既製フォントの枠にとらわれない、路上の文字観察 – タイポさんぽ

世の中には、路上観察趣味というものがあります。

建築・土木のような大きなものから、看板や標識、マンホールのふたといった小さなものまで、およそ路上にあるあらゆるものを観察対象とすることで、ふつうに街を歩いている以上の楽しみが生まれる。

わたしが小さいころに、はじめてその楽しみを教えてくれたのは宝島社の「VOW!」(まちのヘンなもの大カタログ)。

もっと遡れば、やはり赤瀬川原平さんの「路上観察学入門」や「超芸術トマソン」に行き当たります。

そして今回は、その流れを汲んだ、街中の文字(タイポグラフィ)を楽しむ一冊をご紹介。



これまでブログで主に紹介してきたのは、コンピュータ上で使える、いわゆる既製のフォント。

でも、この本では、まだそのようなフォントが普及するちょっと前、手書きや看板職人さんの手触りが感じられるような文字を中心にしています。

 

 

VOWにしても赤瀬川さんの本にしても、面白いのは題材だけでなく、それを取り上げた著者の視点だと思っています。

その点では、この本もそれにまったく負けていない。

もともとグラフィックデザイナーであるという著者・藤本さんは、まちかどの文字を作り手を「詠み人」と称し、どういう意図をもってロゴをデザインしたのかを深読みしていきます。

 

もはや、風流まで感じさせます。

 

その文体の魅力を感じてでしょう、嬉しいことに、ふつうは本文を立ち読みしないと読めないその文章が、表紙(カバー)にもデザインされています。

画像を拡大すれば何とか読め…読め…ないですね、この解像度では(笑)

Amazonのリンク先では表紙や本文の大きいイメージもあるので、気になる方は覗いてみてください。

 

実はこの本、2012年に出版された本の増補改訂版。

旧版ももっていましたが、判型も大きくなっているので迷わず買い直しました。

 

ちなみにこの本、写真に写っているお店の電話番号やナンバープレートなどの数字が、加工して「0000」にされているのですよね。

そういう芸が細かいところも含めて、とても好きな一冊。

 

わたしも街で見かけた気になる文字をよく写真に撮っているので、文体は真似できないけれど、少しずつ上げていきたいと思います。

たとえばこんな感じでしょうか。

 

本書でも、いじられやすい文字としてあげられていた歯医者さんの「」の字。
横棒の片方だけが丸くなっているのは歯ブラシの柄をイメージしているのでしょうか。
あっ、あと、「FAMILLE」なのにファミールじゃなくてハミールなのは、まさか「歯見ーる」っていう…。

 

もうひとつ。


」の字の中が肉球になっていて、とてつもなくかわいいので、もうそれだけでご紹介(笑)。

 

ということで、路上の文字を楽しむタイポさんぽでした。

明朝体のスタンダード – ヒラギノ明朝と游明朝体

今回は、明朝体のお話。
ヒラギノ明朝という名前は、Mac(OS X)やiPhone(iOS)にも標準で入っているフォントなので、聞き覚えのある方も多いと思います。

広告や街中でもよく使われる、スタンダードなフォントです。

hiragino_mincho - 1

hiragino_mincho - 2

 

とはいっても。
ほかの明朝体と、どう違うん? どうやって見分けたらいいの? と思うかもしれません。

 

明朝体の特徴は、横棒の右端の「ウロコ」。

ヒラギノ明朝の特徴は、そのウロコが大きいことに加え、その反対側にもあります。
左端をぐぐっと拡大していくと、トゲのような▶が見えてきます。このトゲを見つけたらヒラギノ明朝だ! と思って、まず間違いない。


ヒラギノフォントを販売しているのは、旧・大日本スクリーン、いまは「SCREENグラフィックアンドプレシジョンソリューションズ」という長い名前の会社です。

でも、フォント自体を作ったのは字游工房という会社。

 

