こどものころから、ものをつくる人に憧れてきました。
身の回りにあるおもちゃも、電化製品も。
線路の上を走る列車も、空を飛ぶ飛行機も。
現代社会に欠かせないあらゆるものは、この世界のどこかの誰かがデザインして、形にしたものだということを、わたしたちはいつとはなしに理解します。
「design」という英語は現在、そのまま〈デザイン〉というカタカナの日本語になっていますが、明治時代には〈設計〉という言葉で訳されました。
デザインとはもともと、見た目を整えるだけではなく、ものがどうやって動くのかというエンジニアリングの観点も、またそれがどう使われるのかというユーザビリティの観点も含む、広い意味のことばです。
そんなデザインとエンジニアリングの両方の視点が混在するのが、デザイナーであり東京大学教授の山中俊治さん。
山中さんはSuicaの自動改札機をデザインしたことで知られます。
今では当たり前になった改札の光景ですが、SuicaのようなICカードが登場する前は、東京の、いや日本中の誰も、カードをかざして改札を通るという経験をしたことがなかったのです。
そんな人の動きを想像し、実際に何度もテストを繰り返して、自然に改札を通れるように読み取り機の角度を調整した結果、今にいたる日本中の駅の「当たり前」がつくられたのです。
本書では山中さんのTwitterでのつぶやきをベースに、東京大学の研究室で、あるいは企業や研究機関と共同で、まだ世の中に存在しない製品のありかを探すように、スケッチと言葉が重ねられていきます。
その言葉に宿る純粋な響きは、どこか工学博士で作家の森博嗣さんに通じるところがあります。
森さんも長年大学で学生の指導に当たりながら、趣味(個人研究)で工作を続けてきたことから、世界に対して似通った視点をもつものなのかもしれません。
一流のデザイナーやエンジニアの言葉は、それ自体が製品のように、情熱をうちに秘めているかのようです。