自分だけの星座をみつけたい

冬になると、よく夜空を見上げます。

家までの帰り道、日の入りも早くなり、澄み渡った空に星々がきらめくのを感じる季節です。

星見の楽しみ方は人それぞれだと思いますが、わたしはスマートフォンのアプリを片手に星座をみつけるのが好きです。

 

よく、北極星をみつけるのに、カシオペア座のWから交点を延ばすとか、北斗七星を使うという方法が紹介されることがあります。

でも、そう言われると、カシオペア座が北極星をみつける道具に過ぎないようにも思えてしまいます。

北極星だって、ポラリスという名前の、こぐま座を構成するひとつの星なのです。

星座の間に、優劣はありません。

 

さらに言えば、星座というのも古代の占星術や天文学という視点から生まれたものです。

ほんとうは距離も大きさもバラバラの星々を、ある時点の地球から見たうえで、勝手につなぎ合わせた星座のかたちは、宇宙のどこにも存在しません。

それでも、人はそれに意味を、物語を見出します。

一等星だけを探すのではなく、明るい星も暗い星もつなぎ合わせて意味をみつけるのは、人類の習性かもしれません。

 

視点を個人の趣味や特性に転じてみましょう。

 

仕事でも趣味でも、それだけに長年打ち込んでいる人を見ると、到底かなわないと思える瞬間があります。

 

たとえば、どれだけフォントが好きと言っても、一流のフォントデザイナーには追いつけない。

けれど、フォントが好きで、本や物語が好きで、まちの風景が好きで…といった視点をつなぎ合わせることで、日常のなかに新たな意味を見つけることができるかもしれません。

 

たとえば、ネコが好きでも、岩合光昭さんのような写真家になるのは難しいでしょう。

けれど、たとえば路上観察・都市鑑賞の視点を持ち込めば、〈猫とパイロン〉といった唯一無二の視点で写真を撮ることができます。

好きなものをたくさんみつけて、自由につなぎ合わせれば、自分だけの星座を描くことができるのです。

旅情のパイロン

旅先では、あらゆるものが新鮮に映ります。

日本全国、どの路上にもあるパイロン(カラーコーン)も、あらためて目をとめてみれば、旅情を誘うものです。

今回は、そんな路上=旅情のパイロンズを紹介します。

まずは偏愛する広島から。

広島では、毎年ゴールデンウィークにフラワーフェスティバルが開催されますが、このような交通規制が敷かれる大きなイベントでは、必ずといっていいほど活躍するのがパイロンたちです。

イベントの直前にまちを訪れると、パイロンが静かに出番を待っている光景に出会えます。ひときわ大きなパイロンに出会えるチャンスも。

 

広島からもう一枚、こちらは広島電鉄の車庫がある江波で、路面電車とのツーショット。

バラエティ豊かな車両が楽しめる広島電鉄の路面電車ですが、基本となるグリーンの帯が、同じくグリーンのパイロンとよく調和していて、お気に入りの一枚です。

広島乗り物めぐり – ヌマジ交通ミュージアム

 

瀬戸内海を渡って、お向かいの四国は愛媛県松山市。こちらではオープン直後の道後温泉別館で、ご当地キャラの「みきゃん」をあしらったオレンジのパイロンに出会えました。

このときの様子は 四国横断まちあるき – ご当地キャラとパイロンの旅 にまとめていますので今回は割愛し、北に向かいましょう。

鳥取県、境港市にやってきました。この街出身の漫画家・水木しげるさんにちなんで、境港駅前は妖怪のブロンズ像が800mにわたって続く「水木しげるロード」として整備されています。

