですが、半世紀も前の東京オリンピックで使われていたのは驚きです。
ところが、よく知られた亀倉雄策のポスターで見られる縦長の「TOKYO 1964」ロゴはどう見てもヘルベチカではありません。
Yusaku Kamekura – taken from sportslogos.net by 英語版ウィキペディアのParutakupiuさん, パブリック・ドメイン, リンクによる
太い縦長でちょっと時代を感じさせる、けれど伸びやかなフォント。
当時の活字見本帖でも見つからない、このフォントの謎を追っていくと、実はいまやWindowsパソコンで普通に使えるフォントだったという結末が待ち受けていました。
縦目と横目がはりめぐらされた世界は、思わぬところでつながっているようです。
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