京都にひろがる、もじのうみ – 水のような、空気のような活字展覧会

わたしたちは、日々、文字にかこまれて生きています。

スマホを手にすれば、アプリやウェブの画面に表示されるデジタルフォントを読んで。
車に乗れば、カーナビや高速道路の文字で行き先を確認して。
本屋に行けば、棚に並ぶ雑誌や本の表紙から、さまざまなタイトルロゴが目に飛び込んできて。

日本人にとってのお米のように、当たり前のようにそこにあって。
でも、お米と同じように、そんな文字を、丹精こめてつくり出す人がいます。

水のような、空気のようなフォントを世の中に生み出す人がいる – 文字を作る仕事 で紹介した、書体設計士・鳥海修さんもそのお一人です。
そんな鳥海さんの文字作りを紹介する「もじのうみ: 水のような、空気のような活字」展が、京都 ddd ギャラリーで開催されています。

京都dddギャラリー

京都dddギャラリー第231回企画展 鳥海修「もじのうみ: 水のような、空気のような活字」 「日本人にとって文字は水であり、米である」というタイポグラファー・小塚昌彦の言葉をきっかけに、これまで100以上もの書体を生み出してきた鳥海修。本展「もじのうみ: …

本展の公式解説動画は YouTube にもアップロードされています。

会場は京都市営地下鉄東西線、太秦天神川駅近く。京都駅から地下鉄でも行けますが、今回はJRと嵐山電鉄を乗り継いで、まちあるきをしつつ訪れてみます。

JR嵯峨野線、円町駅で下車し、北へぶらぶらと。路地や寺社が散在する中、古い文字を探すのも楽しいです。

たばこ自動販売機

スピード感のある横書きも、もっちりした縦書きも素敵。「押して下さい」が意外に現代的なフォントに近い丸ゴシック体なのもポイントです。

大将軍商店街 京都一条妖怪ストリート

斜体といい影のつけ方といい、こちらも時代を感じさせる看板ですね。

あとしまつ看板

あとしまつ看板にも鳥居の写真を使うところが、いかにも京都。

近くにある北野天満宮は、受験シーズンらしく中高生から大人までにぎわっています。

天満宮といえば天神信仰、菅原道真の和歌も掲げられています。文章博士でもあった道真の文字は達筆だったのでしょうね。

北野白梅町駅は嵐電北野線の始点です。すっきりとしたフォントですね。しかし次の駅はなにやら様子が…?

等持院・立命館大学衣笠キャンパス前駅

長っ!
2020年に現在の駅名に改称され、日本で一番長い駅名になったそうで、この駅名標を見たくて嵐電に乗ったようなものです。

これで日本一の座を奪われた富山地方鉄道の「富山トヨペット本社前(五福末広町)」電停は、翌年に「トヨタモビリティ富山 Gスクエア五福前(五福末広町)」に改称して日本最長を奪還するという、よくわからないデッドヒートが繰りひろげられています。

長体をかけていますが、このフォントなのでまだすっきり見えます。こんな駅名を見越してフォントを選んだわけではないでしょうけれど。

帷子ノ辻(かたびらのつじ)駅で乗り換え、嵐電天神川駅まで。

地下鉄・太秦天神川駅の出入り口を北東へ。

京都 ddd ギャラリーの建物が近づいてきました。
「もじのうみ」を大胆にアレンジしたロゴが出迎えます。

鳥海さんの故郷、山形県から望む鳥海山の景色のなかに、ヒラギノフォントや字游工房のフォントなどが美しく展示されています。

谷川俊太郎さんの詩のために描き下ろされたフォントの制作過程も見どころです。
一文字一文字を細かく修整しつつ、詩の一文一文で並べたときも違和感なく見えるよう、さらに調整していく。

「空気のような、水のような活字」をつくるためにそそがれる情熱は、並大抵ではありません。

見慣れたフォントが、まるで違う表情を見せます。

会期は2022年3月19日まで。日曜・月曜日は休館なので要注意です。
京都近辺の方なら、ぜひ足を運んでもらいたいと思います。

寅年に「組織のネコ」を目指して生きよう

まずは、タイトルがとても気になりました。

表紙のイラストでほとんど内容が説明されているので、いつもより画像を大きくしました。

会社などの組織における働き方を、ネコ目の動物にたとえて4タイプに分類しています。


横軸は組織の中央志向か、組織よりは自分の意志を重視するか。
縦軸は組織の中で大きなパフォーマンスを発揮しているかどうか。

  • 右上が群れを統率するライオン。社長や役員といった、まさに王道をゆく立場です。
  • 左下のイヌは、そんな組織にとことん忠実、ルールに従って動きます。
  • 対して、ネコはそこまでルールに縛られず、出世などにも興味がない。
  • そんなネコにとって、あこがれの存在がトラ
    変わり者と思われがちで組織の中央からは外れているれど、自分の使命を追求し、めざましい成果を上げている。