もじ部」という本によると、ヒラギノ明朝を作った当初は、今のようにコンピュータ上で使われることを想定していなかったそうです。

デザイナーの方も、できあがってから見た時に「とげとげしい」という印象をもったのだとか。

 

字游工房からは、のちに「時代小説が組めるような明朝体」をキーワードとした、游明朝体というフォントもリリースされています。

游明朝体は、ヒラギノ明朝に比べると横棒の両端がなめらかになっていて、優しい印象を持ちます。


游明朝体は、最近のMacや、Windows にも搭載されています。

時代小説を組める明朝体が、ほとんどのパソコン上で使えるというのも面白いですね。

 


おまけ。なんとヒラギノフォントはAmazonでも売っています。

Windows で、どうしても游明朝体じゃなくてヒラギノ明朝が使いたい! という方もどうぞ(笑)

OpenType ヒラギノ基本6書体セット [ダウンロード]

伝統の鉄道文字 – すみ丸ゴシック

九州地方・熊本を中心とした地震が続いています。
一日も早く、平穏な生活が戻ることをお祈りします。

 

九州には何回か旅行で訪れていますが、新しさと古さが同居した風景に惹かれます。

今回のテーマ、鉄道をとってもそれは同じ。

九州新幹線に代表される、水戸岡鋭治氏のデザインが有名ですが、もっと以前からの鉄道遺産も多く残されています。

 

たとえば、関門海峡に面し、かつて本州との玄関口として栄えた門司港レトロ地区。

その一角には、九州鉄道記念館があります。

近くには、旧「門司駅」のレール跡が。


このように駅名を示す看板を駅名標といいます。

「もじ」だけに印象に残って、以前はわたしのTwitterのアイコンにしていたりもしました。

右から左書きの筆文字が歴史を感じさせますね。

 

さすがに現役の施設で筆文字の駅名標が残されているところは少なくて、多くは手書き風の丸ゴシック体。

 

USAピョン…。

 

そんな中、丸ゴシック体とも角ゴシック体とも違う、独特のフォントに出会うことがあります。

 

これが、昭和35年(1960年)に国鉄の標準書体として指定された「すみ丸角ゴシック体」、通称すみ丸ゴシック

名前の通り、角ゴシック体を基本としながら、線の隅だけを丸くしたので「すみまる」。

フォントを統一したといっても、当然コンピュータもない時代なので、すべては手書き。
その際の書きやすさと読みやすさの両立を目指したのだと言われています。

製作した人や会社によって、微妙に異なる個性をもっています。

 

と、ここまで九州の話をしておきながら、実は東海地方にお住まいの方は、普通に接するフォントだったりします。

それは、国鉄を継承したJRグループの一つ・JR東海では、このフォントを基にした「スミ丸ゴシック体」や「JNR-L書体」を引き続き使っているから。

JR東海が運営する、東海道新幹線の駅名標も同じです。

ひらがなが大きい在来線とは違って、漢字が大きくレイアウトされているので、すこし目立ちにくいですが。
東京や京都にお住まいの人も、新幹線を使うときは意識してみると面白いかもしれません。

 

「マツコの知らない世界」では稀少フォントとして紹介された「すみ丸ゴシック」が、なぜJR東海でいまも使われているのか。

この本によると、その理由は、国鉄時代から「すみ丸ゴシック」に携わった須田寛氏が、JR東海の初代社長に就任したからとのこと。



旅客=お客様へ一貫したサービスを届けるために、文字を大切にする。
その信念が込められた、伝統の鉄道文字といっていいでしょう。

 

2027年に開業される予定のリニア中央新幹線でも、すみ丸ゴシックが引き続き使われるのか。

それとも、まったく新しいフォントに生まれ変わるのか。

 

