余計なものは何ひとつなく – 瀬戸内国際芸術祭2025 春・瀬居島
今回も瀬戸内国際芸術祭2025、春会期の記事です。
1日目(小豆島)の記事はこちら。
迷い迷ってめくるめく時 – 瀬戸内国際芸術祭2025 春・小豆島
今回は瀬戸大橋エリアの瀬居島(せいじま)をめぐります。
2022年度までも連携企画として〈瀬居島アートプロジェクト〉が開催されていましたが、今回から正式に芸術祭エリアの仲間入りをしました。
中﨑透さんディレクションによる〈so14 SAY YES〉が全島で展開されています。
以前からの芸術祭エリアである沙弥島(しゃみじま)とともに、浅瀬地帯の「番の州」を埋め立てて工業地帯が作られたので、四国本島から車やバスで向かうことができる島です。
坂出駅付近には駅レンタカーやカーシェアがたくさんあり、現地で車を借りるのも容易です。
工場に挟まれた道路をひたすら走り、つきあたりが芸術祭の会場です。途中、やけに路面が悪いと思ったら、作品に出てくる住民の方の思い出によると、どうやら走り屋対策らしいです。
旧瀬居中学校のグラウンドに車を駐められます。大漁旗のかかる校舎が印象的。

会場まで時間があるので、先に竹浦集落に向かいます。
バスや住民の方以外は車で進入できないので、歩いていきます。
汗ばむほどの陽気でしたが、こんな身体感覚も、芸術祭に訪れる価値のひとつです。

それまでの工業地帯とは一変、瀬戸芸らしい島の光景に出逢えます。

海へと向かって伸びていく線路。
これが作品ではない島の日常光景であることに、いつもながら驚かされます。

高台にある法楽稲荷大明神の鳥居からまちを見下ろせば、疲れも吹き飛びます。
中学校に戻って作品を楽しみましょう。

この芸術祭のためなのか、元からあった注意書きか。「水分ほきゅう」の文字とイラストがかわいいですね。

理科室、理科準備室、図書室…。
毎日が小さな驚きに満ちあふれていた、あのころの記憶を刺激する、学校備品とアート作品の数々。
そう、余計なものなど何一つとしてないのです。

本棚には谷崎潤一郎訳の「源氏物語」が!
作品を抜きにしても、この図書室で一日中本を読んでいたくなります。

屋上へ。

工業地帯と瀬居島の集落を丸ごと見渡せる絶好のロケーションに、紛れて〈いるもの〉がかわいい。

中学校から時代をさかのぼり、旧瀬居小学校へ。

いかのおすしおぼえてね。

こちらも懐かしい教室の風景に、島の日用品と思われるものが巧みに組み合わされています。

ひとつひとつ、時を忘れて見入ってしまいます。

時代がどんどんさかのぼり、ついに幼稚園です。

大人のサイズにはすこし手狭な幼稚園に、おそらく瀬居島で生まれた方のエピソードが、文章と連動した先品として散りばめられています。

天秤の作品には、思わず涙が出そうになりました。
余計なものなどないはずなのに、人生ではときおり、何かを天秤にかけて、ひとつの道を進むことを余儀なくされます。
あのとき選ばなかった道を、やっぱり不意に、何度でも思い出してしまう。
天秤なんて喩で言わないで、そう思わず口に出していました。
それでも歩みは止められないから、そろそろ時計の針を進めましょう。
でも、坂出駅に戻る前に、もうすこしだけレトロフューチャーな寄り道を。

昭和40年代から20年かけて造成された坂出人工土地は、人工地盤の上に住宅を、下に商店や公共施設を配した空間です。
本のアイコンがあるので、かつては本屋さんもあったのでしょうか。地下街とも団地とも違う独特の威容です。
(住宅部分の見学はプライバシーへの配慮を)

今も営業中の喫茶店サザンクロスでは〈坂出純喫茶スタンプラリー〉が開催中でした。
市内の純喫茶を巡って飲食をするとスタンプをもらうことができます。
店内でも芸術祭と連動したアート作品の映像が流れていたり、食品サンプルや喫茶店マッチなど楽しい仕掛けが満載です。

喫茶店といえば定期的に食べたくなるホットケーキで、懐かしさにあふれた一日を締めくくります。