ある程度長く組織にいると、理想の働き方は何かとか、将来のキャリアを考える場面が増えてきます。

イヌ的な働き方や、ライオンという頂点を目指すだけでなく、右側の道もあるよ、とあらためて気づかされます。

ネコ派になるかイヌ派になるかは個人の特性によるとすれば、両者は確率的にほぼ半々になるはずです。

でも、かつての高度成長期はイヌとして働くほうが効率がよかったせいか、イヌの皮をかぶったネコ=「隠れネコ」がそれなりの数いて、組織といえば〈イヌ派=多数派〉という図式ができあがっているようです。

平成の終わりから令和にかけて続くネコブームは、その反動でしょうか。

ただ、本を読むまでわたしも勘違いしていたことがあります。
ネコというと自由気ままのイメージですが、「組織のネコ」は、わがまま放題というわけにはいきません。
そうではなく、あくまで自分にとって意味のある仕事か? という〈自らに由る〉価値観で判断するのが「組織のネコ」という意味だそう。

そして、ネコ派が成長・進化することで、その人だけの強みを活かした「組織のトラ」という働き方を手に入れることができる、というのが、本書の真のメッセージです。

個人的に振り返れば、会社の中外で明らかな「組織のトラ」を目の当たりにすると、あこがれとともに圧倒されてしまい、とてもこうはなれない、と思ってしまうことが多くありました。
フリーランス、転職、独立だってつらすぎる。

それは、ひょっとしたら「隠れネコ」という働き方でも、それなりに評価されてしまっているせいかもしれません。

価値観はネコ的なのに、イヌ的な働きもやればできる、できてしまう。
ただ、ずっとそれだと疲れてしまう、というのも確かです。

5年ほど前に書いた、自分の資質を知り、強みを活かす – ストレングスファインダー という記事を読み返してみました。

ひとつの強みにフォーカスすると成果は出せるけれど、実はあまりやりたくない仕事ばかり回ってきてしまう、ということもあります。

「慎重さ」や「分析思考」から計画を立てたりルールを作るのは得意だけれど、ワクワクする体験にめぐりあえない、本当に価値の高い仕事ができているのか不安になる。

だからこそ、組織の中にいても組織の使命を絶対視するのではなく、自分に忠実に生きる「組織のネコ」を、まずは目指してみましょう。

そして、ずっとネコでいられるならいいけれど、組織の中に理解者がいないと、またイヌ的な働き方に組み込まれてしまうかもしれません。
いつの間にか、まるで向いていないのにライオン的なキャリアアップのレールを敷かれてしまう、なんてことも。

そうならないように、いざというとき身を守れる蓄えも大事でしょう。

自分の強みは、そのためにこそ発揮するのです。

成果主義も、成長も否定せず、「組織のトラ」として生きる道もある。
さらにトラを極めると「寅さん」になる、とも本書には書かれています。
わたしが思うに、トラを極めるだけでなく、小さなネコのまま、きらりと光る爪をとぐ、という生き方もあるかもしれません。

ヒトもネコも千差万別、自分だけの生き方を見つけましょう。

日はまた昇る – そうだ、モダン建築の京都行こう。

長い夏の蒸し暑さが去り、あっという間に季節は秋へとうつりかわりました。

秋の行楽シーズンといえばJR東海の名キャッチコピー「そうだ、京都行こう。」が思いうかびますが、京都の見どころは歴史ある寺社仏閣だけでなく、実は街のあちこちに残る明治〜昭和に建てられたモダンな建築も見逃せません。

