趣味旅行のつくり方 – ヨーロッパのドボクを見に行こう

あいちトリエンナーレも瀬戸内国際芸術祭も開催中だというのに、こんな本を読んだおかげで、急にヨーロッパ旅行に行きたくなりました。

ところで「ドボク」って?

専門用語としては、「建築」は家やビルなどの建物、「土木」は鉄道や橋といった公共施設を指すものとして使い分けられます。

ただ、ここでいう「ドボク」は、偏愛の対象としてのインフラ全体を総称するもの。

 

NHKの「熱中時間」にも出演されていた大山顕さんの団地・ジャンクション・高架下建築、石井哲さんの工場などが含まれます。(本書にも寄稿あり)

日本とヨーロッパでは、気候や地形の違いから、つくられるドボクのあり方もおのずと異なってきます。それは日本以上にスケールが大きく、想像を超えたデザイン。

 

干拓のために、32kmも続く大堤防を築き上げたオランダ。

リゾートホテルと巨大ダムが同居するスイス。

7132 Hotel – Exceptional Hotel and Therme Vals

露天掘りの炭鉱で掘られた褐炭を、ベルトコンベアで火力発電所に運んでいくことで電力需要をまかなうドイツ。

 

ぼんやりとイメージしていたヨーロッパとは違う光景がそこにはあります。

良い悪いではなく、こんなふうに自然と対峙してつくりあげてきた、それぞれの国の歴史を垣間見ることができます。

 

さて、この本を読んで、本当にヨーロッパのドボクを見に行きたい! と思ってしまったらどうするか。

 

本書の最後には、それぞれ近い施設ごとに組まれた、5泊7日のモデルツアーが紹介されています。

さらに、旅行をアレンジするための計画・準備から実施・帰国までを綿密に解説した、「ドボク旅行のテクニック」なる章まで。

ドボクに限らず、決められたパックツアーではなく、自分の趣味に応じた旅行プランを練る際にはとても参考になります。

 

ちゃんと「同行者の趣味嗜好をわきまえて!」なんて注意書きもあって頭が下がりますm(_ _)m

一人旅で自由に旅程を組むのも楽しいもの。

でも、同行者がいるときは、お互いの視点を取り入れることで、新しい魅力を発見することができそうですね。その土地だけでなく、相手に対しても。

 

いろいろな意味で、旅行のための視野を広げてくれる一冊です。

 

原平という人がいた! – 赤瀬川原平の全宇宙

誰もが人生のなかで、いろいろな人に逢い、いろいろな本を読み、その影響を受けていきます。

けれど考えてみれば、その出逢った人も、本を書いた人も、また別の誰かから影響を受けて人生を生きています。

 

ふとした瞬間に、その源流、言ってみれば元ネタを知ることがあります。

わたしにとって、赤瀬川原平という作家はそんな源流…あるいは「原流」ともよべる存在です。

 

赤瀬川原平さんは1937年生まれ、2014年没。芸術家として活動したり、尾辻克彦という名前で書いた小説が芥川賞を受賞したりと、きわめて広範な活動をしていました。

そんなわけで、赤瀬川さんの名前を意識することはなくても、その影響を受けた人や活動がたくさんあります。

 

たとえば、街中のちょっと変わったもの、おかしな看板に目を留めること。

こどものころ、宝島社の「VOW」という本を読んで、そんなモノの見方があることを知り衝撃を受けました。

その源流は紛れもなく、赤瀬川原平さんの「トマソン観測センター」、そして路上観察学。

トマソンというのは、当時の読売巨人軍の助っ人外国人、トマソンから。

4番打者なのにまったく活躍しないというところから、街中の無用物をトマソンと名づけました。

当人には傍迷惑な話でしょうが、普通の人が見過ごしてしまうようなものに着目する感性、それを多くの人が興味を引くように「見立て」で語る手法は卓越しています。

一人で「ない仕事」を作る、みうらじゅんさんにも通じるところがあります。(実際、みうらさんも赤瀬川さんの本の解説を書いています)

その視点は、辞書にも向けられます。

新明解国語辞典」の例文がおもしろいことに気づいて書かれた「新解さんの謎」。

「舟を編む」などの辞書ブームの背景にもなっているのではないでしょうか。

 

変わったところでは、昔流行した3Dステレオグラム

なんと、これも赤瀬川さんが早くから目をつけていたのだそう。

二次元の写真が三次元になるという視点の転換。いま流行のARやVRも、そういう視点で考え直すと新しい発見がありそうです。

 

