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文字遣い/探索士 ——夕霧に包まれ消えゆく島の名を知る術も無し凪の私は

いきいきとした新世紀の明朝体 – 筑紫明朝

ヒラギノ明朝を紹介したので、次はヒラギノ角ゴ…と予想した方がもしいたら、なかなかわたしと近いフォント観。(フォント観ってなんだ?)

実際そうしようと思っていたのですが、ちょっとおもしろい事例を見つけたので、先に筑紫明朝のお話をします(笑)

 

筑紫明朝(つくしみんちょう)は、マティスと同じ、フォントワークスからリリースされているフォント。

 

フォントワークスの年表を見ると、マティスが1992年のリリース、筑紫明朝は2004年。

マティスと言えば新世紀エヴァンゲリオンですが、フォントワークスとしては新世紀のフォントは筑紫明朝のほうなのですね。

 

おもしろいのは、新しいフォントであっても、むしろ活字のような雰囲気を感じること。

 

いきいきした感じ。

生々しい漢字。

 

本のタイトルや、小説の本文で使われていても、とても映えます。

 

本のタイトルには、むしろバリエーションの筑紫Aオールド明朝のほうをよく見かけますね。

」の字を見比べると、わかってもらえるでしょうか。
オールド明朝のほうが、横棒が太くはじまって細くなっていく、筆遣いが強調されています。

 

さらに筑紫アンティーク明朝というものもあります。

「文」の字のはらいも表現されていて、名前どおり、アンティークな雰囲気をだしたいときにぴったりです。

あっ、ちなみにこの特別展はまだ行けてません。
夏に大阪に巡回するらしいので、その機会を狙ってます。

興味のある方、フォント観の近い方、お誘い合わせの上で行きましょう(笑)

 

さて、筑紫明朝に話を戻して。冒頭に言った、おもしろい事例というのはこちら。

木や石などの天然素材で建物を作る、三角屋のホームページ。

ほぼ日刊イトイ新聞が、最初で最後の「よその会社のホームページを作る仕事」をしたという、このサイト。

訪れてみると、Webフォントで筑紫明朝が(しかも縦書きで!)使われている、というのに嬉しくなりました。

フォントを見るだけで、ものづくりのことをしっかり考えている会社なんだな、と安心します。

 

そんな信頼感も伝える、筑紫明朝のお話でした。

考える力を養うために、「説明する」習慣をつける

テレビや本などで、ニュースをわかりやすく解説することで知られるジャーナリストの池上彰さん。

 

そんな池上さんが、ある番組で「話題になっている言葉やことがらについて、つねにどう説明するか考える癖をつけている」ということを言っていたのです。

これを聞いて、いわゆる池上解説の秘訣に触れた気がしました。

 

人に説明するということは、想像する以上に難しいこと。

 

たとえ自分がよく知っていると思っていたことでも、それを何も知らない人に説明しようと思うと、とたんに言葉が出なくなります。

細部の知識があいまいだったり、専門用語を使わずに伝えることができなかったり。

 

つまり、どう説明するか考えることで、そのことについてより深い知識を得ることにつながっていきます。

 

 

このブログでもまさにそう。

「明朝体」とか「ゴシック体」というのはそもそもどんなものなのか。

説明の言葉を自分で探すことで、自分もフォントに対する知識を深めることができています。

 

 

同じように、あなたが自分の好きなことを紹介するなら、と考えてみてください。

 

ブログやTwitterなどのSNSアカウントをもっている方なら、実際に書くつもりで。
あるいは、家族や友人に対して説明するつもりで。

 

特定の相手を思い浮かべた場合、その人ならどういうふうに説明すれば興味をもってもらえるか、という視点も生まれます。

 

さらに、あえてちょっと変わった(ひねくれた)言い方で説明するなら…と考えていけば、もうそれだけでひとつの芸にもなりえます。

筒井康隆という作家が、そういうの好きですね(笑)



考えるほど面白さが生まれる、「説明する」習慣のお話でした。

 


人生が変わる? 人見知りの一人旅 – 瀬戸内国際芸術祭

瀬戸内海、香川県の島々を中心に開かれる現代アートの祭典・瀬戸内国際芸術祭。
瀬戸内国際芸術祭 2016

その瀬戸内国際芸術祭、通称「瀬戸芸」(セトゲイ)を、フリーアナが旅人となって訪れるという番組がBS朝日で放映されていました。

 

BS朝日 – 人生を変える7日旅
元フジテレビ・アナウンサーの平井理央さんは、実は人見知りの性格だといいます。
大学のころの一人旅では誰にも話しかけられず、人見知りを克服するために旅に出たいというのが番組の趣旨。