そんな「モダン建築の京都」をテーマにした特別展が今年(令和3年)、京都市京セラ美術館で開催されています。

https://kyotocity-kyocera.museum/exhibition/20210925-1226

明治天皇の東京への行幸(いわゆる遷都)にともなって一時は衰退したという千年のみやこ。

その危機感をうけて、京都は官民あげての近代化による復興をめざします。

琵琶湖の水を京都まで運び灌漑や発電、舟運に利用した琵琶湖疎水。

全国に先駆けて設置された小学校。

そして平安遷都1100年を記念した内国勧業博覧会と、それに隣接する平安神宮。

今もその地に立つ京都市京セラ美術館での展覧会ということで、歴史を肌で感じることができます。

昨年に改装オープンしたこともあり、アプローチも優雅です。

現在は事前予約制、公式サイトで日時を指定してチケットを購入できます。何種類かの展示が同時に行われているので、館内で迷ったらスタッフの方に聞きましょう。
一日に複数のチケットも購入できますが、どれも見ごたえたっぷりなので、1時間以上は余裕をもっておきましょう。

会場内は一部写真撮影が可能です。
写真や図面だけでなく、模型やインテリアの実物などもあるのが建築展としては嬉しい構成ですね。

円山公園にある長楽館の螺鈿細工の椅子。いつまでも眺めていられそう。
紙巻煙草で財を成した村井吉兵衛の別宅ということで、当時の商品「サンライス」も展示されています。

ほとんどの建築は京都市内に現存しているため、気になったら街に出て実物を見に行けるのも良いところですね。

言わずとしれた京都市役所。

三条通御幸町東入ル、アートスペースとして活用されている1928ビル。
四条大橋沿いのヴォーリズ建築、東華菜館。
現在は中華料理店として営業されており、なかなか敷居が高いですが、いつかは中に入ってみたいところです。
ちなみにレストラン矢尾政として開業した当初は、1階は大衆食堂だったそう。

モダン建築の京都展では、3階ホールベンチが展示されていました。

こちらは京都帝国大学花山天文台の初代台長・山本清一さんの使われていた天球儀。
天の星座をうつしとった天球儀は、地球儀と違って、模型なのに実物が存在しない不思議さが、なんだかわくわくします。

じっくり見ていると時間が無くなり、すぐに18時の閉館、外は本当の夜空が見えていました。

夜でも月光と、人工のライトアップがあたりをほのかに照らします。

そして、どんな逆境にあっても日はまた昇る。

モダン建築が息づく、京都のまちのかがやきは失われません。

よみがえる昭和SFの残照 – 愛媛県美術館 真鍋博展

令和2年、2020年。

いまから20年前に亡くなったイラストレーター、真鍋博さんをご存じでしょうか。

その名を知らなくても、星新一さんや筒井康隆さんといった日本SF第一世代の作品や、海外SF・ミステリに親しんだ人ならば、その装幀やイラストを見るだけで懐かしく思うことでしょう。

真鍋さんは愛媛県新居浜市出身ということで、愛媛県美術館で回顧展が11月29日まで開催されています。

没後20年 真鍋博2020|企画展|展覧会|愛媛県美術館

1932(昭和7)年、愛媛県宇摩郡別子山村(現・新居浜市)に生まれた真鍋博はイラストレーションの世界を舞台に様々な作品を世に送りだしました。本展は、真鍋博の没後20年という節目の年に開催される大規模な回顧展です。真鍋が大学在籍中に制作した油彩画から、星新一や筒井康隆などの装幀の原画にいたるまで、約700点の作品群を展示いたします。1964年の東京オリンピックや1970年の大阪万博など、わが国…

10月31日には筒井康隆スペシャルトークも開催されるということで、それにあわせて訪れてみました。

(ただし、この記事では筒井さんの講演内容には直接触れていませんので、ご注意を)

 

GOTOトラベルキャンペーンを利用して、3年ぶりの四国・松山です。以前に訪れたときの記事はこちら。

新型コロナウイルス感染拡大防止として、愛媛県のゆるキャラ・みきゃんも〈3密せん!けん〉宣言です。

道後温泉本館はまだまだ絶賛保存修理中でした。

修理中は「道後REBORNプロジェクト」として、手塚治虫さんの「火の鳥」とコラボしたラッピングやプロジェクションマッピングが行われています。

本館前には火の鳥マンホールもあるので、現地に行かれる方は探してみてください。

真鍋博と手塚治虫。

ともに日本SF作家クラブに所属し、かたやイラスト・かたや漫画という形で、昭和SFの歴史に残る仕事をした二人。

その作品が、この令和の激動期に松山の地でよみがえることは運命的にも思えます。

 