ねずみ男パイロンに、ぬりかべパイロン。道行く人々はとなりのブロンズ像に夢中でシャッターを切るばかりで、まるでパイロンは目に入っていないかのよう。

観光案内所で販売されているガイドブックにも掲載されていない、まさに妖怪のように見えない存在です。

鳥取といえば砂丘でも有名ですが、地質のせいか、砂丘以外の海岸でも砂に埋まりかけたパイロンに出会えました。

まだ訪れたことはないのですが、鳥取砂丘パイロンの情報もお待ちしています。

おとなり島根県出雲市は出雲神話で知られます。

高天原から現れたタケミカヅチが国譲りを迫ったという伝承のある稲佐の浜では、二千年の時を超えて、パイロンが地の平和を祈っています。

よく見られるコーンバーではなく、しめ縄のように足元で四方のパイロンを縛る光景は、神々しさを感じずにはいられません。

 

最後は京都です。景観に配慮した街ならではの竹かごパイロンは、もはや京名物のひとつに数えてもよいでしょう。

「迷惑駐車お断り」の案内もはんなりと、まさにぶぶ漬け文化の極みです。

まだ見ぬ各地のパイロンを探しに、また旅に出たくなります。

 

個人研究が人生を楽しくする – ジャイロモノレール

長い人生の中で、自分だけの楽しみ、生きがいのようなものを見つけられたら、どれほど幸せなことでしょう。

それは自分の仕事の中に—いわば〈天職〉として—見つかるのかもしれないし、まったく違う場所で、趣味の世界に見つかるかもしれません。

そんな、自分だけの楽しみの価値を教えてくれるのが、作家にして工学博士である森博嗣さんの「ジャイロモノレール」です。

ジャイロモノレールとは、一本のレールの上を走る鉄道のこと。

普通のモノレールとは違って、ジャイロという仕組みを用いることで、支えなしでバランスをとって自走することができます。

20世紀の初頭に、未来の高速鉄道として技術開発がなされたものの、時代の変化によって日の目を見ることがなく、今では失われた技術となってしまったそうです。

そんな幻の技術を、森博嗣さんが復元に成功、自宅の庭に敷いた庭園鉄道で実際の模型を走らせるところまで達したというのが、本書の前半部分です。

ジャイロモノレールの説明や動画自体は、著者のホームページやYouTubeで無料公開されています。

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エンジニアリングや工作が好きな人にとっては、これだけでも興味深い内容ですが、本書の終盤では、ジャイロモノレール研究を例にとって、著者の〈趣味〉に対する考え方が語られます。

 

そもそも趣味とは英語の「hobby」の訳語ですが、イギリスでは紳士のたしなみとして、仕事よりも重視されるものだそう。

それがたとえばコレクション(蒐集活動)であったとしたら、それ自体が目的なのではなく、なにか他の目的があり、その手段のために集めているだけなのだといいます。

それは研究のために資料を集めたり、調査することと似ています。

そこで森さんは〈趣味〉ではなく〈個人研究〉と訳すことを提唱しています。

研究とは他の誰もまだ知らないことを、自分だけが追い求めることです。

仕事でなければ、他の誰に価値を認められなくても、自分さえ価値を見出すことができればいいのです。

そうしてみんなが自分の楽しみを追求することで、あるいはそれが他のだれかに波及して、さざ波のように楽しさが広がっていくかもしれません。

 

その意味では、わたしの趣味=個人研究も、まだはじまったばかり。

フォントとか、パイロンとか、いろんな先人の方に刺激を受けて蒐集をはじめたことはとても幸せなことで、でもそれは、やっと研究の種がみつかっただけの段階にすぎません。

ほんとうに自分だけの、新しい視点に立った研究はこれから。

その先に、もっと楽しいことが待っているのです。

 

 

自分視点の旅のすすめ – できるだけがんばらないひとりたび

旅行が好きです。

それも、もっぱら、ひとり旅。

何ヶ月も前から行きたいところを決めて、綿密に計画を立ててする旅行が大好き。

思い立って、ふらっとなじみの土地に行って、まだ行ったことのない場所を探索するのも大好き。

そう言うと、行動的とか、アクティブなどと思われることもあるのですが、わたしの中では、そこまで特別なことをしているという感覚はありませんでした。

このブログ「凪の渡し場」では「日常に新たな視点を」というコンセプトで、さまざまなまちあるきの記事を書いてきましたが、「旅に出ること」そのものが、わたしにとっては日常の延長線上にあるのかもしれません。

