しきなみのように今年もここに立つ – 瀬戸内国際芸術祭2022 秋・伊吹島

海にまつわる言葉と写真をあつめた「海の辞典」のページをめくっていたら、【しきなみ】という言葉が目にとまりました。

式波…ではなく、敷波。幾度もしきりに寄せる波。

まさに、三年に一度、四季折々の瀬戸内海の風景とアートを楽しめる、瀬戸内国際芸術祭にふさわしい言葉です。

そんな芸術祭もいよいよ大詰め、秋会期が終わろうとしています。
毎回、秋だけに公開される作品をめざして、まずは西の島々をめぐります。

前回(2019年)・前々回(2016年)秋会期の記事もどうぞ。

瀬戸内国際芸術祭2019 – 備讃瀬戸へのアプローチ
瀬戸内国際芸術祭 – 西の島・粟島で、記憶を未来につないでゆく

まずはいりこで有名な伊吹島の、旧伊吹小学校へ。

校庭の一角にある建物の屋上が芝生になっていました。この日は暑かったのですが、日差しがやわらかい季節なら、ねころんでずっといられそうです。

瀬戸芸の作品だけでなく、旧校舎の痕跡をさがすのも楽しい。

ib08〈ものがみる夢〉。
大教室で民具たちが色とりどりの夢を見る。
校舎におちょこというのが微妙なアンバランス。さすがにお酒ではないと思いますが、中に液体が入った器もいくつかありました。

他の展示も素晴らしいものばかりですが、今回はそれ以外の、島の風景で気になったものを。

まるでラグランパンチのような極太フォントの「とまれ」。小学校が休校になる前からあったのでしょうか。
小豆島には〈愛のボラード〉という作品がありますが、こちらは本物のボラード(船などをつなぎとめる柱)?
ふだんのまちあるきではお目にかかれない、まるで用途がわからないものが路上に突然あらわれるのもおもしろい。
もちろん、ここでずっと暮らす人には、これが日常なのでしょう。
そしてここも、ねこが多い。今回はなぜか子猫の姿をよく見かけました。
大漁旗にいたずらしようとする子猫にハラハラ。
伊吹港から数分、高台には金田一春彦の歌碑があります。
四国本島に戻って、観音寺では土日祝に〈よるしるべ〉というイベントが行われていました。

プロジェクションマッピングなどの映像作品が多めで、夜ならではの光景を思いのままに歩いてみつけます。

この作品は音響効果もあってエヴァンゲリオンっぽい。

あとしまつ看板もライトアップ。(作品ではありません)

他の島も紹介したいところですが、長くなったので、また次の記事で。

たまきわるいのちはいつか土へとかえる – 瀬戸内国際芸術祭2022 夏・豊島

香川・岡山の島々では瀬戸内国際芸術祭2022の夏会期が9月4日まで開催されています。
春会期と同じく無理せず、密を避けてのんびりと瀬戸内の自然を楽しみましょう。

無理せず楽しむ、瀬戸内国際芸術祭2022 – 春・沙弥島

前回の記事、 世界初の公共交通・DMVに乗って、むろと廃校水族館へ の翌日に高松を訪れました。

商店街では今回も芸術祭会期に合わせて、さまざまな催しが行われています。

丸亀町グリーン

高松丸亀町商店街の「おいでまい祝祭」。

丸亀町グリーン
中心となる丸亀町グリーンの「漂う椅子」。
丸亀町グリーン
時間が合いませんでしたが、ヤノベケンジさんの「モフモフ・コレクティブ」気になりますね!
みる誕生
高松市美術館では鴻池朋子展「みる誕生」が開催中です。

