瀬戸内国際芸術祭2019 – 高松から郊外へ、瀬戸内海国立公園をめぐる

この記事は 瀬戸内国際芸術祭2019 – 四国を感じる、高松まちあるき の続きです。

丸亀町商店街から、高松市美術館へ向かいます。

高松市美術館公式サイト

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瀬戸内国際芸術祭2019夏会期中は特別展〈宮永愛子:漕法〉が開催中で、当日券は一般1,000円(パスポートがあれば2割引)です。

透き通ったガラスやナフタリンで作られた本や行李、その中に閉じ込められた鍵…瀬戸内の旅を思わせる、印象的な作品です。

特別展の半券を美術館周辺のサポートショップへ持っていくと、特典を受けることができます。

本好きの方向けには嬉しいことに、個性的な本棚とカフェも併設された本屋ルヌガンガさんや、完全予約制の古本屋・なタ書さんなどもサポートショップに含まれているので、ぜひ足を運んでみてください。

 

このあとは芸術祭にとらわれず、高松から郊外へ足を伸ばしてみます。まずは東へ。

ことでん松島二丁目駅から北へ15分ほど行くと、丹下健三の設計による旧香川県立体育館が見えてきます。

同じ丹下健三建築である国立競技場の体育館と同じ1964年の完成で、特徴的な屋根が見どころです。

耐震性の問題から2014年より閉鎖されており、いつ見られなくなってしまうかわかりませんのでお早めに。

 

さらに北に向かうと、〈本ならなんでもそろう〉のキャッチコピーで有名な宮脇書店の総本店があります。

垂れ幕かと思いきや、本の背表紙になっているという作り込みがおもしろい。

屋上に大観覧車がある本屋さんとして有名でしたが、こちらも残念ながら平成の終わりとともに営業を終了しています。

広い店内を歩きまわり、本との思わぬ出逢いを楽しめる場は、変わらずにあってほしいと願います。

 

さらに北には、四国八十八箇所霊場の第八十五番札所・八栗寺のある五剣山があります。

赤い車体がかわいい八栗ケーブルで山頂まで向かいます。

逆三角形のウロコがかわいいですね。

同行二人。歩いて行く人にはおへんろピクトさんのご加護があります。

高松市街の絶景とともに、弘法大師様がお迎えしていただけました。

電車も自動車も無い時代、ここまでたどり着いた人々に感服するばかりです。

 

次は西のほうにある5つの連峰からなる五色台を紹介します。ここからの瀬戸内海の眺めもすばらしい。

北側の大崎山には、瀬戸内海歴史民俗資料館があり、瀬戸内の民俗資料が多数展示されています。2019年現在は入場無料です。

 

「引」の明朝体が見事。

近くの展望台には彫刻家・流政之さんの彫刻「またきまい」があります(撮るのを忘れました)。

 

さらに西に行くと、瀬戸大橋の開通によって四国本島と地続きになった沙弥島があります。

芸術祭は春会期のみだったので今回は行けませんでしたが、6年前の写真をすこしだけ。

五十嵐靖晃さんの、地元の方や漁師さんたちとつくる〈そらあみ〉。

瀬戸大橋を間近に眺められる海岸です。

瀬戸大橋をモチーフにした噴水と、瀬戸大橋記念館もあります。

 

多様で豊かな瀬戸内の文化を、ぜひ現地で楽しんでください。

 

文字を楽しむおとなの部活 – フォント部へようこそ

学生や生徒時代、部活動やサークル活動に所属していた人は多いと思います。

その楽しみは大人になっても、むしろ大人だからこそより自由にひろげることができます。

そんな大人の楽しみとして〈フォント部〉という概念を提唱しているのが、こちらの本。

明朝体・ゴシック体といったフォントの基礎知識から、まちなかの看板文字や、映画の字幕を作る人のインタビューなど〈作り手〉の世界、さらには〈受け手〉としての楽しみ方まで、あらゆる角度からフォントや文字の魅力をさぐる内容となっています。

「美女と野獣」や「タイタニック」など、数多くの映画字幕を手がけた佐藤英夫さんの手描き文字を、息子の武さんがフォント化したのがシネマフォントだそう。

https://cinema-font.com

 

