明治維新が変えた都 – 京都がなぜいちばんなのか

日本には多くの魅力的な街があります。

なかでも、京都という街は、とりわけ多くの日本人、さらには世界の人々の心をとらえています。

 

けれども、歴史を感じるその印象とは裏腹に、この街の風景は、明治以降に大きく様変わりしました。

明治維新と、それに引き続く明治天皇の東京行幸によって、「千年の都」という絶対的な立場が揺らぐことになったのです。

そのときに京の人々は、おそらく必死になって、京都という街の新しいアイデンティティを模索したことでしょう。

 

やがて、千本鳥居の伏見稲荷神社、金箔に彩られた金閣寺など、京都の名勝・古刹は鮮やかな色彩のイメージをまとっていきます。

それがカラー写真の普及した時代にマッチし、フォトジェニックな観光都市としての地位を確固たるものとしていきました。

とくに、東山区、岡崎公園のあたりは京都でも変化が大きな場所のひとつです。

琵琶湖からの水を水道や発電に使う琵琶湖疎水は、明治の一大事業といえるもので、それは京都の人々の暮らしを大きく変えていきます。

漆塗りの大鳥居が印象的な平安神宮も、明治に入ってから建てられたもので、応天門は、平安時代に放火されて失われたものを模して作られました。

この一帯では、明治150年記念である今年(2018年)10月に「岡崎明治酒場」というイベントも行われていました。

 

ロームシアター京都(京都会館)2Fの京都モダンテラスでは、平成の京都に鹿鳴館も出現していました。

 

明治からの歴史を持つ京都市動物園もリニューアルされて、かわいいロゴになっていました(漢字部分のフォントはダイナコムウェアのDF綜藝体)

 

少し南に行けば、こちらも漆塗りの社殿が目を惹く八坂神社があります。

この八坂神社も、明治の神仏分離によって祭神が素戔嗚尊(スサノオノミコト)とされるまでは、祇園精舎の守護神・牛頭天王をまつる祇園社という名前で、仏教色が強い場所でした。

地名の祇園も、祇園祭も、ここから来ているのですね。

祇園のパイロンは、こんなにもフォトジェニック。

 

そして祇園には祇園閣という、ちょっと変わったスポットがあります。

大雲院という寺院の中にある昭和初期の建築で、祇園祭の山鉾に似た建物は別名「銅閣」、本当に金閣・銀閣を意識して建てられたのだそうです。

ふだんは非公開ですが、不定期に「京の夏の旅」で特別公開されます。

第43回 京の夏の旅 文化財特別公開|京都市観光協会

第43回 京の夏の旅 2018年7月~9月/文化財特別公開や定期観光バスコースなど、京の夏ならではの魅力たっぷりのイベントが満載!

今年も公開されたので行ってきましたが、階段の壁いちめんに仏画が描かれていたり、最上階から京の街が見渡せたり、とても印象的な場所です(内部は撮影禁止)。

ほかにも祇園には歴史的な建物をリノベーションした施設やお店がたくさんあります。

 

「いちばん」という言葉は絶対的な優劣を表すものではなく、いわばナンバーワンではなくオンリーワンというべきでしょう。

自分だけの「いちばん」を探しに、京都に行きましょう。

 

紙上からはばたく、鳥瞰図の世界

旅に、地図はつきものです。

目的地までの道のりを調べたり、そこに記された土地や名所の名前から、想像をふくらませたり。

そんな実用性と楽しさを一体化したのが、鳥瞰図とよばれる地図です。

明治時代、鉄道や船舶などの交通手段が発達すると、それまでの旅の様相は一変します。

より早く、より遠くへ、日本中がスピードアップした大観光時代がやってきました。

浮世絵の伝統を引き継いで描かれる観光案内と、西洋の遠近法を利用した精密な鳥瞰図が入り混じりながら発展していきます。

やがて、そんな観光用地図の世界を一変させたのが、吉田初三郎という一人の絵師です。

大正2年、初三郎が描いた京都と大阪を結ぶ京阪電車の案内図が、行啓中の皇太子(のちの昭和天皇)の目にとまり「これは綺麗でわかりやすい」とのお言葉を賜ります。

その言葉を生涯胸に、初三郎は、一枚の紙の上から鳥瞰図という壮大なスケールの世界をはばたかせました。

 

来たるべき飛行機時代を予見するかのように、鳥の目で、はるいかな高みから見下ろした日本列島の姿が描き出されます。

カラフルな色使いと、写実性をあえて無視した大胆な省略・デフォルメで、その土地のエッセンスが一枚の鳥瞰図に凝縮されます。

見渡せば、はるか遠くには富士山。

知らない土地はもちろん、よく知った街であっても、初三郎の鳥瞰図を見れば、いつでも新鮮な発見があります。

 

