アドビのフォントサービス Typekit が Adobe Fonts にリニューアル

アドビといえば、Photoshopなどのデザイナー、クリエーター向けアプリ・サービスで有名です。

そんな Adobe CreativeCloud 会員向けに、これまでTypekitというフォントサービスが提供されていました。

そのTypekitが2018年10月15日にリニューアルされ、Adobe Fonts という名前に生まれ変わったそうです。

Adobe Fonts

Adobe Fonts partners with the world’s leading type foundries to bring thousands of beautiful fonts to designers every day. No need to worry about licensing, and you can use fonts from Adobe Fonts on the web or in desktop applications.

これまでにあった使用フォント数の制限などがなくなり、Creative Cloud のすべてのプランで、提供されるすべてのフォントが使い放題になるそうです。

わたしはCreative Cloud を契約していないのですが、IDを取得することでCreative Cloud無償版プランに加入することができ、この状態でも一部のフォントは使うことができるようです。

モリサワやフォントワークスといった大手のフォントメーカーのフォントに加え、アドビ自体が開発するフォントも多数搭載されています。

中でも注目なのは、2017年にリリースされた貂明朝(てんみんちょう)です。

「貂明朝」は日本語フォントの新たな領域へ

(この記事中の貂の写真はすべて Adobe Stock で見つけることができます) この記事の目的は、 Typekit から提供される「 貂明朝」(Ten Mincho) の書体とフォント開発について技術的詳細を説明することにあります。貂明朝は、これまでどんな日本語フォントも到達しなかった領域に足を踏み入れました。貂明朝の書体デザインについての詳細については、Typekit Blog 上の 公式アナウンスメント ( 英語) の方をご覧ください。この長文の技術的な記事よりも、そちらの方に興味を持たれるかもしれません。公式アナウンスメントに述べられているように、この新しい Adobe Originals の和文書体にはユニークな特長が数多くあります。そのため、日本や各国の書体メーカー、タイプデザイナーの方々はこの書体からインスピレーションを受けられることでしょう。 貂明朝は 9,117 グリフを含み、RegularとItalicの二つの書体を提供していますが、特殊用途用の Adobe-Identity-0 ROS (Registry、Ordering 及び Supplement) に基づく CID-keyed OpenType/CFF フォントの一つでもあります。現在では特殊用途用の ROS に基づくオープンソースのフォントは多数存在し、そのほとんどが GitHub から入手可能ですが、その ROS を用いるアドビの二番目の書体が貂明朝です。 かづらき が最初のフォントでした。 オープンソースの 源ノ角ゴシック (Source Han Sans) と 源ノ明朝 (Source Han Serif) という二つの

貂というイタチ科の動物や鳥獣戯画をモチーフに、これまでにない「かわいい明朝体」というジャンルを切り開いています。

こちらのページで試し打ちができるのですが、ゆきだるまなどの絵文字を入力すると、かわいい貂の絵文字に変身するという、さりげない作り込みが素敵です。(スマートフォンから開いた場合、☃のようにカラー絵文字で入力すると変換されないようです)

貂明朝を表紙に使った本も見つけました。「い」や「こ」の筆がつながっている形は伝統的な明朝体によく見られるのですが、まるっとしてかわいらしいです。

明朝体という川の流れ – 月刊MdN 2018年11月号 特集:明朝体を味わう。

なんだか今年(平成30年)は季節外れの高温が続いていますが、この時季になると例年、「月刊MdN」をはじめとした雑誌でフォントに関する特集が組まれます。

今年も期待に違わず実りの秋となりました。

表紙に書かれた謳い文句は「ワインのテイスティングのように明朝体を味わう。明朝体ソムリエになりたい」。

どこまでがテーマ名なのかよくわかりませんが、〈明朝体を味わう。〉だけは秀英明朝で組まれていて、それ以外は秀英丸ゴシックなので、真ん中だけが正式なテーマ名なんでしょうね(笑)。

付録の書体見本帳も、「明朝体テイスティングリスト」という体裁になっています。

 

明朝体だけに、名は体を表す。

明治から平成に至るまで、この日本に生まれた明朝体の数々を、デザイナー、研究家、あるいはフォントや印刷会社に勤める関係者に取材し、それぞれの特徴を多角的に味わう構成になっています。

ひとつひとつのフォントが詳しく見開きで紹介されていますが、それらは独立して生まれたわけではありません。

ワインの元になるブドウが交配を重ね、あるいは品種改良が進められたように、明治時代、活版印刷が輸入されて生まれた日本の明朝体は、活字から写植、現代のデジタルフォントという歴史の中で、あるフォントがあるフォントに影響を受けたりしながら、何世代にもわたって使われ続けています。

あるいは「水のような、空気のような」と評される明朝体フォントだけに、最初は小さなせせらぎが、やがて大きな川の流れとなり、幾重にもわかれ、また合流をくりかえす、そんな壮大な景色も浮かんできます。