全国各地のフォントやフォントじゃない文字の風景も多数紹介されています。

例によって東海圏が全く紹介されていない〈名古屋飛ばし〉が残念なので、いくつか「凪の渡し場」の見た名古屋文字情景を紹介しましょう。

今はなき百貨店・丸栄と、プリンセス大通の栄光のアーチ。奥に見える札幌かに本家(名古屋が本社)もポイントです。

名古屋で文字さんぽを楽しむならここ、大須商店街。

 

鉄道文字を楽しむ〈もじ鉄〉的には、やはり関西が楽しい。

雲雀丘花屋敷という駅名も素敵ながら、限られたドット数でちゃんと丸ゴシックを表現するところに阪急電車の心意気を感じます。

ちなみに駅名標はこちら。ひらがな主体なのはJR東海在来線と同じですが、ずいぶん雰囲気が違います。

 

日々を楽しめるフォント部の世界、あなたものぞいてみませんか?

 

 

瀬戸内国際芸術祭2019 – 四国を感じる、高松まちあるき

久しぶりの更新となりました。

夏真っ盛り、瀬戸内では三年に一度の瀬戸内国際芸術祭2019 夏会期がスタートしています。

瀬戸芸はアートと自然、地元の暮らしが融合した島めぐりが大きな魅力ですが、人出と日射しが心配…という方には、高松市街のまちあるきもおすすめです。

以前戦後を感じるモダニズム建築 – 香川・高松まちあるきという記事も書きましたが、今回はまた違ったスポットをご紹介しましょう。

 

まずは四国の玄関口、JR高松駅・高松港から東へ少し歩くと、香川県立ミュージアムがあります。

9月7日(土)までは特別展、祭礼百態ー香川・瀬戸内の「風流」が開催中です。

この地方に古くから伝わる祭礼・民俗芸能を描いた絵図や、祭りに使われる屋台・獅子舞などが展示されています。

ふさふさしてますね…!

地元の小学校児童が手作りした獅子舞もかわいい。

 

ミュージアムの東に広がる北浜エリアは、昭和初期に高松港の貨物一時保管場所として栄えた倉庫街です。

現在は倉庫街をリノベーションした北浜alleyとなり、雑貨屋さんやカフェレストランが集積しています。

瀬戸内国際芸術祭2019では「北浜の小さな香川ギャラリー」としてアート作品の展示も行われています。

丸亀うちわの骨6000枚を使った西堀隆史さんの「内輪の骨の広場」。

ドットアーキテクツと香川県立高松工芸高校の「Living Traditional Crafts」は、工芸・クラフトが織りなす絵巻風ものがたり。かわいいものは分け隔てなく大切にしたくなります。

そのとなり、石原秀則さんの「うどん湯切りロボット」からは、さぬきうどんの正しいつくり方を教わります。ハイテク!

 

さて、高松港に戻り、ことでん高松築港駅から中心街に向かいましょう。

ジュリアン・オピーの「銀行家、看護師、探偵、弁護士」は、地元産の石でまちを行くさまざまな人をかたどります。

ことでんといえば、シュールなマスコットキャラクターのことちゃんですね。ことでん100周年の2011年に恋人のことみちゃんとご結婚(おめでとうございます)。

今日もお子さんと三人で大活躍です。ぽい!

片原町、あるいは瓦町で下車して、高松丸亀町商店街を歩きます。

最寄り駅がふたつあることからわかるように、隣接する商店街を合わせると大阪の天神橋筋商店街に匹敵する長さを誇ります。

さて、ちょっと変わったねこのポスターは…?(←二通りの読み方が可能)

ヤノベケンジさんのパプリックアート「SHIP’S CAT」でした。瀬戸内国際芸術祭の連携事業「祝祭」のイベントとして、8月15日まで商店街を歩きまわるそうです。

ボラードに乗った猫、実に神々しいですね。

まちあるき恒例の看板タイポさんぽもいきましょう。「3びきの子ねこ」、〈3〉と〈子〉のフォルムを似せてあるのが良いですね。

近くには「3びきの子ぶた」もあります。こちらは果実店のイートインコーナーで、ジュースやジェラート、サンドウィッチを味わえます。

 

