26文字のイメージ – 英国人デザイナーが教えるアルファベットのひみつ

アメリカやヨーロッパをはじめ、世界の多くの国で使われているアルファベット。

それは、日本や中国で使われる漢字とは、成り立ちも用法も大きく異なります。

漢字が一文字だけでも意味を表す「表意文字」とよばれるのに対し、アルファベットは一文字だけでは意味をなさず、単語のかたちにして初めて意味をもつ「表音文字」だと言われます。

でも、それはほんとうなのでしょうか?

あえて、単語をバラバラに分解し、一文字のアルファベットに着目することで、新しい何かが見えてくるかもしれない…。

そんな視点で書かれた本がこちら。

 

それぞれのアルファベットの成り立ちとともに、その文字が現代までどのように使われてきたか、ロゴやフォントの例も交えて一から十まで…ならぬAからZまで解説していきます。

たとえば は比較的最近アルファベットに含まれた文字で、「ロミオとジュリエット」もシェイクスピアの執筆当時は「Juliet」ではなく「Iuliet」だった…というような、ちょっとした豆知識も身につきます。

著者は日本在住の英国人ということで、英国で出版された本の翻訳書ではなく、はじめから日本人をターゲットとした企画だったようです。

日本語の表音文字といえば、ひらがなとカタカナ。

「凪の渡し場」でも何度も紹介している「よきかな ひらがな」では、まちなかの看板から、そんな文字を一文字ずつ抜き出して鑑賞していきます。

そちらの本を読んでも、ひらがな一文字ごとに、特定のイメージがあることがわかります。

そんなふうに、わたしたち日本人がひらがな・カタカナのロゴに感じるようなイメージを、欧米人もアルファベットに感じているのかもしれません。

 

日本のまちなかで、そしていずれ欧米圏を訪れることがあれば、ご当地で。

アルファベットのイメージを感じとるタイポさんぽも楽しそうです。

 

大阪「此花シカク」と此花区タイポさんぽ

東京の本屋さんの話題が続きましたが、関西にもパワフルで個性的なお店がたくさんあります。

今回は、そのひとつ「シカク」さんのご紹介。道中のまちあるきがあまりにも面白かったので、前の記事とはテンションを変えてお送りします(笑)。

 

シカクは、自主制作の書籍やリトルプレスを扱うお店として2011年に梅田の近く・中津にオープンしたそうです。

2017年7月、此花区に移転して「此花シカク」となったばかり。

シカクが語る「リトルプレスの現在」 第1回|Zing!

リトルプレスを中心に、さまざまなインディーズ出版物を扱う大阪のセレクトショップ「シカク」がリトルプレスの魅力を発信する連載企画。第1回は、はしゃ『フィリピンではしゃぐ。』や金原みわ『さいはて紀行』などを紹介します。

 

シカク/ハッカク/シカク出版総合ページ

2017.08.14 秘宝館ロマン秘史―秘宝館資料展―特設サイトを公開しました!トークイベントも予約受付開始! 2017.08.03 味わいのありすぎるTシャツブランド、 ポッポコピーのTシャツストアが期間限定でシカク内にオープン!8月13日(日)〜8月20日(日)まで! 2017.07.30 9月に開催する展示情報2つ更新!此花シカクでは「秘宝館ロマン秘史―秘宝館資料展―」中津ハッカクでは「いしの朝個展 SHE」どちらも特設サイト制作中です! 2017.07.08 7月23日、 小林銅蟲の一日店長が決定! 2017.07.08 かねこ鮭・北極まぐ ロジウラブ展 中津ハッカクにて7月29日〜8月13日開催! 2017.06.23 シカク/ハッカク/シカク出版の全てを網羅した総合ページオープン!

 

最寄り駅は阪神電気鉄道・阪神なんば線の千鳥橋駅。大阪難波駅からは5駅、10分ほどで着きます。

駅前は大規模な工事中。

南に歩くと、住宅街と昔の商店が並ぶ、路上観察にうってつけの街並みに期待が高まります。

え、まさか麗子さんでは…?