かわいくてちょっとせつない、いきものたちの姿を描く絵画・彫刻・インスタレーションと充実の内容でした。

豊島家浦港
続いては高松港から豊島(てしま)家浦港へ向かいます。
タコタコ海上タクシー
タコタコ海上タクシー気になります。屋根にうっすら残るのもタコのイラスト…?
豊島横尾館
家浦港近くには横尾忠則さんと建築家・永山祐子さんの「豊島横尾館」があります。
昔のパソコンやゲームのようなビットマップフォントのロゴが印象的。
豊島横尾館
母屋の中は撮影禁止ですが、庭の鯉が床下を通りぬける様子が楽しめます。
なかなかタイミングよく鯉がこない。
針工場

少し歩いて、大竹伸朗さんの「針工場」まで。
漁船の木型を莫大小(メリヤス)針工場におさめた作品です。
となりの資料館にも映像や関連書籍の展示がありましたが、あまり時間がなく、じっくり見られなかったのが惜しい。

かげたちのみる夢
バスで島の南、甲生(こう)漁港まで。

冨安由真さんの「かげたちのみる夢」。廃屋のような古民家に、小泉八雲「和解」をモチーフにした幻想的な空間を生み出します。

かげたちのみる夢
かげたちのみる夢
今はもうない祖父母の家で過ごした夏休みを思い出し、たまらない郷愁を感じます。
種は船
港では日比野克彦さんの「種は船 TARA JANBIO」の船が泊まっていました。

ガイドブックでは粟島aw11として紹介されていますが、夏会期は豊島で活動されるそうです。海から発掘されたものの収集、展示を行なっています。
こちらも帰りのバスの時間が迫っていたので、あまりゆっくり見られず。
のんびりと、と言っておきながら時間に追われるのはよくないですね。

いったん家浦港まで戻ってバスを乗り換え、唐櫃岡(からとおか)まで。

島キッチンは予約制なのを忘れていましたが、カレーとドリンクだけなら空きがあればテラス席で食べられるそう。

唐櫃岡の清水

実に見事な石組が歴史を感じさせます。
古くから豊島の人々に大切にされてきたという、唐櫃の清水(共同用水場)があります。

荒神社
神社の鳥居をはさんで清水の反対側には、青木野枝さんの彫刻「空の粒子」がただずみます。
空の粒子

制作から十年ほど、作品もまわりの自然とじょじょに溶けこんでいくよう。

西本喜美子写真展

少し集会所のほうまで戻り、「西本喜美子写真展 ひとりじゃなかよ」へ。

70代になってから写真を始めたという西本さん、その独創的な写真とキャプションに思わず笑みがこぼれます。
書籍も手にとって読めるようになっていました。

西本喜美子写真展

台所の裏にもこっそり作品があるのでお見逃しなく。

さて、いよいよ最後は豊島美術館に向かいます。

ゆっくりと港の方へ下り坂を歩いていくと、突然視界が広がり、瀬戸内海が一望できます。

豊島
サイクリングの人々も次々に歓声をあげて通り過ぎていきます。

芸術祭をきっかけに周辺の棚田の再生も進められており、豊島美術館はその中腹にあります。
芸術祭パスポートは使えないのでオンラインで事前予約が必要です。

豊島美術館 | アート・建築をみる | ベネッセアートサイト直島

豊島美術館の美術館鑑賞案内・料金、アーティストなどの情報をご覧いただけます。

豊島美術館
周囲と調和する、低いコンクリート造のミュージアム本館とショップ。
豊島美術館
ロゴは信頼の筑紫明朝ですね。

すべて豊島に自生する植物、雑草を選んだという庭を回遊しつつ建物に入ります。

豊島美術館

建物内は撮影禁止、物音すら立てるのをはばかられる静寂が支配します。

モノクロームの空間に、大きな開口部から自然の光がふりそそぐ。
床からは「母型」とよばれる小さな泉があちこちから湧き出し、水たまりを作りつづける。
表面張力でつくられるみずたまをじっと見つめていると、まるで生命のようで。
やがて重力にひかれ、また別の穴に吸いこまれていく。

