文学とめぐりあう文字のものがたり – 文字と楽園

ミヒャエル・エンデの「はてしない物語」という作品があります。

児童文学の名作として名高いこの本は、全26章それぞれの扉絵にAからZまでのアルファベットが描かれています。
本のなかの世界「ファンタージエン」で起きることは、すべてAからZまでの文字でものがたることができます。

もちろん、岩波書店から出版されている日本語版の本文では、アルファベット以外の漢字・ひらがな・カタカナが使われているのですが、そのフォント(書体)こそが精興社書体とよばれる、とくべつな存在だったのです。

 

精興社書体は、戦前から岩波書店の出版物を多く手がけてきた印刷会社、精興社オリジナルの活字がもとになっています。

伝統的な明朝体の中にあって、平べったく独特の流れをもった「かな」のデザイン。

そんな文字に魅せられ、精興社書体で組まれた本を追い続けていった人がいます。

正木さんによると、戦後あたらしく作りなおされた精興社書体がはじめて使われたのは1956年(昭和31年)、夏目漱石の全集「吾輩は猫である」であったそうです。

そして同じ年、三島由紀夫の「金閣寺」にも使われたことで、作中に現れた美しい金閣寺の姿を、読み手は精興社書体の文字の向こうに見ることになるのです。

それから三十年後、この書体は現代を代表する作家・村上春樹の「ノルウェイの森」に使われたり。

はたまた、ブックデザインなども手がけるクラフト・エヴィング商會のお一人、吉田篤弘さんの「つむじ風食堂の夜」に使われたり。

クラフト・エヴィング商會の名前は、大正から昭和に活躍した作家・稲垣足穂に由来するそうですが、その稲垣足穂の装丁を他ならぬクラフト・エヴィング商會が手がけたとき、選ばれたのも精興社書体だといいます。

作家や出版社、多くの人に愛され、名だたる文学作品とめぐりあいを重ねてきた文字。

 

同じ文字でも、異なる作者の手によって、まったく異なる世界が紡ぎだされます。

けれど逆に、文字を縦糸にして見ることで、さまざまな本と本がつながり、あたらしいものがたりが姿をあらわします。

平和大通りを彩る、ひろしまドリミネーション

さて、先日ひさびさに広島を訪れることができました。

お気に入りの場所を再訪したり、また新しいスポットを知ることができたり、ますます広島のとりこになる旅でした。

ということで満を持して? 広島偏愛シリーズを何回かに分けてお送りします。

 

広島にかぎらず、街は訪れる時期によって、四季折々の魅力を感じることができますが、今回は冬の風物詩である、ひろしまドリミネーションをご紹介します。

 

ひろしまドリミネーションは、11月中旬から正月にかけて、広島の中心地・本通商店街やその周囲一帯が、さまざまなライトアップで彩られるイベントです。

中でも、100m道路とも呼ばれる平和大通りが光によって姿を変えるのは圧巻の光景です。

2017年(平成29年)のテーマは「おとぎの国」ということで、まるでおとぎ話や童話の世界から飛び出してきたよう。

 

木の上にもフクロウが!

動物たちも、ハートの中にフレームイン。

平和大通りに路面電車が通っていないのは残念!

瀬戸内海を駆けめぐった海賊(水軍)の再来?

 

シンデレラのカボチャの馬車でしょうか。実際に中に入って記念撮影する家族連れなども多く、ほほえましい。

幸せの四つ葉のクローバー。

歩き疲れたら一休み。時間帯によってオープンカフェも営業されるそうです。

 

平和大通りは、原爆からの復興のために作られた東西に延びる道路です。

戦後、日本の各都市で同じような100m道路が計画されたそうですが、けっきょく実現したのは二都市のみ。

それは広島市と、もうひとつは他ならぬ名古屋市です。

名古屋には南北の久屋大通と、東西の若宮大通のふたつの100m道路があります。

あまりに幅が広すぎて、歩行者は信号を一度で渡りきれず、つい小走りになる…というのは名古屋人の間で有名な小話ですが、広島の方はどうなのでしょう。

 