 

LOVEの書体に、まさに一目惚れ。

こちらも喫茶…風の恋人と書いて「ふれんど」!! フレンドなら友達でしょ…大好き。

あとかたのパイロン。

 

数分歩いただけでこれだけの収穫。すごいまちです。

そして此花シカクにやってきました。

「ねこの飛び出し注意!」と書かれているので緊張しながら扉を開けたのですが、ねこはいませんでした。猫本屋ではなかったです。

しかし店内は、これまで入ったどんな本屋さんにも見かけなかった本が大量に。

日本には、まだまだ、こんなニッチなテーマに興味のある人がいて、それを本というかたちにするとこうなるのか…!

胸が熱くなります。

「八画文化会館」のバックナンバー(1号以外)など、商業出版もツボを突いた品揃え。

ひとりしきり唸って購入する本を絞り込み、店をあとにします。

 

駅前まで戻る途中、何やら素敵な商店街(八画文化会館さん命名、栄光のアーチ)が目に入ります。

 

これは行くしかありません。

 

「タイポさんぽ」や「よきかな ひらがな」を読んだ人ならわかるはず…。「マ」と「ヤ」を同じ骨格で作ろうとして、縦棒も全部揃えているという詠み人の丁寧な仕上げが…。

「毎週火曜日デンチ入替へサービスの日」ですって! 行かなくちゃ! 雨の日は休みなので気をつけて!

 

と、良き文字に導かれて、思わず商店街を抜けて隣町まで来てしまいました。

フジサイクル、日の丸に富士山のロゴが素敵です。

 

埋め立てられた川の真ん中に、ぽつりと小さな黄色いパイロン…謎すぎます…。

一瞬、時間も空間も飛び越えて、異次元に来てしまったのかと思える、そんな暑い夏の日でした。

 

この記事を読んで、まちあるきの底知れない魅力を一端でも感じていただけた方は、ぜひ「此花シカク」へ。さらなるディープな世界があなたを待っているはずです。

 

世界に一つの、誰かの字 – 美しい日本のくせ字

パソコンやスマートフォンの普及で、手書きで文字を書く機会が減っています。

わたしも社会人になって、ほとんど文字を手で書かなくなる時期がありました。

たまに書いた文字を人に見られるのも、字が下手だ、読めないと言われる反応が怖くて恥ずかしくなり、ますます文字を書くことにためらいをおぼえるようになりました。

なんだかあまり好きになれなくて恥ずかしい…と思って、

そんな想いを、まったく違う視点から覆してくれるのが「手書き文字収集家」井原奈津子さんの、こちらの本です。

冒頭から、ほとんど読めないダウンタウンの松本人志さんの文字。それでも、この自由闊達さは、たしかに松本人志さんを感じます。

あるいは、文字だけで怖さを感じる稲川淳二さんの文字。

そういった有名人の文字だけでなく、サンリオの絵本や「いちご新聞」に書かれていた文字、少女漫画雑誌「りぼん」連載作品の文字など、どこかなつかしい、かわいい丸文字も。

 

日本人であれば誰でも…どころか、日本人でなくても、日本語を知らない人でさえ、その人だけの「くせ字」があります。

そこには、生まれ育った場所や、時代を背景にしつつ、その人なりに、文字で相手にどういうことを伝えたいのか? という想いが乗せられています。

もちろん、他人に見せるつもりのないメモ書きや日記といったものもありますが、それだって「未来の自分」に宛てたものと考えられるでしょう。

他人が見ることを意識した文章と、そうでない文章が異なるように、「文字」の書き方自体にも、その人の考え方、人との接し方がにじみ出てくるように思います。

 

