「平成最後」という言葉が飛び交う年末です。
12/22に公開した記事で「年内に二、三回更新するのを目標」と書いておきながら、そのあと一記事しか更新できないまま大晦日を迎えてしまいました。
目標達成のためだけに、平成最後の大晦日に埋め草記事を公開するのも気が引けるので(笑)、ふりかえり的な内容が続いてしまいますが、2018年に読んだ印象的な本を紹介します。
ちなみに、このブログ「凪の渡し場」を開設した2016(平成28)年のクリスマスにも、同様の記事を公開しています。
2016年、文章とものがたりをあじわう10冊
このときは小説とノンフィクションが対象でしたが、今年はマンガも含め、西暦と合わせて18冊を選んでみました。
〈ノンフィクション〉
菅俊一「観察の練習」
菅 俊一 NUMABOOKS 2017-12-05
知ること、見ること、考えること – 観察の練習で紹介したとおり、日常を新しい視点で見つめる、観察の習得方法を学ぶ本です。
笹原和俊「フェイクニュースを科学する」
Twitterでは、デマが事実より早く拡散するとよく言われますが、その理由をSNS特有の仕組みから解明しています。似た傾向の人をフォローする仕組みが「見たいものだけ見る」という思考のクセを助長してしまいます。
自分の世界の見方がまわりに影響されて歪んでいないか? は、常に自覚したいところです。
岩楯幸雄「幸福書房の四十年 ピカピカの本屋でなくちゃ!」
井上理津子・安村正也「夢の猫本屋ができるまで」
三品輝起「すべての雑貨」
井上 理津子,安村 正也 ホーム社 2018-07-26
東京で40年間「幸福書房」という本屋さんを経営してきた岩楯さん、好きなものの掛け算で夢を叶えた安村さん、そして西荻窪で雑貨店「FALL」を営みながら〈雑貨化する世界〉に思いをはせる三品さん。
本屋や雑貨屋という小さな宇宙を経営する人の言葉は、いつも胸に響くものがあります。
「旅する本の雑誌」
これは危険な本です。全国各地の魅力的なまちと、それにまつわる本や本屋さんを紹介する章や、東京の個性的なお店をめぐる章など。
同時期に発売された「全国 旅をしてでも行きたい街の本屋さん」と、この本を両手に、またいつでも旅に出たくなってしまいます。
藻谷浩介「世界まちかど地政学」
「里山資本主義」の著者、藻谷さんが以前から趣味で訪れていた世界各地の様子をレポートする毎日新聞のWebサイト連載を再構成したもの。世界には、こんな暮らしや街並みがあるのか、という新鮮な驚きであふれています。
松樟太郎「究極の文字を求めて」
そんな世界には、さまざまな文明・文化が興廃し、あまたの文字が作られ続けてきました。
顔文字のようなマヤ文字、視力検査のようなミャンマー文字など、自由な発想で文字を楽しむ一冊です。自由すぎて怒られないか? と心配になるくらい(笑)
ベン・ブラット「数字が明かす小説の秘密」
ベン・ブラット DU BOOKS 2018-07-13
小説のなかで使われる典型的な表現、ベストセラーや歴史に残る作品に共通する傾向など、数字と統計で小説の神秘にメスを入れます。取り上げられているのが欧米の作品ばかりなので、日本の小説はどうなのだろうと興味がわきます。
〈小説〉
獅子文六「コーヒーと恋愛」
日本のお茶の間にテレビが普及し始めた時代。コーヒー好きの人気ドラマ女優と、彼女の回りのコーヒー通と演劇人、TV業界人たちが巻き起こす、それぞれの情熱と愛情のかたち。
描かれた時代は古くても、登場する多様な恋愛観、結婚のかたちは今に通じるものがあって面白いです。
佐藤亜紀「戦争の法」
1975年、日本国から独立を宣言したN県で、主人公は戦争の渦に巻き込まれ、あるいは自ら戦地へと進んでいく。
九州限定で復刊(他の地域は一部書店でのみ販売)という珍しい形態が気になって手に取りましたが、思索的な文章が癖になります。
宮下奈都「羊と鋼の森」
ピアノ調律師を目指した少年と、ピアニストを目指す姉妹を中心に、憧れを現実にするための厳しく優しい道程が描かれます。
作中で引用される「夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」という原民喜の言葉は、わたしの理想とするところでもあります。
田中啓文「アケルダマ」
キリストの墓が隠されているという田舎の村に引っ越してきた女子高生と、彼女の東京での同級生だったオカルトマニアの男子が、千年に一度の壮大な陰謀に巻き込まれていく。
オカルトはノンフィクションだとちょっと困りますが、小説として描かれれば、こんなに面白い。
似鳥鶏「叙述トリック短編集」
叙述トリックとは、普通のミステリーのように犯人が探偵に仕掛けるものではなく、作者が読者に仕掛けるもの。
だからこそ普通は読み終わるまで叙述トリックがあることは秘密にされるのですが、最初から公言してしまうという、ひねりのある作風の著者ならではの企みに満ちた短編集です。石黒正数さんが描く表紙とオビの仕掛けも楽しい。
〈マンガ〉
細川貂々「日帰り旅行は電車に乗って」
半歩踏み出す、ものがたり旅で紹介。何度でも行きたい関西が、そこにあります。
益田ミリ「泣き虫チエ子さん」
ささやかだけれど、幸せな夫婦の日常。心が弱っているときに読むと思わず泣きそうになってしまって、こういう幸せがほしかったんだなあと思ってしまいます。
小川麻衣子「ひとりぼっちの地球侵略」
宇宙から地球を侵略するためにやってきた少女と、その心臓を受け取った少年。全15巻完結。
ボーイミーツガールのときめきが消えることはありません。
小林銅蟲「寿司 虚空編」
数学の世界には、日常生活ではまず目にかかることのない「巨大数」という概念があります。
ただひたすら桁数の大きさを追い求める、世界の深淵を垣間見れます。
今までの世界の見方を変えてくれそうな、個性的な本を中心に選んでみました。
来年もそれまでの視点を変えるような、良い本に出会えますように。