あなたの好きなフォントは? – 4月10日はフォントの日

昨年・2016年もご紹介した、フォントの日

今年は、アドビシステムズ株式会社によって、日本のさまざまな記念日を登録する日本記念日協会に登録されたそうです。

アドビ クリエイティブ クラウド on Twitter

アドビ はフォント業界のさらなる発展を願って4月10日を #フォントの日 に制定。4と10で「フォン(4)ト(10)」と登録したのはホント!お好きな #源ノ明朝 をご返信の方に抽選で限定てぬぐいを差し上げます。人気は #ぷ https://t.co/vkNgyEEzhP

そんなAdobeに先駆けてフォントの日を提唱していたフロップデザインさん。

フォントの日

フリーフォント、イラスト、ロゴデザイン、シルエット素材、無料写真素材集。1万種類の無料フリーダウンロード素材集やフリーフォント。グラフィックデザイン事務所。

今年も期間限定でオリジナルフォントの無料ダウンロードを行っていたり、Twitterで好きなフォントをつぶやくハッシュタグを作られていたりします。

フロップデザイン on Twitter

一目惚れしたフォント。DSあかり!今日はフォントの日なので好きなフォントをつぶやこう。 #フォントの日 #好きなフォント名をつぶやく

さて、では、わたしの好きなフォントは…?

ぱっと思い浮かぶのは、フォントワークス・藤田重信さんの筑紫書体

 

あるいは対照的に「水のような、空気のような」書体を目指す字游工房・鳥海修さんの游書体

これらは、フォントだけでなく、そのフォントを作った人自体にも魅力を感じているといえます。

また、同じフォントワークスでも、新世紀エヴァンゲリオンという作品に使われたことで思い入れのあるフォントがマティスです。

 

わたしにとって、フォントは単なる文字ではなく、そこからものがたりを感じとることができるもの。バックグラウンドがあることで、その魅力が何倍にも増していきます。

 

もちろん、誰が作ったものかとそれほど意識していなくても、デザインとして好きなフォントもたくさんあります。

(たとえば、丸明オールド解ミンなどのいわゆる丸明朝体)

 

小説で言えば、「筒井康隆作品が好き」と作家ごと好きになるパターンもあれば、「時をかける少女」だけが好きという人もいるようなものでしょうか。

 

「SFが好き」「ミステリーが好き」と本好きの間でも好みのジャンルがわかれるように、自分ならゴシック体と明朝体のどちらが好きか、と考えるのでもいいし。

まちなかのロゴや本の表紙の中から、特定の気になるフォントを見つけてくるのでもいい。

そうして好きなフォントを見つけたら、それを作った人(会社)が他にどんなフォントを作っているか調べることで、より世界が広がっていくことでしょう。

 

 

水のような、空気のようなフォントを世の中に生み出す人がいる – 文字を作る仕事

まちなかで、あるいはパソコンやスマートフォンの画面の中で、わたしたちが毎日目にする文字。

そんな文字を作る仕事が、世の中にはあります。

 

その中でも、小説の文章や新聞記事といった、小さな文字のために作られたフォントを「本文書体」といいます。

広告や看板のロゴのように目立つものではなくても、普通に読めて、受け手に安心感を与える。

日本人なら毎日食べても飽きのこない白ご飯のように、あって当たり前の存在。

 

そんな本文書体を「水のような、空気のような」書体とよび、その理想を目指してフォントを作り続ける人が、この世にはいます。

それが、游明朝体などで知られる字游工房の代表取締役、鳥海修さん。

 

 

「水のような、空気のような」書体なら、誰が作っても同じではないのか。もうすでにあるものを使えば、新しく作る必要はないのではないか。

もし、そう思ったのだとしたら、この本を読んでみてほしいと思います。

 

この本では、鳥海さんの生い立ちから、本文書体を作りたくて当時最大のフォントメーカーだった写研に入社したときのこと、そして字游工房を立ち上げてからのことなどが語られます。

いっけん無個性に見えるフォントでも、そこには作り手の想いや、今の時代にもっとも適したデザインがひそんでいることがわかります。

鳥海さん自身の経験、出逢った人、読んだ本…それらが結晶となって、誰でもが使えるフォントが生み出される。

ふだんはうかがい知ることができない、そんな結晶化する前のエピソードのひとつひとつが、とても魅力的です。

 

たとえば、書家・石川久楊さんを交えて行った「究極の明朝体」を作るというプロジェクト。

本文書体として見慣れた明朝体ですが、実際に文字をなぞってみるとわかるとおり、もともとの楷書とはずいぶん違うデザインになっています。

それらを一文字一文字検証し、文字に修正を加えていく。少しの修正で、まるで受ける印象が異なるのが、漢字のふしぎなところ。

 

また、「文字塾」として、塾生ひとりひとりが作りたいフォントのコンセプトを立て、一年かけてフォントをデザインしていくといったことも行われているそうです。

 

そして、アップルのMac OS X (macOS)に搭載されたことで有名になったヒラギノ明朝体。

ヒラギノフォント|SCREEN

このフォントも、字游工房が大日本スクリーン製造(現・SCREENグラフィックアンドプレシジョンソリューションズ)から依頼されて制作されたもの。

当時のことを、鳥海さんはこう記します。

当日はスティーブ・ジョブズがステージに立ち、スクリーンいっぱいに映し出されたヒラギノ明朝体W6の「愛」を指差し、「クール!」と叫んだことをきのうのことのように覚えている。

後に、字游工房としてのオリジナル書体・游明朝体や游ゴシック体もMacに搭載されています。

考えてみれば、「空気のような」というコンセプトは、MacBook Air、AirPods など「Air(空気)」を冠する製品やサービスを多くリリースするアップルにふさわしいといえるでしょう。

もし将来、アップルと字游工房が協力し、オリジナルの日本語フォントを手がけたとしたら。

それはAirFontと呼ばれるに違いありません。

 

そんな空想も膨らむ、文字を生み出す人の物語。