短歌という詩型に惹かれています。
たった三十一文字のなかに、驚くほど豊かな想いを宿すことができる。
そんな短歌に魅せられる人は、いわゆる文理の壁を超えて存在します。
深くかつ遠くきはめん天地の中の小さき星に生まれて(湯川秀樹)
「短歌を詠む科学者たち」第1章より
この世界の理(ことわり)を究めようとする物理学。
定形の言の葉に美を見出していく短歌という世界。
世界を記述する方法は異なっても、どちらも、シンプルかつ神秘的なバランスによって成り立つ美しさがあります。
この本では、いまは歌人として知られる斎藤茂吉さんも、大正時代に精神科医として研究を志しながら、病院の火災などによって断念したことが語られます。
また、細胞生物学の第一線で研究を行いつつ短歌結社の活動を続ける永田和宏さんなど、研究者と歌人を両立させている方の日常は驚異的ですらあります。
ねむいねむい廊下がねむい風がねむい ねむいねむいと風がつぶやく(永田和宏)
「短歌を詠む科学者たち」第5章より
学問そのものは純粋でも、それを取り巻く現実は、そして人の世界はあまりにも複雑で、ときに猥雑ですらある。
ひょっとしたら、そんな世界からこころを守るために、短歌という小さな世界はあるのかもしれません。
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