はじめての探訪でしたが、また何度でも来たいと思わせる、島と一体となった魅力を実感しました。

みずたまは生きもののよう玉きわるいのちはいつか土へと還る
—— 和泉みずほ

世界初の公共交通・DMVに乗って、むろと廃校水族館へ

DMVという乗り物をご存じでしょうか。

Dual Mode Vehicle(デュアルモードビークル)という名の通り、電車とバス両方のモードで走行が可能な車両のことです。

渋滞などに左右されない、鉄道路線の定時性。
地域のニーズにきめ細かく対応できる、バス路線の柔軟性。
その両方のメリットを兼ね備えつつ、乗客は乗り換え不要で目的地に向かうこともできます。

名古屋人としては大曽根駅から高架を走る「ゆとりーとライン」を思い出しますが、あちらはあくまでゴムタイヤで走る〈ガイドウェイバス〉で、タイヤと鉄車輪の両方を備えたDMVとしては2021年に運行を開始した徳島県の阿佐海岸鉄道が世界初だそうです。

ということで今回は世界初の公共交通DMVに乗りつつ、気になっていた沿線スポット「むろと廃校水族館」にも寄ってきました。

と、ここでいきなりお詫びと訂正がございます。

むろと廃校水族館には、実はDMVだけでは辿り着くことができませんでした。
2022年8月現在、阿佐海岸鉄道の室戸方面への運行は土日祝の一往復のみとなっています。

阿佐海岸鉄道株式会社

徳島県海陽町と高知県東洋町を結ぶ海岸線を、DMV(デュアル・モード・ビークル)が走ります。太平洋の海原を横目に、道路から線路へ、線路から道路へモードチェンジ。 みなさんが体験するのは世界で初めて本格営業運行するDMVの走りです。18席の小さなボディに積み込んだ大きな感動をご家族で、お友達同士でぜひ体感してください。

行きの便は阿波海南駅(JR四国との乗換駅)11:01発、むろと廃校水族館12:04着。
大阪や名古屋方面からは、前泊しない限り乗ることができません。

今回は瀬戸内国際芸術祭の夏会期にあわせて香川にも行きたかったので、往復とも時間が合わず。
高知方面から土佐くろしお鉄道〈ごめん・なはり線〉を使うマニアックなプランも考えたのですが、このご時世なので、無難に(?)徳島の高速バスから乗り換えることにしました。
ちなみに〈凪の渡し場〉では各種マイナー趣向にそった旅程のご相談・ご用命も承っております。

高速バスも名古屋方面からは直通していないので、前回の四国横断と同じく、JR西日本の舞子駅から高速舞子のバス停に向かいます。

四国横断まちあるき – ご当地キャラとパイロンの旅
高速舞子バスのりば
明石海峡大橋の直下にある高速舞子バスのりば。
高速舞子バスのりば

時間帯によっては、ひっきりなしに高速バスが到着するので、よく行き先を確認して乗りましょう。
今回は室戸行き(室戸・生見・阿南大阪線)に乗ります。

道の駅東洋町
バスに揺られ四時間ほど。
海岸に特徴的な消波ブロックの群れが見えてきたら、もうすぐ甲浦(海の駅東洋町)です。

高速バスは「むろと廃校水族館」最寄りのバス停には停まらないので、室戸岬まで行かずに水族館へ向かう方法はふた通りあります。

ひとつは「海の駅東洋町」からDMVではない路線バスに乗り換えるか。(追加料金は1,200円)
または、そのまま高速バス「椎名」まで乗って、徒歩で来た道を戻るか。

今回は後者にしました。絶景のバス停です。
くじらの里 室戸
120.6は何の数字でしょうか? かわいい看板もあって、椎名たのしいな!
遊漁者の皆さんへ。
漁港に「みなと」、「海岸」に「はま」とルビを振っているのがおしゃれ。
むろと廃校水族館
なぜか駅名標っぽいペイント看板が見えてきたら左(海岸とは反対側)に曲がります。
むろと廃校水族館
閉校した旧椎名小学校の校舎を再活用した水族館です。
むろと廃校水族館 生きる
一部の教室には、当時(?)の机などがそのまま残されています。