この記事では、第1回放送の感想をご紹介します。

それ以外の、瀬戸芸の記事はこちらをどうぞ。

 

このブログ的には、人見知りとか内向型は「克服する」というものではないという立場ですが、そういう視点でも、瀬戸内を旅先に選んだのはぴったりだと思うのですよね。

それは、前回・前々回の瀬戸内国際芸術祭に参加した自分の経験から。

行くさきざきで、自分から話しかけられなくても、向こうから話しかけてくれる人がたくさんいたのです。

 

島に住む人であったり。

同じように一人旅をする参加者であったり。

 

いい意味で、たがいの距離感が近い。

 

個人的には、香川から広島・愛媛にかけては、日本の中でも、もっとも人当たりの良い性格が多い地域のひとつではという印象です。

温暖な瀬戸内海式気候のおかげという仮説を立てていますが、個人の感想であり統計的な裏付けはありません(笑)

 

瀬戸内国際芸術祭にしても、けっしてアートだけで成り立つものではありません。

今回の放映で平井さんが訪れた直島・男木島。
規模や歴史の違いはありますが、どちらもアートと地元の人々の暮らしが融合しています。

 

坂が多い男木島で、住人のためにひとつひとつ特製の乳母車(オンバ)を作るオンバ・ファクトリー。

男木島

男木島

 

直島で、旅人のためにたったひとりでボランティアをはじめた島の有名人・立石さん。

普通の民家の庭にどんどん入っていって、住人に約束を取りつける行動力に目を見張ります。

 

普通の観光地とも違う、ふしぎな場所。

瀬戸内海

 

番組としてどういう締め方になるかわかりませんが、この瀬戸内なら、人生が変わるような経験をしてもおかしくないと思います。
わたし自身、瀬戸内国際芸術祭をきっかけに、アートやまちあるきが本格的に好きになったので。

 

人見知りであっても、踏み出してしまえば、楽しいことは世界に満ちている。

 


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【祝】西尾維新デジタルプロジェクト・戯言シリーズアニメプロジェクト – 西尾作品をフォントで紹介してみる

人気作家・西尾維新の全シリーズの電子化が発表されました。

さらに、デビュー作の戯言シリーズもついにアニメ化決定。

 

「京都の二十歳」というキャッチフレーズもなつかしい、デビュー以来ずっと小説で追いかけてきたファンとしては、期待半分・不安半分といったところ。

化物語がアニメ化されるまでは、あの特異な文体とストーリーはアニメ化できないと思っていた原作読者は少なくなかったはず。

しかし、小説の持ち味を生かした独特の文字演出によって違和感を帳消しにするという発想の転換には驚きました。

 

今回は、主にそんなフォントにまつわる観点で、西尾作品を紹介していきます。

 

まずは、その記念碑的アニメ化を果たした〈物語〉シリーズ



原作小説、およびアニメのタイトルロゴは、宋朝体に斜体をかけたフォントが使われています。
宋朝体というのは、明朝体よりももっと前、宋の時代の木版印刷をもとにしたフォントで、ちょっと楷書の雰囲気があります。

吸血鬼や怪異といったファンタジー要素がありつつも、キャラクターどうしの雑談が楽しい、普遍的な学園生活・青春を描いた作品だということがうかがえます。

また、アニメ作中の字幕では「HG明朝B」が使われていることが明示されています。

放映当時、なにかのスタッフインタビューで読んだところによると、原作小説の講談社BOXが同じく本文使用書体を明示していることへのリスペクトだそうな。

 

このHG明朝、実は、Windowsに搭載されている「MS明朝」や「MSゴシック」と同じく、リコーが開発したフォントなんですね。

 

 

ふしぎなことに、劇場版の「傷物語」でだけ、原作と同じフォントワークスの筑紫明朝が使われているみたいなのですよね。

筑紫明朝はそのうち別途取り上げる予定ですが、文字のメリハリがついていてとても引き締まった印象を持つフォント。

 

予算の違いか、劇場の大画面での見栄えを想定したのか、はたして。

 

 

次はドラマ化もされた「掟上今日子の備忘録」にはじまる〈忘却探偵〉シリーズ



と、そのフォントを調べようとしたら、既に書かれているブログを見つけました(笑)

掟上今日子の備忘録のロゴはあの超有名フォントだった話 | YLCL -ユリクリ-

でも、他の人が同じこと書いてたとしても、わたしの視点で紹介してほしいと尊敬する後輩に言われたので、このまま進めます(^^;