その日が楽しみです。

文化庁「常用漢字表の字体・字形に関する指針」から読み取る三つのこと

文化庁から、文化審議会国語分科会・漢字小委員会での審議をまとめた「常用漢字表の字体・字形に関する指針」が公開されました。

原文はこちら。

http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/jitai_jikei_shishin.pdf

200ページ以上ある資料ですが、半分は字形比較表ですし、その前のQ&Aだけ読んでも面白いです。

 

ざっくり言うと、大切な三つのことが書かれています。

 

1.字体と字形について

形が違うことで、違う漢字とされる文字の骨組みが「字体」。
たとえば「学」と「字」は違う字体です。

形が違っても、同じ漢字とされるのが「字形」。

そして、このような字形の違いを、漢字ごとに一定の特徴をもたせたものが「書体」。
明朝体とゴシック体といったフォントの違いが、まさにこれにあたります。

jitai_jikei

ちなみに。書体とフォントはもともと別の意味の言葉ですが、一般的には同じ意味で使っても問題ない、とQ.13の回答にあります。

なので、このサイトでも大手を振って「フォント」を書体の意味で使います(笑)

 

 

2.手書き文字と印刷文字の違い

明朝体は、手書き(楷書)とよく似ていますが、違うところがあります。
たとえば、「去」などの文字の左下は、明朝体では突き出ていますが、ふつう手書きでそうは書きません。

「入」などの文字も、フォントによっては筆押さえとよばれる字形になることがあります。

jitai_jikei_2

 

実際に、教科書ではこの違いで混乱する児童がいることから、わざわざ専用のフォント(教科書体)が使われていたりします。

 

3.手書き文字では、あまり細かい字形の違いは問わない。

コンピュータの世界では、違う字体であれば区別しなければいけない、けれど同じ漢字でも字形が違うこともある…と、既に非常にややこしいことになっています。

ですが、手書き文字においては、あまり細かいことは言わなくてもいい、ということなのだそうです。

印刷やコンピュータ上のフォントと同じ形で文字を書く意味はないし、点画をとめるかはねるか、長いか短いかまで統一することはしないというのが、本来の漢字の伝統だとされています。

Q3 多様な手書き字形を認めるのは,漢字の文化の軽視ではないか

   それぞれの漢字を手書きする際に,様々な字形を認めることは,漢字の文化をないがしろにし,壊してしまうことにつながりませんか。

A 手書き文字の字形に多様性を認めるのは,むしろ,漢字の文化に基づく考え方です。この 指針は新しい考えを示すのではなく,本来の漢字の伝統を知ってもらおうとするものです。

たしか、わたしがこどもの頃は、テストで木へんの下をはねて書いたりしたら×をつけられたと記憶しています。

しんにゅう(しんにょう)辶 も、常用漢字表では、「近」はひとつだけれど「遡」はふたつ、というように漢字によって違います。

こういうのも、ちゃんとその通りに区別して憶えたものですが、手書きでは点一つで書いても良いのだそうな。し、知らなかった…。

そもそも、点の下の書き方にしてから、印刷文字ではまっすぐですが、手書きでは曲げて書きますしね。

 

 

文字は、長い歴史の中で変化しながら受け継がれてきたもの。

大事なのは、「正しい文字」にこだわることではなく、「伝わる」かどうか。それがそもそもの文字の役割だということですね。


4月10日はフォントの日 – あさご本丸ゴシック

きょう、4月10日はフォントの日ということで、個人デザイン事務所・フロップデザインで新作フリーフォント「あさご本丸ゴシック」が公開されています。

あさご本丸ゴシック

 

竹田城のある朝来市をイメージした丸ゴシック体とのこと。
クルッとしたひらがなやカタカナが印象的で、とてもかわいいフォントです!

フロップデザインでは、フリーフォントのほか、Web制作やグラフィックデザインに使える無料素材も配布されていて、おすすめです。

低価格でのロゴデザイン制作も行っているようです。いつかお世話になることがあるかも。

ロゴデザイン制作