ちなみに、わたしが赤瀬川原平という名前を意識したのは、実はアニメ化物語

 

主人公の阿良々木暦が八九寺真宵におこづかいをあげるシーンで、千円札に「赤瀬川」と書かれています。

何のこと? と思って調べたら、アート作品の中で千円札をコピーして、裁判にまでなってしまった事件が元ネタの様子。

もちろん、西尾維新原作には一行たりともそんな記述はありません。

アニメ<物語>シリーズの演出自体、赤瀬川さんや、あるいはさらにその源流となる明治期の雑誌編集者、宮武外骨の影響がありそうです。

 

これからも、新しく興味をもったことが、実は意外な先人によって切り拓かれた道だったということがあるかもしれません。

 

それは、はるか昔、見知らぬ誰かから、しっかりとバトンを渡されたということ。

そして、わたしも、未来の誰かにバトンを渡せるようになれば嬉しく思います。

戦後を感じるモダニズム建築 – 香川・高松まちあるき

瀬戸内国際芸術祭の四国側玄関口となる、香川県高松市。県庁所在地として、新しい建物と歴史的な建物が混在した街並みは、歩いていて飽きることがありません。

今回、女木島の案内所でもらった「めぐるーと高松」というパンフレットがとても参考になったので、これを片手にまちあるきを楽しんでみました。

 

スタートはJR四国・高松駅から。外観が顔になっていてかわいいです。

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香川県庁を目指すため、バスターミナルへ。路線が複雑で乗り間違えそうになりますが、運転手の方に行き先を言うと、どのバスに乗ればよいか親切に教えていただけました。

 

こちらが香川県庁舎。

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手前の東館(旧・本館)の竣工は昭和33年。日本の戦後を代表する建築家・丹下健三が設計した、モダニズム建築の傑作と言われます。

奥の現・本館も同じく丹下健三によるもので、こちらは平成12年に竣工。

 

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ちょうど通りがかったバスのラッピング広告がかわいかったので、いっしょに撮影。広告のロゴといい、50年以上の時代のギャップを感じさせず、不思議に調和していますね。

当時の県知事・金子正則の「県民に開かれた空間」にしたいという想いが、実際に訪れるとよくわかります。 モダニズム建築の特徴とされるピロティが、歩道からスムーズにつながって、誰でも入りやすい空間になっています。

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「いま、ここは閉じています」は、新ゴっぽいフォントからして、だいぶ後の時代に作られたと思われます(笑)

 

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ピロティの奥は日本庭園。

 

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一階ロビーも開放されています。中央の猪熊弦一郎による陶板壁画は、瀬戸内国際芸術祭の205番アート作品という扱いにもなっています。

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奥に県庁舎や丹下建築の歴史を紹介した展示も。既決・未決箱が高まる!(^^)

 

さて、県庁から中央公園沿いに丸亀町まで向かうと、素敵な建築がたくさんありました。パンフレットには載っていない、個人的に気になったものもまとめてご紹介。

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上下水道工事業協同組合ビル。明朝体が渋ビルっぽさを増しています。

 

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ロゴがすばらしい、番町書店と美容室トキムネ。トキがムネムネしますね!(笑)

 

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「混在併存」がポリシーの大江宏が設計した、香川県文化会館。

 

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なるほど〜。って、何がなるほどなのか?

 

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向かい合う、香川市庁舎と香川国際交流会館(旧・県立図書館)。

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そのとなりにある、和菓子屋・巴堂さん。ぶどう餅おいしかったです!

 

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百十四銀行本店。緑青のブロンズとガラスがとても美しい。そうと知らなければ、昭和41年の竣工とは思いもよらなかったでしょう。

 

あとは、もはや建築ではないけれど、気になった子たち。

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後から貼られた文字は、たいていウェイトが揃わないので気になります。

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中央公園、パイロンに守られたタヌキの石像。名前はハゲさんだそう(^^;

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地下道には、星座を模した壁画が。

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いい丸ゴシック!

 

今回紹介した市街地以外にも、香川には魅力的な建築がたくさんあります。

直島で開催中の「直島建築+The Naoshima Plan」もおすすめです! 安藤忠雄のANDO MUSEUM、地中美術館とあわせてどうぞ。


 

広島を代表するパン屋さん、アンデルセン

わたしの広島への偏愛を一方的にお伝えする不定期シリーズ(笑)。

今回は、ベーカリー・アンデルセンのご紹介。

 

デンマークの童話作家、アンデルセンの名前を冠したパン屋さん。

わたしのお気に入りは、デニッシュハート。一口サイズなので、少食でも安心。差し入れにもぴったりです。
名古屋だと松坂屋栄店の本館地下2Fなどに店舗があります。それ以外にも、たまに各地の百貨店の催事場で販売していたりするので、見かけたら要チェック!