VRやARといった映像技術が発達した、今だからこそ。

不死鳥のように、何度でもよみがえって読み継がれる。

鳥瞰図には、新たな視点でものを見ることの楽しさを教えてくれます。

 

いい旅、いい本の記憶 – ちょっとそこまで旅してみよう

旅が好きです。

旅の楽しさは、じっさいに現地を訪れている瞬間だけでなく、どこに行こうかと計画を練る時間、家に帰ってきて旅の思い出をふりかえる時間、そのすべてに含まれています。

あるいはまた、他の人から旅の思い出を聞いたり、旅行記を読んだりするという楽しみかたもあります。

そこで今回は、こちらの本をご紹介します。

益田ミリさんは大阪出身のイラストレーターで、マンガの著作もありますが、この本は文章で旅の思い出がつづられます。

女性3人でフィンランドやスウェーデンへ。その後、ひとりでフィンランドへ。

彼と東北へ。

老齢の母親と京都へ。

実は書店で見かけたときは、幻冬舎文庫フェアのオビが掛けられていて、こんな惹句に共感して買いました。

一冊読み終えたあと

なんとなく、表紙をながめます

まさにこの本も、なんとなく表紙をながめたくなる、いい本です(おさかなかついだネコは、とくに本編に登場しませんが…)。

 

本を読む前、手にとった段階で、表紙や裏表紙に書かれたあらすじ、あるいは著者の略歴が情報として頭に入ります。

それをもとにして、ある程度「こんな内容かな、それなら読みたいな」という期待を胸に、ページをめくっていくことになります。

そして、最後のページまで読み終わったとき、その期待や予想が当たったにしても、外れたにしても、もう一度本を閉じて、表紙をながめる。

そのとき、頭に浮かぶのはもはや、読む前にあった情報ではなく、読んでいた間の思い出なのです。

 

旅も同じです。

出かける前に、目的地について調べて、気になる場所やお店を見つけることもあれば、「あれが食べたい、これを見にいきたい」という理由から旅先を決めることもあるでしょう。

けれど、どちらにしても、そんな期待をみちしるべに現地に行ってみれば、必ずといっていいほど、事前に予想もしていなかった世界に出会うことになります。

それはあとから調べてみれば有名なお店であったり。

たまたま現地で出会った人々との会話であったり。

あるいは同行者の知らなかった一面であったり。

そんなあれこれが、あとから旅行のお土産品や写真を見るたびに思い出されます。

旅行に行く前と、行ったあとでは決定的に世界の見方が変わってしまうのです。

そしてそれは、同じ旅に行った相手とでさえ少しずつ視点が違う、かけがえのない自分だけの世界です。

 

本を読むたび、旅に出かけるたびに、知らない世界の思い出がひとつずつ増えていきます。

 

自分視点の旅のすすめ – できるだけがんばらないひとりたび

旅行が好きです。

それも、もっぱら、ひとり旅。

何ヶ月も前から行きたいところを決めて、綿密に計画を立ててする旅行が大好き。

思い立って、ふらっとなじみの土地に行って、まだ行ったことのない場所を探索するのも大好き。

そう言うと、行動的とか、アクティブなどと思われることもあるのですが、わたしの中では、そこまで特別なことをしているという感覚はありませんでした。

このブログ「凪の渡し場」では「日常に新たな視点を」というコンセプトで、さまざまなまちあるきの記事を書いてきましたが、「旅に出ること」そのものが、わたしにとっては日常の延長線上にあるのかもしれません。

自分だけの物語を見つける – ぼくらが旅に出る理由

一歩を踏み出す勇気が出ないなら、半歩踏み出してみる

 

そんな、ひとり旅に対する新しい視点を提供してくれるのが、こちらの本。

同名のブログ「できるだけがんばらないひとりたび」をもとに、あまり旅に慣れていない人、心配性な人に向けてのコツや心得をまとめた本です。

わたしも心配性なことにかけては人後に落ちない自信があるので、そういった面でも実用的な学びにあふれています。

たとえば、わたしはよく、荷物が多い、カバンが大きいと言われることがあります。

「旅慣れた人は荷物が少ない」という定説にあこがれたこともありますが、やはり旅となると心配になり、あれもこれもと詰め込んでしまうもの。

けれど、心配な人はそれで良いのです。

現地で服を洗濯したり調達するのに不安があるなら、日数分持っていけば良い。

お土産だったり、本をたくさん買ってしまうのなら、その余裕をもったカバンを選べば良い。

ただし、大きいカバンを持ち運ぶのは体力を消耗するので、さっさとホテルやコインロッカーに預けるに限ります。それに向いたカバン選びこそが大事。そんな結論になります。

シンプルで大容量な旅行用リュックなら「2wayダッフルバッグ」と検索すると捗ります – できるだけがんばらないひとりたび

THE NORTH FACE の「Glam Duffel」が便利で、シンプルな旅行用リュックを探していた私は「そうそう、これでいいんだよ!」と思ったのですが、「2wayダッフルバッグ」で検索してみると同じようなのが出てきて、どれも便利そうでした。 「なんでこれを選んだの?」という話と、他にもよさそうなやつをまとめておきます。 ノースフェイスで見つけた、バカみたいに軽くて容量の大きい …

