金子みすゞの詩といえば、「みんなちがって、みんないい」の一節があまりにも有名です。
日常のささやかな風景、身のまわりの世界を、彼女の視点で見ることによって、新しい意味が見出され、ふしぎな魅力が生み出されます。
そんな視点を、数学の世界に取り入れてみようという試みが、こちらの本でなされています。
この本で取り上げられている「数論」の中心にあるのが、素数という存在です。
1と自分自身以外に、約数(割り切れる数)をもたない数というのが素数の定義です。
まさに、みんなちがって、みんないい。
無限にひろがる数の世界の中で、ひときわ大きな輝きをはなっている素数は、夜空の一等星にたとえられます。
星の世界にふたごぼし(連星)があるように、3と5、5と7、11と13 といった、となりあう奇数がともに素数である素数を、双子素数といいます。
金子みすゞの「おはじき」という詩では、夜空の星を、とってもとってもなくならないおはじきにたとえていますが、素数も、いつまで数えてもなくならない(無限に存在する)ことが証明されています。
いっぽう、双子素数が無限に存在するのかは、まだよくわかっていないそうです。
このように、はるか昔からの素数をめぐる人々の思索の跡を、金子みすゞの詩と重ね合わせてたどっていきます。
もともと、本書が収められているブルーバックスなどの理数系の読み物が好きで、数の世界の美しさに触れてきた人はもちろん。
そこまで数学に興味が持てなくても、詩の世界、ことばの世界を通して、その一端に触れることができるのではないでしょうか。
気まぐれにあらわれるようで、ときに意外な規則性が見出される素数の性質を、著者はなんども「ふしぎ」と表現しています。
金子みすゞの「まんばい」という詩で、世界中の王様の御殿や女王様の服より、夜空や虹のほうが万倍も美しいとあらわされるように、自然界の法則には、人知を越えた美しさがあるのかもしれません。
けれどもそれは、もう一度視点を変えてみれば、やはり人間のもつ感性がなせるわざなのではないでしょうか。
自然の美しさにあこがれ、恋いこがれ、
はるか太古の人々は、あるいは天を衝くような城を建てようとし、あるいは美しい文様を再現しようとし。
また数という抽象的な世界に楽しみを見出した人は、数多くの定理や公式という形で、それぞれが思い描いた美しさを表現してきた。
それが人間の自然とのつきあい方だったのだといえます。
そんな人々の視点を通して世界を見ることで、わたしたちは世界の美しさを再発見することができるのです。