さて、ドリミネーションを見に来たら、ぜひ平和大通りの西まで足を伸ばしてみてください。

元安川を隔てて、平和記念公園へとかかる、これが平和大橋です。

ぎゅっと空に伸びるような欄干が特徴的な、日系アメリカ人のイサム・ノグチさんが設計したものです。

広島を舞台にした、こうの史代さんの作品「夕凪の街 桜の国」でも、印象的なシーンで描かれていました。

欄干の先が指すのはイルミネーションか、広島市街のビルか。

 

広島は「平和」と名のつく地名や施設の名前が多いといいます。

 

平和とは何か。

それは人それぞれ、思想や信条によっても答えはひとつではないかも知れません。

けれど、この街に来て、あるいはこの街を想って、誰もが平和について考える。そうやって考えるのをやめないことこそ、何より大切なことだと思います。

 

 

さくらのレンタルサーバで実現する、ブログの常時SSL化

早いもので12月を迎え、2017年も残りわずかとなりました。

ブログ「凪の渡し場」も気がつくと一ヶ月ぶりの更新となります。

10月までは、毎週一回は更新するというルールを自分のなかで設けていましたが、ブログ以外の活動もあり、優先順位を下げていました。

そろそろ記事にしたいことも溜まり、更新したいと思いながら、その前にもうひとつ、先延ばしにしていたことがあります。

 

それは、ブログの「常時SSL化」です。

 

ブログやWebサイトを運営している人なら聞いたことがあるかと思いますが、世の中の流れとして、Webサイト全体をSSLという仕組みで暗号化することが重要になってきています。

重要ではあるけれど、個人的には緊急度は低い。

また、話を聞くかぎり、なかなか移行作業には手間がかかるようです。

そうして二の足を踏んでいたところ、さくらインターネットから、無料のSSLサーバー証明書が使えるようになったと連絡がありました。

無料SSLサーバー証明書 Let’s Encrypt – レンタルサーバーはさくらインターネット

さくらのレンタルサーバなら、無料で使えるSSLサーバー証明書「Let’s Encrypt」がワンクリックで設定可能です。簡単なステップでサイトを常時SSL化することができ、さらに証明書は自動更新のため、面倒な作業は一切必要ありません

 

 

実際にやってみると、本当に簡単でした。

レンタルサーバのコントロールパネルにログインして、SSL証明書の発行を申請するだけ。

「凪の渡し場」のように独自ドメインで運用している場合にも対応しています。

さらに、WordPressプラグインも提供されており、こちらもFAQに従って有効化するだけで、http→httpsへのリダイレクトや、リンクの置換などを行ってくれます。

【WordPress】常時SSL化プラグインの使い方

対象サービス・プラン さくらのレンタルサーバ、さくらのマネージドサーバ上で稼働するWordPress(ワードプレス)にて、常時SSLを有効にするプラグインを利用する方法について記載しています。 前提条件 設定手順 前提条件・設定例 前提条件 さくらのレンタルサーバ、さくらのマネージドサーバ上で稼働するWordPressでのみ動作し、さくらのVPS、さくらのクラウドや他社レンタ…

 

その後、サイトをブラウザで表示し、エラーを確認します。

テーマによっては、ホームページのヘッダ画像のリンクがhttpのままだったり、アフィリエイトのリンクでエラーになったりすることもあるようなので、こちらについては手動で修正しました。

 

 

さくらインターネットでは、以前にもWebフォントが無料で使えるサービスが開始されて驚いたことがあります。

今回も、個人ブログや小規模サイトを運営している人に向けて、手間を減らして本当にやりたいことに集中できる、とれも嬉しいサービスですね。

もちろん、訪問される方はいままで通り、何も気にせず安心して閲覧ください。

(もしリンク切れなど何か気になった点があれば、教えていただけると助かります)