 

さて、とはいえ、本書に書かれているのは実用的な情報ばかりではありません。

むしろ、具体的な情報ならブログのほうが詳しいでしょう。

それでもわたしが本を読んで感銘したのは、旅に対しての「視点」が鮮明に打ち出されていることにあります。

実は著者の田村さんは、日本や世界のエスカレーターをめぐることを趣味としており、「東京エスカレーター」というサイトを主宰されています。

かっこいい・珍しい・おもしろい世界のエスカレーターまとめ | 東京エスカレーター

「東京エスカレーター」は、たぶん日本で唯一くらいのエスカレーター専門サイトです。首都東京から、世界の素敵なエスカレーター情報をお届けします。管理人は田村美葉(たむらみは)です。

 

本の後半は田村さんの旅の記録が収録されているのですが、ロンドン旅で突然エスカレーター写真が出てきたりと、本の表紙からはちょっと想像つかない、素敵にマニアックな世界が展開されています。

見開き特集されている「スパイラルエスカレーター」は螺旋階段のような外観が特徴的ですが、田村さん自身も認める通り、これを目的に旅をするのは自分だけではないかという「自分視点」のひとり旅。

それでいいし、それがいいのです。

 

旅で大切なことは、自分の視点で世界を見るということ。

それは一般的な名所やモデルコースを否定するものではなく、むしろそうした「多くの人が共感する視点」を取り込みながら、何故か自分だけが惹かれてしまう視点を少しずつ養っていく、それがひとり旅の大きな楽しみです。

ひとり旅なら、エスカレーターの写真を黙々と撮っていても同行者から不審に思われることもないでしょう。

ひとり旅なら、誰にも構わずパイロンを撮り続けることができるのです(パイロンも、125ページに何の解説もなく言及されていて、感慨深いものがあります)。

 

そんな自由さ、自分視点で、旅を楽しんでみること。

そうしてあるいは、そんな楽しみを発信することで、その視点が誰かの共感を呼ぶとしたら。

それもまた素敵なことでしょう。

 

一歩を踏み出す勇気が出ないなら、半歩踏み出してみる

あなたは、日常の喧噪から離れて旅行するとしたら、どこに行きたいと思うでしょうか。

まだ行ったことのない、まったく知らない場所?

それとも、何度も訪れた、お気に入りの場所?

 

わたしはさいきん、よく知った場所で、いままでやったことのないことを経験したり、訪れていないスポットを回ったりするのが楽しみになってきました。

 

旅行にかぎらず、なにか新しいことをはじめようとするとき、慎重さが災いして、一歩を踏み出す勇気が出なくなってしまうことがあります。

そんなときは、たとえば「場所」と「行動」の二軸に分けてみてはどうでしょう。

図にしてみると、こんな感じです。

一足飛びに、いつもと違う場所、違う行動をとろうとするのは冒険であり、どうしても不安がつきまといます。

それなら、場所は同じで、行動だけ変えてみればいいのです。

 

慣れている場所だから不安は少ないけれど、いつもと違うことをするから、新鮮な視点での発見、喜びがある。

これこそが冒険ではなく探検探索の心構えです。

 

同じ考え方をすれば、場所を変えても同じ行動をとるというアプローチも有効です。

違う場所でも、いつもと同じ行動を心がければ、心の平穏は保たれます。

旅先でも同じコンビニがあったり、見慣れたチェーン店があるのは、けっして悪いことではありません。

いつも食べたり飲んだりするものがあれば、それを買えば良いし、いつものようにまちなかでパイロンを探したりすれば良いのです。

 

今回は「場所」「行動」という二軸を考えましたが、その軸は「人」であったり、「仕事」であったりしても良いでしょう。

 

いままで参加したことのないコミュニティでも、知り合いがいるときに参加してみる。

同じ仕事でも、ちょっとだけ今までとやり方を変えてみる。

 

どちらにせよ「一歩を踏み出す」というよりも「片足を日常に置いたまま、半歩ずつ踏み出す」という感覚をもてば、きっと足取りが軽くなることでしょう。