旅が好きです。
旅の楽しさは、じっさいに現地を訪れている瞬間だけでなく、どこに行こうかと計画を練る時間、家に帰ってきて旅の思い出をふりかえる時間、そのすべてに含まれています。
あるいはまた、他の人から旅の思い出を聞いたり、旅行記を読んだりするという楽しみかたもあります。
そこで今回は、こちらの本をご紹介します。
益田ミリさんは大阪出身のイラストレーターで、マンガの著作もありますが、この本は文章で旅の思い出がつづられます。
女性3人でフィンランドやスウェーデンへ。その後、ひとりでフィンランドへ。
彼と東北へ。
老齢の母親と京都へ。
実は書店で見かけたときは、幻冬舎文庫フェアのオビが掛けられていて、こんな惹句に共感して買いました。
一冊読み終えたあと
なんとなく、表紙をながめます
まさにこの本も、なんとなく表紙をながめたくなる、いい本です(おさかなかついだネコは、とくに本編に登場しませんが…)。
本を読む前、手にとった段階で、表紙や裏表紙に書かれたあらすじ、あるいは著者の略歴が情報として頭に入ります。
それをもとにして、ある程度「こんな内容かな、それなら読みたいな」という期待を胸に、ページをめくっていくことになります。
そして、最後のページまで読み終わったとき、その期待や予想が当たったにしても、外れたにしても、もう一度本を閉じて、表紙をながめる。
そのとき、頭に浮かぶのはもはや、読む前にあった情報ではなく、読んでいた間の思い出なのです。
旅も同じです。
出かける前に、目的地について調べて、気になる場所やお店を見つけることもあれば、「あれが食べたい、これを見にいきたい」という理由から旅先を決めることもあるでしょう。
けれど、どちらにしても、そんな期待をみちしるべに現地に行ってみれば、必ずといっていいほど、事前に予想もしていなかった世界に出会うことになります。
それはあとから調べてみれば有名なお店であったり。
たまたま現地で出会った人々との会話であったり。
あるいは同行者の知らなかった一面であったり。
そんなあれこれが、あとから旅行のお土産品や写真を見るたびに思い出されます。
旅行に行く前と、行ったあとでは決定的に世界の見方が変わってしまうのです。
そしてそれは、同じ旅に行った相手とでさえ少しずつ視点が違う、かけがえのない自分だけの世界です。
本を読むたび、旅に出かけるたびに、知らない世界の思い出がひとつずつ増えていきます。