今回はひとまずここまで。次回は高松市美術館での展示や、郊外のスポットをめぐります。

 

 

静かな世界の声を聞く – 宮本常一 伝書鳩のように

宮本常一(みやもと・つねいち)という人物をご存じでしょうか。

〈旅する民俗学者〉という異名を取った彼は、生涯で16万キロ、三千を超える村を訪ね歩き、そこに生きる人々を文章と写真のかたちで写しとりました。

 

平凡社STANDARD BOOKSの一冊として刊行された本書は、宮本常一の膨大な記録の中から選りすぐられた随筆集です。

他のシリーズも寺田寅彦、岡潔、湯川秀樹など科学者・数学者を中心としたラインナップが素晴らしく、百科事典で知られる平凡社だけに、長く本棚に並べておきたいたたずまいを感じられる造本です。

令和の時代にはもはや遠く消えかけている、日本のさまざまな伝承、風習がつづられます。

つまり世の中が静かであったとき、われわれは意味を持つ音を無数に聞くことができたのである。意味を持たない音を騒音といっているが、 今日では騒音が意味のある音を消すようになってしまった。(中略)人間にとっては静かに考える場と、静かに聞く場が必要である。

「宮本常一 伝書鳩のように」(平凡社) p.12

1978(昭和53)年に書かれたこの文章は、いまでも胸に響きます。

スピードや豊かさを求める現代を否定するわけではありませんが、スピードが速くなればなるほど、騒音も大きくなり、小さな音、多様な音を聞きわけることができなくなります。

いま、静かに考える場は、ますます貴重なものになっています。

本を読むというのは、そうやって静かに著者の声に耳をかたむける経験でもあります。

時間も場所も、遠く離れても。

本を開けば、宮本さんの見た静かな世界を、わたしたちは聞くことができるのです。

 

 

違いを認める生き方へ – 見えない違い 私はアスペルガー

この世界に生きる人々は、みんな違っている。

けれど、その違いを違わないということにして生きている人たちも多くいます。

そんな社会の中で、生きづらさや違和感を覚えたことのある人には、読んでほしいマンガがあります。

とある会社で働くマルグリットは、騒音や大勢との人付き合いが苦手なタイプ。

本屋の前を通り、パン屋さんに寄って、いつもの通りを抜けて…といった、毎日決まったルーチン(習慣的行動)のおかげで、ホッとした気持ちをとりもどすことができます。

とあるきっかけから、彼女は自閉症という概念を知り、アスペルガー症候群(自閉症スペクトラムの一つ)だと診断されることで、そんな自分のことを本当に知ることができたと感じます。

とたんにマンガのコマが明るくなり、文字通り世界が色づくさまは本書の中でも印象的です。

アスペルガーという概念を知る前に、マルグリットが「誰だってそうだ」と自分だけの苦しさを理解してもらえなかったり、友人から乱暴な言葉を投げかけられて戸惑う様は、わがことのように心が苦しくなります。

 

以前に「凪の渡し場」でも紹介した内向型やHSPという概念を知ったときも、似たようなことを感じました。

概念に名前をつけることは、ばくぜんと「みんな同じ」と思っていたことに、違う視点からの光を投げかけ、見えない違いを見えるようにすることなのです。

 

本の中では〈スプーン理論〉というものも紹介されています。

障害や慢性疾患をもつ人には日常生活を送るのに必要なエネルギーの限度が決まっていて、それを小さなスプーンであらわすという考え方です。

普通なら何杯でもスプーンを使えるところ、マルグリットは12杯しか使えません。

けれど、自分のスプーンの限度と基準を把握しておくことで、たとえば飲み会をすればスプーン4杯を消費してしまうというふうに、自分の疲労を管理することができるようになります。

わたしも普通の人と比べて疲れやすいタイプで、実のところ、どうしてみんなができることが自分にはできないのだろう、と悔しく思うこともあります。

けれど、頭の中にスプーンをしのばせておくことで、その悩みをコントロールできるかもしれない、そんな希望がもてました。

 

そして、違う人たちが、その違いを認めて生きていける世の中でありますように。