日本をかけめぐるゴシック体 – ヒラギノ角ゴ

ヒラギノ明朝の記事を書いてから、しばらく間が空いてしまいました。
もし、楽しみにしていた方がいたらお待たせしました(^^;

今回は、ヒラギノ角ゴのご紹介。

 

MacやiPhoneの日本語標準フォントとして、すっかりおなじみ。

そして、2010年から、日本全国で高速道路の標識にも使われています。

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もともと日本道路公団では、一文字ずつ手書きでデザインされた、いわゆる「公団ゴシック」が使われていました。

手書きなので、見やすさのために独自の省略を行っていたりして、誤字では? といわれることもあったとか。

 

民営化後、NEXCOによって新しいフォントの検討が行われ、採用されたのがヒラギノフォント。

より視認し易い高速道路案内標識を目指した 標識レイアウトの変更について – 道路行政セミナー2011年3月号 – 一般財団法人道路新産業開発機構(PDF)

 

他のフォントと比べてヒラギノが優れていると判断された点のひとつに、オブジェクト・エンハンスメントがあります。

ヒラギノ明朝にトゲがあるように、ヒラギノ角ゴは、横棒の両端がぐっと広がっています。

これによって、遠くから見たときにも文字がはっきり見える効果があるそうです。

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ちなみに、公団ゴシックのほうは正式にフォント化はされなかったようで、独自にフォント作成を行っている方がおられます。

鉄道文字(すみ丸ゴシック)が、国鉄民営化後もJR東海によって使われているのとは対照的ですね。

 

 

 

さて、ヒラギノ角ゴに話を戻して。

Macを最新OS(El Capitan)にアップデートすると、ヒラギノ角ゴもちょっとだけグレードアップします。

 

まず、名前が「ヒラギノ角ゴシック」に変わります。

 

……。

えっ、それだけ? いやいや、もちろん、それだけではありません。

フォントには、ウェイト(W)といって文字の太さを選べる機能があります。

いままではW3とW6の二種類だったのが、ヒラギノ角ゴシックはW0からW9まで十種類のウェイトを選べるようになりました。

もっとも細いW0と、もっとも太いW9を比べると、ご覧のとおり。

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同じフォントでも、ずいぶん印象が違って見えると思います。

同じ人が話していても、小声でささやくのと、大声を張り上げるのでは、印象が違うようなもの。

 

人に見せる資料などを作ることがあったら、ちょっとウェイトも意識してみてください。

時と場合に応じて、ウェイトを使い分けられるようになると、伝わり方も変わってきます。

 

なじみ深いのに奥深い、ヒラギノ角ゴのお話でした。

伝統の鉄道文字 – すみ丸ゴシック

九州地方・熊本を中心とした地震が続いています。
一日も早く、平穏な生活が戻ることをお祈りします。

 

九州には何回か旅行で訪れていますが、新しさと古さが同居した風景に惹かれます。

今回のテーマ、鉄道をとってもそれは同じ。

九州新幹線に代表される、水戸岡鋭治氏のデザインが有名ですが、もっと以前からの鉄道遺産も多く残されています。

 

たとえば、関門海峡に面し、かつて本州との玄関口として栄えた門司港レトロ地区。

その一角には、九州鉄道記念館があります。

近くには、旧「門司駅」のレール跡が。


このように駅名を示す看板を駅名標といいます。

「もじ」だけに印象に残って、以前はわたしのTwitterのアイコンにしていたりもしました。

右から左書きの筆文字が歴史を感じさせますね。

 

さすがに現役の施設で筆文字の駅名標が残されているところは少なくて、多くは手書き風の丸ゴシック体。

 

USAピョン…。

 

そんな中、丸ゴシック体とも角ゴシック体とも違う、独特のフォントに出会うことがあります。

 

これが、昭和35年(1960年)に国鉄の標準書体として指定された「すみ丸角ゴシック体」、通称すみ丸ゴシック

名前の通り、角ゴシック体を基本としながら、線の隅だけを丸くしたので「すみまる」。

フォントを統一したといっても、当然コンピュータもない時代なので、すべては手書き。
その際の書きやすさと読みやすさの両立を目指したのだと言われています。

製作した人や会社によって、微妙に異なる個性をもっています。

 

と、ここまで九州の話をしておきながら、実は東海地方にお住まいの方は、普通に接するフォントだったりします。

それは、国鉄を継承したJRグループの一つ・JR東海では、このフォントを基にした「スミ丸ゴシック体」や「JNR-L書体」を引き続き使っているから。

JR東海が運営する、東海道新幹線の駅名標も同じです。

ひらがなが大きい在来線とは違って、漢字が大きくレイアウトされているので、すこし目立ちにくいですが。
東京や京都にお住まいの人も、新幹線を使うときは意識してみると面白いかもしれません。

 

「マツコの知らない世界」では稀少フォントとして紹介された「すみ丸ゴシック」が、なぜJR東海でいまも使われているのか。

この本によると、その理由は、国鉄時代から「すみ丸ゴシック」に携わった須田寛氏が、JR東海の初代社長に就任したからとのこと。



旅客=お客様へ一貫したサービスを届けるために、文字を大切にする。
その信念が込められた、伝統の鉄道文字といっていいでしょう。

 

2027年に開業される予定のリニア中央新幹線でも、すみ丸ゴシックが引き続き使われるのか。

それとも、まったく新しいフォントに生まれ変わるのか。

 