本書には、駅構内の案内文字をガムテープで表現し、一部で「修悦体」として話題になった佐藤修悦さんの手書き文字も紹介されています。

佐藤さんも自分用のメモ書きは修悦体とはまったく異なるものの、若いころに「ゴシック体」に魅せられ、人に見せる文字はすべて自身の解釈でいう「ゴシック体」で書き続けてきたのだといいます。

 

そうやって、誰かが作った文字が長く、多くの人に愛されていくことで、文字はやがて一人の手から離れ、フォントという形に昇華します。

たとえば、映画字幕の文字。

戦前から職人の手で書き続けられてきた、この独特の字形は、さまざまなフォントとして再現されています。

ニューシネマA D|書体見本|FONTWORKS | フォントワークス

フォントワークスは筑紫書体やロダンなど日本語書体・フォントの販売、OEM書体・フォントの開発、LETSを提供しています。

シネマレター | 書体見本 | モリサワのフォント

「シネマレター」は、およそ30年にわたり、映画字幕文字を書き続けている職人の文字をもとに作成されました。映画の字幕は、書いた文字から版を起こし、フィルムに直接、文字を刻みつけていました。その際に版とフィルムがはがれやすいように、画線に隙間をあけて文字を描くのが通例でした。また、スクリーン上で文字が見やすいように独特の骨格で設計されており、画線の両端に筆止めを持たせているのも映画字幕文字の特徴…

TypeBank フォントファミリー TBシネマ丸ゴシック

株式会社タイプバンクはアウトラインフォント、ビットマップフォントのデザイン、販売、普及およびフォントに関するテクニカルコンサルティングなどを行います。 本明朝、ナウシリーズ、UD書体シリーズなどバリエーション豊かな書体を提供します。

 

 

まちなかで見かけるフォントも、元はどこかの誰かの文字だった。

そう考えて見ると、自分のくせ字も、まわりの人のくせ字も、新たな魅力を感じとることができるかもしれません。

フォント好きと、それ以外のすべての人へ – フォントかるた

同じ文章でも、フォントを変えることで、まったく違った表情が現れます。

そんなフォントの魅力をカードゲームで楽しむことができるのが、フォントかるた

フォント | フォントかるた | 日本

取り札に書かれている文言はすべて同じ。フォント名を聞いて札を取る! 君は違いを見分けられるか?  解説つきフォントかるた!

札の種類は、いろはかるたと同じく48枚あります。

ただし、取り札の文面はどれも「愛のあるユニークで豊かな書体」一色。

違いはそう、フォント(書体)だけ。

読み札のほうにはフォント名と解説、そして取り札と同じ文章が書かれています。

 

フォントにあまり詳しくない人でも、名前から感じる雰囲気や解説を手がかりに札を取ることで、ふだん意識していない微妙なフォントの違いが浮かび上がります。

フォント好きの人は、ふだん、こんなふうに世の中を見ている。

フォントかるたで遊べば、そんな世界を垣間見ることができるかもしれません。

 

フォント初心者と上級者がいっしょに遊ぶ場合は、上級者だけ解説を見せずに札を取るというハンディキャップをつけることもできます。

ゲーム終了後に、それぞれが自分の好きな札(推しフォント)を選ぶのも楽しそうですね。

 

いっしょに遊ぶ人がいない? だいじょうぶ。

一人で札を並べて、何枚連続で正解できるか腕試しをしたり、似たようなフォントを見分ける訓練をしたりと、楽しみ方はさまざま。

游ゴシック体新ゴはまだ見分けやすいですが、この真ん中のフォントは果たして…!?