さて、道後では愛媛県美術館の真鍋博展に連動して、セキ美術館でも関連展示が行われています。

道後温泉本館から駅へと延びる道後ハイカラ商店街、その中ほどにある〈にきたつの路〉を抜け、閑静な住宅街のなかにセキ美術館はありました。

印刷会社が母体ということで、真鍋作品の原画と印刷指示書、年賀状の色指定についての書簡なども公開されていて見ごたえがあります。

 

さて、いよいよ愛媛県美術館です。伊予鉄道市内線の南堀端電停で降り、お堀を橋で渡ります。

とても全容を写真におさめきれないほど広大な愛媛県美術館は松山城三の丸跡に建てられ、ロケーション抜群です。

11月6日までは設立50周年記念展が同時開催されています(真鍋博展の観覧券で入場可能)。

ちょうどガラスに反射して松山城が綺麗に見えています。

館内からも、ポスターと松山城を同時に写せる撮影可能スポットがあります。

 

二会場に分かれた展示は質量とも膨大で、ただただ圧倒されます。

さまざまな作品世界を体現したイラストにみえる色彩感覚と想像力。

細かい文字で書かれた分刻みのスケジュール帳からうかがえるマメさ。

 

PIEより刊行されている公式図録を兼ねた書籍「真鍋博の世界」を、じっくり読み返したいです。

 

そして幸運にも、とある展示を見ていたら講演前の筒井さんご一行がいらっしゃいました。遠巻きに拝見するだけで、どきどきが抑えられません。

講演もあらゆる意味で筒井さんにしかできない内容、かつてあこがれ見た昭和SFの残照がそこにある、夢のような時間でした。

 

オンラインで学ぶ、つながる、これからの世界へ

全国に緊急事態宣言が発表され、多くの方が自宅で過ごす2020年のゴールデンウィークとなりました。

ニュースやSNSのタイムラインで、イベントや各種施設の〈休止〉〈中止〉という文字が並ぶのを見るだけでも気が滅入りそうになります。

 

そんな中で、オンラインでの活動がひろがる動きもあります。

無料で学べるオンライン大学講座 gacco を試す で四年前に紹介したとおり、無料で学べるオンライン講座JMOOCも大きな注目を浴びています。

JMOOC(日本版MOOC)のポータルサイトでは、記事で紹介したgacco以外の講座もまとめて検索できます。

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ビジネスや社会問題に関する講座から大学の理工系基礎科目まで幅広く、すべて無料で学べるというのが驚きです。

 

他にも、ふだん街中やイベント会場で行われていたイベントをオンラインで開催したり、まったく新しい企画が立ち上がったりもしています。

オンライン ロマン紀行」は現在大きな影響を受けている純喫茶やホテルを応援する参加型旅番組で、初回は愛知県岡崎市のキラキラな内装で知られる喫茶レストラン丘が舞台でした。

(写真はわたしが二年前に訪問したときのもの。中はもっとキラキラでした…!)

 

GOOD MEETING」は紙博や東京蚤の市といったイベントを手がける手紙社さんが新たに立ち上げたもので、既に100以上の番組が登録されています。月額で楽しめる部員制度もあるようで、オンラインイベントでは随一のワクワク感あふれる雰囲気です。

GOOD MEETING |

ワークショップ、ごはん会、ライブ、占い、県民の集い…… お部屋にいながら100以上の番組に参加できる 手紙社によるワクワクオンライン劇場、開幕します!

 

とかく不要不急という言葉で片づけられてしまいがちな昨今。

けれど、一度失った場所を取り戻すことは難しい。

例を挙げれば第二次世界大戦中に「不要不急線」とされた鉄道路線のうち、多くは戦後も復旧することなく廃線となってしまいました。

たとえ目先を乗り越えるためとはいえ、緊急で重要なものだけに絞った先の世界で、ふたたび豊かさと多様性を取り戻せるのかという不安がつのります。

 

ただ幸運なことに、現実の場で集えなくなっても、令和の時代にはオンラインというバーチャルな場があります。

人類が情報通信というツールを進化させてきたのは、実はこのための壮大な伏線だったのかもしれません。

あるいは、冗長化という意味で「複線」と言ってもいいでしょう。

オンラインの場はリアルの体験を完全に代替するには、まだまだ力不足です(すくなくとも、この21世紀には)。

けれど、一本の線が切れても、もう一本が補完するように、あるいは密集を避けるように複線化しておけば、場をつなぎとめる、つながることができます。

これからの世界に、つなげていくことができます。