国語教科書に谷川俊太郎さんの「生きる」があったので、「言葉の獣」で描かれた朗読ごっこもできます。

むろと廃校水族館OHP
OHPを水槽にするという斬新な展示です。
「平成の子はOHPを知らない」というキャプションに驚愕しました。そ、そんなはずは!
むろと廃校水族館
普通の水槽もたくさんあります。
むろと廃校水族館
大水槽は中継されているよう。ちいさなパイロンがかわいい。

二階に上がると、寄贈されたという剥製がずらり並びます。

シャッタースピードを失敗して、謎のエフェクトのようになってしまいました。

そして、目玉のプール水槽へ。
むろと廃校水族館プール
魚や亀たちが気持ちよさそう。
むろと廃校水族館プール
残念ながら、いっしょに泳ぐことはできません。

帰りのバスまで二時間くらい空いてしまったのですが、のんびり魚たちを見ていれば、いくらでも過ごせます。
なお、復路の高速バスで「椎名」からは乗車できないのでご注意。水族館前から出ている普通の路線バスで「海の駅東洋町」まで戻ります。

いよいよDMVに搭乗のときが近づきます。
のぼりやマーカーも真新しく、DMVへの意気ごみが伝わってきます。
やってきたDMV「未来への波乗り」号、見た目はほぼマイクロバスです。
座席は事前予約制になっていて、運転手さんに席番号と名前を伝えます。
ちなみに、運転席うしろの1Bが前方の視界良好という情報があったので狙ってみました。

乗車しても、雰囲気はまるでバス。

モードチェンジの際は、ディスプレイに阿波踊りのような音楽が流れて実況がはじまるのがおもしろい。

鉄道モード中の宍喰駅は元の鉄道ホームの反対側が乗降口になっています。
宍喰駅
旧阿佐東線の駅名標も残されていました。なんでPOP体…。
ホームから、DMVがレールの上を走るシュールな光景を眺めます。
鉄道モード中はいくつものトンネルをくぐるので、この線路を残した意義がありそうですね。
むろと廃校水族館
宍喰駅長は伊勢エビらしいです。和歌山電鉄のたま駅長と勝負?
道の駅ししくい
DMVのほとんどが始発となる「道の駅宍喰温泉」までも徒歩15分程度なので、このあたりに泊まれば宍喰温泉〜宍喰駅の路線を二度楽しめます。
DMVジオラマ
道の駅にはDMVのジオラマがあり、二階からも全景が眺められます。
DMVシミュレータ

運転シミュレータもあります。ペダルはアクセルしかないので自動運転かもしれません。

DMV
阿波海南駅でふたたびモードチェンジ、この先の「阿波海南文化村」が終点です。
JR四国牟岐線とレールが途切れてしまったのは少し残念ですが、ここからDMVとして新たな歴史を刻むことでしょう。
駅前には待合室やモードチェンジ撮影スポットなどもあります。

世の中の常識が変わる、未曾有のとき。
DMVは、廃線の危機がささやかれる地方鉄道路線の救世主となることができるのでしょうか。
新しい公共交通機関の未来に幸あれ。

トヨタ博物館、そこは路上観察と都市鑑賞の宝庫だった

愛知県長久手市は、2005年に開催された愛・地球博の会場の一つです。

その跡地である愛・地球博記念公園(モリコロパーク)には、今年(2022年)秋からジブリパークの開業が決定しています。
オープン後はしばらく周辺が混みそうなこともあり、いまのうちにモリコロパーク以外で気になっていたトヨタ博物館を訪れてみました。

トヨタ博物館・豊田市美術館・トヨタ産業技術記念館といろいろあってややこしいですが、違いがわかれば立派な愛知通。
長久手にあるトヨタ博物館は、トヨタ自動車が設立した、世界の自動車とその歴史を学べる博物館です。
(ちなみに豊田市美術館はトヨタ自動車とは直接関係ありません)