その日が楽しみです。

文化庁「常用漢字表の字体・字形に関する指針」から読み取る三つのこと

文化庁から、文化審議会国語分科会・漢字小委員会での審議をまとめた「常用漢字表の字体・字形に関する指針」が公開されました。

原文はこちら。

http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/jitai_jikei_shishin.pdf

200ページ以上ある資料ですが、半分は字形比較表ですし、その前のQ&Aだけ読んでも面白いです。

 

ざっくり言うと、大切な三つのことが書かれています。

 

1.字体と字形について

形が違うことで、違う漢字とされる文字の骨組みが「字体」。
たとえば「学」と「字」は違う字体です。

形が違っても、同じ漢字とされるのが「字形」。

そして、このような字形の違いを、漢字ごとに一定の特徴をもたせたものが「書体」。
明朝体とゴシック体といったフォントの違いが、まさにこれにあたります。

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ちなみに。書体とフォントはもともと別の意味の言葉ですが、一般的には同じ意味で使っても問題ない、とQ.13の回答にあります。

なので、このサイトでも大手を振って「フォント」を書体の意味で使います(笑)

 

 

2.手書き文字と印刷文字の違い

明朝体は、手書き(楷書)とよく似ていますが、違うところがあります。
たとえば、「去」などの文字の左下は、明朝体では突き出ていますが、ふつう手書きでそうは書きません。

「入」などの文字も、フォントによっては筆押さえとよばれる字形になることがあります。

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実際に、教科書ではこの違いで混乱する児童がいることから、わざわざ専用のフォント(教科書体)が使われていたりします。

 

3.手書き文字では、あまり細かい字形の違いは問わない。

コンピュータの世界では、違う字体であれば区別しなければいけない、けれど同じ漢字でも字形が違うこともある…と、既に非常にややこしいことになっています。

ですが、手書き文字においては、あまり細かいことは言わなくてもいい、ということなのだそうです。

印刷やコンピュータ上のフォントと同じ形で文字を書く意味はないし、点画をとめるかはねるか、長いか短いかまで統一することはしないというのが、本来の漢字の伝統だとされています。

Q3 多様な手書き字形を認めるのは,漢字の文化の軽視ではないか

   それぞれの漢字を手書きする際に,様々な字形を認めることは,漢字の文化をないがしろにし,壊してしまうことにつながりませんか。

A 手書き文字の字形に多様性を認めるのは,むしろ,漢字の文化に基づく考え方です。この 指針は新しい考えを示すのではなく,本来の漢字の伝統を知ってもらおうとするものです。

たしか、わたしがこどもの頃は、テストで木へんの下をはねて書いたりしたら×をつけられたと記憶しています。

しんにゅう(しんにょう)辶 も、常用漢字表では、「近」はひとつだけれど「遡」はふたつ、というように漢字によって違います。

こういうのも、ちゃんとその通りに区別して憶えたものですが、手書きでは点一つで書いても良いのだそうな。し、知らなかった…。

そもそも、点の下の書き方にしてから、印刷文字ではまっすぐですが、手書きでは曲げて書きますしね。

 

 

文字は、長い歴史の中で変化しながら受け継がれてきたもの。

大事なのは、「正しい文字」にこだわることではなく、「伝わる」かどうか。それがそもそもの文字の役割だということですね。


4月10日はフォントの日 – あさご本丸ゴシック

きょう、4月10日はフォントの日ということで、個人デザイン事務所・フロップデザインで新作フリーフォント「あさご本丸ゴシック」が公開されています。

あさご本丸ゴシック

 

竹田城のある朝来市をイメージした丸ゴシック体とのこと。
クルッとしたひらがなやカタカナが印象的で、とてもかわいいフォントです!

フロップデザインでは、フリーフォントのほか、Web制作やグラフィックデザインに使える無料素材も配布されていて、おすすめです。

低価格でのロゴデザイン制作も行っているようです。いつかお世話になることがあるかも。

ロゴデザイン制作

明朝体とゴシック体

今回は、日本語フォントの基本形、明朝体とゴシック体についてお話しします。

Google Fonts の説明をしたときに、明朝体とゴシック体を引き合いに出したのですが、そういえば、このふたつの違いをしっかり解説してないな〜、と思い至りました。

 

あるフォントが、明朝体なのかゴシック体なのか。
見れば、なんとなくわかる、という人は多いと思うのです。

 

じゃあ、具体的に何が違うのか? と訊かれて答えられるでしょうか。

 

実際に並べてみましょう。

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明朝体(みんちょうたい)は、その名の通り、中国の明の時代ごろに使われていた文字を基にしたフォント。
なので、筆遣いを表現する、「ウロコ」があるのが特徴です。

小説の本文など、伝統や格調の高さを感じさせるフォントです。

 

ゴシック体は、もう少し幾何学的なかたち。
基本的には、横棒と縦棒の長さが同じになるように作られています。

読みやすく、現代的な印象を受けます。
もちろん同じ明朝体・ゴシック体の中でも、フォントによってその形は様々で、そこに個性が出て面白いところ。

 

街にあるさまざまな看板。

本屋さんに並んでいる本の表紙。

 

眺めながら、どうしてこのフォントを使っているのか? ということを考えると面白いです。

 

ちなみに、街にあるゴシック体の中には、線の角が丸い、いわゆる「丸ゴシック体」が多いことに気づきます。

 

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なんだか、ちょっとなつかしい感覚をおぼえます。

なぜ、日本の看板には丸ゴシック体が多いのか?
気になった方は、こちらの本をどうぞ(笑)