 

原作小説やドラマのタイトルロゴは、やはりリコーの「HG明朝L」、または「MS明朝」。

ドラマ公式サイトの文章はWebフォントではなくて画像化されているのが残念ですが、モリサワの「リュウミン」が使われているように見えます。

作中の字幕や小物に使われているフォントは「リュウミン」か「小塚明朝」か迷うところ。

推理作家・須永昼兵衛の著作99冊、もっと高い解像度で全部表紙を見たい(笑)

Blu-rayの特典に…ないかな。

いずれにしても、西尾作品の中ではもっともオーソドックスなつくりで楽しめる作品になっているので、フォントもとても端正なもの。

 

 

そして、戯言シリーズのスピンオフシリーズのひとつ、人類最強の請負人・哀川潤が活躍する〈最強〉シリーズ


タイトルロゴはとても角の切れ味が鋭い明朝体で、ちょっとまだ何のフォントかわかりません。既製フォントを加工したものかも?

さておき、今回の各種発表もされたこちらの公式サイトでは、光朝フォントが印象的に使われています。

purelove

(説明のためスクリーンショットを引用します)

光朝はデザイナーの田中一光さんの文字をもとにしたフォントで、非常に横棒が細いのが特徴。
その横棒がアニメーションで点滅しつつスクロールする、潤さんにも負けず劣らず力強いデザインです。

 

 

ほかにも、まだまだ西尾作品には印象的なフォントを使ったタイトルがあるのですが、長くなったのでこのくらいで。

今回紹介した明朝体ベースのものだけでも、実にバリエーション豊かだということがおわかりいただけたかと思います。

小説の中身も同じく、どれをとっても個性的で刺激的。

 

電子化を機に、もっといろんな作品に触れる方が増えることを願います!

既製フォントの枠にとらわれない、路上の文字観察 – タイポさんぽ

世の中には、路上観察趣味というものがあります。

建築・土木のような大きなものから、看板や標識、マンホールのふたといった小さなものまで、およそ路上にあるあらゆるものを観察対象とすることで、ふつうに街を歩いている以上の楽しみが生まれる。

わたしが小さいころに、はじめてその楽しみを教えてくれたのは宝島社の「VOW!」(まちのヘンなもの大カタログ)。

もっと遡れば、やはり赤瀬川原平さんの「路上観察学入門」や「超芸術トマソン」に行き当たります。

そして今回は、その流れを汲んだ、街中の文字(タイポグラフィ)を楽しむ一冊をご紹介。



これまでブログで主に紹介してきたのは、コンピュータ上で使える、いわゆる既製のフォント。

でも、この本では、まだそのようなフォントが普及するちょっと前、手書きや看板職人さんの手触りが感じられるような文字を中心にしています。

 

 

VOWにしても赤瀬川さんの本にしても、面白いのは題材だけでなく、それを取り上げた著者の視点だと思っています。

その点では、この本もそれにまったく負けていない。

もともとグラフィックデザイナーであるという著者・藤本さんは、まちかどの文字を作り手を「詠み人」と称し、どういう意図をもってロゴをデザインしたのかを深読みしていきます。

 

もはや、風流まで感じさせます。

 

その文体の魅力を感じてでしょう、嬉しいことに、ふつうは本文を立ち読みしないと読めないその文章が、表紙(カバー)にもデザインされています。

画像を拡大すれば何とか読め…読め…ないですね、この解像度では(笑)

Amazonのリンク先では表紙や本文の大きいイメージもあるので、気になる方は覗いてみてください。

 

実はこの本、2012年に出版された本の増補改訂版。

旧版ももっていましたが、判型も大きくなっているので迷わず買い直しました。

 

ちなみにこの本、写真に写っているお店の電話番号やナンバープレートなどの数字が、加工して「0000」にされているのですよね。

そういう芸が細かいところも含めて、とても好きな一冊。

 

わたしも街で見かけた気になる文字をよく写真に撮っているので、文体は真似できないけれど、少しずつ上げていきたいと思います。

たとえばこんな感じでしょうか。

 

本書でも、いじられやすい文字としてあげられていた歯医者さんの「」の字。
横棒の片方だけが丸くなっているのは歯ブラシの柄をイメージしているのでしょうか。
あっ、あと、「FAMILLE」なのにファミールじゃなくてハミールなのは、まさか「歯見ーる」っていう…。

 

もうひとつ。


」の字の中が肉球になっていて、とてつもなくかわいいので、もうそれだけでご紹介(笑)。

 

ということで、路上の文字を楽しむタイポさんぽでした。