 

懸案も解消し気分一新、また少しずつ、いろんな視点での記事を公開していきたいと思います。

 

いいビルと、ビルを彩るものの世界 – いいビルの世界 東京ハンサム・イースト

まちを歩いていれば、いくつも目に入るビルの姿。

けれど、あたりまえにありすぎて、目をとめて「観る」ことは少ないかもしれません。

まちのなかにひっそりとたたずみ、ひとびとの暮らしや仕事によりそい、あるいはいつか消えてしまう…。

そんなビルの見方、楽しみ方を知ることができるのが、こちらの本です。

 

ビルがその建物を使う人のために設計されるように、この本も、ビルの魅力を伝えるため、いくつもの工夫が凝らされています。

たとえば、この本は、通常よりも高精細の印刷ができるフェアドット印刷という手法が使われているそうです。

大福書林 on Twitter

『いいビルの世界』は、モアレが出ないよう特殊な印刷をしています。普通の線数が200線くらいのところ、この本で使ったフェアドット印刷は350線と、ドットが細かく、配列も違うのです。カメラ店などで売っているルーペをお持ちの方は、眺めてみてください。ドットを見るだけで楽しめますよ。

 

そのおかげか、ステンレス・タイル貼りなどさまざまな素材でできたビルの外壁や内装が、実に色鮮やかに目に飛び込んできます。

 

そう、ビルを知るということは、ビルをいろどるさまざまなものの世界を知るということなのです。

「ビルの外側をいろどるもの」や「ビルと視点」といった記事では、ビルを楽しむ手がかりが図鑑のように紹介されていきます。

壁画といった大きなものから、ドアハンドルのコーディネートといった小技の光るものまで。

 

そして本書を読んで、大きな発見がありました。

Macユーザーならおなじみの、コマンドキーに印字された記号「」。

いったい現実世界では、どんなときに使うのだろう? と思っていたら、ドアハンドルの模様に描かれているのを本書の中だけでも二ヶ所見つけました。

これはぜひ、実物も探してみたくなります。

文字通り、知らない世界を開く扉であり、秘密のコマンドのようです。

 

わたしはよく、こうやって新しい知識を得たら、昔に撮った写真をもう一度見返してみることをしています。

そうすると、いままで見えていなかった景色が見えてきます。

 

つまりこういうことです。

中央の「丸高ビル」、一文字ずつの看板も素敵ですが、対照的に黒い外装、少し斜めにへこんだ窓が、実にいい表情を見せます。

こちらは本書にも紹介されていたJR上野駅のペデストリアンデッキ。

このときは、ちょうどタイルの清掃中で、かわいい積みパイロンに夢中でシャッターを切りました。

そして見返してみれば、パイロンが置かれた色とりどりのタイルも実にかわいい。

他にも上野には素敵なタイルやビルがあるそうなので、次に訪れるときは見逃さないようにしたいです。

ここにはおそらく、かつて公衆電話が置かれていたのでしょう。

公衆電話の数がめっきり減ったいまも、その置き場所だけがひっそりと時間を重ねていきます。

それによって、壁の少しずつ色が違ったタイルも、よりいっそう引き立つよう。

 

「いいビル」の味わいとは、そんな時間の流れを感じられることのように思うのです。

 

建築で魅せる都市の力 – イケフェス大阪2017

今年(2017年)も、イケフェス大阪こと「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」に参加してきました。

イケフェス大阪2017 | 生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2017

生きた建築ミュージアム フェスティバル大阪(通称:イケフェス大阪)は、毎年秋の週末に、大阪の魅力的な建築を一斉に無料公開する、日本最大級の建築イベントです。

 

イケフェスの説明については昨年の記事をどうぞ。

今年はあいにく台風の接近に伴い雨模様となりましたが、事前抽選のイベントに当選したこともあり、昨年にも増して楽しむことができました。

 