自分だけの物語を見つける – ぼくらが旅に出る理由

一歩を踏み出す勇気が出ないなら、半歩踏み出してみる

 

そんな、ひとり旅に対する新しい視点を提供してくれるのが、こちらの本。

同名のブログ「できるだけがんばらないひとりたび」をもとに、あまり旅に慣れていない人、心配性な人に向けてのコツや心得をまとめた本です。

わたしも心配性なことにかけては人後に落ちない自信があるので、そういった面でも実用的な学びにあふれています。

たとえば、わたしはよく、荷物が多い、カバンが大きいと言われることがあります。

「旅慣れた人は荷物が少ない」という定説にあこがれたこともありますが、やはり旅となると心配になり、あれもこれもと詰め込んでしまうもの。

けれど、心配な人はそれで良いのです。

現地で服を洗濯したり調達するのに不安があるなら、日数分持っていけば良い。

お土産だったり、本をたくさん買ってしまうのなら、その余裕をもったカバンを選べば良い。

ただし、大きいカバンを持ち運ぶのは体力を消耗するので、さっさとホテルやコインロッカーに預けるに限ります。それに向いたカバン選びこそが大事。そんな結論になります。

シンプルで大容量な旅行用リュックなら「2wayダッフルバッグ」と検索すると捗ります – できるだけがんばらないひとりたび

THE NORTH FACE の「Glam Duffel」が便利で、シンプルな旅行用リュックを探していた私は「そうそう、これでいいんだよ!」と思ったのですが、「2wayダッフルバッグ」で検索してみると同じようなのが出てきて、どれも便利そうでした。 「なんでこれを選んだの?」という話と、他にもよさそうなやつをまとめておきます。 ノースフェイスで見つけた、バカみたいに軽くて容量の大きい …

 

さて、とはいえ、本書に書かれているのは実用的な情報ばかりではありません。

むしろ、具体的な情報ならブログのほうが詳しいでしょう。

それでもわたしが本を読んで感銘したのは、旅に対しての「視点」が鮮明に打ち出されていることにあります。

実は著者の田村さんは、日本や世界のエスカレーターをめぐることを趣味としており、「東京エスカレーター」というサイトを主宰されています。

かっこいい・珍しい・おもしろい世界のエスカレーターまとめ | 東京エスカレーター

「東京エスカレーター」は、たぶん日本で唯一くらいのエスカレーター専門サイトです。首都東京から、世界の素敵なエスカレーター情報をお届けします。管理人は田村美葉(たむらみは)です。

 

本の後半は田村さんの旅の記録が収録されているのですが、ロンドン旅で突然エスカレーター写真が出てきたりと、本の表紙からはちょっと想像つかない、素敵にマニアックな世界が展開されています。

見開き特集されている「スパイラルエスカレーター」は螺旋階段のような外観が特徴的ですが、田村さん自身も認める通り、これを目的に旅をするのは自分だけではないかという「自分視点」のひとり旅。

それでいいし、それがいいのです。

 

旅で大切なことは、自分の視点で世界を見るということ。

それは一般的な名所やモデルコースを否定するものではなく、むしろそうした「多くの人が共感する視点」を取り込みながら、何故か自分だけが惹かれてしまう視点を少しずつ養っていく、それがひとり旅の大きな楽しみです。

ひとり旅なら、エスカレーターの写真を黙々と撮っていても同行者から不審に思われることもないでしょう。

ひとり旅なら、誰にも構わずパイロンを撮り続けることができるのです(パイロンも、125ページに何の解説もなく言及されていて、感慨深いものがあります)。

 