公共交通機関ではリニモ(東部丘陵線)芸大通駅から徒歩5分。
自動車なら名二環の本郷IC、もしくは名古屋瀬戸道路の長久手ICが便利です。

広大なアプローチにパイロンがお出迎え。

クルマ館の受付で入場券(大人1200円)を購入したら、トヨタ初の量産車、AA型乗用車に見守られて二階のフロアへ。館内は一部を除き撮影自由です。

二階と三階のフロア一面、世界の自動車が年代順に展示されています。
ふつうの博物館感覚で、急げば一時間程度でまわれるかな、と思っていたのですが、展示物のスケールが違うので、とてもそれでは足りません。

車両だけでなく、当時のポスターや開発時の資料なども充実しているのが嬉しい。

右は1929とあるので、およそ百年前のフォントでしょうか。今見てもかっこいいゴシック体!


想像してみましょう。街をゆけば、こんなクルマと文字にであえた時代があるのです。

あっ、(二代目)新型コロナだ!
…森博嗣先生の「ツベルクリンムーチョ」のネタでしたね。

ちょっとお仕事モードで、トヨタのものづくりコーナーへ。

トヨタの仕事といえば、有名なトヨタ生産方式だけでなく、圧倒的な利益を生む製品企画に欠かせないのが主査(チーフエンジニア)制度なのだそう。

別館・文化館のミュージアムショップでは、チーフエンジニアとしてファンカーゴやコンセプトカーpodなどを手掛けた北川尚人さんの著書が売られていました。
さらに文化館の二階へ。7/18まで企画展「小さなクルマの、大きな言い分」が開催中です。
マツダ・スバルなどの軽自動車、今見てもかわいい。

「明日があるさ」など当時の懐メロが流れていて感傷的な気分を出しつつ、しっかり軽自動車ならではの技術特性も解説されているのは、産業系博物館ならでは。

そして奥に進むと常設のクルマ文化資料室、ここが圧巻でした。

自動車黎明期からのカーマスコット、カーバッジなどが整然と並びます。
「スズキのマー坊とでも呼んでくれ。」
文字間が極端に詰まった、この写植の組み方だけで昭和のポスターだとわかります。
さらに戦前のポスター。当時は「トヨタ」ではなく「トヨダ」でした。
現在のTOYOTAからは想像もつかないかわいいロゴ、後ろに見えるのは名古屋城?

などなど、ひとつひとつに見所がありすぎて、いくらでも見ていられます。

それは考現学、あるいは路上観察、はたまた都市鑑賞。

クルマというものづくりに夢をいだいた人がいて。
やがて、クルマが街のすがたを変えていく。
そんな時代の熱気を閉じ込めたような資料室でした。

日本のご当地ナンバーを含めた、世界のライセンスプレート展示も文字好き必見です。

今回は近くの陶磁美術館にも行きたかったので寄れませんでしたが、図書室やミュージアムカフェ、レストランなども併設し、一日中でも楽しめる施設でした。

庵野秀明の浸透と拡散 – 庵野秀明展

ヒトを生まれ年だけで「○○世代」とくくってしまうのには抵抗がありますが、その人がこどもの頃、どのような空想作品にひたってきたか、という観点での分類なら、たしかに有効かもしれません。

いわく、初代・ウルトラマン世代。
ファーストガンダム世代。
無印おジャ魔女どれみ世代。

そして、1995年の「新世紀エヴァンゲリオン」TV放送時(正確には再放送)から衝撃を受け、つづく旧劇場版を高校時代に見てしまったわたしは、まさにエヴァ世代のひとり。
もし同じ経験をした人がこの文章を読んでいれば、見てしまった」という言いようにも納得してくれることでしょう。
それほどまで人生に大きな影響を受けた作品であり、それを語るには、この〈凪の渡し場〉はあまりにも狭い。