たとえば、Windowsに搭載されているMS明朝のようなありふれたフォントも、金属活字の本明朝がルーツになっています(ちょうど本文の説明部分が脱落しているのが惜しい)。対するにmacOSに搭載されているヒラギノ明朝は、写植時代の本蘭明朝を意識したといいます。

 

明朝体はとりわけ、小説などの「ものがたり」を語るのにふさわしいフォントだとされます。

それは、水のように個性を抑えて文章をつむぐための存在でありながら、それ自身が、深い歴史性、ものがたりを裡に秘めているからなのかもしれません。

 

フォントワークスの年間定額フォントサービス mojimoに、kirei・kawaii・oishiiの3パックが追加

以前「凪の渡し場」では、フォントワークスの新しい年間定額フォントサービス mojimo manga を取り上げました。

 

mojimo manga(以下manga)は「第1弾」と銘打たれていたので、さらなるラインナップのフォントパックが登場することを期待していましたが、8/28から新しく、3パックのサービスが開始されています。

少し紹介が遅くなってしまいましたが、今回はこちらのサービスを比較してみます。

 

新しいパックは kirei・kawaii・oishiiの3種類。

契約方法やインストール方法は、manga と同様のため割愛します。

既に契約中の場合、mojimo会員ページにログイン後、【ご契約情報】>【契約の追加】で追加を行うことができます。

会員トップページからの導線が少しわかりにくいのでご注意ください。

 

使用許諾も manga と同じですが、kirei・kawaii・oishii では法人契約も可能なことが大きな相違点です。

もちろん、インストールできるフォントも異なります。

manga は36書体で年間3,600円、kirei・kawaii・oishiiはそれぞれ8種類で年間1,200円と、1フォントあたりの価格は少し高くなっていますが、総額は安くなっているのがポイントです。使いたいフォントによっては、むしろmangaよりお得に感じる人もいるかもしれません。

では、実際にどんなフォントがインストールされるのか、公式サイトでは別ページになっていてわかりにくいので一覧表を作成してみました。

PDF版

※アンチックセザンヌは、漢字のセザンヌにアンチック体のひらがな・カタカナを組み合わせたフォントですが、便宜上ゴシック体に入れています。

 

比較表をながめてみると、いろいろ興味深いことに気づきます。

フォント名のあとにMとかDとあるのはウェイト(文字の太さ)を表すものです。

本来、それぞれのフォントはウェイト別に複数の種類が用意されていて、それを全部収録してひとつのフォントになるのですが、mojimoでは各パックによって1,2種類のウェイトをうまく分散収録していることがわかります。

kireiの特徴

「綺麗」と言うだけあって、筑紫書体を中心とした明朝体フォントが充実しています。

「クレー」は硬筆フォントで、筑紫A丸ゴシックとともにmacOSにも搭載されているので、Macユーザがkireiを検討する場合は「筑紫明朝が年間1,200円で使える!」と考えたときにお買い得と思えるかどうか、でしょうか。

小説などの文章を組む場合には、とても重宝すると思います。

 

kawaii の特徴

ゴシック体・丸ゴシック体を揃えつつ、デザイン書体らしさも備えた「スキップ」「ハミング」といったフォントも含んでいて、使いどころがありそうです。

mojimo-kawaii|提供書体一覧|mojimo

mojimoは特定の用途ごとに最適な書体をセレクトし、年間定額制で提供します。

ちなみにサンプル文が kirei・kawaii・oishiiで別の文になっていて面白いです(笑)。

 

oishiiの特徴

筑紫書体の中でもとりわけ特徴のあるデザインの筑紫Cオールド明朝、筑紫アンティークLゴなど、各カテゴリのフォントがバランスよく収録されています。

迷わず使いわけたい! 筑紫A丸ゴシック・筑紫B丸ゴシックでは、ちょうどAランチとBランチのどっちを食べるか、という例で両者の違いを説明しましたが、kireiやkawaiiでは筑紫A丸ゴシック、oishiiは筑紫B丸ゴシックが搭載されているということは、フォントワークス公式にはBのほうが美味しい、ということでしょうか(笑)。

 

mangaの特徴

最初に、1フォントあたりの価格は少し高いと書きましたが、実はmangaに収録されているフォントの多くは、比較表で省略した明朝体・ゴシック体以外のデザイン書体です。

あくまでマンガを描かないわたしが半年使ってみた感想としては、これらのフォントは使いどころが限定されるため、もう少し明朝体・ゴシック体のラインナップが充実していたら、と思うこともありました。

そこに、今回の3パックが追加されたというのは、ある意味狙い通りかもしれません。

それぞれのパックで、絶妙に使いたいフォントがあり、どれを契約しようか、いっそ全部契約しても値段はmangaと同じか…と、悩ましいmojimo新パックでした。

 