 

このフォントかるた、これまで文字関係のイベントなどで限定発売されてきましたが、このたびAmazonでも取扱が開始されたそうです。

ぜひ日本全国津々浦々、一家におひとつどうぞ。

わたしはAmazonで販売前、印刷博物館のミュージアムで手に入れましたが、その当日、大阪で公式フォントかるた大会が行われており、悔しい思いをしました。

いずれ、自分でもフォントかるた大会をやってみたい! という気持ちを込めて記事にしてみました。

 

言わずもがな、日本語フォントはこの48種類にとどまらず、まだまだ素敵なフォントがたくさんあるので、いつか拡張パックが発売されることを密かに期待しています。

明朝体・ゴシック体ばかりのパックで遊べば、ものすごく難易度が上がって楽しそうです(笑)。

 

【2020/01/01追記】本当に拡張版が発売されました! 現在、丸善ジュンク堂書店の通販サイトhontoでは品切れ中のようです。



子供雑誌と童画の世界 – 描かれた大正モダン・キッズ

あなたがこどものころ、読んでいた雑誌はなんでしょうか?

 

わたしにとって思い出深いのは、小学館の学年別学習雑誌。

年号が昭和から平成に変わるころ、「小学一年生」から「小学六年生」まで6誌が揃っていたその雑誌を、自分の学年はもちろん、すこし背伸びして、ひとつ上の学年分も買ってもらった記憶があります。

いまや「小学一年生」以外は休刊してしまったことに時代の流れを感じますが、そんなこども向け雑誌の草分けのひとつ「子供之友」にまつわる企画展を見に、刈谷市美術館に行ってきました。

描かれた大正モダン・キッズ 婦人之友社『子供之友』原画展|刈谷市|刈谷市美術館

『子供之友』は婦人之友社から1914年に創刊され、大正から戦中の子どもたちに愛読されました。童話、伝記読物、漫画など多彩な内容で、北澤楽天、竹久夢二、武井武雄らの魅力的な作品が毎号誌面を飾りました。モダニズムの時代に花開いた幼年絵雑誌の軌跡を、原画150余点や同時代の雑誌などで辿り、その芸術性を紹介します。

刈谷市美術館の最寄駅はJR東海道線・名鉄三河線の刈谷駅。

駅前には、大きなポスターが掲出されていました。

駅から南へ徒歩10分ほど、まちあるきを楽しみつつ向かいます。

ちょうど6月ということで、あじさいがきれいに咲いていました。

といいつつ、刈谷市の花はカキツバタ。くるくるしたKARIYAのロゴがかわいい。

こちらのマンホールにもカキツバタが…と思ったら。消火栓が先か、点字ブロックが先か。

 

そんなこんなで、刈谷市美術館に着きました。

婦人之友社から、大正〜昭和の戦時中に刊行された「子供之友」誌。

その表紙や誌面を彩った原画が一堂に会していました。

今回は立ち寄れませんでしたが、この美術館には茶室が併設されており、展示にちなんだ和菓子の呈茶サービスもあります。

 

原画展は、時代の空気を感じるものから、猫などの動物を擬人化した童話のようなカットのように、現代にも通じるセンスのものまで色とりどり。

見開きのポスター、絵の一部が立体的に飛び出す仕掛け絵、正月付録のすごろくなど、雑誌らしい工夫もたくさん紹介されていました。

 

会場の解説ではじめて知ったのですが、婦人之友社は現在も存続していて、社名と同じ名前の雑誌「婦人之友」や、家族向け雑誌「かぞくのじかん」などを刊行しているとのことでした。

婦人之友社 生活を愛するあなたに

2015年に建業112周年を迎えた婦人之友社。生活を愛する気持ちとよい家庭がよい社会を作る、そんな信念のもとで雑誌作りを行っている出版社のホームページです。

 

「子供之友」も2017年6月現在、2冊だけ復刊されています。

この当時は原画家が雑誌のロゴも描いているのか、号によってロゴが変わるのもおもしろい。

個人的には、下のポスターで右上に写っている竹久夢二のロゴが好きです。

ちなみにこのポスターのロゴはモリサワの見出ゴMB31(この記事のタイトルと同じです)、およびカタオカデザインワークスのと思われます。

 

文字や絵、果ては雑誌までもがデジタルになっても、こどもの夢をはぐくみ、大人も楽しめる世界はきっと、いつまでも変わらずにあり続けますように。