そんな自由さ、自分視点で、旅を楽しんでみること。

そうしてあるいは、そんな楽しみを発信することで、その視点が誰かの共感を呼ぶとしたら。

それもまた素敵なことでしょう。

 

知ること、見ること、考えること – 観察の練習

いまさらですが、このブログ「凪の渡し場」は、「日常に新たな視点を」をコンセプトに、さまざまな世の中の楽しみかたについて提案しています。

では、実際に新しい視点を見つけるにはどうしたらいいのでしょうか。

ひとつの方法は、これまでいろいろな記事で紹介している、さまざまなものの知識を身につけることです。

フォントの名前であったり、路上にあるものの名称(たとえば、パイロンであったり、建築材であったり)をおぼえることで、これまで区別していなかったもの、気にもとめていなかったことに目を向けるきっかけになります。

 

でも、それはあくまで、新たな視点を身につける補助線にすぎません。

ほんとうに大切なことは、知識そのものよりも、それを見ようとすること、観察することにあります。

そんな観察の習得方法について書かれたのが、その名も「観察の練習」という本です。

 

この本の本編は、まちなかのさまざまな日常の風景を切り取った写真だけのあるページと、それについて書かれたページに分かれています。

写真のページで、日常の風景から著者が感じた「小さな違和感」は何かを考えてからページをめくることで、それが自分の思ったことと同じかどうか、あるいはまったく違うことが書かれているかを楽しむことができます。

 

もちろん、ひとりひとりの視点はすべて違うものだから、その観察結果に「正解」はありません。

その違いが、もともと自分がどのような視点をもっているのか、何に注目しがちなのか、そんな思考のクセをつかむヒントにもなるかもしれません。

 

また、この本自体が、表紙に書かれたタイトルの漢字が部分的にしか白塗りされていなかったり、本編も一部内容に合わせて特殊な文章の組み方がされていたりと、小さな違和感を楽しむことができます。

実際にどんな「観察」が紹介されているか、気になる方はぜひ本をお読みいただくとして(この記事のアイキャッチ画像の謎も、本を読めばわかります)、今回は「凪の渡し場」オリジナルの「観察」をしてみます。

 

さて先日、とある博物館を訪れた際、こんなパイロンを見かけました。

「街角図鑑」を買ってからというもの、パイロンを見つけては撮るということをしているのですが、よくよく考えると、わざわざパイロンの形状にぴったりな「開館」の看板をかぶせているのはとてもふしぎです。

いわゆるサンドイッチマンならぬ、サンドイッチパイロンです。

ちょうど建物の一部が工事中だったため、工事現場を囲むパイロンがあり、訪れた客が閉館中だと間違わないように「開館」をかぶせたのかもしれません。

けれど、同時に、近くの駐車場で、こんなパイロンも見かけました。

契約車両以外の駐車を禁じる看板がわりに使われています。

よく見ると、こちらのパイロンも先ほどのパイロンも、上部以外の三方に囲みがあり、真ん中に紙やプレートを入れられるようになっているようです。

ここまでくると、工事中かどうかは関係なく、パイロンを手ごろな看板がわりに使おうとする意志を感じます。

たまたま、ここの関係者がその用途に気づいたのか、あるいはパイロン業界でひそかに普及しているものなのか…。

 

こんなふうに、自分でも撮りためた写真を見返して、さらに深く観察することで、そのときは気づかなかった視点を楽しむことができます。

もちろん、まだ路上観察に慣れていない人も、ぜひ街に出て、さまざまなものを観察して、写真に撮ってみてください。

 

最後に、この本に近い「観察」を楽しむ本として、こちらも紹介しておきます。

主に、街ゆく人々が無意識にとった行動を写真におさめ、発想の仕方やデザインの考え方を学ぶ本として、工学博士で作家の森博嗣さんが翻訳されたことでも知られます。