 

文字の歴史と美しさにふれる – 書と文字は面白い

わたしたちがふだん目にする本、街中のポスター、Webサイトには、さまざまなフォントがあふれています。

そして、それぞれのフォントには必ず、それをデザインした人=書体設計士の存在がいます。

そんな書体設計士の一人・鳥海修さんの著書「文字を作る仕事」に、書家・石川九楊さんのお名前が登場します。

MacやiPhoneに搭載されたヒラギノ明朝を作った際にも修整指示を担当されたそうで、鳥海さんと同じく京都精華大学の教授を務められ、書家としての活動の他に書や文字に関する研究を行っています。

現代日本で使われる文字のルーツは、中国古代にまでさかのぼります。

亀甲や骨に刻まれた甲骨文字や、殷周時代の金属器に鋳込まれた金文から、漢字の歴史がはじまったのです。

いかにも象形文字らしいかわいさを残す文字のデザインから、日本と中国でそれぞれ発展していった書の歴史、はては自動車のナンバープレート、漫画の描き文字にいたるまで、さまざまな視点で文字をとらえ直していきます。

たとえば、フォントの分類のひとつに、かつて大銀行や官公庁の看板に多く使われていた隷書体というものがあります。

いまでも、新聞の題字(タイトル)や紙幣に使われ、なんとなく威厳がありそう、という雰囲気をかもし出すフォントです。

歴史的には、実印に使われる篆書体が生まれたのち、漢の時代に完成し、毛筆の特性である筆触の存在感が強くあらわされています。

一般的に毛筆と認識される楷書体・行書体・草書体の先祖としての威光が、今にいたるまで隷書体のイメージにつながっているのかもしれません。

 

この本の中で、石川さんは「書は言葉=文字に同伴する美術である」として、書がもつ、ほかの美術との差異を明らかにします。

絵画であったり、ピアノであったり、ほかの芸術であれば、まったくの初心者の状態から一歩一歩階段をのぼっていく必要があります。

ところが、現代日本で生きている人であれば、鉛筆やペンであろうと、長年文字を書く機会があり、書についてまったくの初心者ではない、といいます。

本書は平成5年に出版されたもので、それから四半世紀の時が経ち、紙などに直接文字を書く機会が減っている人が多いこともたしかでしょう。

それでも、街中で、わたしたちは多くの文字に触れ、多くの文字を指先から打ち出し続けています。

それがフォントの形であっても、それが生まれるまでの歴史、きざまれた文化を知ることは、けっして無駄なことではありません。

それによって、より深く、文字を味わうことができるのです。

 

 

NHK 美の壺 – 心を伝えるフォント

暮らしの中に隠れたさまざまな美を紹介するNHKの番組「美の壺」で、フォントが特集されていました。

美の壺 – NHK

おかげさまで番組は13年目! 壺のいい感じ、究めます。

「想いを伝える」コミュニケーション手段としてのフォントの奥深さ、幅広さが文字通り伝わってくる内容でした。

フォントで想いを伝えるブックデザイナやグラフィックデザイナー、そしてフォント自体を作るフォントデザイナーなど、さまざまなかたちでフォントに関わる人々が登場します。

そして、それらの源流をたどっていくと、中国の明の時代から伝わり、日本では明治時代に活版印刷として普及した明朝体に行き着きます。

いっけん同じように見える明朝体でも、人によって伝えたい想いが異なり、それを表現するために、いまも新たなフォントが生み出され続けています。

 

たとえば、フォントワークス・ 藤田重信さんの筑紫シリーズ

筑紫書体シリーズ|フォントコラム|FONTWORKS | フォントワークス

フォントコラム|

たとえば、鈴木功さんの金シャチフォントに代表される都市フォントシリーズ。

こちらは名古屋城の金シャチを明朝体のデザインに取り入れています。

Type Project | 都市フォントプロジェクト 名古屋

街から生まれた文字が街で使われ、育まれ、いつか街の風景になる。それがタイププロジェクトが提唱する「都市フォント」プロジェクトのビジョンです。名古屋をイメージした「金シャチフォント」や、横浜の港をイメージした「濱明朝体」など、タイププロジェクトが取り組んでいるプロジェクトを紹介しています。

文字に、文字以上の想いをつめこもうとすること。

そのこだわりはある意味欲張りで、だからこそ切実で、崇高なものかもしれません。

 

番組内のドラマパート(?)では、草刈正雄さんが町内会イベントのチラシを作るためのフォントを選ぶというシチュエーションを演じていました。

フォントが多すぎて選べないときは考えるより感じる、それも一つの手です。

フォントの歴史や背景を知ることも大切ですが、それがすべてではありません。

自分なりの視点、感覚で、伝えたい想いをフォントに託してみましょう。