人生を変える本があります。
まちなかの看板に描かれた文字を鑑賞する「タイポさんぽ」。
そして、さらにその文字を、ひらがな一文字ずつに分解することで、五十音の図鑑をつくる「よきかなひらがな」。
この二冊(「タイポさんぽ」は旧版と改版があるので正確には三冊)とであったことで、わたしのまちあるきの楽しみ方は、それまでとまったく違ったものになりました。
「よきかなひらがな」の作者・松村大輔さんと、雑誌「八画文化会館」の編集者おふたりによる京の夜のイベント「よきかな商店街」は、いまでも忘れられません。
あれから一年半、いよいよ待望の続編が刊行となりました。
日本語において、カタカナは主に外来語を表すための文字とされますが、商店や施設の名前としてもよく使われるため、実はひらがなよりもまちなかでお目にかかる機会は多いです。
では問題です。これは何の文字でしょうか?
正解はこちら。「スサノオ」の「オ」でした。
看板なら読めるのに、一文字だと謎の模様に見えてくるのも不思議なものです。
本書ではこのように、その店だけのオリジナルでスペシャルなカタカナの数々を一文字ずつ堪能できます。
(なお、上記の例はこの本に出てくるものではありません)
ひとつのカタカナがさまざまにデザインされ、一堂に会する見開きページを眺めているだけで、溜息が出てしまいます。
一文字ずつ抜き出すことで、「パ」の半濁音が斜めの線に突き刺さっている「串刺しパ」の世界など、不思議な類似点にも気づくことができます。
残念ながら、こちらは実物にお目にかかったことはないので、よきかな商店街イベント中の写真を拝借いたします。
こうやって本に収められなければ、互いの存在を知ることもなく、ひっそりとこの世界の片隅に生まれ、やがて消えていったであろう文字たちのことを思うと、恋にも似たときめきを感じざるを得ません。
そう、まちの文字図鑑は、本を読んで終わりではなく、実際にまちへ出かけて、まだ見ぬカタカナを味わうことで、はじめて真価を発揮するのです。
文字をめぐるたびに、終わりはありません。