まずはキタと言われる梅田エリア、JR大阪駅から、さらに北に向かいます。

右奥に見えているのが今回の目的地、梅田スカイビルです。現在は看板にあるとおり、なかなかに長い地下通路を歩いて行く必要があるのですが、まもなく地上歩道が整備されるそうです。

スカイビル内の貸し会議室に集合し、ガイドツアーが始まります。

梅田スカイビルはふたつの独立したビルを上部でつなぎ、「空中庭園」という名の通り、まるで天空に浮かぶ空中都市が出現したような構造になっています。

 

その中ほどにある、オフィスフロアをつなぐ回廊も通らせてもらえます。近未来感にわくわくします。

 

バブル期に計画されたこともあってか、いわゆるバックヤード的なフロアまで絢爛豪華。

内装や外壁に使われる石にも、建築家のこだわりがあるそうです。

石といえば、このあと訪れた中之島地区でも、どの建物も随所にすてきな石が使われていました。

とある読書会でこちらの本が課題本になっているおかげで、建築を見ていてもまちあるきをしていても石が気になり、非常に困った状態になっております。

それはそうと、エントランスの天井に描かれたこの模様…。

実はこの建物、巨大な宇宙船の発着場(渡し場?)という設定だったとか。

先ほどの模様は、その飛び立った宇宙船の設計図なのだそう。

そう見るとたしかに、すっぽり宇宙船が入りそうなクレーターです。

そんな裏話もいろいろと聞けて、実に楽しいガイドツアーでした。

 

ちなみに空中庭園のロゴ、アルファベットのセリフと漢字のウロコが同じデザインでかわいいです。

 

空中庭園ではさらに、世界各地の建築みやげを展示したミニコーナーも。

台湾にもマスキングテープがあるのですね。いつか行きたい…。

イギリスの建築家、フランク・ロイド・ライトグッズ。建築好き・文房具好き・文字好きすべてにトリプルパンチ。

エジプトのヒエログリフのメジャーの神々しさといったら…! 誰かエジプト旅行する人がいたらお土産に買ってきてほしいです(笑)。

 

午後は前述の通り、中之島地区をまわります。

中でも今回、ぜひ紹介したいのは大阪ガスビルです。

床には貴重な沖縄の石。

名古屋でガスビルといえば栄や今池のどちらかを思い浮かべる方がほとんどでしょうが、ちょうどそれと同じように、大阪ガスビルもかつてはホールや料理教室などが入居し、大阪人のハレの場として認識されていたのだそうです。

 

大阪ガス:ガスビル食堂物語

大阪のシンボル・ストリート御堂筋に面して建つガスビル。その8階フロアにあるガスビル食堂は、大阪における欧風レストランの草分けのひとつです。その開業は、ガスビルが竣工したのと同じ昭和8(1933)年。それから約70年、ガスビル食堂は、同じ場所で、歴史と伝統を活かしつつ営業を続けています。

そして、8階のガスビル食堂は現在も一般向けに営業中です。

ゆるやかにカーブを描く窓際が一番人気の特等席だそう。

こちらはギリシャの家庭料理をアレンジした「ムーサカ」という名物料理。

 

80年あまりの歳月、この御堂筋の一角で時代の移り変わりを見つめ続けてきた建物。

どれだけの人々が、ここでともに食事をし、想い出に残る時間を過ごしたことでしょう。

 

歴史ある建物には、ひとの想いが息づき、いま新たに生まれてくる建物にも、その想いは受け継がれていきます。

それが重なって、建築というものが魅せる都市の力になります。

 

わたし自身は、大阪に住んだ経験はなく、おそらくこれからも大阪で暮らす可能性は低いでしょう。

けれど、これだけ豊かな財産があり、しかもそれをこうしたイベントによって日常の延長線上で魅せることができる、このまちを訪れるたびに、やっぱりいいな、素直にすごいな、と思います。