そんな作品を生み出した庵野秀明さんの展覧会が、大阪・あべのハルカス美術館で開催されています。

庵野秀明をつくったもの。
庵野秀明がつくったもの。
そして、これからつくるもの。

過去・現在・未来のパースペクティブで、この稀代の監督に迫ります。

あべのハルカスは近鉄のビルなので、名古屋からは近鉄特急・ひのとりで向かいましょう。
アスカカラーですが飛鳥(近鉄吉野線)には向かいません。
青の交響曲で大阪阿部野橋に向かうのも良いですが、レイ派ではないのでまたの機会に(ちょっと何言ってるかわかりませんね)。

終点・難波の手前、鶴橋からJR大阪環状線で天王寺駅まで。

たまたま乗った電車が、〈ハチエモンがおるで電車〉でした。

ハチエモンは8チャンネル・カンテレ(フジテレビ系列)のマスコットキャラクターですね。
かつて関西にいた頃、個性的な関西のテレビ局の中でもさらに尖った番宣CMが印象的に残っています。
このロゴは最近リニューアルされたもので、そこに込められた想いは「DESIGN IS DEAD(?)」というムックで紹介されていました。

いわゆるキタに位置する梅田=大阪(駅)のように、天王寺=あべの、というのは大阪初心者向け解説ですが、わたしもいまだに天王寺駅からあべのハルカスへの道筋をよく覚えていません(笑)。
案内板や通路に書かれた矢印に従って歩きます。

シャトルエレベータで16階の美術館階まで。

エヴァで有名になった、フォントワークスのマティスがお出迎え。
あ! あべのべあ。

あべのハルカスのマスコットキャラクター、あべのべあ。
今回は行きませんでしたが、上層階の展望台フロア(有料)ではシン・ウルトラマンとのコラボ企画も行われています。

屋外庭園もマティスづくし。無料スペースですが、ここからも大阪市内が一望できるのでおすすめのスポットです。

会場内は映像と一部展示は撮影禁止。

庵野秀明の「原点、或いは呪縛」と題された、幼少期に影響を受けた作品の展示からはじまります。
そして自主制作の「ウルトラマン」、伝説の DAICON FILM まで。

筒井康隆さんが「SFの拡散と浸透」をうたったのが1975年の神戸で開催された日本SF大会(SHINCON)のこと。

そこから6年後、大阪で開催された DAICON 3 の運営に携わった大学生メンバーを中心に DAICON FILM が結成され、庵野秀明さんの映像制作が本格化します。

展示されていた自主制作の中でも印象に残った「じょうぶなタイヤ!」。手書きロゴがかわいい。安全運転を…というキャプションもポイントです。

その後設立されたGAINAXは諸般の事情を繰り返し、ついに「新世紀エヴァンゲリオン」の時代へ。
絵コンテ資料を見つつ流れる各作品のオープニング映像は、もう永遠に見られるかもしれません。

TVシリーズサブタイトルの文字演出もしっかりと再現。今に至る文字好きへの影響は甚大です。

そして時は2015年を超え。

「シン・ゴジラ」「シン・エヴァンゲリオン劇場版」という作品が、この世に現れ。

庵野秀明の名は、一部のアニメ・特撮ファンの間だけで語られる存在から、さらに多くの層へと浸透・拡散を果たしていきます。

そこにあるのは、自分の好きなものを見たい、つくりたいという情熱。
かつての名作を、最新の時代にスクラップ&ビルドによって蘇らせる、まさにシト新生。

最後はシン・ウルトラマンとシン・仮面ライダーのコーナー。

このときはまだ映画を見ていなかったのでよくわかりませんでしたが、映画を見たあとだと、また発見があります。
「そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン」。

会場を出た後は、あべのHoopのマクドナルドでコラボメニュー「シン・タツタ」を食べたのでした。