ハート型のペストリー『デニッシュハート』 | ベーカリーアンデルセン

 

そんなアンデルセンの発祥の地が、そう、広島。

この本によると、広島ではじめてサンドイッチを売ったパン屋さんだそう。

本通の一角にあった、原爆の被害を受けた被爆建物を購入し、誕生した店舗が広島アンデルセン

 

お店のオープン当時、ショーケースと建物の構造上、対面販売が難しいという問題が浮上したそうです。

それを解決するために生まれたのが、セルフサービス方式

いまや、全国のパン屋さんで見られるこの方式が、そんな建築の都合ではじまったというのがおもしろいですね。

 

ちなみに、この広島アンデルセン、立て替えのため一時的に紙屋町に移転しているそうです。

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こちらの店舗はまだ行ったことがないのですが、ウェブサイトを見ると仮店舗という印象はまったく受けません。

次に広島に行ったときは訪れてみたいです。

パーティー&セミナーフロアもあるのですが、入れる機会があるかどうか(^^;

建て替え後も、建物の外壁は一部残るそうなので、こちらも再オープンが楽しみ。

 

パンだけでなく、広島の歴史もあわせて味わいたい、アンデルセンのお話でした。

古くて新しい、まちの魅力に出会う – 愛知・名古屋の近代建築

ゴールデンウィーク、いかがお過ごしでしょうか。

愛知・名古屋では現在、近代建築に関する企画展示・イベントがいくつか行われています。

 

半田赤レンガ建物・創建時のレンガ展

 

まずは名古屋からは少し遠いですが、半田市にある赤レンガ建物。
名鉄河和線の住吉町駅から東に徒歩5分。

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明治時代にカブトビールとよばれる地元のビール製造工場として建てられ、つい最近、常設の展示館として生まれ変わりました。
復刻されたカブトビールを楽しめるカフェなどもあります!

現在は「創建時のレンガ展」として、ノリタケの森などでも使われているレンガの歴史などを学べる特別展が開催中。

 

なごや折り紙建築

次は、文化のみち橦木館(しゅもくかん)で行われている、なごや折り紙建築。

地下鉄桜通線の高岳駅から北に徒歩で10分、あるいは地下鉄名城線の市役所駅から東に徒歩15分程度。

これは関係ないけれど、通りがかりに見つけたビル。パズルゲームみたいな非常階段の壁面がかわいい(笑)


名古屋城や官庁街の東、歴史的な建物の残る一角にある橦木館。

 

「折り紙」とはいっても、千羽鶴的なあれでは無くて、二つ折りにできる紙で、立体的に切り出したもの。

 

テレビ塔、県庁、橋など、なじみのある建築や土木が小さな紙の中に再現されていて、実物とはまた違った見ごたえがあります。

 

まちかどの近代建築写真展

最後は金山総合駅近く、名古屋都市センターで開催されている、まちかどの近代建築写真展in名古屋

 

全国で行われている「まちかどの近代建築写真展」が、このたび名古屋で初開催だそう。

有名な建築から、小さな商店・銭湯など、ともすれば見逃してしまいそうなまちかどの風景が、写真となって一同に介することの感激。

 

加美秀樹さんの講演会も聞きましたが、印象に残ったのは、「古いものでも新しいものでも、とりあえず写真におさめる」という趣旨の発言。

建物は、気づかないあいだに、なくなってしまうから。

 

たとえば、いま(2016年5月)当たり前に名古屋のまちかどで見られるコンビニのサークルKだって、もうしばらくするとなくなってしまう。

講演会の中でも触れられていた、今和次郎先生の「考現学入門」。

 

考現学というのは考古学に対比してつくられた言葉で、現在のことをひたすら収集すること。
それがいずれ、当時のことを知る貴重な史料にもなる。

だから、古い写真を見て懐かしいと思うのと、今あるものを写真におさめることは、表裏一体の行為なのかもと思います。

あるいは、自分がまったく知らない時代、明治とか昭和初期のものを、逆に新鮮な視点で楽しむということもできてしまう。

 

古くて新しい、まちの魅力に出会うゴールデンウィークはいかがでしょう。


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